第39話キャサリンの一日
ああああああ・・・イライラする!
イライラする!!
キャサリンは未だかつて無いほどイライラしていた
その理由というのは、焼肉ゴッドの入口が破壊されていたことである
直してあるとは言え、壊されていたのだ。ダイダロスに行っていた間に
だが壊した者が、他の者であったのなら彼女はこんなにイライラしていなかったかもしれない
それどころか、
「災難だったねーカンザキー」
とか言ってからかっていたかもしれない
だが、あの者が、アイツが壊したというのなら話は別だろう
「クッソ親父めええええ!」
巨大都市ウルグインーその統治をしている国王
アイエテス・ウル・グイン
そしてキャサリンとシア、レオノールの父親その人だ
だめだ、我慢できない!
キャサリンはおもむろにクローゼットを開けると武装の準備を始めた
かつて魔王を討伐しに行った時以上の神聖武装
白と赤の綺麗な文様が浮かび上がるその鎧はキャサリンの力を何倍にも高めてくれる
武器は神の弓、そうアルテミスの弓だ
それらを丁寧に着込み、準備をする
さあ、戦いの準備は整った・・・
キャサリンはまだ寝ているみんなを起こさないようにこっそりと出かける
武装しているとはいえその格好は一介の冒険者に見れなくも無いー
何か違いがあるとしたら、ただ美しすぎるーそれだけだ
キャサリンの店を出てゆっくりと歩を進める
まるで憎しみを大地に刷り込むかの様に力強く踏みしめて進む
キャサリンの周りには怒りという名の黒いオーラが力強く渦巻いている
目の前に飛竜駐屯所が出来ていた
パッと見て気づいたのだ
ただの兵士集会所にカモフラージュされているが、その入り口に書かれた関係者にしかわからない符号がある
それが飛竜駐屯所だと教えてくれた
まあ、そもそもの符号を考え出したのはキャサリンだったし
飛竜の気配があることは感じていたのだから例え符号がなくともキャサリンは気づいていただろう
駐屯所の中に入ると兵士が二人キャサリンを見る
ハッとして敬礼をする。キャサリンは兵士に見覚えがないがおそらく兵士はアレクシアと見間違えたのだろうと思う
二人は姉妹でよく似ていたから
「飛竜、借りて良いか?城まで行きたい」
「は、はい!こちらへ!」
兵士に案内され奥に通されるとそこには一匹の飛竜がいた。
本来はレオノールしか乗せないはずの飛竜「ライドラ」
だが元々はキャサリンが騎乗していた飛竜である
「ほう、ライドラか。久しいな」
そう言って飛竜の頭を撫でてやる
嬉しそうに頭を寄せる飛竜
今は多少キャサリンの怒気は収まっているが、それは飛竜がライドラだったせいだろう
だが、飛竜にまたがった途端に忘れかけていた怒りは膨れ上がる
その怒りに呼応する様に飛竜は舞い上がり王宮へ飛び出したのだ
キャサリンが王宮に帰るのは実に数年ぶりだった
だが今は懐かしさよりなによりも脳をチリチリと焼くような怒りで胸が一杯になっている
「ああ・・早く会いたいぜクソ親父・・・」
言葉遣いがもはや誰だかわからないほどに荒れているキャサリン
もはや国王の運命の灯は・・・あとわずかかもしれない
そんなこととは知らないアイエテス国王は呑気なもので
「あはははは。いやぁ鹿さん良い結婚式だったな!」
今応接間にて談話しているのは鹿とシャルロット夫妻だ
先日の結婚式のお礼にと夫婦で城を訪れている
「い、いやまさか王様だとは思わなかったよ……です」
鹿はガッチガチに固まっている
「王、本当に此度のご縁、そしてあのような大きな結婚式を……ありがとうございます」
妻のシャルロットは今にも泣きそうなほど目を潤ませている
「気にするな鹿さん。できればこれからも仲良くしてやってほしいんだ。王なんてやってると心許せれる友人というのがな、あまりにも少なくてな」
アイエテス国王はその性格ゆえ国民にも人気が高い
王も元々先代があまりにも早い逝去だった故王位を引き継いだ時はまだ若かった
しかも継ぐまでは国民の一人として、街で暮らしていたのだ
だからこそ政策などは国民の益となるものが多かったというのもある
「そんな、恐れ多いです」
鹿のトレードマークである被り物をかぶったまま言ってもそんなに恐縮しているようには思えないのだが、いつもより豪華な角を生やしているところを見れば正装なのだろう
「あなた、大丈夫ですよ。王は本当にそうおっしゃっておられますから」
「いやでもシャル、そんな失礼なことはできないよ」
すでに夫婦といった会話をしているあたり、うまくいっているようだった
それをみて王は思う
我が娘達もいずれ・・・
だが今娘2人は一人の男を取り合っている
なにその姉妹でハーレム形成とかふざけるにもほどがある
国民が、いや天が!神が!魔が!なにより本人たちがそれを許しても王だけは許さないとそう心に誓っている
またチャンスがあればいずれ・・・と
今しばらくは警戒されているだろうからほとぼりが冷めるまで待つか。王はできる男なのである
ガッシャーン!
大きな音を立てて窓が割れる!
一瞬襲撃かとおもったがここは王宮、城の一番守りの強固な所だ!もし攻め込まれていたらすでに大惨事だぞ!?そう思って窓を見やると
綺麗な白の鎧に身を包んだ一人の女性
美しい金色の髪が風になびきまるで天使のように思える
そしてそれは・・・・
「ル・・ルシータ?ルシータか!」
王は立ち上がり実に数年ぶりに見る娘に涙を流す
そして思わず駆け寄って抱きしめようとしたところで
「死ねぇクソ親父ぃ!!!!!!」
がっしがしに握り込められた拳でぶん殴られたアイエテスは吹っ飛ぶ
応接間の、それも大きく豪華な机を砕き、そしてその奥の壁も貫通・・1枚・・2枚・・あ、止まった
その奥でピクピクと痙攣している王
さすがに手加減をしているとはいえ、キャサリンの本気50パーセント以上の拳は王にはきつすぎた
ふがーふがー!
キャサリンの鼻息が荒い・・
そしてじゃりじゃりと歩みを進め砕けている机や椅子などをさらに細かく粉砕しつつ歩く
それはまさに魔王にも見えた。勇者なのに
ちらりと鹿とシャルロットを見ると
「ル・・ルシータ様?」
「おう、シャルロットか。久しいな、ちょっと今忙しいからあとでな」
「ひぃい!」
鹿の脳裏になぜか自分が殴られたような錯覚が蘇ってシャルロットに抱き着いた
「きゃっ!鹿さん」
まんざらでないシャルロットをキャサリンは見て
「あ・・あれ?どしたのシャル?なんで鹿なんかと一緒にいるの?」
一気に毒気が抜ける
それほど変な光景だったらしい
「ええ、実は・・・」
シャルロットからいきさつを聞かされる
半分くらいはすでにのろけ話になってしまっているが
そしてその間は一向に鹿はシャルロットから離れられなかった
「そうかーよかったじゃんシャルロット。羨ましいよ。じゃああたしはちょっとそこのクソ親父もう少し殴ってくるから」
そしてキャサリンは王の元へ再び歩みを進める
まったく・・今回はシャルロットの結婚に免じて許してやるか・・半殺しでな
そう思った
その後
王はポーションで回復させられ、また殴られを繰り返してぼこぼこにされる
最終的にぼこぼこにされた状態で放置されて
「おいクソ親父!こんどカンザキに手をだしてみろ!その程度ですまないからな!」
「あばばばば」
そう言って窓の外に待機させていた飛竜にまたがって帰って行った
これが数年ぶりに成った親子の再会である
余談ではあるがキャサリンの白かった鎧は王の血で真紅に染まっていたのだった・・・・
キャサリンが店に帰ると誰も居なかった
「キトラー?シルメリア?」
探し回るが何処にもいない
既に夕方である
いつもならもう夕飯の用意をしている時間なのに、誰も居ない
どうしようどうしよう・・・
その時カンザキが帰ってきた
ああっ!カンザキなら!
「あ!か、カンザキ!キトラがいないんだ!あとシアとシルメリアも!」
もう必死に言った、混乱していた
「心当たりがある!俺が迎えに行ってくるからキャサリンはここで待っててくれ!」
そう言ってカンザキは出て行った
キャサリンにとってのキトラは弟子であると共に娘同然だった
キトラは孤児であった
この数年、数名の孤児を拾っては育てていた
数人の子供達はすぐに里親が見つかったが、キトラとシルメリアだけはキャサリンから離れなかったそれゆえに
キャサリンはキトラとシルメリアの一生を面倒を見ると決める
だからこそ二人はキャサリンにとって特別な存在だった。
ある意味ではカンザキ以上にー
どうしよう、どうしようと待っている
一分一秒がものすごく長く感じた
そうしてどれくらい待っていただろうか
「ええええええ?」
カンザキの声が聞こえた
キトラ!
キャサリンが店から飛び出すと、いつもの様に笑うキトラの姿があった
良かった・・
またカンザキに借りを作っちゃったなぁー
そしてカンザキを見ると背中になんとなく見覚えのある顔があった
レオノール?
「ルシータお姉さま・・・レオノールですよ・・・」
シアが言った
「そうみたいだね」
何があったんだろう?とりあえずレオノールは私が預かろうか。
今日は数年ぶりに父をみた
そうしたら妹まで逢うことになろうとは
なんだか忙しい1日だった
キャサリンには大事なものがある
一つはカンザキ
一つは家族
そしてキトラとシルメリア
優劣をつけるわけじゃない
ただ何よりも愛しているのだ
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