第40話ゆったり始まるプロローグ

カンザキは今ダンジョンに潜っていた


久々に一人である


階層で言えば300層


鼻歌交じりに目をつぶっていてもカンザキが危険に晒されることはない


深夜に出かけ夜が明ける前に到着している


ここに来るまでおよそ1時間程度、その程度の時間で色々な所にいけるダンジョンと言うものをカンザキは気に入っていた


山岳地帯で構成されているこのエリア


ゆっくりと昇る朝日に照らされて山々が光と影のラインを作り出している


その光に照らされて雲海がきらきらと輝いている


そしてカンザキの足元の雲海にまで光が届きそうになってカンザキは背中にしょった虫取り網を手にとって


光が届いた瞬間にそっと雲海を掬い取る


するとその中にはちいさく透明な魚が捕らえられている


「しらす・・だな・・・?」


カンザキはそうつぶやくとにやりと笑う

それをバケツに移すと、魔法の袋からおひつと茶碗、小皿を取り出しておひつをあける


白いご飯から湯気がふわりと立ち上る

カンザキは茶碗にご飯を盛ると、そのしらすを小皿に移して醤油をちょろっとかけてから


ぱくり


もぐもぐごくん


「うん、うまいな!」


そして白いご飯としらすの相性は最高で、どんどん食べていく

そして5杯ほど食べてからー


お茶をご飯にかけて仕上げのお茶漬け


「ごちそうさまでした」


そういって両手を前にあわせて言った


ふう、幸せだな~


そう思う


ここに来るまでどれだけ長い旅・・冒険をしたのかはもう覚えていない

この世界に来てからは10年とちょっとだ。もう使命とか運命とかに縛られる必要もない

今は全力でスローライフを楽しむのがカンザキのスタイルだ


「だからって怠けすぎじゃと思うんじゃがのー」


「うわっ!?」


「なんじゃ?」


「いつから居たんだよ、むーたん」


「ふむ。そうじゃな、おぬしが魚を掬った所からかのー」


「ほぼ最初からか!しかも見てたのか!」


「美味そうに食べておったからな、さて、わしにも少しくれろ」


そういってむーたんはちゃわんにご飯をよそう。しらこに醤油をかけてー


「いただきます」


そういって食べ始めた。


「おお!うまいのこれはー」


うんうん

美味いよねー。そういえば・・


「気になってたんだけど、むーたんはなんでそんな言葉使いなんだ?」


「嫌かの?」


「嫌っていうか、なんでかなぁと」


「そうじゃのー、こういうしゃべり方の方が貫禄がでるんじゃないかとおもっての」


「貫禄とかそういう問題だったわけ!?」


「そうじゃな」


もぐもぐ


「じゃぁ普通に話せるのか?」


「うん、喋れるよ!カンザキさん♪」


ぶはっ


「あやうく吐きそうになっちまった・・」


「どうしちゃったのかなーやっぱり前の方がいいかな?」


「違和感しかない!」


「まぁ、言葉なんぞ伝わればいいんじゃないかの」


「あ、落ち着く」


そして全部食べ終わってから


「ごちそうさまでした」


むーたんはそう言った


「さて、そんじゃ帰るか」

「んむ。帰ろう」


帰り道ー山を駆ける様に下る

むーたんは浮いたまま飛んでついてくる


「カンザキよ」


「なんだ?」


「楽しいの。この世界は」


「そうだな、楽しいな」


「おぬしがそう望んだからここはーこうなのか?」


「いいや、違うぞ?ダンジョンでは人は命を落とすし、国同士は戦争もしている。俺はまだなんも関与しちゃいない」


「そうか、すまなかったな」


「わかってるよ、でも俺はまだ焼肉屋をやっていたいんだ」


「それは、同意見じゃの!じゃが、わしを契約するような事態になっておることを考えるとなかなかもう、それはもう、めんどくさい事になっていくんじゃないかのう?」


カンザキはビクっとして

両手で耳をふさいで


「それは言わないでくれーーーー」


そう叫びながら帰っていくのだった





-----------





街に戻るとすっかり朝になっている


朝早くからダンジョンに潜る者も居れば、帰っていく者もいる

見知った顔もあれば知らない顔もある


カンザキとむーたんはそれを眺めながら家路に向かう


「さて、ゆっくりできたし今日もがんばるか!」


「そういえば、もうすぐ祭とかじゃの?準備はできとるんか?」


「おうよ、準備万端だ。だけど祭ってもあれだろ、5年に一度とかそういうことらしいけど」


「ふむ、そんなに頻繁にあるのか」


「いや、そりゃむーたんにとってはだけど俺らにとっては凄いまれだぞ?生きてる間に何回あるのかってレベルで」


「そうなのか」


「そうなんだよ」



そんな他愛の無い話をしながら店にもどる


するとシアが洗濯をしていた


「シアご苦労さん」


「おかえりなさいカンザキさま」


「そろそろその、さまってのもやめてくれないか?」


シアは洗濯物の水を切りながらー


「嫌です」


そう言った


「頑固だな・・・」


「姉譲りですよ」


「そこは母親譲りとかになるんじゃないのか?」


「母は良く知りませんから。でも姉が居てくれたので寂しく思った事はありませんよ。乳母もいますしね」


「そうか、悪いこと聞いちゃったな」


頭をポリポリと掻きながらカンザキは言った

そういえばまだ俺はシアのこと余り知らないなとそう思う


シアは洗濯物を洗い終わると、裏庭に干していく

ここにシアが住み込みを始めてからはずっとやっている仕事だ

本来はカンザキはそこまでやってもらう気は無かったのだが、シアが自主的にいろいろとしてくれている

申し訳ないとおもっているのだが、シアが辞めてくれないので最近はもう諦めている



こんな風にしてカンザキの1日は始まっていく




さて、仕込みを始めるか





そして店を開店して、その日初めての客が訪れる





「おー!焼肉屋じゃん!」



その女性はジーパンにパーカーを着ていたのだった

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