第152話そこにある異世界9
シーナ・シーナ 15歳
彼女は巫女がいる、神国の住人である
多くの人族が信仰を同じくしているその国の
それも巫女の家系で生まれた
彼女には一人、姉がいる
名前はラーナ・ラーナ
シーナよりも7つ年上で、とても聡明な姉だった
巫女としても優秀で、親の期待を一身に受けて育った
もちろんシーナにとっては自慢の姉で、誇りですらあった
親の期待は全て姉が独占していたように思う。それに嫉妬さえした時期はあったが
それ以上に姉に愛されていると実感していた
物静かで、その頃の騒がしいシーナとは正反対と言えた
「お姉さま、今日は何をするの?」
「今日は節の儀式があるの。白い服を着て、神様にお祈りするのよ」
「そうなの!すごいなぁ。じっとしてるんでしょ?私には無理だわ!」
「シーナはおてんばだものね。昨日も木登りをしていたって聞いたわ、擦り傷ばかりだったもの」
その傷は姉が回復魔法で癒してくれた
姉の使う魔法の温かい光はとてもまぶしく、幸せだった
「木登りたしちゃってた…でもね、私も大きくなったらお姉さまみたいになるの!静かで、お綺麗な姉さまみたいに!」
その言葉に、少しだけ悲しそうな顔をした姉が印象的だった
「そう、きっと…なれるわ。シーナならきっと」
姉は毎日のように神殿に通っていた
一日も欠かさずに通うので、シーナは少しだけ寂しい思いをしていたがそのわがままだけは言わなかった
姉が困った顔をするのはシーナも悲しいからだ
そんなシーナが11歳になった年だった
姉が、男性神官と駆け落ちをしたと聞いたのは
「うそ、うそよ…姉さまがそんな!」
「本当だ。ラーナの奴め、とんでもないことをしてくれる」
「うそよ…」
「シーナ、明日からはお前が神殿にいきなさい」
「それは姉さまの役目だわ」
「ラーナはもういないのだ。お役目はお前の仕事となった」
それだけ言うと、父は厳しい顔をしてシーナの部屋から出て行った
「姉さま…」
なぜかシーナは裏切られたと言う気持ちが沸き上がる
そして数日後、姉からの手紙が届いたが読む気も起きずに破り捨てた
その日からシーナはまるで人が変わったように、物静かになった。まるでラーナのように
神殿ではラーナの事は忘れ去られ、シーナが称賛される事となる
シーナの巫女の一族というのは代々蛇神に仕えている
そして、蛇神に守られているというその地ではモンスターによる被害が他国と比べかなり少ない
そのために神殿にて祈っているともいえる
そして魔王現れし時は召喚に応じ、勇者と共に魔王討伐、人族救済の旅へと行くのだ
「魔王が現れ、人族の町を占領して回っているそうだ」
シーナは黙ってその話を聞いている
「このまま進めばおそらく勇者が召喚される。そうなればシーナ、お前も召喚されるだろう」
物静かに微笑みを湛えるシーナ
「あれから4年、お前は立派な巫女となった。姉のラーナ以上と言えるだろう」
姉の名に、ピクリと反応するシーナ
「もしかしたら死ぬかもしれない、思い残す事のないようにな」
それだけ言うと、父はシーナの、元ラーナの部屋から出て行った
シーナは椅子から立ち上がると、机の引き出しを開ける
そこにはびりびりに破られた跡のある手紙が入っていた
「姉さま…」
手紙には、シーナへの謝罪が書いてあった
どうして駆け落ちしたのか、その悩みも綴られている
それをこの4年間、不安になった時や挫けそうなときに何度も、何度も読んだ
あの時は泣きじゃくるしかなかったシーナだが、今では姉の幸せを祈っている
時折、巫女であるシーナへ貢ぎ物の中に大好物である果物があった
それを知っているのは姉だけなので、それは姉からの気遣いだと気づくことができている
年に二度、ちゃんとそれが届いたのを見ると姉は幸せに暮らしているのだろうと思うことができた
姉の代わりに無事に勤め上げることが今のシーナの生きがいだ
それでいいと思っている
無事に魔王を討伐出来て、帰ってこれた巫女は巫女の任を解かれ、好きに暮らすことが出来る
そしてそうなれば姉がどうとかもう言われる事もないはずだ
シーナの行動原理はただ、大好きな姉のため
召喚された者が魔王を倒すことが出来ればどんな願いも一つだけ叶うという
そしてその願いは、旅の中で見つけるものだと聞いている
だがシーナは、もう願いを決めている
姉の幸せ
シーナに、喜びと幸せを教えてくれた姉の為に全てを捧げるのだと決めている
◇
アランの傷を癒したのはシーナの回復魔法ではなかった
すみれのガーディアンである
シーナは自分が役に立たないのではないかと思ったが、それよりもあの傷が治せるということが嬉しかった
トワが言うには、自分達は発展途上である
すみれのガーディアンは強力だが、それに近づいていけると言った
だというのならば
回復魔法を強く、どんな病や傷でさえ治せるほどに鍛え上げていけばいい
今はガーディアンに遠く及ばないが、そこを目指していこうと思った
「ふふっ」
その楽しげな未来に思わず笑みがこぼれる
「あれ?シーナさんが笑った!」
すみれがシーナの笑い声に反応する
「そうですか?私いつも笑っていると思いますが」
「うん、いつも優しい顔してますよね。でも、笑っているわけじゃないなぁって」
「そう」
「私、姉がいるんですよ。いろいろあって、血はつながってないんですけどね。ものすごい美人なんです…でも私は普通で…それがコンプレックスじゃなないんですよね、姉が大好きで、自慢の姉で、私にはものすごく優しくて。血のつながりはないのかもしれないですけれど、本当に姉なんですよ」
「いいお姉さんなのね」
「はい、で、ですね…ちょっとだけ、シーナさんに似てるなぁって。だから私、シーナさん好きなんですよ」
その理由はいかがなものかとシーナは思ったが、そんな尊敬する姉と似ているなんて光栄だなと思ったら
「ふふっ」
「あ!また笑いましたね。その笑った顔、とても綺麗ですよ!」
「ありがとう。すみれはいい子ね」
「えへへ…」
「私にもね、姉がいるのよ。今はどこに住んでいるか知らないし、もう何年も会えていないんだけど」
「ええ…そうなんですか?」
「ええ、でも私が悲しんでいると彼女もきっと悲しむと思うの。だから私いつも笑っているつもりなのよ?」
「そうなんですかー、でも、会えないって寂しいじゃないですか。私なら泣いて喚いちゃうかもしれない。シーナさんは強いですね」
そうでもないわよ、とシーナは言いたかった
すみれは最初こそ、オドオドとしていたけれど最初の戦闘を生き延びてからは少しづつ自信にあふれ、元気になったように思う
すみれこそ強いとシーナは思った
「シーナさん、お姉さんに会えるといいですね」
「ありがとう、すみれもこの旅が終わればきっと会えると思うわ」
しかし、シーナはこの旅の途中で姉に会うことになる
すみれもまた同様に会うことができる
それが、最後の別れとなる事もまだ知らない
これは生涯を巫女として生きた
献身の巫女シーナ・シーナの物語
彼女は救われなければならない
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