第27話ダイダロス編9 バハム……?

ばさり、ばさりと空を切り裂きゆっくりと降りてくる漆黒の竜


普通のドラゴンとは明らかに違うその姿は、背に4枚の翼を持ちそれを個別に羽ばたかせている


圧倒的な力でその存在しているだけで周囲の空間を歪めている



「ふはははは!ようやくだ、ついに、つい私はやったぞお!」


ガンドルの狙い、いやその願いはバハムートの召喚そのものであった


この召喚魔法については、かつての魔法都市マグナシアにてそこの魔法研究者達がありとあらゆる禁魔法を調べあげていた


その禁魔法の中でもおよそ最高位であり、最強の召喚魔法である


だが当時はベヒモスを召喚することろまでしか成功しなかった

なぜならば制御できずに暴走したからだ


あの時は都市そのものを失ってしまったが


二度目である今回は成功した!やはり美しい!


ガンドルは世界の全てを手に入れた気分だった


バハムートは結界の上に降りたつ、それだけで結界が歪んだ

重さではない、そこにある存在で歪んだのだ



ガンドルはくるりと振り向くとバハムートに背を向けてカンザキを見る


「さてバハムートよ!初仕事だ!アイツらを焼いてしまえ!」


そう言ってガンドルが俺達を指差しバハムートに命令する



バハムートはそれに応えるようにその巨大な口を開けると、吸気音と共に口の前に巨大な火球が生まれる!


「マズイ!」


カンザキは急ぎミタニを抱き抱えてその場を飛んで離れる


まさにその時、バハムートから火球が発射された!



「へ?」


ぐおおんと言う叫び声とともに、その

足元に向かって放たれた火球は

ガンドルを焼き付くし結界に直撃する




ズズズズズ!!


巨大な爆発と共に足元の結界にヒビが入る!





「マジか!結界がもたないってか!ガンドルが巻き込まれたぞ!!」


「カンザキ!時間稼ぎする!」


ミタニがあの魔法を唱えようとするが、既に減っていた魔力で発動しない


カンザキは袋から一本の瓶を取り出すとそれをミタニに渡す


ミタニはそれを受け取るとおおっと笑って一気に飲み干した


ハイマジックポーション

魔力が全開し、さらに一時的に魔力が増大する



「汝歩みを、」

この魔法じゃ足りない!


ミタニはより強力な時間魔法に切り替える


「世界よ、その歩みを止めよ!クロノス!」


ミタニの全力である

その胸にあった大きな赤い宝石が砕け散った

本当の奥の手の奥の手、賢者の石と呼ばれる魔法触媒だった


ミタニの銃から撃ち出された赤色の銃弾がその時を止めようと、歩みを停めるためバハムートに直撃する!


そして、世界の時間が停止するー


「ふぅ」


術者のミタニは時に縛られない


「とりあえず世界の時間止めたけどジリ貧よねー」


「そうだな」


え!?


「な、なんでカンザキ動けるの!?」

停止していたハズの時世界にカンザキは動き、喋っていた


「ああ、月の女神さんのネックレスがあるからな」


カンザキの持つ抗時間マジックアイテムである


「うわええ!?そんなアイテムあるの!?私の魔法効かないって事じゃない!?」


これはショックである

ミタニはそれなりに力あるつもりだったのに、その必殺魔法がカンザキには無意味だと言うことだからだ


本来倒せる敵であれば、この間に攻撃を仕掛けるのであるが……動かれたら意味が無い


「その話はまたいつかな、あいつには効き目薄いぞこれ。すぐに動き出すぞ」


カンザキがそう言うと


ピキィンと乾いた音がしたー


「ガアアアアアアア!!」


再びバハムートの時が動き出して咆哮する



「まさかもう!?」


ミタニの魔法で止めるにはバハムートの力が大きすぎた


そしてバハムート自身がそもそも時には縛られない存在である


時間凍結を簡単に力だけで打ち砕いた



慌ててミタニは2丁の拳銃を乱射するがバハムートは擦り傷一つ負わない


「ボクの攻撃が全然効かないよ!城から取っておきの弾丸もってきてるのに!」


ミタニは唖然として青ざめる


うーんどうしようかなあ


「詰んだなー」


カンザキは…本気を出すしかないかと覚悟を決めた



その時だった



「はああああああ!風の精霊さん!キトラのお願い聞いてぇ!」



叫び声と共に飛来した光輝く一本の矢がバハムートの片目に突き刺さるー


「ギュオオオオオア!」


たった一本の矢に悲鳴をあげてその巨体が仰け反る


「グルルル……」



「な、なんだあ」


カンザキとミタニは矢の飛んできた方を見るとそこにいたのは美しい緑色をしたドラゴンだった

バハムートと比べ物にならないくらいには小さなドラゴンだ


そしてその背に乗るのは…


「お兄ちゃーん!迎えに来たよおー!」


美しい緑色のドラゴンに乗っていたのは


「キトラか!」


てことは、まさかあのドラゴンはー


「ガアァ!」


「やっぱりシルメリアか!」


「くらえええ!!」


キトラとシルメリアがバハムートに対して放つ矢は吸い込まれるように刺さっていく


「ちょ!誰あれカンザキ!バハムートに矢、矢が刺さってるう!凄いよ、あれなに!?ダメージ与えてるよ!」


キトラはその背にある矢筒から一本の矢を取り出し構えると


うさ耳がぴくぴくしている!


「シルメリアと…、風の精霊さんお願いします!」


「ガアアアア!」


咆哮と共にシルメリアの前に赤い巨大な魔法陣が現れる


あれ、竜魔法か!



そしてさらにキトラが叫びながら矢を放つと幾重にも重なる魔法陣が現れてその中心を矢が駆ける


魔法によって加速される矢はその矢が通り抜ける都度、輝きを放つ



「マジで!?あれって何枚魔法陣敷いてるの!」


ミタニが見たことも無い魔法陣に驚いて目を輝かす


「あー、ざっくり10枚はあるなあ」


呆れてしまった。


いつの間にかキトラは魔法陣を10枚重ねで矢を放てる様になっていたのである


うさ耳がぴくんと立って


「シルメリア、おおきく左に避けてぇー!」


バハムートがキトラに反撃しようと火球を放つがシルメリアはキレイにそれを回避する



「ちょっとカンザキ!」


またさらに後ろから声がした


振り向けばそこにいるのはキャサリンとシア!?


「なんか楽しそうなやつ相手にしてるじゃない」


その顔は・・・おい、ワクワクするんじゃない!!こっちはそこそこピンチだったんだぞ!


白色のマントをはためかせながらキャサリンがニコニコしている


「カンザキさま今からお護り致します!」


シアはそう言って前にでると盾を構える


「映し増やせ!アイギスの盾!」


ヴンと音がしてシアの前に光の盾が展開

さらにカンザキとミタニ、キャサリン、キトラとシルメリアの前にも光の盾が出現する!


仲間全員にシールドバフをかけたのか!


バハムートが放つ火球を全てその盾が受け止める


盾の強度をあの火球は破れない


「私にはこれしか出来ません!火球はこれで防ぎます!」


ふよふよと浮いている光の盾を維持するシアは叫んだ


「お姉さま!お願いします!」


「よっしゃー!任されたよ!」


キャサリンの目が爛々と輝く


「へんっしんっ!」


その赤色の目が、ぎらんと金色に変わる


キャサリンのその美しい白と赤の鎧も、きらりと金色にその色を変えて輝いた



「もはや金ピカだよ!?」


ミタニがぴょんぴょんと跳ねている


「いくよぉ!でかいドラゴン!」


キャサリンはそう言って、弦も矢もない弓を構えると


「ひ、光の矢!?うそ、魔力の物質変換!?」


魔力のみで構成されている矢が生まれる


ミタニが驚いてもはや声も出なくなっている


ガオンッ、ブォン!


風をきる音が、弓の音じゃないなとカンザキは呆れる




キャサリンの周りに3つの魔法陣が輝くと、その全てから光の矢が出現!


そして魔法陣が6枚・・9枚・・・そして12枚の多段魔方陣になる


さらに3倍



バハムートの周りに合計36枚の光の魔法陣が輝き全てから矢が降り注ぐ!



「必殺のお!アルテミスアロー!」


キャサリン・・なんかテキトーなのに・・強い


「いやあ、まさかこの技を使う日がくるとはねー」


キャサリンはニヤニヤ笑いながら言った


「さあカンザキ、もうこれで私は終わりだよ。足止めにしかなっていないけどね」


いや、矢が当たった部分が貫通して穴がぼこぼこ空いてるんですけど!




だけど弱っているからアレで行けるか?




カンザキはフライの魔法で浮かび上がりバハムートの前に立った




カリカリと魔石を齧る



「お兄ちゃーん!」


チラリとみるとキトラが手を振っている

気楽なもんだなぁ


バハムートの前には複数の巨大な火球が浮かび上がっていた



バハムートは小さな敵に対して力を貯めている



「まあ、後で謝るから許してくれよな!バハムート!」


カンザキはそう前置きしてから


「召しませ!剣よ!」


「天之尾羽張、天叢雲剣、布都御霊」


カンザキの周りに浮かび上がる3本の剣


そしてもう1本


「倶利伽羅剣」


その四本の剣を


その全て持って切りつける!


バハムートが火球を放つ瞬間


カンザキが力を込めてバハムートを切りつけた



ズズッ


バハムートが真横に、いや細切れにズレる



「ガ……ァ……!」



ズウウウウン!


自ら産んだ火球の爆煙と共に神竜バハムートは






消えたのだった





これは…レベルが違いすぎるなぁ。どうみても楽勝じゃないの?


ミタニはそう思った

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