第41話神楽坂

その少女はよく見れば手にはコンビニの袋を持っているし、ニット帽を被って、サンダルを履いている


その姿はおよそ異世界には似つかわしくない雰囲気だ


「いらっしゃいませー」


シアが応対する


「あーとりあえずビールちょうだい。生中!」


人差し指を立ててその女性は言った・・・が、


「ビール?ですか?生中?」


シアは聞いたことのないメニューを言われて混乱している


「え?無いの?ならまあ何でも良いからお酒ちょーだい」


その女性が残念そうに言った


「はい、お肉は盛り合わせで良いですか?」


「うん、テキトーで!」


そう言ってその女性はポケットからスマホを取り出して触り始めるが・・・


「えー。やっぱ圏外かぁ」


日本人だよなぁ・・・あれ

というか、完全に日本語混じりで喋ってるし

年の頃は10代半ばと言った雰囲気だ。しかも手にはスマホだと!?

異世界にいる割に落ち着いているな

もう厄介事しか思いつかないが俺の手はキチンと肉盛り合わせを盛り付けていた



「お待たせいたしました」


シアが盛り合わせと酒を持って行くと


「きたきた!よっしゃいただきまーす」


そう言って、箸を取る


一応、箸は置いてあるのだがこの世界の人々はフォークにスプーンを使うし、焼肉はトングを使って焼く

だが彼女は迷わずに箸を選んだ


もう間違いない程に日本から来たのが丸わかりだった



「おお!うっま!うまいね、この肉!何の肉だろー」


ミノタウロスだと知ったらどんな反応をするだろうか


「うわぁこのお酒も美味しいなー」


密造酒だけどな


「お箸がとまりませんわっ!」


好きなだけ食べると良いが・・・何となく嫌な予感がする。

あいつ金あんのか?



たっぷり一時間、好きなだけ飲み食いした後


「あーおいしかったなぁ。意外なグルメだよ。お会計お願いしまーす」


そう言って


「すみませんでしたあー!お金がないんです!いやあるんですけどね!諭吉っあん、じゃだめすよねー?」


土下座しながら叫んでいる・・・

なんかシュールだなあ


「まったく、こんな紙切れがお金だなんて・・確かに細かくて綺麗な模様だけど、それに硬化も金でも銀でもないし」


シアが困ったように日本円を見ている


「カンザキさま、どうしますか?」


そうシアが言ったので出たくはないが、行くしかないな


「まったく、金がない事に気づけよ・・・」


なんとなく気づいていたカンザキが

そう言って出て行くと



「いやースンマセン。バイト代が今日出たばっかだったんで勘違いしてました」


土下座したまま話している


「何のバイトしてたんだ?コンビニとか、スーパーとか?」


「あ、警備員ッス」


「自宅警備員か?」


「いやいや普通に工事現場ですよ」


「ニートじゃないのか。近頃は女の子でも警備員とかやるんだな」


「いやー時給良かったんで」


「 ふう、もう土下座は良いから椅子に座れよ」


カンザキがそう言うとその女性は立ち上がりってカンザキと目が合う


「あれ?日本人?そう言えばカンザキ・・・え?」


彼女は目を丸く見開いて


「なんで日本人がこんなとこいんの?」


「それはこっちのセリフだ」


シアがきょとんとして


「お知り合いですか?」


そう言った




----------



シアには知り合いではなく同郷だと言っておく


確かにミタニさんと同じ雰囲気ですねと納得してくれた


とりあえず閉店まで店内に軟禁して皿洗いをさせておいた


んで、閉店後に問い詰める


「とりあえず名前聞こうか。俺はカンザキだ」


「あいよ、私はカグラザカ・ユキ。ユキでいいよ」


「わかった、ユキはなんでこっちの世界に来たんだ?そして明らかにコンビニ帰りだろ」


「んと、最初から話すと長いから簡潔に言うとね、魔王退治かな」


「うん、はしょらなくて良いからちゃんと話せ」


「わかっわかりました!その、胸ぐら掴むのは辞めてもらえますか?わたしの乳がいかに薄いとはいえ、こぼれちゃうから、あと振り上げた拳も怖いから下ろしてください。お願いします。」



カンザキは離してやった、拳も下ろしてから


「んで?」


「えーと、私、昔この世界で勇者してまして、その生まれ変わりなんですよ。ある日、魂がこう、記憶が目覚めた感じで」


「勇者?だと。いつの時代のだ」


「今はわかんない。てか今が分かんないから答えようがないけど、多分昔ね」


そこでお茶をずずっと飲む


「でまあ、こっちの女神さんがさ、魔王が復活してんのに当代の勇者が仕事しないっつってんのよ」


当代の勇者はいつの間にか隣に座ってるけどな……


「それでそれで?」


「んでまあ、私もこの世界懐かしいなあとか思ってたらいつの間にかこの街にいまして、魔王を倒せってことかなーと思って歩いていたら焼肉屋をみつけましてー。あ、そいやー晩飯食べてないわって事でこちらに来ましてはい」


「なるほど良くわかった。とりあえず女神が犯人と。お前頭大丈夫か?」


「そうそれ!私もう昔魔王倒したじゃん!しかもさ、あの時の街がこんなにでかくなってるくらいだし?時間経過も多分ハンパないわけですよ。今の勇者に倒させろよと。しかも昔は女神なんて私の前にゃ出てこなかったくせに転生した今かよ!みたいなね!」


良く喋る奴だなあ。ノリも軽いし


「そのあたりどうなのよ、今代の勇者さん?」


「知らないね!女神なんて私にはなんの指示もないし」


いつの間にかキトラを膝上に乗せてカンザキの横に座っているキャサリンが答えた


「え?この人が勇者なの?ってことは私の子孫かーやっば凄い美人!たまんねぇっすねカンザキの旦那ぁ!!っておーけーおーけー、話せばわかるわかります。だから手を離してやっていただけませんか?」


「いらんことを言うからだ」


「いやカンザキ、この小娘・・・いやお嬢様は、御先祖様は良いお人みたいよ?」


「既に賠償されたのかよ!チョロインだなオイ!」


「まあいいか、んでこれからどうする気だったんだよ?」


「あー、あんまり考えてなかったんだよね。私は別に魔王どうでもいいし。そもそも魔王に国を支配されてるって聞いたのに全然そんな雰囲気もないしさー」


「それはそうだな、魔王に支配なんてされるわけがないし、出来ないし」


今の魔王にゃ悪さなんて出来そうにないんだがなんか理由でもあるのか?


女神か


「それに元勇者だよ私は。ユキはまだ20歳になりたてなんだよ?無茶言うよねほんと。」


「でも強いから、勇者だから呼ばれたんだろ?」


「そこんところわかんない。確かに魔法も使えるし身体能力も高いけどさー。転生するときに、金持ちの子供で!とかの条件つければ良かったよー。いくら武力が、力があっても資本主義、学歴社会の前じゃまったく無意味だったよ・・・」


いちいち話がズレるって言うか、あれか


「チート無双しようとしたら無理だったと・・・てかまあ、この世界ならまあ無駄にはならないな」


「そうそれ!だから帰って来たよユキは!」


完全に日本に毒されてな・・・


「あの、カンザキさま」


「なんだシア」


「今の話、いまいちピンとくるところが少なかったんですが、この方は私達の御先祖様が転生されておられると?」


「そうなるな」


「理解が追いつきませんね?」


うん、混乱してるな。まあ普通そうか、それにかなり昔の人みたいだから余計にだな



「じゃ、そゆことでユキはこの世界ぶらぶらするよ。また会う日が来るかもしれないね」


そう言って出ていこうとするユキの首根っこを掴む


「まあまてよ、支払いまだだろ?」


「ひぐっ!」


「皿洗い1週間くらいで許してやる」


「すみませんでしたぁー!」





そう言って元勇者の、今は日本人のユキがそう言った



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