第38話カンザキの一日 後半
地下バベルと呼ばれるダンジョン
それは巨大都市ウルグインの中央にいつの頃からあるのかわからないが、あった
そしてそのダンジョンを中心に街が栄えたといって良い
その為数々の冒険者が最下層を目指して攻略をしている
ダンジョン内からもたらされる資源は人々の生活を豊かにしたその恩恵は計り知れない
だがダンジョンは地下へ進めば進む程に難易度は上がっていきー
ー冒険者達にその凶悪な牙をむくのだー
ダンジョン第82層
「くそっ!カイン大丈夫か!」
はあはあと息を切らせた男がリーダーのカインを気遣うが
「左足が動かねぇ。バジ、モコは逃せたか?」
カインは動かなくなった左足の太ももから下をさすりながら言った
「ああ、シオンが逃がしたはずだ」
「なら良かった。あとは俺達だけだな」
「まったく、カインは突っ込みすぎたっての。まあアイツ相手じゃ仕方ないが」
彼等はある敵から逃げてきた
バジリスクー
その敵の名前だ。やつの特徴はー
「弓も剣も魔法も通用しなかったな。装備を整えたらまたー出直さなきゃな」
「ああ、そうだな。また挑もうぜ」
ギュギュギュギュ
彼等に巨大な黒い影が忍び寄る
ーおよそ5メートルはありそうな巨大な黒い影
赤い瞳が輝くその黒と赤のシルエット
鈍重なその見かけとは裏腹に走り出した時の速度は俊敏そのもの
黒い巨大なトカゲ
「ちっ。見つかっちまったか」
バジは腰の剣と背中の手斧を抜いて構える
「なあ、腐れ縁だったなカイン。またいつかパーティ組もうぜ」
「そうだなバジ、そんときゃまたシオンやモコも誘おうぜ」
2人は笑っている
これからおそらく死んでしまうと分かっている
死ぬときは、最後は笑って死のうと決めていた
2人がこのダンジョンに挑むとき決めた最初の約束だったー
巨大なトカゲが目の前に立ちはだかる
その巨大な舌がチロチロとまるでムチのようにしなる
「じゃあな、カイン」
「ああ」
その時だった
「諦めんなよおまえらー!」
ダンジョン内に響くデカい声がする!
一体どこから!?
よく見ると目の前のトカゲが上を見上げている
カインとバジも上を見上ると
高い天井から落ちてくる1人の男
その両手はー
「モコ!シオン!?」
モコとシオンを持っている!
しかしシオンは気を失っているのかぐったりしていた
「カインさーん!助けを呼んできましたよー!」
モコが笑って手を振りながら叫んだ
「おおおおおおおおおおお!」
男はそのままバジリスクの頭をー
踏み抜いたのだった
ズシンと音と共につぶされるバジリスクの頭
それはつぶされるというよりも、切断されたとも見える
「あ、足だけで一撃かよ・・・」
カインとバジは呟いたのだった
◇
「まったく、むちゃすんなよお前らは」
今しがた倒したバジリスクを凄い勢いでさばき、何処からだしたのか鉄板の上でバジリスクの肉を焼いている
「ほら、肉食え肉を!」
まったく、死ななくて良かったぜ
モコが来なかったらこいつらは死んでいたかもしれんな
「は、はあ。てゆーかおやっさんさっきのポーションはなんすか!?なんか動かなかった左足とか治ってんすけど!?」
おーやはりあのポーション良く効くなあ
実はカインの左足どころか
「シオンなんて両足をかじられてなくなってたのに生えたからねぇー」
モコが言った
え?っとなってカインとバジはシオンの足を見ている
その時のショックせいかシオンはまだ気を失っている
「まあ気にすんな、うちの常連客なんだ居なくなっちまったら困るからな!」
ま、こいつらはまだ若いし挫けずにやり直せるだろ
「それにしてもおやっさん・・・やっぱ強かったんだな・・・」
「俺らよりはるかに・・・」
カンザキがなぜメシ屋などをしているのか不思議な4人であった
その後4人はモコが逃げる時に持たせた転移石を使って街へと帰った
さすがに疲れ果てていたようですぐに宿屋に向かっていった
夕方になっちまったなあ。仕込みの続きやらないとな
そういえばトカゲ結構良い味していたなーラインナップに加えるか
カイン達を無事に救出したカンザキが店に戻るとー
キャサリンが青い顔をして息を切らしている
「あ!か、カンザキ!キトラがいないんだ!あとシアとシルメリアも!」
何!?まだ帰ってないのか!ええっと・・朝出たっきりだと・・まさかまだダンジョン内か!
「心当たりがある!俺が迎えに行ってくるからキャサリンはここで待っててくれ!」
シアとシルメリアは・・・
ん?むーたんと一緒にいるな。じゃぁ大丈夫か
むーたんと契約したら、むーたんと頭の中でも会話できるようになったからプライバシーがなくなった気がする。携帯みたいな感じで便利ではあるが
「シアとシルメリアは大丈夫だ、むーたんが夜までにはつれて帰るから気にするな」
「じゃあ…あとはキトラを、頼むよ・・・」
頭をさげるキャサリン普段のふざけた感じのないキャサリンも・・・
くそ、可愛いなって場合じゃなかった!
「行ってくる!」
カンザキはたった今出たダンジョンに舞い戻る
キトラを助けにカンザキは走る
ダンジョン第132層
そこはカンザキの農園
たいして凶悪なモンスターはいない場所に農園を作ってみたが、ごく稀に強めのモンスターが現れる
ただ、カンザキからしてみればたいして強くないと言うだけであって他の者からすれば有り得ない程の強敵になってしまうのだが
カンザキも最近はその強さの差については若干の認識をしている
だがカンザキの周りにいる人間もまたかなりの強さの為になかなか一般冒険者との認識の差は埋まらないのだが・・・
カンザキがそこにたどり着くと、見知らぬ女性がヒュドラと戦っている所だった
「フェニックスー!」
天空から飛来するその炎の鳥は瞬く間にヒュドラを燃やし、喰い尽くした
おー!
なんだ、キトラ1人じゃなかったか。
それにしてもあの人は誰だろう?キトラを助けてくれたのか
一安心して歩いて向かっていると
ヒュドラがさらに2匹、キトラ達を囲う
キトラが応戦してはいるのだが、いかんせん武器と相性が悪く倒せない
不味いな!キトラあいつ今冷静じゃない!
頭を狙ってもだめだ!
カンザキは魔石を取り出して齧る
ガリリッ
風の魔石
「ウインドウオーク!」
術者の移動速度、攻撃速度を倍加させるバフ魔法だ
カンザキの周りの風が彼に味方する。そして足音を消して走る
一瞬にしてキトラの前に立ち、倒れていた女性とキトラを農園結界の中に連れていく
あとはヒュドラを倒すだけだ
カンザキはそのままヒュドラの前に立ちー
剣で一閃する!
ヒュドラの複数ある心臓全てを一撃で再生不能になる様に切ったのだ
ヒュドラを倒し、そのまま簡単に解体する
旨そうだなあ。
「やっぱ蒲焼だなー。ヒュドラ酒もアリかな」
そんな事を言いながらヒュドラを片付け
背中に助けた女性を背負って店まで戻る
ちょうどシアとシルメリアも帰って来たところで店の前でばったりと会った
「むーたん、すまなかったな」
「なあに、楽しかったから良かろ。それよりもカンザキ、背中に誰を背負っとるんじゃ?」
「ああ、キトラの恩人さんだ」
ちらりとキトラを見る
「うん、キトラが嫌いな蛇に襲われたとこ助けてもらったの!」
キトラは耳をぴくぴくさせながら言った
「・・・キトラ怪我ない?」
「大丈夫だよーシルメリア!」
「か、・・カンザキさま・・・」
「どうしたシア?」
「その背中の方、良く顔を見させて下さい」
ん?知り合いか?
シアがカンザキの背中をのぞき込む
綺麗なシルバーの髪の毛をかき分けてその顔を見たとたんに
「レオノール!」
そう叫んで
「カンザキさま、この人はレオノールです私の妹です!」
そう言った
は?妹?シアの?って事はキャサリンの妹で、
王女で?
「はあああ?またかよぉお」
叫んでいるとガラリと焼肉ゴッドの入口が開いた
「キトラ!」
キャサリンがキトラを見て安心した顔を見せ、そのまま俺の背中を見て固まった
「ルシータお姉さま、見てくださいレオノールです。キトラを助けてくれたみたいです」
「そう…大きくなったね…レオノール」
そう言うとキャサリンは
「私が背負うよ、カンザキ」
あ、ああ
キャサリンの背中にレオノールを移しかえる
「あのね、キトラの恩人なの!このお姉ちゃん!」
「そうかい、レオノールが・・」
キャサリンがふっと優しい顔を見せて
「キトラ、後でお礼言おうね」
そう言った
レオノールはキャサリンが自分の部屋に連れていった
怪我は例のポーションで治したが、魔力枯渇の為に目が覚めないだろう
まあ、明日には起きれるか
その後カンザキとシアは急いで仕込みを済ませて
「シア、暖簾掛けてきてくれ」
「はい」
店の開店準備を済ませる
今日も色々あったが何事もなかったかのようにその店は開店する
巨大都市ウルグイン唯一の焼肉屋
焼肉ゴッド
本日も開店です
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