第69話ドワーフ達の讃歌

現在、世界に流通する各魔石のおおよそ70パーセントはウルグイン産である


基本、魔石には産出場所による属性があるのだがウルグインではその全ての属性が莫大な埋蔵量をもって産出されるのが世界シェア70パーセントの理由である


当然掘り出された魔石の管理はなかなか厳しく国がその利権の全てを持っている


国は管理した魔石を「カット魔石商会」を通じて自国、他国に卸していく


それらを掘り出すのはドワーフ達が主力であり、その中でも今回は最高採掘を誇る「ガンモール組」の話だ







「お前らァ気合い入れろー!」


「「ラリホー!」」


ガァン!


「親方ぁ!発破準備出来ましたぜ!」


「ヨォし、安全確認して火ィつけろぉ!」


「ヘイ!!」


彼らは今、猫印のダイナマイトを使ってぶち当たった分厚く硬い岩盤を砕こうとしている


「着火ぁ!」


ドグァーーン!!


ガラガラと音を立てて崩れるものの、まだ岩盤は砕けてはいない


「っかぁ!かてぇなあー」


その巨大な岩盤は今だ健在である



「っしゃ、ワシに任せろぃ」


他のドワーフより1回りデカいそのドワーフは、特注の猫印ツルハシを担ぐ


胸のポケットから、酒の入った水筒を取り出してグビッと煽る


「っかあ!うめえな!」


「親方ぁ、アレやるんすかい?」


「おう、離れてろ」


そう言うと1人岩盤の前に立ち



「イグぞゴラァ!」



その体の周りに魔力光が輝き始める

そして手にもつツルハシも、じわりと赤く輝きはじめてー



「くらえぃ!マサ・インパクト!!」



キンッ



ドガガガガガガガガガガ!!


目にも止まらないツルハシの連打!


ドガガガガガガガガガガ!!!


さらに連打!連打!連打!


そして大きく振りかぶり


「ファイナル・マサ・インパクトぉお!!」


ドガァーーン!!


先程のダイナマイトよりもさらに大きな音が響きわたり


目の前の岩盤が砕け散っていった


その偉業を成し遂げた男は、ツルハシを肩に担ぎ叫ぶ


「よぉし、お前らいけぇい!」


「ヘイ!行くぞ!猫印ドリルと猫印インパクトツルハシも持ってこいや!」




そしてまた彼らは再び魔石に向けて掘り進む




大仕事をこなして一息入れるマサの元に、マサと同じ位の体格をしたドワーフがやって来た


「相変わらずマサのアレはごっついのぉ」


「ん?おお、ラグドーじゃねえか」


「久しぶりじゃのぉ」


「おう!元気にしてたか!」


ガシッと腕をくみかわす


「あの話なんじゃがな、聞いたか?」


「あの話?」


「聞いてないんか?ダンジョン54層に鉱床が見つかったんじゃ!」


「なんだと?」


マサの目が鋭く輝く


「ああ、マンチ組の奴らが掘りに行ったんじゃが、モンスターがわんさか出るらしいんじゃ」


「ほぉ、そいつは危ないのぅ」


マンチ組とはそういった新しい鉱床を調査する専門のチームだ

組同士、競うように魔石を掘るのだが、協力しつつ採掘をしている面もある


「じゃがな、未知の魔石があるかもしれんと言われてな」


未知の、と言われて燃えない採掘工は居ない


「ソイツぁ行かねえとな!」


「じゃがモンスターが邪魔じゃ」


「なるほどな、それでワシんとこに来たか」


「話が早いのぅ、とりあえず先遣隊になって現場の安全確保をしに行くぞ」


「メンバーは?」


「ワシとお前、あとは冒険者が護衛につくとよ」


「その冒険者、使えるのか?」


「カット商会が派遣してきたヤツだからまあ、それなりに期待は出来るじゃろ」


「そうか、明日にでも行くか!」


「ワッハッハ!さすがマサじゃ!ほんなら明日な!」



ラグドーはまた明日、と言って帰って行った


ウルグインのダンジョンの浅い部分とは言え、その魔石鉱床はまだ尽きる様相は見せない


現在、地水火風の魔石が採掘される


だが10階層以降にある、僅かな鉱床では「聖」属性の魔石が採掘できる場合がまま、ある。


そんな魔石を求めるドワーフ達は危険を省みずに新しい鉱床へと挑んできた


何の為に?


「そこに新しい鉱床があるなら、掘りてぇってもんだろ?」



よく分からない理由だった・・・




「ここには少々変わったモンスターがいましてね、それが魔石を落とすんですよ」




カット商会から派遣されてきた冒険者のソマリはそう言うと先頭を歩く



「まあ、危険は少ないんです。ですが、魔石を取ろうとすると少々厄介でして」



「なんじゃそりゃ?モンスター?鉱床じゃないんかい」



「すみません、秘匿事項でして。あとそのモンスターは、正式にギルドとカット商会からモンスター型の鉱床であると認定されております」



「ふっ、ラグドーそれなら問題ないだろ」


マサは背中にクロスさせるように2本のツルハシを背負っている

ラグドーは背中にツルハシ、左右の腰にはハンマーを1本づつ装備している



道中にでるモンスターはソマリが1人で片付ける

さすがはカット商会から来た冒険者ではあるようだった


そしてー



「この先にいます」



突き当たりの広い空間ー


そこには大きな岩が転がっているだけの広々とした場所だった


「いねぇじゃないか、モンスター」


「いえ、あの岩です」


「数が100はあるなぁ」


「はい。気を付けて下さい。一匹破壊すれば奴らは連鎖して襲って来ます」



マサとラグドーはニヤリと笑い



「おら、マサ行くぞ」


「遅れるなラグドー!」



マサは背中の特注猫印ツルハシを掴むと、手身近な岩に振り下ろす

ラグドーも右手にツルハシ、左手にハンマーを掴み岩に向って突進をする!



「なっ!」


ソマリは驚愕する

先日撤退したマンチ組と同じだからだ


マンチ組の5人は今のマサとラグドーと同じ様に突進した

だが岩モンスターを2体ばかし破壊した所でリンク、つまりモンスター連鎖が始まって撤退した


「ドワーフはみんなこうなのか……」


慎重さと繊細さを持ち合わせた種族と聞いていたが、これはまるで正反対ではないか


そう思って見ていたら


「マサぁ!コイツら!」


「ああ分かっとる!一定の角度じゃねぇとツルハシが入らねぇ!」


「ハンマーもだ!強くやりすぎるんじゃないぞ、魔石を破壊しちまう!」


「「ラリホー!」」


屈強なドワーフの2人は岩を次々と破壊していく

そのスピードはかなりのものだ


リンクして襲いかかる岩ですら、ツルハシで一撃で破壊していく

マンチ組が苦戦した相手をいともやすやすと破壊しつくす!



「凄い・・・」


ソマリは思わず声を漏らす

一撃で破壊し、魔石はきちんと回収していく2人は楽しそうに踊るようにモンスターを倒す


「ラリホー!」


「最後じゃ!」



ドガガン!


バラバラになった岩から魔石を拾い上げる


「終わり見たいじゃの」


「んむ」


「お疲れ様です!凄い!」


二人の元に走るソマリ


ゴゴゴ・・

その後ろから巨大な岩ー


岩のゴーレムがソマリに襲いかからんとしていた



「マサ!」



マサが走り出し、気づいていないソマリの後ろから振り下ろされるゴーレムの足を受け止める!


小さな岩が集まりゴーレムになった!?こんな所でかとソマリは焦る


「マサさん!」


気付いたソマリは悲鳴をあげる

マサがー踏み潰されたからだ


「ソマリ、わりゃあこっちこい!」


「え!?」


「マサの邪魔になるじゃろうが」


ニヤリと笑うラグドー


青い顔のソマリは見た


踏み潰されたと思ったマサは、ゴーレムの足を片手で支えている

その額からは血が一筋流れていた


「大丈夫か?ちょっと下がっとれ!」



マサはゴーレムの足を突き上げる!

グラりと揺れゴーレムはバランスを崩した


背中に残されたもう1本のツルハシを掴む


「久々にあれやるんか!」


ラグドーがソマリを拾い上げ走る


「あ、アレ?」


「マサの、必殺技よ!」




マサはツルハシを両手に掴む


背中の筋肉は盛り上がり、力が溢れる

体を覆う赤い魔力は力の奔流


「行くぜ」


「マサ・ガンモール、参る」


ギィン!


そのスピードは残像を残す

見る者にはまるで


「赤いー彗星ー」


ソマリには夜空に落ちる、赤い彗星に見えたのだろう


「喰らえ!クロス・マサ・インパクトぉ!」


2本のツルハシがゴーレムを砕く


ドガガガガガガガガガガ!

ドガガガガガガガガガガ!


マサの体は今ツルハシと一体化した様な、それ程の鋭さと強さを


ドガガガガガガガガガガ!

ドガガガガガガガガガガ!


燃え上がる赤い魔力強化の輝きが全てを


赤にー染め上げる


ドガガガガガガガガガガ!

ドガガガガガガガガガガ!


「最後だ!ファイナルー」


言いかけたとき、ツルハシが2本とも折れてしまう!


「あのバカ!強すぎたんじゃ!」


だがー


「ファイナル・マサ・ヘッドバスター!」


ズ、ドガガガガガガガガガガガァン!


マサの頭突きは全てを塵に変える!


ゴーレムだったそれがいた場所には巨大な魔石が残されていただけだった


あの凄まじい最中、マサは魔石には全く傷すらつけてない完璧な仕事ぶりだったのだ!


「さすがはマサじゃ、完璧な仕事じゃのう」


スタン、と飛び上がっていたマサは着地する


「マサさん!」


ソマリは走っていきマサに抱きついた


「オイオイ、大丈夫か?」


「はいっ!」


「そうか、じゃあ返ってうまい酒でも飲もうや」


ソマリの頬もー赤く染まっていたのだった


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