第121話ゴーレムの味?

拝啓・師匠ジーノ様…お元気ですか?


クロマは元気です


ゴーレムの黒洞窟までは何とかご案内できたので、森の外まで帰ってからカンザキ様が黒いゴーレムを倒すまで待っていようと思っておりました・・・です。


ですが、今はキトラちゃんに背負われて洞窟内を進んでいる…です。


不思議な事はあるもので、凄まじい速度で進んでいるのに、気持ちのいい程度の風しか感じないん…です


なんでも風魔法を駆使して走っているので風圧というものも感じないのだとか


便利な魔法があったものです


あ、黒いゴーレムでしたね


無事に発見できました


居たと思ったら、すぐに倒してしまって…


四角い、石材にされてしまっていました








「へぇ、コレ・・・やっぱダンジョンだな」


「そうだね、おにいちゃん。空気中の魔力の匂いがダンジョンのそれだねー」


「におい、です?」


「うん、ほらちょっとだけにおうでしょ?」


「わかんないです」


キトラはクロマに説明するが、いまいち要領を得ない様だ

そりゃダンジョンに入った事ない人には説明しづらいだろうなぁ


そうしてしばらく奥へと進んでいく。

ダンジョンとはいえ、ここはただただ大きい洞窟のような場所だった

入口よりも、内部の方が広いのだ

そして暗い


「ええと、ランタンどこだっけ」


ごそごそとカバンをあさるキトラは、右手でそれをつかんで取り出した

ちいさなランタンだ

それに光の魔石をころんと入れて、ぱちんと魔力を通すと明るい光を放つ

暗かった洞窟内に光が灯った瞬間、ばたばたと天井付近に居たと思われる生物が飛んで逃げる


蝙蝠でもいたのか?カンザキはそう思いながら、自分もキトラと同じランタンに光を灯す


「いつもそんなのもってるんです?」


クロマは疑問に思ってキトラとカンザキに聞いた


「ああ、いついかなる時もダンジョンに行っても良い様に持ってるぞ」


「私はダンジョンで冒険者してるからねー。でもここは光が遠くまで届いてていいね。ダンジョンだとこれでもあまり見えないとこあるし」


「そうだな、光を吸収するようないじわるなとこ、あるな」


「そういう時はどうするんです?」


「ちと危ないが、たいまつかオイルランタンを使うしかない。そういう所は大抵魔力の光を吸い込んでるんだ」


「不思議です!」


「ああ、不思議だな」


クロマはウルグインに長く住んでいるし、ダンジョンに潜る冒険者に知人も多いがこういう話を聞いたのは初めてだったから思わず目を見開いた


「でもキトラちゃんは持っているのわかるんですけど、カンザキ様は何で持ってるですか?ええと、お肉屋さんの店長さんですよね?」


「ああ、俺はその肉を仕入れるのにダンジョンに行っているからな」


「冒険者兼店長さんですか」


「まぁそんなとこだな」


「忙しそうです」


クロマは鼻をふん、と鳴らしながら分かっているのか分かっていないのかわからない顔をした


そのまま進んでいると、目の前に光の届かない場所があるのが目についた


キトラはちら、と方位針を見るとカンザキの方をみる


カンザキもそれは感じていた。彼にとってみれば取るに足らない力の雰囲気を


しかしキトラにはそれは、強いと感じられる


「おにーちゃん、居たよ!黒いの!」


「ああ、居たな」


「じゃあ私が先に行く!」


ととん、と軽快にこのただっぴろいダンジョンの壁を駆け上がるキトラ


「お願い、風さん!」


ピィンと弓を弾く音がした

めずらしい、キトラが音を立てている

それは全力を矢に込めたからに他ならない


カカァンと甲高い金属音がして矢が弾かれる


「うそ、やっぱ硬い!」


ぱっと一瞬だけ眼を閉じて大きく眼を見開いた

キトラの魔力が高ぶる


その目が、赤色にきらりと光った気がした


「荒れる風よ、天空の風、地の風、破壊の風よ」


「星の矢よ」


そう、呪文の様なものを唱えながらキトラは弓を放つ


放った瞬間は見えなかった、飛んでいく矢も見えない


だのに、すぐさま音がした


ガンッ!


と、戸を思い切り叩いた様な音だ

とても矢の音とは思えなかった


黒いゴーレムの右腕部分に矢が刺さっているのが見えた


そこに、緑色に輝いている矢が刺さっている


「さすがに矢じゃ無理かなぁ…なんでこんなに硬いのー!」


キャサリンならきっと、矢だけでなんとかしてしまうのに。そうキトラは思って涙目になる


カンザキがすっと前に出て


「キャサリンだったら粉々にしちまうだろ、それじゃ石材が台無しだ」


そうキトラの心を読むような事を言ってから


腰に差していた剣をすらりと抜いた


「ちゃんと使えるように、大きく斬らんとな」


ぱちん


クロマにはカンザキが剣を抜く所だけが見えた

音がしたら、鞘に戻していた。それは見えなかったというより、まるで時が戻ったように不思議な感覚がした


「ほら、終わったぞ」


「え?」


黒いゴーレムが歩き出そうとして、左足を浮き上がらせて前に出した

その左足を、地面に降ろすと


轟音がして、黒いゴーレムはばらばらになってしまった

きれいな断面の、まるで磨き上げられた鏡の様な断面の正方形の石材を残して


「えええ!おにーちゃん、ゴーレムいつ切ったの!」


「今!」


「見えなかったよぉ…」


カンザキとキトラはそんな会話をしながら、その出来た大きな石材を魔法の袋を押し当て、収納していく


「これだけあれば十分だな」


そうカンザキが言ってクロマの元に帰ってくると、握りこぶしくらいの石のかけらをクロマに渡した


「ほら、この石材で間違いないよな?」


そう言われてクロマは渡された石をみると


「間違いない、です」


「おっしゃ、任務完了だな、さて、帰るか」


「はいです…」


悲鳴とかそう言う物を上げる事もなく終わってしまった

クロマはもっと、大冒険ができると期待したのであるが


「あっけなさすぎるです」


ただまぁ、目的の物は手に入ったのであとは帰るだけです






そしてその日の夜は、森の出口にあるログハウスで一夜を明かした

カンザキとキトラから聞く冒険譚のようなものはクロマの心を震わせて、楽しませてくれた


翌日も無理はしないで、馬のペースで帰る事になる


1日半かけて帰ったその道なりはクロマの一生の思い出となるのであった





「そんで、どうだ?」


「いいね、こいつはいいね!」


「おう、そうだろうな!俺が丹精込めて掘ったんだ。大事に使ってくれよ?」


ジーノは自信作と、そう言った


外側には少しだけ起伏が残してあり、反面中は綺麗に磨き上げてあるその石鍋はまるで光を吸い込むかのように黒かった


「残りの石材だが、本当に貰っていいのか?」


「かまわねえよ。まぁ石鍋をもうあと20ほど作って残ったら、だからな?」


「いや残るだろうがよ…ほどんど残ってると言っていい」


「まぁ代金もタダにしてくれるっていうんだ、あんたに頼めばきっと高いだろ?」


「そりゃそうだがよ、それ以上にこの石材は高けえんだよ」


「いいじゃねぇか。俺は気にしないからさ、取っといてくれ」


「まったく、お前さん気前がいいと言うか欲がねえというか…それに、クロマにもよくしてくれたみたいだな。あいつ、帰ってからいつもより張り切るようになっちまってる」


いい刺激をもらったんだろうとジーノは言った



その日の夜、石焼きビビンバがミナリに出された





「お焦げおいしっ…」


ぱちぱちと石鍋からは音がしている

卵とか油がまとわりついた白米が弾ける音だ

あたりにはゴマ油のいい匂いがふわりと漂って、食欲をそそる


スプーンですくいあげたそれを、口に運んでは


「おいしー!シン兄、これよこれ、私が食べたかったの!」


「おう、そりゃ苦労した甲斐があるってもんよ」


「苦労?石鍋に?」


「ああ、その石鍋作るのに腕のいい石材屋に聞いた黒いゴーレムを倒しに行ってだな」


「…は?ちょっとまって、ええっと、クロマちゃんだっけ?」


「もぐもぐ…はいです!クロマです!」


実はジーノとクロマも誘って、試食会を開いている

どういう使い方をするのか実際に見てみたいと言ったからだ

それで改良する部分があれば、改良したいと言われてだが


「あのさ、この石鍋っていくらするの?」


「タダですよ?お金なんて貰ってないです」


「え?そうなの?それはダメじゃないの?」


「ミナリの嬢ちゃん、そいつはあれだ。その石材の価値がだな‥‥」


それを聞いたミナリがカンザキをじろりと睨んだ


「はぁ…なんで…オリハルコン鍋とかとそう変わらない値段になってるのよ‥」


「いいじゃんか、俺がそれ使いたかったんだからよ」


「シアさん」


「は、はい!」


「あなたならこんなことにならないと思ってお目付け役お願いしたのに…」


ミナリがそう言うとシアは冷や汗をかきながら店の奥に消えていった

逃げたな

カンザキはそう思った





その一週間後、新しいメニューが増えた


ゴーレム鍋のビビンバ


真っ黒なその石鍋はちょうどいい熱量を保ち、そして食材にその熱を余す事なく伝える

内部の食材が無くなると自然に温度が低くなる不思議な石鍋だ

ゴマ油のいい匂いにつられて、いつの間にかシメの定番と言われるようになった




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る