第16話カンザキの店とキャサリンの店

その翌日は、とても天気の良い日だったのを覚えている



カンザキとキャサリンは、カンザキの言うーうまい鳥を探していた


「ええとな、とにかく、デカイ鳥でさあ」


「え?名前とか知らないの?」


「しらん。なんかダチョウみたいなやつかなあ……でももっとでっかいけど」


「何ダチョウって」


「わかんないよな…ダチョウ…で、まあとにかくでかいヤツなんだわ。んで凄い強い」



二人は探し回るがなかなか出会わない

そんなに大きな鳥ならば遠くからでも分かるはずなのに、見当たらないのだ


それほどこの階層は広いと言う事なんだろうと思う


丸二日ほど、あちこちを探し回っただろうかその間カンザキとは色々な話をする


それと、カンザキの作る料理はとても美味しかった


このダンジョン内を冒険と言うよりも旅をする中で色々見つけたらしい


見つけた物を教えて貰って、知っている物は私が一つ一つその物の名前を教えていく



驚くべき事に彼は魔法の袋を持っていた


出どころは不明だそうだが、エリクサーや万能薬を持っているのも納得の超レア物具合である。それが魔法の袋だ


カンザキはまるで伝説の中に生きているような人だとその時思った


ふらふらと探し歩いているうちに

とても広い草原に出る


風が気持ちよかった

風が…と、思った時だった




突然辺りは暗くなり、夜になったみたいになる


カンザキは来た来たぁ!と言って空を見上げる



キャサリンも暗くなった空を見上げると、そこにいたのは巨大な鳥が居た


例えるならそう、ウルグインの王宮のようなサイズの鳥だ


「おーいたいた、ようやく見つけたよ」


カンザキは居たと言うが、出たんじゃないの?さすがにこのサイズを遠目から気づかない訳がないでしょう!?



しかもアレは、あの鳥はまさか



「よっしゃ、いっちょやるか!」


そう言ってカンザキは嬉しそうに剣を抜いて振り回す



「ちょ、ちょっと待ってよ!あれは、あれ神鳥じゃないの!?」


キャサリンは知っている書物で読んだことがある伝説上の神鳥


「まあまあ、あいつ色んな味がするんだぜ」


うーん、全然話を聞いてないなぁ……



「もう知らないからね!」


獲物を目にしたカンザキのテンションの上がり具合に、キャサリンは説得を諦めた


そしてカンザキはポケットから小さな魔石を取り出す


小さな、風属性の魔石


それをカリッと齧ると



「ウィンドカッター」



初級魔法を唱えた


初級魔法なんて効くのかと思っていると

生み出されたのは竜巻、しかも有り得ないサイズ


常識ハズレにも程がある

と言うか何処がウインドカッターなのか

もはや暴風、巨大なかまいたちがぐるぐると周り嵐の様になっている



だが、これならば効くかもしれない



カンザキの唱えた魔法に合わせる様に

仕方なくキャサリンは背中の弓を構えた


弓には矢はないのだが、弦を引くとそこに魔力の矢が現れる



「召しませ、炎の君よ」


召喚魔法を唄う


「召しませ、炎の君よ!」


「イフリート!」


キャサリンが魔法を唱え矢を放つ


空中が歪みそこに現れるは


炎の妖精にして番人「イフリート」


全身が炎で出来ており燃え尽きることを知らない召喚魔法の極地の一つ


現れたイフリートが獄炎を放つとカンザキの風魔法と重なり威力は倍増する


キィィィンと耳鳴りがする

気圧が一気に変わったせいだ


神鳥が獄炎の嵐に包まれる、だが


ばさりー


神鳥がわずか一回だけ羽ばたくと炎が吹き飛んだ


「ウソ!魔力の炎が消えた!?」


キャサリンが叫ぶ


次は神鳥の攻撃だその翼から巨大な羽が降り注ぐ!


羽の一つ一つが人間くらいのサイズがあり、当たると致命傷は避けられないと、キャサリンはぞくりと死を覚悟する


キャサリンとカンザキの二人は草原にある巨大な岩の影に緊急回避するが隠れた岩を羽がいともかんたんに砕いてくる


それを見たカンザキが剣で飛来する羽を切り裂いていく


なにその切れ味が尋常ではない剣は?


イフリートが二人を庇うように羽を燃やす


なんとか助かるがイフリートは消えてしまった


そしてカンザキが


また、小さな魔石を今度は4つ


カリカリっと噛み砕く



「よし、いくぞぉ…フォロー頼む!」


カンザキはぐんっと、飛び上がる


まさか、フライの魔法!?

カンザキは見た目通り剣士だ

なのに超一流の魔法使いにしか使えない様なとんでもない威力の魔法を使う


さらには


「ホーリーレイ」


聖魔法!

伝説の魔法!それ使い手なんていたの!?


カンザキの唱えた魔法により光の柱が天空より降り注ぐ硬質化した神々しい光に貫かれた神鳥のうめき声が聞こえて、かの神鳥はついに崩れかける



キャサリンはカンザキに負けていられないと思って、自身最大の奥の手を使う




魔王相手以外に使うと思わなかった魔法



キャサリンに魔力が集中する

カンザキはピリピリとした空気を感じ取り少し引いた



「いくよ!神鳥ジズ!」


キャサリンは笑いながら叫んだ


初めて出会う強敵に笑いながら全力を出す


今まで勇者として覚醒した自分と同じに・・いや、自分以上に強い人など並び立ち戦える相手などいなかった


これは楽しいー


溜まりきった魔力を魔法に変えて解き放つ



「レーヴァテイィン!!」



キャサリンの前にとてつもなく巨大な炎の剣が産まれる


大きな、大きな炎の魔剣だ



それを神鳥ジズに向って投擲する


ジズの弱点と相性が最高だったのか直撃したジズは大きな咆哮と共に崩れ落ちる


だがさすがは神獣ベヒモスや神魚レヴィアタンと並ぶ伝説上のモンスターである


タダでは倒れない


最後の力をふりしぼり巨大な魔力の死を呼ぶ風をキャサリンに向かって放った



キャサリンは全力を出した為か魔力が尽きた為か体が動かない


動かないけど、信じていた


そう、カンザキを


「カンザキぃ!」


叫ぶキャサリン


「おうよキャサリン!」


応えるカンザキ


カンザキはさらに魔石を齧る


そして唱える


聞いたこともない召喚魔法を


「召しませ!剣よ!」


剣!?

キャサリンが疑問に思うが呪文は続く


「天之尾羽張、天叢雲剣、布都御霊」


カンザキはチラリとキャサリンを見る


大丈夫だと目で合図する


そのカンザキの周りに浮かび上がる3本の剣


さらに呼ぶ


「倶利伽羅剣」


キャサリンは何を召喚しているのかまるでわからない


生み出されたのは精霊やモンスターではなく剣である


まさか、武器の召喚魔法!?

そんなものが存在するの!?



4本目の剣が出現するとカンザキはその全てを持ち得て




死の風を、斬った




その風の向こう側にいた神鳥ジズごと斬り上げる


風は引き裂かれ消え去った


だがその剣の威力は衰えない


ザシュ


その音だけが、ジズを切り裂いた



そしてジズはようやく倒れたのだった


ジズはキャサリンとカンザキの容赦ない攻撃でボロボロになっている


「あー鳥がズタボロになったなあ。でも助かったよ前回は倒すのに丸一日かかったんだ。キャサリンは流石に強いなあ」


カンザキもフラフラになっている

どうやら同じように魔力が尽きたように見える



「ねえカンザキ、さっきの魔法あれ何よ」


キャサリンは少し怒った口調で言った


まず魔石を齧るとか、初級魔法の威力が違うって言うかおかしいし、知らない召喚魔法を使った


カンザキが持っている剣は、その剣自体が有り得ない切れ味だし、剣そのものからも強力な魔力を感じる


それなのにその剣を使わずに召喚した剣で倒してしまった



「いや、キャサリンがさあすげー魔法ガンガン使うから負けてられないと思ってさ」


パタパタと手を振りながら言った


「話を逸らさない、ちゃんと説明する」


カンザキの耳を引っ張る




「いたたたたたた!」


カンザキがキャサリンに耳を引っ張られる



キャサリンは痛がるカンザキの耳を引き寄せ


頬にチュッとキスをしたー



「ふああ?!」



カンザキが急に真っ赤になって固まる

恥ずかしがっているようだ


「あはははははは」


キャサリンはまた可愛い、清々しい笑顔で笑うのだった





その夜





カンザキはジズを焼いていた

様々な見たことの無いような調味料を振りかけたりして


「ほら、食べてみてくれ」


ひょいとカンザキは差し出す


「いただくわ」


キャサリンはそれをパクリと食べて目を見開く



「すっごい美味しい!」



「だろ?しかもだな、部位によって味が違うんだコイツ・・・他のも食べるか?」








「食べる!」




キャサリンはすっかりその味の虜になっている様だった




かつてルシータは勇者だった

たった1人で魔王と戦う筈の運命を自分に課して


だがそんな勇者はカンザキにその運命を救われた




これが2人の出会い




それから数年後二人は店を開く



「焼肉ゴッド」

「キャサリンの店」





キャサリンはその時の望み通り今もカンザキのそばにいるー



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