第155話そこにある異世界12

トワが滞在する街に、相坂すみれも同じように滞在していた


ただ行動は共にしておらず、全員が基本自由行動ということになっている

一時パーティの離散である


そんなすみれだが、彼女がやっていることは実のところ仲間には称賛されない行動だった



「今日も来たのか…」


「ええ、来ました!みんなが心配ですしね!」


「物好きだな」


「アーディルさんほどではないですよ!」



アランを打ち負かした、あのアーディルのところに通っていたのである



滞在している街からほどなく離れた場所にアーディルは住んでいた


洞窟を改造したところで


そこにはアーディル以外にも10人ほどの魔族と人族が住んでいた



大きな街のそばに深めの渓谷がある


そこには子供、それも孤児ばかりが住んでいた


正確には、アーディルの庇護の下で


それにすみれが気づいたのは、アランとシーナが旅立った三日後の事だった


ふと、子供ばかりが大量の買い物をしているのを見かけた


なんとなく怪しいと思って、ブレスレットの力を使って後をつけてみたのがきっかけだ



そこにはあの魔族、アーディルが子供たちと一緒に生活をしていたのである



すみれは驚いた


そこには魔族の子もいれば、人族の子も仲良くしていたからだ



「親に捨てられた子供というのは、どこにでもいる。人族だけではない…魔族にもいるのだ」



「もっとも、魔族の場合は人族の者とは違うがな、両親が命を落としたことに由来する孤児が多いのだ、人族の場合は貧困やらで捨てられることが多いと聞く」


「それは、魔族が侵攻してきたから」


「魔族なら貧困程度の事で子を捨てたりはしない。自らの肉を食わせてでも子を育てる」


すみれに、それは衝撃だった


親子の愛情が深いのだ。魔族は


すみれも姉の顔を思い浮かべる。きっとあの人なら、自分がいかにドン底で不幸でも人に当たらない。それにそんな状態でも妹であるすみれに笑顔を見せるだろう


血のつながりはないのに



その日以降、食料の買い出しをすみれが勝手にするようになった

子供ばかりで行くと目立つからというのがその理由だった


それだけではない


「子供にこんなボロボロの服は着させちゃだめですよ!」


おせっかいの性格が、ここで爆発する


「お風呂が無いんですか!?ダメですよ、ちょっとお風呂作りましょう!手伝いますから!ガーディアン!」


ガーディアンを用いて土木作業、さらには建築をも始めるすみれ


子供たちも手伝ったが、なによりアーディルもそれに参加してきたことにすみれは驚いたが



改造していた洞窟はより住みやすい状態へとどんどんと改善されていった


お金については、アーディルが魔物を狩ってきたものを街ですみれが換金、そのまま買い出し

そんな日常を送る


子供たちはすみれに懐くことになる


アーディルは子供と遊ぶすみれを見て、笑ってるように見えた



心が優しい人なんだ…


すみれのアーディルを見る目が、魔族を見る目が少し変わっていく



今まで倒した魔族は非道な者がいた


支配した町で、生贄と称し公開処刑をしていた奴もいる

食料を吸いあげ、貧困を強いた者もいる


だがこのアーディルは違うと言わざるを得ない


孤児院のような、そのすみかはとても暖かな空気がながれているのだから


本来であれば、あのすみれやトワの居る街を襲撃し、支配下に置いてしまうだろうアーディル

しかしそうはなっていない



「なんで子供を引き取ってるんですか?」


「なんでもいいだろう…だが、俺は負けるわけにはいかない、だからこそ自分を鍛えている」



その通りだった

アーディルがもし負けて、死んでしまえばこの子達はどうなってしまうのだろうか


すみれは既にそれを考えることが出来ないでいる


こんなに優しい、いいひとが敵になるなんて思えなかったからだ







「あ、トワさん」


「すみれちゃん久しぶり。どうしたの?」


「いえいえ、ちょっと魔物を売りに来まして」


「ああ、すみれちゃんも冒険者してるのか」


「ええっと、まぁ」


実際すみれは魔物を狩るなどはしていない、アーディルが狩った魔物を持ってきているだけだが


「はい、トワさん今日も多いですね。銀貨40枚になります」


「ありがとう」


「すみれさん、こちらになります銀貨60枚ですね、すごいです」



それを見たトワは驚く


「すごいね、すみれちゃん」


「あー、まぁ」


何か悩んでいるように見えたのか、珍しくトワがすみれをお茶にさそった


すみれは早く帰りたかったが少しばかり言いたいことがあったトワにならいえると思ってそれを受けた



そこは街でも人気のカフェだ。トワのお気に入りでもある


「うわ…美味しいこれ…」


茶色のコーヒーに似た飲み物なのだが、癖もなくとてもおいしかった


「でしょう?ここのはとても美味しいんだよね、しかも安いし」


「うん、びっくりしました。こっちのクッキーもめちゃくちゃ美味しい」


「ふふ、この街の食べ物は全部美味しいよ。僕ら日本人に合うのかもね」


「いえいえいえ…美味しくないの、私結構あたってるんですけど?」


「え?そうなの?」


「はい…トワさん凄いですね、もうこの街の食べ物屋さん詳しくなりすぎてるのでは?」


「すみれちゃんはご飯どこで食べてたの?」


「うーん…自炊みたいなことしてました。あとは安いところ探してですかね」


すみれは実はお金があまりないのだ

子供たちの食料や、住居改善のためにお金を使っているので自炊か安いところで食事を済ませている


「そうなんだ。僕は雰囲気で選んでいるからなぁ…お金もそんな気にしないし。てゆうか、僕より多かったよね、さっきのとか」


「あー、色々使うことありまして」



何に使っているのかは聞かれなかったので答えていない


「あの、トワさん…魔族ってなんなんですかね。私たちの敵で、悪いやつで…」


「そう、思えなくなった?」


それはトワもである。トワの今愛する人は魔族だ


「ちょっと、色々ありまして…その人孤児とか、たくさん引き取って、しかも人族の孤児も」


「そう…」


トワは悲しい顔をした

それは、あの人も孤児を引き取っていたなと思ったからだ


「でも、人間が侵略されているのも確かだ」


「そうなんですよね。なんなんでしょう、ほんとに」


「全員が悪いわけじゃないってことなんだろう、それは僕らだっておんなじだろう?」


「そうですよね、日本、地球でも同じです」


「それでいいんじゃないか。いいやつもいれば悪いやつもいる、だから僕らはその悪い奴とだけ戦えばいい」


それにすみれはこたえる事が出来なかった


なぜなら、今アランが倒そうとしてる敵アーディルが悪い奴になんてとても思えなかったからだ



「あっと、じゃあ私用があるのでこれで」


「うん、気を付けてね。そのブレスレットあれば大丈夫だとおもうけど」




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