第154話そこにある異世界11

神裂十和(カンザキ トワ)

あのカンザキミナリの実弟である

日本でも指折りの怪異を調伏していた一族の現当主である

ある日まで、その身を神に奪われ封印されていたのだが助けられ今に至る



異世界召喚を受け入れ、この地に来たのは修行みたいなものである


勇者アラン、シーナとは一時別れて各自修行を始めている



そのキッカケとなった敵がいる越えられない壁


彼は魔族でありながら正々堂々としていた


見逃された。それだけ力の差があった


魔族にもすげぇ奴がいる


アランはそう言って師匠に会いに行った


シーナも聖域を回り、力をつけると言って別れた


今回、すみれのブレスレットは使用していない

それはなんだか卑怯な気がした


アランとのタイマンを望んできたのはその魔族だった


わずかに1回、交差しただけだ


それだけでアランの剣は欠けてしまい、さらに剣を持てないほど手はしびれていた


「弱すぎる」


魔族はそう言って去っていった


その魔族の名前は十二魔将、闘争のアーディル


情けをかけられた、そうとしか思えなかった

だから悔しくて、アランは旅に出たのだ



そしてトワはその時点でトワを縛る制限を解除できていた

だからアランとシーナの帰りを街で待つことにした







冒険者ギルド


勇者は魔王を倒すために居る存在だが、それ以外でも魔物などはいる

またダンジョンからは秘宝なども手に入るためそれを収入源としている者たちがいる


そこにトワは登録をして、出入りして過ごすことにした




「はい、トワさんありがとうございます。今日も大量ですね」


ギルドの買取窓口にいるミィナは最近現れた期待の新人、トワ・カンザキがお気に入りだった

銀髪の彼はとても童顔で何とも言えずカワイイからだ


「ありがとうミィナさん」


「明日もまたよろしくお願いしますね」


今日の収入は銀貨30枚

ミィナの月給は月に銀貨150枚ほどなので、毎日持ってくるトワはものすごい高収入ということになる


トワの後ろ姿に余韻を残すミィナだが、隣にいる受付嬢もまた同じだった

とにかくモテているのであるが、本人はその視線に全く気付かない


まぁ昔から鈍かったうえに、姉が眩しすぎるという問題もあるのだが


美形が多い異世界においても劣るどころか目立つほどのトワ

もしも髪を長くしていれば女性と間違われてもおかしくはないのだ



「さてっと、今日は何を食べようかな。ここは何でもおいしいのは凄いなぁ。日本では好き嫌い激しかったのに、こっちの食べ物合いすぎ」


トワの楽しみは屋台での買い食いだ

酒も多少嗜む


「ん?なんだあれ」


トワの目線には、いじめられていると思われる子供がいた

何人かで取り囲んで石を投げているのが見える


とっさに体が動いた

一瞬でその囲いの中に入り込むと、飛んできた石をつかむ


「君たち、何してるんだ?」


ぎろりと睨む

あまりに美しいその顔で睨まれると恐怖が過ぎるのか、取り囲んでいた子供たちが慌てて逃げ出した


それを見ると、ため息をついて振り返る


「大丈夫かい?」


「う…うん…あの、お兄さん、私とかかわると嫌われちゃうよ…私、お母さんが魔族だったから」


「そうかい」


先日、アーディルを見たことにより魔族は話せばわかるのではないかとトワは思い出していた


トワは魔法収納になっているポケットからポーションを取り出すとその子供に飲ませる


「たいした傷じゃなくてよかったよ」


そう言って頭をなでる


「ナァン!ここにいたのか!」


見ると駆け寄ってくる、フードを深く被ったその顔はよく見えないが、体つきや声が女性だった


「お姉ちゃん!」


姉、そうか、魔族でも姉はいるか…

そんな当たり前のことを考えずに勇者と旅していた自分をすこし情けないと思った


「貴方が助けてくれたのか…ありがとう。人族にもまだいいやつがいたんだな」


「いや、当たり前だろ。こんな子供に当たるようじゃ…」


そこまで言って、その女性魔族と目が合うー顔はよく見えないが、その目はとてもきれいに見えた


トワの一目惚れだった


「何か礼がしたい。見たところ冒険者のようだな…この街の者じゃないんだろう?どこに滞在している?」


そこからトワの記憶はあいまいだ


宿泊している宿に戻ると、思い返しているのはあの魔族だった


しばらくしているとその魔族の女性が部屋に訪ねてきた

礼をしたいが何がいいと聞いてくる


魔族の女性は、エルアと名乗った

本当の姉ではないらしい。孤児のナァンを引き取ったそうだ


「礼かぁ…」


「なんでもいいぞ」


「それなら…僕がこの街にいる間でいいから、夜ご飯作ってくれないか?ああ、お金はちゃんと出すよ」


トワはただ、このエルアに何度も会いたかっただけのこのお礼だった


「なん…だと…」


「だめかい?」


「ダメではないが…その、なんだ。それは私の手料理が食べたいという事か?」


「そう言えるね」


「そうか…苦手なんだがな…美味しくないかもしれないぞ?」


「かまわないさ、できれば美味しく食べたいけどね」


「わかった、期待に応えれるように努力しよう」


エルアは笑ってそう言った。フードは被ったままだったがとても美しいとトワは思ったのだった


「明日のこれくらいの時間でいいか?ここに持ってこよう」


「ありがとう。君のご飯もいるだろうし、あの子の分もいるだろ?」


そういってトワは銀貨20枚を渡した



翌日から、トワには楽しみが出来た


魔族である、エルアとの食事だ


初日は苦手と言うだけあって流石においしいというものではなかった

その食事中のひと時に交わされる会話はトワの得難い時間となる


「そうか、仲間を待っているんだな」


「ああ、そんなに長い間じゃないと思うんだけど時間はかかるとおもってる」


「貴方は友を信頼しているのだな」


「まぁ、仲間だから」


そんなたわいもない話をする日が、何日か続く


その間どんどんエルアの料理の腕は上がっていって、さほど時間は掛からずトワがうなるまでになる



いつしか二人は少しばかり親密な関係になっていた



こんな時が、永遠に続けばいいとすらトワは思ってしまうほどに



しかし、勇者であるアランと、シーナが帰ってくると知らせが届いた

楽しかった日々もこれまでである


トワはエルアと別れ、街を出ていく日が来た



「じゃあ、またいつか会おう…エルア。ご飯本当においしかったよ」


「そう言ってもらえるとたすかる…。トワ、私は…いや、そう、だな。またいつか」



たったそれだけ


それだけでトワとエルアは別れた。だが運命の出会いは終わらない


それが悲劇になるとしても







そこは魔族領最後の砦である魔王城


広い中庭で子供が走っていた


「あはは!姫、こっちこっちー!」


「ナァン、ちょっと待ってください。私、私もう…」


ばたりと倒れる姫


そこに黒い影が歩み寄る


「すまないな、姫よ。このような事をさせてしまって」


「あら、おかえりなさい。いいんですよ。私もお友達ができて楽しいですし」


「そういってもらえて助かるよ。ナァン!食事の準備が出来ている、食べてこい」


「はーい」


そう言ってナァンは走っていった


「本当、子供は元気ですね」


そう言って姫はテーブルに向かい、椅子に座った


「それで…どうだったんです?」


「その…、聞いてくれるか?」


「ええもちろん。だって私、毎日貴方が作るこのご飯とお話が楽しみなんですから!」


「そういってもらえると助かる」


「ふふ、エルアドナ、あなたが恋をするなんて思わなかったんですよ?しかも人族に」


「恥ずかしいではないか…私自身も驚いているのだぞ」


「でしょうね…でも…」


「侵攻は止めるわけにはいかない。それとこれは別の話だからな」


「はいはい、じゃあ教えてください。今日はどんな話をなさったんですか?」


「そうだな、その前に食事をしながらでいいか?」






魔王 エルアドナ・ドゥ・ハウルは勇者を待つ


己が討たれるその時を待つ



運命の出会いを、待っているのだ











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