第115話エリザの本名は

4日目、二人は予定通りという感じで成長した


劇的、という言葉がまさにその通りだった


おそらくは15.6歳といった所だろう

グレンは好青年に、エリザは美少女、からかなり妖艶な雰囲気を持つようになっている


グレンは反抗期というのだろうか、少し言葉遣いが荒くなってきた。昨日までのなんとも知的で凛とした風ではなく、粗野でなんとも男の子だ


自分のことを、俺を呼び

街へこっそり飛び出してどうも人助けのようなことをしていたらしい



エリザはより、言葉遣いは硬く、それでいて本を楽しんで読み始めている

そして昨日よりも思案にふけることが多い感じがする

白く伸びた髪がより美しくその姿を彩る




「なぁ、エリザ…」


「はい」


「お前、なんか気になるんだよな…」


「失せろゴミ」


涙目になり駆けていくグレン

それをフン、と鼻息で追い放つエリザ


二人の仲は悪いと言える

基本的にはエリザが毛嫌いしているという感じだ


グレンの方は気にはなっているものの、それが何かは分かっていない








五日目


やはり成長する


二人とも20歳手前といった雰囲気だ

グレンは落ち着いたのか、急に本を好むようになる


エリザは相変わらずだ


二人とも、あと2日で成長しきるということなんだろうか?




そして、6日目



そう、今日で合計で6日、明日には全てが終わる


そしてつまりは6日目の朝に異変は起きた



ズンッ



エリザを中心として10m位だろうか、黒い魔力球が現れ彼女を包み込む


「おいおい、なんだこりゃ」


カンザキは破壊された店内でそう呟く


キャサリンは朝からグレンを連れて王城へ行っている

どうやら過去の情報と言うか、グレンの知る、失われていた情報を聞き出したりしているらしい

ミナリはフィンを抱いたまま散歩してる


そして残されたカンザキとエリザ


朝食後にそのおかしな現象はおきた


実の所、破壊されたのは店内のものばかりで建物の骨組みはビクともしていない

建材が伝説級だからこそである


そして魔力球がエリザに集中して、吸い込まれるように消えていく


現れたのはまるで血の流れるような赤い髪をしたエリザだった


「ふむ……問題なく覚醒したか」


「覚醒?」


「ああ、これが先祖の知識か…ふん、まあよくもこんな枷を嵌めてくれたものだ」


なんだ、これ


しかしこの赤い髪にはカンザキは見覚えがある……


あれはそうだ


「魔王クリムゾン…」


「ほう、覚醒した我が名を知るか。であればカンザキよ、貴方が勇者だったか?」


しかしカンザキはその言葉には、勇者と言う言葉にはイラッとした


「勇者ぁ?俺がか?そんな訳はない、それはキャサリンだ」


思わず返してしまった


「まさか、母上が!?だとすれば我はどうすれば……あ、ああ、嫌だ。母上を、滅するなど、嫌だ!」


再びドンっと衝撃が走る


辺りで悲鳴が湧き上がり聞こえてくる


マズいな、ここまで魔力を放たれると……気絶させるか?


そう考えた時だった



「オラああああああ!」



ギィン!


エリザの発生させた魔力に剣が弾かれる


「グレン!?なんでお前ここに!」


「はっ!父上、この魔力を感じて飛んできた!下がっててくれ、コイツは俺じゃなきゃ倒せねえ!」


そう言ってカンザキを後ろに突き飛ばしー


など出来なかった


伸ばされたグレンの腕を掴んで止める


「あのなあ、お前ら……いい加減にしやがれ!」



ゾワリ



「「なっ」」


グレンとエリザの声が重なる


カンザキはグレンの首筋へと手刀を叩き込むと


パリンと言う音と共にそれが当たる


「なんと、あのグレンの持っていた結界を叩き割るだと?カンザキ、お主はやはり」


そこまで言ったところでキャサリンが飛び込んで来た


「グレン!あんたねぇ!ってあれ?」


目の前に赤い髪を広げるエリザを見て


「あらー。エリザずいぶん変わったね?って、その色、クリムゾンじゃん」


「母上は、本当に……勇者なのですか」


「え、それ知ってんの?いやー実はねーそうなんだよねぇ。でもクリムゾンはもう盟友だから!」


そこまで言ったが、エリザは聞いてなかった

そして覚悟を決めたような顔で


「我が名は魔王クリムゾン、そう、エルアドル・ギィ・クリムゾン。勇者よ、我が魔族の繁栄の為に死んでもらう」


ぶわりと殺気があたりを覆う

それにはカンザキよりもキャサリンが動いた


「何言ってんのアンタ。ちょっと寝ときなさい」


ドムッ


「うぐっっっ!?」


「ちょ、キャサリン腹はまずいって!」


「え?ダメなの?」


バタリと殺気を霧散させてエリザは倒れた







二人を寝かせて、散らかった店を片付けていると


「ただいまぁー。フィンがぐずっちゃったからなかなか寝付かなくて……って、なにこれ」


「あー。おかえりミナリ。まあ色々あったんだよ」


「て、ボロボロ……あれ?ほかの人は?」


「あー、裏でちよっとな」



ミナリはすぅすぅと寝るフィンを抱いたまま裏にいくとそこには


「ほら、正座くずさない!」


「グレン、エリザ…悪い子、め!」


キャサリンとシルメリアがグレンとエリザを正座させて叱って居るところだった


「ふふ」


ミナリは思わず笑ってしまう。そしてエリザを見て


「ほんと、あの人なんだ。もうほとんどそのままだ。髪の色、変わるんだね……良かった」


そう呟いた




7日目の朝、ミナリの話どおりであれば今日でこの騒ぎが終わる


そしてそれは目の前にもうある




「すまなかったな、ミナリ」


赤い髪のエリザがそう言った


「俺は初めましてだ、グレンという」


黒髪の青年、グレンがそう言った



「あーもー。ほんとにもう驚いた…でも楽しかった、子供の世話って本当に大変なんだね」


「いずれミナリも経験するさ」


「それで、これからどうするの?」


ミナリがエリザにそう問うた


「なに、これで女神は天界に帰ったろう。なにせ二人して一度死んだのだからな」



そう、この二人はみにゅうの探していた二人だ死なぬ限り地上で探し続けていた二人だ


元勇者と、元魔王


そしてフィンはその二人の子だった


「流石にな、エリザが妊娠して子供を産むとなれば父親は必要だろうと思ったが…起きているとアレに見つかっちまう。だからエリザが出産して、少ししてからエリザの秘術を使った」


「転生の秘術、成功するためにはこの世界から一度消える必要があった」


「だから俺たちはゼロから、赤ん坊からやり直した、急速にだけどな…でもまぁ育ててもらった間の記憶もちゃんとあるぜ?父上…いや、カンザキさんすまなかったな」


そう言ってグレンはカンザキを見る


「いいや、疑似的にだが、子育てってのも面白かったぜ?」


そんなカンザキにエリザは


「ふ、カンザキ殿はまず仕込むところから始めないとな…母上と仲良くな」


エリザがそういうと、キャサリンは真っ赤になってぱくぱくと口が動いている


「なんかエリザも変わったな…」


「じゃあ俺らはどっかで適当に暮らすからよ、またな!」


そう言ってグレンはフィンを抱いて、エリザは転移の魔法を唱えた



「さっきまでそこにいたのに…ずいぶんとあっさりしてる」


ミナリの声が、居なくなった二人に届かなかった



「さて、そんじゃ仕込みはじめっかな」


「今日は私も手伝うよ、カンザキ」


そう言ってカンザキとキャサリンは店の中に入っていく


それを追うようにミナリも店の中へと戻っていくのだった






----------



時は遡ること、7日前



「あれ?なんで私戻ってんの?」


みにゅうは天界に居た


「えええ!?誰か助けてくれたのかなー…帰れなかったの見かねて」


みにゅうは帰ろうと、バベルの塔を上っていた

不可視のその塔はただひたすらに高く、その頂上には月への道がある

そして月には天界へのゲートがあるのでそれを目指していたのだ


だがみにゅう、戦闘能力は皆無である

数階上っただけでどうしようもなくなりすぐにウルグインへ戻っていた

そして、似たような立場の「猫」のところに転がり込んでいたのだが


「ねー!誰が私戻してくれたのー?ねー!」


突然戻っていたのだった


エリザとグレンが死んだことで誓約が果たされ戻ったとは、再び地上に行くまで気づかなかった












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る