第123話だから、わたしの手をとって2

ゴルド・ガンモールはエンシェントドワーフである


齢は96歳になる


先祖返りと呼ばれたその身体能力はとてつもないものであった

火と、土の属性。それらがありえない程の適性を見せたのだ


そして彼は未だ全盛期と言って差し支えない


30年ほど前、アイエテスと、クナト、そしてアイエテスの妻となる王女と共にパーティを組んでいた


ウルグイン最強のパーティと呼ばれ、ウルグインのダンジョン50階層を攻略していた当時のトップパーティと呼ばれていた


そんな彼らが解散に至った理由は至極簡単で、アイエテスと王女の結婚と王位継承である

当然冒険者は引退となった


そして、それ以降にゴルドも引退し、結婚して子を儲け

死の危険の少ない炭鉱にて働いて行くようになった

さらに今ではその役目は息子に譲っている

それはもう全く問題もなく



ゴルドは長く伸びた髭を三つ編みにして、頭にはトゲの着いた鉄兜をピタリと嵌めている

鎖帷子を着込み、その背には大きな斧を背負う姿は戦うドワーフの正装である



そしてゴルドがアイエテスが言う修行の旅に同行したのも、まだ息子を見返したいとの想いがあってこそであった


それを見越した訳では無いが、アイエテスは彼が必ず同行すると思っていたからこそ誘ったのである

数十年ぶりとはいえその信頼は揺るぐことが無かったのことである


さて、グレンから聞かされた隠されたダンジョンであるがウルグインの広大な敷地のその一番端にあった


そこは…アイエテスが知らざる土地であった



「なんじゃあ、ここは…人が住んどらんのか?」


「どうやらそのようだな」


「お主、この国治めとったんじゃろ?知らんのか?」


「うぬ…だとしても知らぬことはある」



二人の会話から分かるように、そこは廃墟であった

その全てが石で作られており屋根は木材などで作られていたのか既に朽ち果て何も残っておらず、四角い壁の枠組みだけが残っている

それが幾つも残っているのに、まともな家などどれ一つとして無い


「ここはダンジョンからも遠いからな…廃れたのかもしれん」


アイエテスはそう呟いたが


「何言ってる。ウルグインの人口は100万もいるのだぞ?しかもここは街を覆う城壁内部だ。外部に人が溢れ出る程の人数が住んでいるのに、ここがぽっかりと人が住んでいない理由にはならんだろう?」


ふむ、とアイエテスは考えて何か原因があるとすればダンジョンだろうと予測を立てる

しかしそれは隠されているはずであり、害があるなどとも聞いたことが無かったのだが


ぴくり、とゴルドが動きを止める


「おい、坊主、何かいるぞ」


何かと称したのはそれが微かに動いた気がしたからだ


「まったく、モンスターなどいるわけではないだろうに」


アイエテスはそれでも警戒をする。それはゴルドを信用しているからだ

何度それでダンジョンで危機を回避してきたか

思い出してにやりと笑ってしまう


血が、踊る


しかしその先にあったものは二人の予想外のものだった


元民家であろうその石壁の向こう側に居たのは子供であった

そして、倒れ動かない。横たわるその子の傍にアイエテスはしゃがみ込んで言った


「おい、大丈夫か?」


息はしているようだった、わずかに揺れる体がそれを示している

年の頃は6.7歳と言ったところだろうか?さほど体が大きくはない

長くぼさぼさに伸びた髪、服もボロボロで何も履いていないその足は傷だらけであり、爪すらボロボロに割れている


「ゴルド」


「ああ、テントを張る。それと湯を沸かそう」


二人の動きは数十年ぶりとも思えないほどにてきぱきとしたものだった

体が覚えて居るとはこのことだろうか

当時は命のかかったダンジョンの中でやっていた作業である

要救助者を見つける事も多かった

そしてそれが仲間であることもある

だからこそこの作業は体にしみ込んでいる

いかに平和に過ごそうと、それはもう血肉となっているのだ



「さて、どうじゃな?」


「怪我は擦り傷、深い怪我がない。あとはまぁ、単に食っていないだけだろう」


「そのようじゃな。ガリガリだの、孤児だろう」


「孤児か…」


「ここは冒険者の街じゃ、ダンジョンで命を落とす者も多い…まぁ最近は減っておるようじゃがの。それでもそういう者が居なくなったわけではない」



それは宿命とも言える

安全な所ではないのはアイエテスもよく知っているからだ

潜ったまま持ってこない冒険者

それ自体、珍しいものではない。そして自己責任だ。誰も補償などしてはくれない

だからこそ彼らは豪快に金を使う。儲けた金を惜しみなく


しかし、それに残される者もいる

家族だ

中には両親が二人とも冒険者だった場合などもあるだろう

その場合は子供だけが残され、孤児院などに保護される



孤児院はギルトと国が運営しているが…もし、そこに保護されなかった子供がいるとしたら?




「それがこの子、と言うわけか?」


「その可能性があると言っただけだ」


ぱちぱちと火花の散る即席の石積み焜炉を取り囲み、アイエテスとゴルドが話している

子供を保護し、傷の手当を行ってまだ起きない子供を見守る


「傷薬は良く効いているようじゃな、どこのかは知らんが物凄い効き目じゃ」


その傷薬はルシータから貰ったものである

原材料は、言うまでもなくカンザキが持ち帰ったものから作られている

命さえ繋がっていれば、全ての傷を治し四肢の欠損ですら復活する奇跡の薬なのである


しかしながら治せるのは傷のみである

不足した栄養までは補う事ができない


まぁそれは別の食べ物や飲み物があるのだが…


今はそれはない、だから食事にて栄養を補給しなければならない



「ん…あれ?」


寝込んでいた子供が目をゆっくりと覚ます


「起きたのか?」


話しかけられたのがわからないのか、それが聞こえていない


「おい、お前、いや、お嬢ちゃん、か?聞こえているか?」


声を荒げるアイエテスとその子の目と目が合う


そして、子供はにっこりと笑って言った






「おかえり…おとう、さん」










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