第122話だから、わたしの手をとって

さて、この俺の名前はアイエテスという。

家名は隠している

だから今はただのアイエテス


そうさな、旅の冒険者と思ってくれるならありがたい


この人口密度の高い街中をふらりとするも、誰も彼を気にしない

歳の頃は50歳程だろうが、しかしその雰囲気は全くない

30代と言われても納得できるだろう

服装は何処にでもあるような、ありふれた服を着ている


また、本来ならば目立つという彼の雰囲気を完全に消し去っている


それが彼をこのウルグインの街に溶け込ませていた

ある一軒家の前にたどり着く

どうやら家の横は菓子屋かなにかだろう、しかし今日は営業していないようだった



「よう、鹿さん。元気しておったか?」



彼が話しかけたのは鹿の被り物を、頭に被った男だった


「おお!?ちょ、あの、その」


「ああ、落ち着いてくれたまえ。今日はこっそりとな」


そう言って口元に指を当てる


それだけで、鹿さんは察する


「ふう、心臓にわるいですぜ…急に来るなんて。しかしシャルは今出かけてましてね」


「いいんだ、シャルに用があった訳では無い。居たら良いかとは思ったがね。今日はちと鹿さんの顔を見によっただけでな。先程ガルバにも会ってきた」


そう言って手に持った酒をひょいと上げて鹿さんに見せびらかす

ガルバに餞別にと貰った酒だ


「ああ、いい酒ですね、それ。最近売り出されたやつで」


「大切に、飲ませてもらおうと思ってるよ」


鹿さんとガルバは、アイエテスが心を許した唯一無二の友だ


クナトも友と言えばそうだが、奴は裏切り者だからなとアイエテスは思う

近頃はルシータやアレクシアばかりに付き添っているクナトはアイエテスからすれば裏切り者なのだ

本人はその気はないにしても


「っと、じゃあ行かれるので?」


「ああ…わしは行かねばならんのだよ。強くなり帰って来ると誓おう」


そう言ってにやりと口角を釣り上げる


何処に行くのかを伝えないまま、さらばと言って歩き出してしまった


「なんつーか、自由なのは血筋だよなあ……キャサリンさんもシアちゃんもアレで性格が親父そっくりだからな」


彼は王だった

今ではキャサリンが牛耳る城の主だった


近頃、何をしていたかといえば街に繰り出し鹿さんとガルバとよく飲み明かしていた


そういえば、奥方は見たことがないなと、ふと鹿さんは思った



アイエテスはこのまま目的地へ行こうかと思ったが、その前にアイツを見ておこうと飲食街へと足を伸ばす

まだ店を開ける前であったが、ちょうど先に会ったガルバが、酒を納品に来たらしく談笑する姿が見えた


かつての怨敵…いや、歯牙にもかけられてなかったか


憎しみだけでアイツが殺せたならばどんなに楽だろうか…


そう、焼肉屋の店主、カンザキである


今ではあのルシータの婚約者という事で少しばかりは同情している


だがー


だからと言ってシアまでも!と、思うとアイエテスは突然ブチ切れた


「死ねい!ファイアーボール!」



突然膨れ上がる魔力から放たれる

これは絶死の魔法だと思いを込める!



ゴゴゴゴと音を上げて火球がガンザキへと迫るが、ばちゅんと消えてしまう



しまった、シアか!


シアの展開した水の防壁に阻まれて、渾身のファイアーボールは消されてしまった



即座にアイエテスは逃げ出した





「くそう、いつか必ずぶん殴ってやる」


それが父親の役目だと思っている

断じて憎いからではない

なぜならアイエテスも、かつてぶん殴られたからだ


あれらの、祖父にである


だから婚姻までにぶん殴るとアイエテスは決めているのだ


なんなら死んでもかまわんくらい殴りたいが、それまでに娘らに自分自身が沈められると確信している



それくらいには、アイエテスは彼らと比べれば弱いのだ



だからこそ、修行である

その手がかりは先日得ている、あとは行くだけだ



アイエテスが向かったのはウルグイン首都の外れにある、一件の小さな家だった


レンガ造りのその家はその家の見た目よりかなり豪華な庭がある


「ふん、幸せそうだな…」


アイエテスはそう呟いてから戸を叩いた



「はいよ」



ドアを開けて出てきたのは筋肉隆々のドワーフだった

身長こそ低いものの、その風体からは強者の雰囲気を感じさせる


「元気そうだな、ゴルド」


アイエテスがそう言うと


「なんでえ、久しぶりじゃねえか坊主」


ゴルドはニヤリと笑って言った




「んで何か、お前さん、娘にはやられ、その間男にもやられたのか?」


「アイツにはまだやられておらん!」


「同じようなモンじゃねえか。助けて貰ったりしたんだろう?」


「あれは…作戦だったのだ…」


しゅんと項垂れるアイエテス


「まあいい、それで行くのか?」


「ああ、頼めるか?」


「構わねえよ、坊主が漢気出してんだ。ノってやるさ」


「しかし誘っておきながら言うが、本当にいいのか?今は孫も居るんだろ?」


「それこそ構わん。俺ァ、もう家族を護り終わったからな。今は息子が大黒柱だ」


「確か、マサだったか」


「おうよ、あいつはもう俺を超えているからな」


そういうゴルドに対してアイエテスは


「・・・本当にそうか?あんたはまだ力を隠しているだろう?エンシェントドワーフの末裔、ゴルド」


そう言った。

それを聞いて、ゴルドはばつが悪そうな顔をする


「それだったならいいがな。どうもあいつはそれ以上らしい」


ゴルドがそう言うという事は、本当にそうなのだろうとアイエテスは驚く

嘘や世辞をいう男ではないからだ


「なんだ、あんたも俺と同じだったのか・・・子に、超えられるとは嬉しいが、許せんよな」


「ふん、そうだな。坊主、ワシらもまだまだだったと言うわけだ。それで修行だろ?俺について来いという事は、それなりの階層なんだろうな?」


「ああ…このウルグインには隠されているダンジョンがある」


アイエテスはゴルドの眼を見てそう言った


ごくりとゴルドの喉が鳴る


「そいつは、マジか?」


「ああ、ちょっと前にな、グレンという人物に会う事があった‥‥彼はこの国、グイン家の直系男子だったのだ、それも数百年前の」


「なんだそりゃぁ。ありえんだろう?王家の子供はなぜか女子しか産まれねえ、坊主の子供だってそうだったろう」



「まぁ、数百年前は男子が産まれていたという事だ」


「それにしたって人間だ、エルフやドワーフとも違う。寿命的にもう死んでいるだろう?」


「そこらは色々あってな、まぁ生きていたんだ。そして、俺の知らないウルグインの秘密を色々と教えてくれたんだ」


これはキャサリンが王城にグレンを連れて行った時にアイエテスが聞いた話になる

そしてそのいくつかは本当だと裏取りも出来ている

城の隠し通路、王家の花と言われる幻の花の育成方法、そして隠されたダンジョンについて


その時の事、なぜグレンはそんなに強いのか?を聞いた

それは勇者として選ばれていたからというだけではないと知らされた




だからアイエテスはその訓練方法を実践する為に、ゴルドを訪ねて来たのである




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ちょこっと体調不良なので今日はここまでとあと変なとこあるかも…

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