第42話ユキの涙

カンザキはユキに皿洗い、雑用、接客をさせて1週間


ついにユキは覚醒したー


「いらっしゃいませェー!」


テキパキとした動作、そしてとても張りのあるキレイな声


「あ、今日も来てくださったんですか?ありがとうございますゥー、え?プレゼント?そんな悪いですよー。いえいえ。あ、ありがとうございましたぁーまたのお越しをー!」


なんだかユキが働いてから客が増えてるんだが・・特にリピーターが


「カンザキさぁん!肉盛り合わせまだですかー?」


ユキが普通に仕事をしている


コイツかなり仕事出来るヤツだったんだなあ。


閉店後の夜食を食べている時は



「うまっ!もー凄い美味しい!幸せだよぅー」



元気いっぱいに食べるし


「シアは良いお嫁になれるよ!カンザキさん早く貰ったげてよ!」


「キャサリンも良い子だから悩んでんのかァ!このリア充め!」


などなど


なんか充実しまくっている転生者にして元勇者のユキがそこにいた



「今日でちょうど約束の1週間だな、ユキお疲れさん」


そう言って俺は金を手渡す


「カンザキさんこれは?」


ユキが不安そうにその金を見る


「いやお前、金ないだろ?あの日の食費を引いた1週間のバイト代だよ。仕事良くしてくれたから、かなり多めに入れてあるが遠慮すんな。一ヶ月は生活出来るはずだよ」


「そ、そんな・・・」


突然涙を流し始めるユキ

そんなに感謝されるとなんか逆に申し訳なくなるじゃないか


「まあ、受け取ってくれ。もう明日からは来なくても良いぞ」


そう言ったら



「嫌です!」



は?



「私、クビですか?」


そう言ってまた涙を流し始める


え?


「いやだって、1週間の約束だったろ?」


そもそも無銭飲食の代わりにー


「私この仕事好きなんです!シアも、キャサリンも、キトラちゃんやシルちゃんも大好きで!」


あ、ああれ?


「ラクラさんやイニュさんやガンダルさんも、みんな仲良くしてくれて!」


誰だオイ!それお前目当ての客じゃないのか!俺は知らないぞ!


「だがらもっどはだらぎだいんでずー」


うわあ顔面がもう色々な液体がどばどば吹き出してんぞ!?



「カンザキさま!!私もユキさんと一緒に働きたいです!」


え?シア?なんだと、いつの間にそんな話になった!?

俺が悪いのか!?


「シアぁア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」


いや二人抱き合って泣くとかそれほどか!?


「分かったよ、まあ忙しくなってるし好きなだけ働けば良いさ」


まさか働きたいと思っていたとは思わなかったからなあ


「カンザキさぁん!ユキは、ユキはぁー」


「だから泣くなよ、涙を拭けよ。顔がぐちゃぐちゃだぞ」


「はいいー」


そう言って手元の雑巾で顔を拭いた


おま、それ雑巾!


「ユキさん良かったですね!」


シアも涙を拭いながらユキに言った


「シアありがとうーさすが私の子孫だよ大好きだよ愛してるよう」


というか遺伝的な繋がりはなさそうだがな……


「まあ、また明日から働いてくれ。助かるよ」


つうかシアにしても働き出してからの方が客がばかみたいに増えてるんだが?

雇えば雇うほど忙しくなる矛盾!




そしてカグラザカユキは焼肉ゴッドのバイトから従業員になった


こいつら1週間で仲良くなりすぎだろ




その2日後の事だった。事件が起きたのは




祭の日程が決定したと、告知があったので今夜はその打ち合わせをする為にキャサリンも来ることになっている


キャサリンの店はドリンクを販売するらしい


俺は屋台の設営が今日ある為、店を臨時休業にしていた


シアとユキが椅子に座ってキャサリンを待つ

俺は遅めの朝食を取っていた


「シア、祭って何すんの?」


「この国の建国祭です。皆で楽しく祝うってだけなんですが、かなり盛況ですよ?武闘大会とかもある様ですし、ダンジョンから出たマジックアイテムのオークションとかも有りますよ」


「ほー。私が作った国もデカくなったもんだよねー」




などと話していると勢いよくバァンと音を立てて入口が開いた


見ればそこに1人の女性が立っていた


その白い髪の毛の上には猫のケモ耳を携え、白いワンピースを着ている

気のせいかうっすら光って居るようにも見えるなー


アレは神気か?なんか似てるな



その女性は走って来ましたとばかりに息を切らして店内を見回すと


「ゴルァ!てめー、働かんかいー!」


叫んだのだった





とりあえずぎゃあぎゃあと騒ぐ女性を椅子に座らせてから


「ど、どうぞお水ですが」


と、見かねたシアが水を出す


それを見た途端に、奪うように取ると一気に飲み干した


「あーうまいわ。染みるわー。お水ありがとね」


コトンとコップを置く


「あの、どなたでしょうか?」


シアが尋ねると


「あ、私女神」


は?何を言ってんの?

シアが困惑した表情で言った


「あの、大丈夫ですか?」


「いやマジだからさ、その可哀想な人を見る目はやめてくんない?」


そう言って机の上に置いてあったキムチを食べる


「あ、辛いコレ。でも美味しいね」


さらにご飯を食べ始めた。それ俺の飯なんだけど……


つうか言動と行動に女神と言えるような神々しさの欠けらも無いな!

薄い神気がなければ信用できんよな


「大丈夫ですよ、分かってますから女神(笑)様」


「ちょっと待って、あなた分かってないでしょ!?」


ご飯粒を飛ばすなよ・・・

カンザキは顔に付着したご飯粒を拭き取る


「気のせいですよ女神(笑)様」


「あれ?分かってるの?まあ良いけど」


え?こんなんで納得できたの!?ちょろいな!?


「で、その女神(笑)様は何しに来たんだよ」


俺は聞いた


「ああそうよ!ちょっと勇者!働きなさいよ!」


「え?私?」


「そうよ!あんた呼んだ理由忘れてんじゃないでしょーね?!」


「ええっと、何だっけ?」


「魔王倒しに行きなさいよ!マジで忘れてんじゃないわよ!」


女神(笑)のケモ耳がぴくぴくしてちょっと可愛い


「あー!そう言えば!」


「とりあえず魔王、今なんか200層あたりでなんかしてるはずだから大丈夫だと思うけどさ、攻め込まれたらこんな街すぐ滅んじゃうんだからね!街で済めば良いけど世界だって危ないんだから!」


女神(笑)が力説している


そこにキャサリンがヒョイと現れて


「あ、シアー。ちょっと石鹸ちょうだい。全部済んじゃってさー」


そう言ったのを女神(笑)が見て



「あああああ!あんた!」


キャサリンを指差して


「今の勇者じゃん!何してんの!魔王倒しに行きなさいよ!てゆーかここなんなわけ?勇者二人こんなとこで何してんの!?ここは何なのよー!」





と、テンションのやたら高い女神(笑)様は頭を抱えて膝を折ったのだった

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