第17話閑話休題 その2 王と肉

その日は雨だった。どんよりとした雲がとても気持ち悪かった


そんなある日、ウルグインの王宮にある届け物があった


それはなんと


「生肉」


ちょうどその時、国王は会議をしていた為に、その持ってきた本人とは出会っていない



だが国王は思った

会わぬ方が良かったと

もし出会ってしまえばきっと王は


泣いてしまうだろうから


情けない……とクナトは思うがどうしようもない


それが親心とわかってはいても、限度というものがあるだろうとも思う


「で、シアが持ってきたのだな?」


真剣な真顔で王が言った



「はい」


クナトが軽く頷く


「元気そうだったかね?」



「はい」


元気そうも何もシア様が出ていってまだ4日程しか経ってないだろうが!

そう思うがクナトは出来る執事なので余計なことは話さない


「そうか、してそれは何の肉なのだ?」


王はその無駄に長く伸びた髭ををいじりながら、にこにこと笑いながら言った


娘からとはいえ、生肉をプレゼントされた事に疑問はないのか!


クナトはそう突っ込みたいのがやまやまなのだが言えるはずなど無い

何故ならばクナトは出来る執事なのだから


「何でも、牛系モンスターの肉とか」


「ほぉ、何か大物でも狩れたか?よし今すぐに調理してもってくるのだ!今すぐにだ!」


この親バカキングめ!

だがクナトは思っても口には出さない。本当にできた執事なのだから





王宮料理人は手渡された肉を最高に美味しい状態に仕上げる

それが彼らの仕事である


だが、想定外のことがあった


どんな料理にしてもこの肉はうまいのだ

こんなことは今までにない事件だ調味料の合う合わないもないしそれどころか焼こうが煮ようが一定の、いや素晴らしい美味しさになってしまう


これでは……料理人の腕の見せ所がない


まるで神の肉


だが料理人はより美味く、最高の料理としてださねばならない


結果的にステーキとしてただ焼いて出す事にした


これだと焼き加減で腕前がわかるからね!


そして過去最高の素材の味を楽しんでいただくために……


焼きあがったときに料理人はクナトに尋ねる


「この肉、何の肉でしょうかね?今までこのような代物は扱った覚えはありませんし、今後も手に入る気がしません」


もう色々と諦めた料理人の一言に、クナトが言った


「そうだな。嘘か本当か分からぬが、かの神獣ベヒモスの肉だそうだ」


クナトはシアから聞いていたが、その名は調理が終わるまで伏せていた。とても信じられなかったからと、料理人がよからぬ事を考えるかもしれないと思ったからだ


だが今の料理人の姿を見るに、その肉はかなりやばい代物であるのは間違いないと確信する




「ほう、コレがシアが持ってきた肉か」



じゅうじゅうと鉄板の上で焼きあがっているステーキ


それは塩とコショウのみでシンプルな味付けがなされている


だがその焼き加減は王宮料理人が精神をすり減らし、そして焼き上げた一品


芳醇は香りはまるでフルーツを思わせる甘みを感じるだろうと予感させた


ゴクリ


うまそうだな…


肉を切り分け一口食べる


う、うぐぐ!?何これうまい、美味すぎる!


もう一口、もう一口と一気に食べきってしまう


言葉を発する事を忘れ一気に食べた


気がつくと食べ終わってしまっていた


その滴り落ちた肉汁すらも飲み干したいそれほどの味だ


さくりと食べ終わった国王は


「クナトこれは何の肉だったのだ?どこで、採れるのだ?」


すぐさまに聞く。国王はまだ食べ足りないのである


ふん、聞いて驚けこのダメ王が!


「神獣ベヒモスの肉と聞いております」


ぶほっ!ぶほっ、ぶほっ

飲んでいた赤ワインを吐き出す

やはり肉料理には赤だよね


「!?」


はっ!なんだその顔は目がウロウロしてんぞ!



「ちなみにもう残っておりません」


残りは俺らで食べちゃったもんね。料理試作段階でな!


実は料理人一同とクナトでほとんどを食べてしまっていたのだ


「ク、クナトよそれは本当かベヒモスの肉と?で、なんで残ってないのだ?」


「本当かと。そして残ってないのは国王が今食べられたからです」


「いやいやいや、ひと皿しか食べておらぬわ!」


「ですが、もうないのです」



しかし、本当に神獣ベヒモスの肉を?


クナトはシアに、何層で狩ったのか聞いた

それは理解の範疇を軽く超えた階層であったのだが…


「よし、我らも狩りに行くぞ!」


国王は立ちがりその腕を前に出して命令をする


「無理ですね。死にたいならどうぞ」


クナトは否定する。そして、死ねと言った


「何故だ?例え100層でも行く価値のある味であった!引かぬぞ!」


王の決意は固い。この肉のためであれば、自らの限界を超えるなど造作も無いと本気で思っている



「それが、889層だとしてもですか?」


その階層は限界を超えるどころではない、今の王では手が届くとかそういうレベルにない…想像すら出来ない深層である


「な!なに!?」


驚愕する。それは仕方ないのだ、クナトもそれを聞いたときには驚愕した

だがシア様が冗談をおっしゃられるとは思えない


「889層です、国王」


「お前が……戯言を、言うはずがないな、お前が」


「はい、まあ正確にはあの焼肉屋のカンザキに連れられて行ったと」


「!?」


「かの者の到達階層はもはや100層どころではありません、今回の889層にして存在した神獣ベヒモスにしても楽勝だったそうです」


「ふぁ、にゃ、にゃ、にゃぜそんな者が冒険者ではないのだ!そして名声もないのだ!!いや、シアの見る目が確かだったということか?いやいやいやいや」



なんということか、国王はうなだれて椅子にへたり込むように座る


だが同時に国王は言ったように娘の男を見る目が正しかったのだと嬉しくもなった


その男、もはや認めるしかないな。

そして会ってみたいそう思うようになった



国王、ちょろすぎる。クナトはそう思った



そして数日後




「国王よ、ちょっと報告が御座います」


息も絶え絶えにクナトは言った


「ど、どうしたクナト!その格好は!」


クナトはボロボロになっている


クナトは今でこそ執事として働いてはいるがその実力は王宮随一である


無論、王族を除いてなのだが


「ルシータ王女を発見いたしました」


国王の娘その第一王女だ、長らく行方不明となっていたのだがその王女が見つかったという


「なんじゃと!?」


このダメキング、ダメキンは本当に良く驚くなとクナトは心の中だけで思う

口には出さない。何故ならば出来る執事であるからだ


「はい、なんの因果か、かの焼肉ゴッドの隣の店で酒場を営んで居られたようです」


かつてルシータはダンジョンの奥へと消えていったのは確認されていた


そして死亡説がでていたのだ


死体こそ見つからなかったが、国王も諦め、そして忘れようとしていたところにこの吉報である


「そうか無事なのだな!!それで、帰ってくる気はないのか?」


「はいルシータ様は今キャサリンと名乗られており、焼肉屋のカンザキと恋仲であると思われます」


しれっと言い切った


「うん?今なんて言ったのクナトくん」


「!?王よ、口調が、おかしくなってませんか?」


クナトは思わず国王を見る


「クソカンザキがなんだって?」


「は、はい、ルシータ様とカンザキが恋仲であると申し上げました」


国王は立ち上がり、着替え始めながら言った


「なんか聞いたことあるんだよねー?そのクソカンザキっての。シアちゃんが追いかけていったクソ男じゃなかったー?」


「国王よ・・・なぜ武装を始めておられるのでしょうか?」


王は今、至宝とされる王族に伝わる武具などを装備しようとしていた

そして「見敵必殺!」と書かれたハチマキを巻く


「ちょっとそのうちの娘二人をたぶらかした「ドクソ」野郎を始末しに行かないとな」


目が・・・真っ赤だ・・・血の・・涙だと!?


マズイ!王は本気だ!


クナトは慌てる。クナトの力ではバカ王を止める事は出来ないからだ


どうしようかとその時である


「がはっ」


王の体はくの字型に曲がり沈む


「まったく・・お父様、娘はお姉さまだけではないでしょう。出奔した娘を追いかける暇があれば仕事をしてくださいませ。仕事が溜まっております。それと、隠密部隊を動かすのも止めさせていただきました」


そこに立つは出ていった娘達と同じブロンド髪の美少女


そして国王の腹部をその握りしめた拳で殴打した張本人


「レ、レオノール様」


この王宮に残った唯一の花、そして飛竜部隊の隊長で、ルシータとアレクシアの妹。


王の襟首をがしっと掴み執務室へと引きずっていく


「クナトもいい加減になさいね、今後はお父様の命令をきいてはなりませんよ」


可憐な声、そして凛とした瞳


「は、はい」


「ちょっとぉ、レオノールーぅ、おねえちゃんが心配じゃないのー?」


引きずられながらバカ王は言う


ドガ!


あ。蹴られた……




だが王は諦めない・・・・・


娘二人を誑かした、そう、ドクソ野郎「カンザキ」を



絶対に許さない・・絶対にだ!




引きずられながら王はその決意をダイヤモンドより硬くするのだった










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