第153話そこにある異世界10

さて、娘らが異世界へと行ってしまったあとー


その親達は何をしていたのかと言えば


ジュウジュゥと焼ける音


香ばしい匂いが立ち込める

人によっては、衣服に匂いがつくのを気にしたり口臭を気にしたりするだろう


でもそんな事ではこの焼肉の味わいは落ちてしまう


気にせず、その時を存分に楽しむ


「あー、うめぇなぁこの肉…もっと早く食べたかった。ちょっとした高級店くらいいい肉だな」


焼肉ゴッド店内にて、同窓会のようなものが開かれていた


勇者アイン、今では相坂刀弥として日本で漫画家をしている男。さくらの育ての親であり、すみれの実父



「カンザキくんとこのは美味しいよ。ジビエみたいなもんよ、ダンジョン直送だからね」


レーナ・レーナ 彼女も今では日本で暮らしている

ちなみに職業は雑誌編集をしていて、水戸玲奈と名乗る


「わたし、このお野菜が美味しいなぁ」


ふわふわとした喋り方でゴスロリの様な姿格好をした美少女…歳は聞いてはならない。乙女の秘密だ

元魔王エルアドラ、日本に転生しており名前は黒井真央、さくらの本当の母親である



「お前らよく食うな。そこらの冒険者よりも食ってるぞ?」


そしてカンザキ。異世界ではアイン、レーナと共に魔王と戦った男、魔王討伐後の報酬をアインと取り違えられウルグインのダンジョンに飛ばされた


「それにしてもこのメンバーで飯食う事になるなんてなぁ。レーナは編集だからたまに会うけど、カンザキ、お前がレア過ぎるし…まあ俺がこの世界に来れるとも思わなかったけどな」


「言えばすぐ連れてきてあげたのに。相坂先生は何を遠慮してたんだか」


「あのなぁ、一応すみれには内緒にしてたんだからな…さくらにゃ魔王さんがだいたいバラしちまってくれちまったからアレだけどよ」


「だって、さくらちゃんは私の子供なんだもんね、魔族の血を引いてるから教えておいてあげないと何がおこるかわからないと思って。この体のお腹は痛めてないけど」


あっけらかんと言い放つ真央



「え?」



それを聞いたカンザキの動きが止まった


「あ、ごめん気にしないで。カンザキは気にしちゃだめ」


「お、おう…なんかすげぇ悪寒と言うか、なんとも言えない予感というか」


「ふおー、ついに引いたわ!ウルトラレア!きたわぁ!」


「なんでこんな時もスマホでゲームしてんだよ…てか電波届くのかよここ」


そう言って相坂刀弥は自分のスマホを取り出してみるが圏外である


「私のスマホは全宇宙、全次元で電波ひらうのよ」


そう言ってスマホを見せる水戸玲奈


「どこに売ってんだそれ!?めっちゃ欲しいだろ!」


「売ってあげてもいいわよ。全財産、それとこれから稼ぐ全収入で良いわよ」


「売らねえってことじゃねえか!」


「あのねぇ、世界にはことわりってもんがあんの。それを覆すわけだからそれ相応の対価がいんのよ」


「ことわりねぇ。そんなんできんなら確率でも操作してそのウルトラレアをバンバン引けばいいじゃねぇか」


「アホ。そんな事しても楽しくないでしょ?あんたね、奥さん紹介してあげた恩を忘れたの?」


「んぐっ、あ、アイツは今関係ねぇじゃねえか…」


アインの妻は、レーナが紹介したらしい。なんでも物凄い漫画のファンだったとか


それが今や完全に尻に敷かれてる

ちなみに今日は来ていない。なんでもこの世界には来たくないそうだ

だから久々の自由の身になったアインははしゃいでると言うわけだ

しかし愛してないとかではない、ただ多少は自由な時間が欲しかったとかにすぎない

カンザキも会った事はあるが、ヤバいレベルでアインの事が好きだという事は知っている


そもそも黒井真央だが、さくらの母親でアインと同居していたはずなのでそのうちアインともくっつくと思ってたのだが


「さくらちゃんは娘で愛おしい。でも相坂刀弥にはさくらちゃん育てて貰った恩はあるけど男としてはね?」


そんな事を言っていた

まあ一時期は同棲をしていたが、そのアインの妻である穂乃果さんが暮らし始めた時期から近所に引っ越した


さくらの為なら何でもする真央だが、アインのことは何にも世話をしなかったらしい



何にせよ、久しぶりに集まっているという訳である



「そーいやカンザキ、お前ついにやらかしたらしいな」


ニヤニヤとカンザキを見るアイン


「押し切られたと言ってくれ」


すると玲奈も混ざってきた


「あー、そっか。ミナリちゃん身重なんだって?シアちゃんとダブル妊娠とかカンザキ、あんたって最低ね。あとおめでとう」


その横でもぐもぐと野菜を焼いて食べて居た真央はカンザキを見て言った


「この男の手の遅さは異様だよー?まだ手出ししてない娘がいるし」


こいつの情報網はどうなってんだ…なぜ知っていると言うカンザキの視線に


「魔王ネットワークがあるの」


「ああ…そうですか」


それだけで分かった

手出ししていない相手はこの世界の北の元魔王だ

かつてダンジョンで出会った


それよりもそんなネットワークがある事が怖かった


「キャサリンちゃんとの子供も確か居たよね、ルネちゃんの弟」


そう言ったのは水戸玲奈だ


「ああ、会ったことないんだっけ」


「キャサリンが身重の時会ったよ。今日はいないの?」


腹の中にいる子供にどうやって会ったのかは聞かないでおこう


「今日からはシルメリアが面倒みてたハズだ。キャサリンの奴は外交に出てるし、ルネが行っちまう前に頼んでたからな」


「はー、あんたの子ねぇ…変わりもんなんだろうなー」


「なんでだよ!いい子だよ普通に!普通の子供だ!」


「はいはい。普通ね、普通」


そう言いながらスマホを触る玲奈


「にしてもよ、なんでウチの娘かね…それを言ったらトワ君もだけどよ」


「ランダムにしちゃあ関係者だよなあ」


「まあそんなもんよ、選ばれる可能性は逆に関係者こそだからじゃない?」


「そんなもんなんかねぇ」


カンザキさぐいっと酒を喉に流し込む

昔はあまり飲めなかった酒も、今は多少嗜める


「ま、あの世界なら大丈夫よ。余程の事がない限り死んだりなんて、ないだろうし」


「まあ、終わったから言えるけどその通りだよな」


「召喚された当事者はわかんねーよ。それ言ったところで関係の無いさくらも慌てて行ったんじゃねーか」


「加護なしが行く方が危険だとおもってルネちゃんとエルマちゃんにも行ってもらったけど…過剰だったかな?」


そのセリフにはアインが驚いた


「そんななのか?その二人」


「あー。なんてったってルネは俺とキャサリンの娘だぞ。キャサリンがそんな生ぬるい教育するわけがねぇじゃねえか」


「俺、そういやカンザキの嫁さんに会ったことねえわ。話だけはやたら聞いてるが」


それには玲奈が答える


「ホンモノの勇者よ、アレはあらゆる意味でね。なんならあの世界なんて片手間に解決するし、本気をだしたなら世界ごとシステムを無視して終わらせると思うわよ?」


そう言う玲奈の目は真剣だった



「あー、そうかもしれん。キャサリンは可愛いけど怒らすと怖いからな…」


「旦那が言うと重みがありますなあ」


「お前は結婚とかしねーのか?もういい歳だし」


「あんねぇ、わたしにゃそんな選択肢は必要ないの。今はコレだけで十分」


そう言って手に持ったスマホをぷらぷらと見せびらかした。画面には先程引いたというイケメンの画像が映し出されていた







「ぬわー!これめっちゃ可愛い!やばい!」


手に持っていたのは少し風変わりなワンピースだった


「あら、本当ですこと。ウルグインにはこう言うデザインないですものねぇ」


ルネとエルマは安全圏である王都にて、ショッピングをしている


ちなみにお金であるが、先日の魔王に会いに行った際近場に居たモンスターを数体狩って王都にて売りさばいたのが主な収入源だ


「ねー、そろそろ行こうよ。すみれちゃん心配なんですけど」


さくらはそう言ってみるが



「あーね、さくらちゃん。玲奈さんが言ってたじゃんか。シナリオを無視して話を進めてはならないって」


「でも」


「でもじゃありませんことよ、今勇者さん達は修行中なのです。すみれさんもこの世界での先生に巡り会えていたじゃありませんか」


今、勇者パーティは散り散りになり修行をしているところである


勇者はアインは剣の師匠に会いに里に帰っている

レーナは巫女管理する聖域を巡り力を蓄えているところだし

トワはまだ魔族に戦力されてない大きな街にて冒険者の真似事している


すみれもトワと同じ街にて信頼出来る人に魔法を習ったりしている所だった


「あー…もう、あたしなにしに来たの…」


「まあ勇者側と比べて明らかに魔族が全体的に強すぎますから、このステップアップも用意されていた物なのでしょうね。素晴らしく安全に配慮された物ですわよ、ここのシステム…そう、理(ことわり)は」


「でも、死人が出ない訳じゃないんでしょ?」


「ええ、先日の魔王が代々伝えていると言う日記のようなものには巫女やら、召喚された者が旅の途中で死んだケースもあるようですわ」


「だったら!」


「まあ、今回に限りそれは無いですわ。私のルーンも見張っていますからね」



現状、どんなイレギュラーがあるか分からないと言う理由からエルマの調査は続行中である

さすが世界規模の調査ともなればひと月やふた月程度では無理なのだ

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