第156話そこにある異世界13

相坂すみれはその日、いつもの様に市場にて色々と買い出しをする


冷蔵庫でもあれば大量に保管できるのにとおもったが思い直す

どれだけ大きな冷蔵庫が必要になるのかと思って笑う


そういえば洞窟の奥を整理して氷魔法とかで冷やしたりとかどうなんだろう?

ガーディアンって魔法使えるのかな?


そんな漠然としたプランを考えながら、すっかりDIYに慣れてきたなぁと思った


他の人達と別れもうすでに半年近くが経過していたー


そろそろ、終わりの時は近づいている


きっとアランやシーナは成長しているだろう

トワはなんだか女性と歩いているのを見かけたりしたが、あの人はモテるからいい人がいたのかもしれない

そもそも日本から召喚組と、元々のこの世界の住人とでは魔王を討伐する意思の熱量そのものが違う


すみれは最初、旅行気分になったりもしたがこの世界の住人と触れ合うたびにその熱量は少しづつ、ある時は急激に上がったりもした


だが、この半年ですみれのその上昇した熱量そのものはなんだかもやもやとしたものに変わってしまった

このままでは足手まといになるかもしれないと、そう自身で思うまでになっている



そして、事件は起きる。すみれにとってその冷え切ろうとしている熱がまるでマグマの様に爆発する程に




いつもと同じはずだった


アーディルと子供たちが居る隠れ家までは徒歩1時間ほどかかる



少しだけ違う景色


「煙?」


隠れ家付近から立ち上る煙に違和感を覚え、駆けだす


子供たちが火遊びをするわけがない

アーディルならば煙を隠して火を使う


何か異変がある


駆けだすとすぐに着く、すみれも体力が増えたなと関係ない事を考えるが目の前に見えた光景は


「アーディルさん!」


思わず名前を叫ぶが、そこにアーディルはいない

目に入る赤い、子供


「リン、アリィ!!!」


血まみれで倒れている子供の名前を叫ぶ


ぶわりと嫌な風が吹いた時だった


ガーディアンが即時起動する


ギィン!


金属音。これはガーディアンの障壁が弾いた音だ


「ゲヒヒ・・」


声の方向を向くと青い翼を生やした魔族が居た


「アーディルの旦那をけしかけるのにガキどもぉ人質に取ってたんだがよぉ…めんどぅくさかったんだぁ」


「・・・!」


すみれは声が出ない


「そしたらガキが増えたけど、このガキはなんだかめんどぅそうだぁ」


じろりと視線の定まらない目がすみれをみている


「あ、あなたが子供達を!」


怒りで頭がくらくらする

すみれの目の前には、子供たちが血まみれで倒れている

ピクリとも動かない子供達

人族の子も、魔族の子も等しく死んでいるように見える


「あぁ…アーディルの旦那が勇者をやらねぇから魔王様がお怒りでなぁ…」


「子供たちを、ころしたのはあなたね?」


自分で何を言っているのかすみれは自分でわからなくなりそうだ


思いもよらない、殺意がすみれに渦巻いている


「こどもぉ…ガキは嫌いだ、めんどぅだぁ」


「あなたが殺したのね」


ガーディアンがすみれの怒りに反応し、即座にその魔族に攻撃をしかけるが


「げひ・・」


(目標消失・転移したと思われます。追跡しますか?)


無機質にガーディアンは問いかける


「にぃげるなぁあああああああああああああ!」


叫んだ。許せないと、心が叫んでいるー

追いかける、そう決めた瞬間に


ドォィィン!


少し離れた場所で大きな爆発のようなものが起きる


ばっとその方向を見て気づく


アーディルがいない

そうだ、さっきの奴は何と言っていたか

アーディルをけしかけるために子供をと言っていたはずだ




「アーディルさん!」


すみれはさっきの爆発の方向へ走り出す


遠い!


ガーディアンに抱えられて移動するも


ほんの僅かな距離が遠い!



アーディルの無事を祈るすみれは駆けた






勇者アランとシーナは、トワとすみれとの集合地点である街へと向かう途中だった



修行を終えた二人は何段も強くなった



その修行中に魔族を倒している

それも、12魔将と呼ばれる魔族を二人も


しかしアランは驕ることなく修行を続けた


なぜなら、あのアーディルは12魔将の最強の一角だと言うことがわかっているからだ




「シーナ…」


「ええ、わかるわ。やんなるわね、ほんと倒した奴らとは明らかに格が違うじゃない」



すると目の前の魔族のアーディルが言った


「それが分かるようになっただけでも成長だ」


「アーディルッ!」



アーディルが腰にぶら下げた大きな剣を抜いた


「さあ勇者、十分な時は与えた。であるなら成長したのだろう?この俺に、その手に入れた強さをみせてみろ」



「余裕かよ…いつまで持つか、試してみろぉ!」



アランが駆けるー


胸に手を当て、叫んだ


「聖剣覚醒!俺の聖剣、顕現せよ」


すると胸からが目映い光とともに現れた一本の剣


それを握りしめたままアーディルに打ち付ける!


もう力負けしない!


アランはビクともしないアーディルの力量を今の自分と同等かそれ以上だと感じる


「さすがに強いな!」


「どうしてどうしてだ、良く此処まで!」


「俺には守らねえといけねぇもんがあるんだ!」


ギィン!ギィン!


剣がぶつかり合う音が響き渡る


「勇者よ!お前は何を守りたい?」


「お・・・おれは!何もかも全部だ!家族も、友人も、その友人だって!」


「欲張りが過ぎるぞ!抱えきれないものは零れ落ちる。それはどうする!」


「なんだと!」


「零れ落ちた者がいるだろう!抱えきれないだけじゃない、自らそこから逃げるものもいる」


アーディルの問いは続く


「見えないものを守ろうなんて傲慢が過ぎるぞ?それが勇者なのか?」



「はぁ、はぁ、だからなんだってんだ!俺は、俺は…」



「ばかなやつめ。目に入るものだけ全てを救えばよかろう。傲慢なだけではただの大ウソつきだ」


それは、そうなのだ

嘘をついてまで威勢を張る必要なんてない

それがアーディルが言っていることだ


「できること、それだけじゃ俺には足りない」


「だったらもっと強くなることだ。目に入らぬものを救えるほどの強さを手に入れろ」


「アーディル…」


「おしゃべりが過ぎたな。さあ、もう思い残す事もないだろう」


二人は剣を構え直す


次の一撃が、最後になるだろうとうっすらと感じている


アーディルを倒すためには全身全霊の一撃が必要だと


「いくぞアーディル…俺の…勇者の一撃を食らえ」


「決死の覚悟か…いいだろう勇者よ、さらばだ」


「俺の名はアランだ。あの世に行っても覚えてろ」


「ふん」





「あああああああああああああああああああああああああああ!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」





二人の必殺の一撃が交差する

魔力が籠った一撃はあたりを吹き飛ばすほどの風を生み、そして土が捲れた



爆発音が響き渡る


煙が収まるまですこしばかりの時を必要とした

それが晴れたとき


そして、立っていたのはアーディルだった



「勇者よ、いや、アラン。見事な一撃だった。まさに勇者の一撃といえる」


「っぐ…くそ、すげぇな…アーディル」



沈黙が流れていたその時だった


「アアアアアアーーーディルううううううううう!」


「すみれ!?」


ガーディアンに抱えられるようにして現れたすみれは、そのままアーディルの前に立つ

そしてアランに向かって


「アランさん、待って!この人と戦っちゃだめなんです!」


「すみれ…」


「アーディルさんはすごくいいひと、魔族なんですよ!だって、すごい子供好きで」


「すみれ、もういいのだ」


「アーディルさんは、ほんとに、ほんとに」


そう言ってアーディルの方を振り向くと


胸がえぐれ、大きな窪みになっている。そして目から血が流れ、もう見えていないようだった


「あ・・アーディルさん!ガーディアン!回復魔法!」


(奇跡級魔法リカバリーを使用します)


アーディルを光が包むが…


(リカバリー失敗・魔力減衰率98%・セーフモードになります)


「いいのだ、すみれ…あとは…あいつらを、頼む。おまえと、楽し…」


ずあっ 風が吹く


アーディルの姿が消え、そこにはアーディルの大剣と、彼の魔石だけが残った


「アーディルさぁーーーーん!」


「あああああああああああ・・・・・」


涙を流し膝をつくすみれ


伝えられなかった、子供たちがすでに殺されていたことを

助けられなかった、傷ついたアーディルさんを



全てが終わった後だった


間に合わなかったのだ


そしてすみれは立ち上がる


あの魔族を、子供を捕らえ、アーディルを焚きつけて、その上で子供を用なしとばかりに殺したあの魔族を…


「許さない」


アランに思うところがないわけではない。だけど、最後のあのアーディルの顔はアランを恨むなと言っているような笑顔に思えた


だからアランに思うことはない


だけどあの魔族だけは絶対に






「許すもんですか…」










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