第68話ショート閑話休題 「超乙女」

鹿さんの朝は早い


朝日が登ると同時に目を覚ます




とりあえず夜明けとともに起きるのだ

起きてまずやる事は鹿の角にワックスをキッチリかける事だ

そしていつものように被り物を被ったら一日が始まる


「おはようございます、あなた」


「ああ、おはよう」


鹿さんには嫁がいる


新婚さんだ


嫁の名前はシャルロット


とても美しい女性である


結婚してからというもの、シャルロットが毎日食事を用意してくれる


カチャカチャと聞こえてくる朝食の音は、テンポよく手際の良さを感じさせてくれる



「あなた、朝食の用意できましたよ」


シャルロットは、鹿男の事をあなたと呼ぶ


「ああ、今日もありがとう」


それに応えて鹿さんはいつもの席に座る


「それでは、いただきます」


鹿さんは箸を使って食べる


焼肉屋にて置いてあった箸を便利だと気に入ったからだ


1口食べ終わると


「おお!凄い!今日は焦げてないじゃないか」


「うふふ。私も成長してますから。妻として」


頬を赤らめ照れるシャルロット


そうーシャルロットは料理が壊滅的にダメだった。いや、ほんと殺人レベルで。


「最近はおなかも壊さなくなってきたし、素晴らしい」


結婚してはや半年


それで料理のこの成長スピードである

むしろ鹿さんがお腹を壊さなくなってきたのは耐性が出来たからだと言わざるを得ない


最初の頃「こんなもの食えるか!」と言った所、シャルロットは泣いてしまった


それ以来は例え炭であろうと完食しているのである


「ごちそうさま。じゃあ今日はちょっと木材を取りに行くか」


「はい」


シャルロットは親衛隊を辞めて以降、ずっと鹿さんの仕事の手伝いをしている


仕事内容は何でも屋なのだが、主に大工仕事が多い


今日は資材の補充である


街外れの森まで切り出した木材を買い付けに行くのだ


街中をシャルロットと手を繋いで歩く

最近では近所でも評判のおしどり夫婦だ


前から美女が歩いて来るのをシャルロットが察知する


鹿さんが無意識にその美女を見ようとした瞬間


ゴギリッ


頭を掴まれ、顔をシャルロットの方に向けられた


「あいだっ!!!」


悲鳴を上げる鹿さん


「もう、ダメじゃないですか!他の女の人見たら!」


「あい」


シャルロットはちょっとだけ嫉妬深いので注意が必要だ

ほんとうにちょっとだ


「あれ?ルシータ様じゃないですか!」


先程の美女はシャルロットも鹿さんもよく知る人だった


「おっ!相変わらず仲いいねぇ。なんか仲良くなる秘訣はあんのかい?」


バキッ 「!!」


「え!?ありがとうございます」


ガギギギリ 「!?!?」


「でもルシータ様もカンザキ様と結婚なされたではないですか。今日はご一緒ではないのですね?」


「あー、うちは自由勝手気ままだからね。だからシャルが羨ましいよ」



ガキンッ 「!!!!!ッ」



「ありがとうございますー」


「ところでシャル」


「はい、なんでしょう」


「なんか鹿の手を握りつぶしているように見えるんだけど・・・」


「えっ!あっ!あなた!」


青い顔で悲鳴を上げる余力すらない鹿さんがシャルにぶら下がっていた


ゴクリ


ルシータは唾を飲み込んで憐みの眼で鹿男を見る


「じ、じゃあお大事にー」


「あ、はい!ではまた」


鹿さんに憐れみの表情を見せつつ立ち去った


シャルロットは元親衛隊最強


未だその力は衰えてはいない


鹿さんでも気をつけていても逃げられない事もある。




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