第76話飲食店の戦い

ウルグイン唯一の焼肉屋


いわゆるジャパニーズバーベキュースタイルの店はカンザキの店だけだ


炭にこだわり、鉄板にこだわる

そしてもちろん、肉やタレにもこだわった


その結果、唯一の店はそれなりの知名度を得るのだがそもそも提供している肉がモンスターの肉だ

色物扱いされても仕方が無いのだが冒険者達にとってはそれはある程度当たり前の事だったので、主に冒険者には好評なのである


ではそれ以外の人は何の肉を食べているのか?

それはウーヴァという種族の、牛とも豚ともいえないが、繁殖力は強くそしてまぁまぁ美味しい

そんな家畜を飼っていたのである


そしてその家畜を、牧場で育てて仕入れる

実はそのスタイルができたのはかなり最近のことだった

それまではなんと「肉屋」自体がウルグインには存在しなかったのだ


一代にして家畜を育て卸す、さらにはそれで飲食店も経営する天才経営者が一人居たからだ

その男は実は異世界からこのウルグインにやってきていた


そう、カンザキと同じ日本人だった


名前はショーヘイ


およそ5年前にこのウルグインにやってきた


当然この世界にない知識を持ってやってきている


ダイダロスのミタニもそうだ


科学知識をもち、魔法があるこの世界で「成り上がり」を狙うには十分の知識だった



だけれども、彼がこの世界に来たのは転生でも召喚でもない

迷い込んだ、というのが正しいだろう

おそらく日本では、神隠しと言われるそれだ


彼はこの世界に迷い込んだとき、大きな傷を負ってしまう


ウルグインの郊外に住む老夫婦の庭先で助けられた

その夫婦には息子は居なかったので、ショーヘイは治療と共にそこで息子代わりとして恩返しをすることを決意する

傷が完治したのは、単なる傷薬ではなく冒険者などが使用している高額な回復薬であったと知ってショーヘイは冒険者になろうと思った

そりゃあ、異世界に魔法、ダンジョン、モンスターがそろっている

普通の日本人なら冒険者になろうとするだろう

そしてそれは彼も同じだっただけのことだ。だが実際問題それだけの能力が彼にあれば・・・なのだが


彼はまた、大けがをしてしまう。半年でダンジョン25層までが限界だった

わずかに使えた魔法、そして覚えた剣技

それは普通の日本人と比べればかなり強い部類には入る

だがダンジョンは彼の想像を超えていただけのこと


傷つき、そして彼は老夫婦の元へ帰る

心と体を癒しつつ、自分に与えられた天命はーこの世界でなすべきことはこれではないと思った

まぁその考え方が出る時点である意味、異世界に浮かれ続けていたことの証明であろう


幼いころから特になにも思わず、平凡に生きてきた

何をするにも平均、それが彼だ

だが、冒険者を辞めて一転農業を始めると徐々に才能の芽が開く


幸い、彼にはわずかだが魔法が使えた。モンスターを倒せなくとも、畑を耕したり害虫を駆除したりなど

そういった方面でなにか使えないかと考え、そして実現させる

ある種この世界でいえば彼は魔法の天才だった

そしてわずか1年で大規模農業を成し遂げる


従業員も雇った。その大半は挫折した冒険者達だった。彼の農業には若干の魔法が使えることが最低条件だったからだ


そしてそれはとどまることを知らなかった

ショーヘイは異世界に来てわずか二年と半年


大規模農業に続き大規模畜産の経営者となる


恩ある老夫婦は建てられた大豪邸、メイドのいる生活に落ち着かない様だったがショーヘイはそれを見てなんだか嬉しくなった


「人の役に立てているんだ」


そうだ、野菜や肉、牛乳などは供給できるんだ。もしかして飲食店もできるんじゃないか?


そう思ったわずか半年後、「ショウ屋」という郷土料理の店を出した


これは懐かしい日本の料理だ。作れる料理はなんでも作った


それが人気を博して、ウルグインに10店舗を超えるチェーン店を展開するに至った


しかし例え異世界といえど善良な人間ばかりではない


冒険者ギルドは再就職先としてショウヘイの農場や飲食店はありがたかった

だがー


おもしろくないのは商人ギルドだった

新参者の台頭など、面白いはずはない


あの手この手を使って妨害にかかる、当然刺客も送られるし農場も荒らされた


最終的に、「ショウ屋」の権利をよこせと言ってきたときにショウヘイはキレた

今まで特に使い道のなかったお金


それを使う


だが、それは現代社会における情報戦略・情報戦争に近いものになる


結果、ショウヘイはそのまま商人ギルドのギルド長になるのだった



「ショウヘイさん、そろそろ結婚とかしないんですか?」


キラキラとした目をした少女のナートはショウヘイにそう聞いた


それは自身もショウヘイと結婚したいんですけどというアピールに他ならない


だがラノベ主人公らしく彼はそんなことにはまったく気づかない


「あーそんなのいいよ、仕事が今面白いんだよ」


ひらひらと手を振りながらそういうが、心の中では自分のことを好きな女性なんているはずがないと思っているし、まさか目の前の少女がそんな事を思っているなど想像もしていない


「そうよ、ショウヘイさんは仕事が忙しいんだから」


「ソシア!、あんた仕事はどうしたのよ!!」


ナートのライバル登場である


無論、ソシアもショウヘイの事を好いているし、ナートもショウヘイを狙っていると知っている


そもそも僅か数年で一大農業革命を起こし、さらにはギルド長まで上り詰めたのだ、モテないはずはない

おそらくは二人の知らないライバルがまだまだいるはずだ


その点、この二人は比較的ショウヘイに近いところにいるので有利だということも自覚している


「もう今日の書類整理は終わったわ、ショウヘイさんこれ確認お願いしますね」


大きな胸を誇張するような服を着て、悩まし気な目でショウヘイを見る

ショウヘイが顔を赤くして、「あ、ああ」といって目を胸元からそらすのを見てソシアはうふふと笑う

とてもナートと同い年には見えないソシアはまるで勝ったといわんばかりにナートに胸を突き出して言った


「そろそろ、お昼にしませんか?新しい飲食店ができたそうなので視察を兼ねてそちらにでも」


「な!わ、わたしもいくわ!」


ナートが取り残されまいと必死に訴える

パターンでいけば、色気に弱い主人公と言うのは定番だが、選ぶのはなぜかスタイルの劣る方・・と決まっているのでこの二人の勝負は「普通」に考えればナートの勝ちなのだが・・


「ああ、行こうか。噂は聞いているよ・・なんでも焼肉屋だそうだね」




そう言ってショウヘイは立ち上がり、ナートとソシアを連れて出かける




焼肉ゴッドー、カンザキの店へと

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