第59話ミナリ見参6 ダンジョンの先にあったもの

「え・・・」


ニッコリと笑うミナリは刀を振り抜き、布の様なもので拭いている

その仕草はまるで王宮兵士よりも兵士らしくもっと堂に入っている

もしも日本をよく知る誰かが見たならば彼女をこう例えただろう。


サムライーと。


「ミナリ・・あんた凄いね」

「すごい・・」


テレサとモコが関心する

ミナリはつい数日前にダンジョンに入ったばかりだ

だがその強さは驚嘆に値する


モコはカンザキを思い出す。理解不能で意味不明な強さだった


テレサは姉を、そして王族を思い出す。それは隔絶した強さを持っていた


そんな強さがミナリにはあると感じている


「さて、どしよっかー?。倒しちゃったけど帰ります?」


「ミナリ、あんた一体誰に・・・どうしたらそんなに強くなれるんだ・・」


聞きたい事がまとまらない

あっけらかんと話すミナリに恐る恐る尋ねるテレサ



ミナリは少し考えて、まあいいかと話始める


「んーエリザって言う人なんだけど、南の山岳地帯に住んでて、たまたま縁あって教えて貰ったのよ。生きるために必要な事だって」


モコとテレサの二人は絶句する

南の山岳地帯はラスクロへと続く長い山脈だ

だがその山の数は軽く百を超える


強いモンスターこそいないものの、作物は育ちにくく、とりたてて名産になる物もない。

さらに、あまりにも街から離れている為利便性も無い。

そんな場所に住んでいるのは訳ありな人間か、よほどの物好きー変人しかいない


「ミナリ、頼みがある。私にその方を紹介してくれないだろうか?いや、ダメならミナリ、このダンジョンにいる間だけでも剣術を教えてくれないだろうか?」


「ちょ!テレサ!?ずるい、いや、あなた南の山岳地帯にいくつもり!?」


「モコさん、貴方も見たでしょう。ミナリはおそらくまだ本気にすらなっていないでしょう。忘れかけていましたが、既にダンジョンの82層にも関わらず余裕なんですよ彼女は」


ハッとした

そうだ、ここはカイン達とはあれ程苦労して来た場所だー

それがまるで遊びに来たが如く簡単に来れたのはミナリが居たからだ

結局バジリスクにしたって、ミナリはまるで苦にしていなかった


「良いですよ、それくらい。お世話になりましたしただ師匠はー聞かないとわからないから・・・」


「済まない、恩に着るミナリ」


「あ、あの。私もちょっと気になるんだけどさっきの物凄い動きって魔法?」


すこしミナリは考えてから言った


「そうですよ、たしか風の魔法と、瞬時肉体強化、あと時の魔法でしたっけ?加速の・・それと・・・・」


「ちょ、ちょっとまって!アレいくつ魔法展開してるの!?」


んーと、と言いながら指を折りながら数えるミナリ

ゴクリと喉をならし答えを待つモコ

モコは先日、ついに前人未到と言われた3種同時展開魔法を成しえたばかりで、その際の魔法は火属性と土属性の2種だった


「5つですかね?」


そう言ってミナリは実演を始める


まずは肉体強化。これは純粋に肉体に魔力を通して充填させる

普段ミナリは当たり前に発動させているらしいが、あえてゆっくりとして見せる


「は、早い!」


モコはその魔力の流れを見て驚愕する

まるで水が流れるが如くスムーズに、かつ均等にミナリの体を覆い尽くす



次に風の魔法

ただのウィンドウォークなのだが、ミナリの発動した魔法には火属性も含まれている


「ちょっと混ぜちゃうのよ」


ミナリは簡単に言うがそれは未知なる魔法


「火には加速を、氷は停止を意味する魔法だから」


それはー時間を操る魔法の初歩だったりもする


「んで、さらに雷魔法での肉体強化ー」


既に三つ


「これで雷速はいけます。あとは風魔法で道筋を作って、氷魔法で移動後のブレーキングとかですかね」




ミナリの語り、実演したそれは誰にもマネのできない不思議な動き


ほんとうにただの魔法ーのようだった



「わかったわ。ミナリ・・あんた天才すぎる・・真似できっこないじゃない」


モコはため息とともにあきれた


だが


「え?たぶんモコさんできますよ。移動中の動体視力が追い付かないかもしれないですけど、強化できれば思考も加速するので大丈夫だと思います。むしろ、テレサさんなんかはすでに肉体強化なら素でやっちゃってるじゃないですか」


「は?」


モコがテレサを見る


「これが・・ミナリの言う肉体強化ならそうなんだろう・・」


ふわりとテレサの周りに温かい風が起こる

そしてよく見ればうっすらと赤い魔力がテレサを覆っている


「あ・・ほんとだ」


「これは我が家に伝わっていた奥義なんだが・・・私はまだまだ未熟故にこの程度しかできない。姉などは目に見えて炎が上がっているように見えるからな」



テレサの話ではそれは「気」と呼ばれていたらしい。武の極みだとか


「でも、それって結局魔力なんですよ。それで、テレサさんはそれを魔力と認識して、体の中だけで強化に使うほうがいいです。見えないくらい体内に留めて強化に使うんですよ」


「しかしそれでは強力な強化にならないんじゃないのか?」


テレサはそう、教えられてきている


「逆ですね。確かに見えるほどの強化ならば威力も期待できますが、それは単に漏れ出しているだけですよ、もったいなので全部強化に使わなきゃ」


「なるほどな・・やってみよう」


うんうんと頷くテレサ


「ねえミナリ、私は?」


「モコさんはーそうですね、肉体強化の基礎ができたら一足飛びに雷属性のとこまでやっちゃってもいいかもしれないですね。たぶん、3つくらいなら同時発動出来ますよね?」


にっこりと笑うミナリに、ギクリとする

それはカインと同じパーティでダンジョンを攻略するために編み出した奥の手でもあったからだ

それをすんなりと見抜くミナリの眼力・・・


「やっぱ、ミナリは凄いのね」


「いえいえ。たぶん素養だけならモコさんのほうが上です。思考加速に慣れたら魔法陣の10つまでの展開が可能になると思いますよ。」


モコはうぐっっと息を飲む

ミナリに褒められたことがうれしかったから


もはやミナリには素直に関心するしかない


だがミナリのもつ、本来の才能とその価値はここにきて一気に開花する

そしてその恩恵を受けて初めてミナリという人間に心酔していくのである




-85層-


ゆっくりと進み・・そしてしっかりと教えられるモコとテレサはついに冒険者未踏の地である85層に踏み入れていた。

すでに3層も新記録である

このわずか3層にかかった時間はおおよそ2日

本来であれば尋常でないスピードにも関わらずそれをゆっくりと表現できるのはミナリのおかげである


そしてゆっくりと、の意味する所はミナリの「授業」でしっかりとテレサとモコは強くなっている


1日目はしっかりと魔力による肉体強化にかけた

テレサはより強い魔力で行う肉体強化を完成させる


既にバスターソードを軽く扱い、まるで小さなナイフを持っている様に軽々と振り回す。余りの速さに視認が不可能な程に


モコは肉体強化が苦手であったが、ミナリに教えられた様にやればすんなりと出来るようになってしまった

結果、テレサが次に覚えるべき雷属性の肉体強化までをマスターする


2日目にテレサも雷属性の肉体強化が出来るようになる。さらに魔法使いに頼らない、風魔法による速度向上を果たしてミナリの居合いに似た技を編み出した

モコは思考加速を完全に自分の物にした。


10とはいかないまでも、魔法陣の同時展開数が既に7を数える。あとは慣れていけば、いずれ10を超える魔法陣も展開可能だろうと思った


そして3日目、86層にて二人ともミナリと呼び捨てを辞めた


「ミナリ先生」


2人は違和感なくその言葉を発する


そう、ミナリは教師として2人に接した結果だった


ミナリの開花させた資質は、教える才能


日本にて体育教師をしていたことも関連がある


幼少の頃より物覚えは良い子だった。それは学問、や運動科目など問わず。だが天才肌だったため人に教えることには向かなかった


なんでも感覚的にしか説明できなかったのだ

その結果、体を使って感覚で教えることが比較的容易な体育の教師と収まった


そして、モコとテレサが・・優秀な教え子だった事も相乗効果を生む


「モコさん、この思考加速ってヤバいですよね?」


「そうね。賢くなった訳じゃない。ただ同じ時間で得られる経験がケタ違い」


そう、わずかな時間での吸収力もどんどん上がっていく


今や二人はバジリスク程度なら難なく倒せるほどに強くなっている


そしてこれこそはダンジョンを作った者の真意であったとは当の二人どころかミナリも知らなかった


「うん、このダンジョンってとこはひょっとするとそういった場だったのかもしれない」


「そう言った場ですか?」


モコとテレサが足を止めミナリを見る



「つまりー、そう、ここは勉強の場。冒険者の入門編?というか初心者講習ってとこかも。だんだんと強くなるモンスターがいい証拠。ふつう、こういうのって段階を置いて強くなるとは思わないし、弱いモンスターなんて駆逐されていてもおかしくないもの。うまくバランスをとってあるんじゃないかなぁ」


それはつまり


「ダンジョンは人工物であるということの証明?」


「うんそう。そもそものダンジョンの出自なんてわかんないけど、鍛える場としては相当いいと思うよ」


ミナリは後をついてくる二人に思ったことを素直に話す


そもそもの視点が違う

それがミナリだった。だからこそのたどり着く結論

そうして3人はいろいろと人工物である証拠を探しつつダンジョン奥深くへと潜っていく



100層にたどり着いたときにはすでにモコとテレサは、記録を残せばだが、一般冒険者史上初のーダンジョン攻略者となった

だが二人はそれを口外するつもりはない


別に名声がほしかったわけではないからだ。二人の成果は決して裕福ではなかった。それゆえにただ、生活のため冒険者という職業を選んだに過ぎない


「たくさん儲かる」


それが理由だった


その二人とミナリが100層を超えるそしてそこで見たものは・・・・



「空・・・ですね」


「草原だね・・・・」


あまりにも広いフロア・・いや、そこは一つの世界だった


そんな中、目の前にポツンとある祠に足を踏み入れる


あったのは日誌・・・ダンジョンの生い立ち・・魔王と勇者の話・・


夢中になって読みふけり、そしてー夜になった



「まさか日が暮れるとは・・ここは本当にダンジョンの底なのか?」


たき火を囲んだ三人は食事をとる


「テレサ、ここは不思議がいっぱいだねー」


「うれしそうですねミナリ先生」


「うん、だってほらあれを見てごらん」


ミナリが指さした方角は祠のま反対

かなり遠いが、視力さえ強化したモコとテレサにはそれがはっきり見える


ログハウスの一軒家だった


そこには明かりが灯っており、そして看板が上げられている

そして書いてある文字を読んで絶句する



「ー猫の道具屋ー」



そこにはそう書かれた看板が掲げられていた

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