第127話だから、わたしの手をとって6

ミノタウロスは本当に強敵だった


その膂力もさる事ながら、大きな体に途切れないスタミナに肉体損傷を即時に戻す回復能力だ


都合4回目の挑戦で打ち倒せたが、その時の二人は満身創痍だった


倒した後に見つけた宝箱の中身が凄い回復薬でなければそのまま脱出できずに死んでいた可能性すら多分にあったと思う


もはや2.3.4階のモンスターはモンスターを見ずとも雑談ながらに倒す事が出来るほどに強くなっていた二人でもようやくであった


強さそのものの次元が1つ2つ上がったと言える


だが、ここが最難関だったと気づいたのはミノタウロス食材を食べてからだった


自分たち自身も劇的に強くなっていたのがわかったのだ


リポップしたミノタウロスと戦って直ぐに判明する


アイエテスとゴルドはアレだけ苦戦したミノタウロスを大した傷を負うことなく楽に倒してしまったのだ


とは言え、それなりには時間もかかっていた事から雑談ながら倒せるレベルまで強くなってから先に進もうと二人はおよそふた月に及ぶミノタウロス討伐を重ねた



結果であるが、やりすぎた。

降るのを再開してから僅か5日でそのまま20層に到達する



実際のところ、このやり方は間違えている

ミノタウロスを倒した後のモンスターは複数現れたり、使う魔法がいやらしいものになっていたりなど強さはそう変わらずに戦略を駆使して進むべき階層になっていたのだ


それだからこそ二人の力は既に、過剰な程に強化されていたが為、単純な力押しでクリアしてしまったのである


最後の20層はミノタウロス5体同時に出現、本来であればこのミノタウロスが各種の魔法を使ってくるのだがその魔法を使う前に倒しきってしまった事からも間違えていたのが分かるというものである


ここは、兵士を即席ながら鍛える施設だったのだから。教官の居ない二人が攻略法という名の強化方法を間違えていたとしてもそれは仕方のない事だったのである






「終わったようじゃの」


「ああ、あれは帰還用の転送陣だな」


倒した後、その奥に青く光る魔法陣が見えた

このダンジョンでは最奥までいけば帰還用の転送陣が現れるらしい


しかし、二人は転送陣へは進まない


動かない二人、まさなや感無量と言ったふうだがそれはクリアした事が嬉しかったわけでも、強くなれた事が嬉しかった訳でも無かった


それはーそこに隠し部屋があった事が……感覚のみでわかった事が、強くなった結果で見つける事が出来たのが嬉しかったのだ



そしてその先に居るであろう少女を想う



倒しきったミノタウロスを放置したままに壁に向かい、アイエテスはロングソードを振るう


途中途中で、ゴルドが付与魔法を使い強化したロングソードの切れ味はかなりのレベルになっていたので、本来は壊れないダンジョンの壁を簡単に切り裂けるまでになっていた


むろんアイエテスの力も合わさってだけれども


その壁を切り崩した向こうにあったのは、その20階層よりもまだ広い部屋で壁面いっぱいに魔石が埋め込まれておりそれがキラキラと明滅している



「こいつは、凄まじく緻密で巨大な魔法陣じゃな……しかも魔石その物で魔法陣を描いて有るのか」


「その様だな……しかもこの広さ…おいゴルド、この魔石の一つ一つをよく見て見ろ、魔石の中にも何やら書いてあるのが見えるそ」


「どんな技術力なんじゃ…わしらの付与魔法にも近いのか?」


「グレンの話では魔法大国時代の遺物を流用したと言っていたが、これを運用出来る技術者が居たと言う事だからな」


「そんな大昔の……まさか…あの一族か?」


「らしいな、まだ普通に生きていると思うと言っていた」


「はぁ…ハイエルフでしかもエルダーが生き残っとるか」


「ドワーフから見たら目の仇だろうがな」


「ええわ、ワシらにゃ関係ない。言い伝え、しかも伝説みたいな話じゃろ。ドワーフとエルフ、さらには人族や亜人までも混じえた大戦時の話なんぞドワーフにすらきちんと伝わっとらんわい」


「人族の寿命は短いからなあ…それでも書物で残してあっただけ、俺達の方が詳しいか」



人族の知恵がエルフの使う魔法を元に魔法陣技術を作り上げた

そしてドワーフの技術がソレを形にしたが、どんどん進化をする魔法陣技術に恐れを抱いたエルフの一部がそれを無きものとせんと戦争を始めた


だが、数で優る人族、さらには魔法陣技術とドワーフのエンチャントによりエルフは敗走する

その結果、人族はさらなる繁栄と栄華を極めるが、行き過ぎた魔法大国は滅びた

多くの犠牲、積み上げてきた魔法技術諸共に歴史の中に消えた



だが生き残っていたエルフ、そしてドワーフ達は残された魔法陣技術の一部を継承していた


ドワーフ達は武器や物体にエンチャントを伝えたとされる


一方、エルフはと言うと元となっていた魔法からそれを魔石に入れて運用する魔法陣技術でルーンと言われる秘術を


どうやってウルグインの、この国の支援をエルダーエルフ達が引き受けたのかはグレンから聞いては居なかった


まあ、その答えは全種族が手を取り合う程の共通の敵が居たからではあるが


その結果、このダンジョンが作られた


さらには先行して作られていた、ウルグインの巨大ダンジョンに使われている魔法陣技術の粋の魔石を取り出して流用する形で完成させた


巨大ダンジョンの魔石を流用した事により、本家本元の巨大ダンジョンは弱体化する事になった。但し、50層あたりまでではあるが。


それで強化する術を失っていた冒険者たちは、強くなる事が出来ず停滞していたのである



アイエテスとゴルドは奥へと歩いていく



その先にあったのは



「この人形は…」


「埋めたやつ、だな」


それがふわりと浮いている

そして、しゃべり始める


「初めまして、あの子の父と呼ばれる人族よ。私はあの子の母」


「さすがにこれは驚くな」


アイエテスはそこに居たのが人形であったことと、喋り始めた事に驚いた。だが内心では焦るほどに求める存在が居た為にまるで驚いたようには見えない




そこから、浮かんだ人形から説明が始まった


あの子はこの「人形」が作り上げたホムンクルスであること


いつの間にかこのダンジョンは封印をされていたということ


それはそうだろうとアイエテスとゴルドは思った

こんな危険なダンジョンはアイエテスですら封印するだろう。攻略しようとは夢にも思わない


やり方を知らなければだが


そして外に出るため、人形自身を持ち運べるホムンクルスを作り出すが、どうにもうまくいかなかった


だから母と父が居ると教え、自らを母とした


しかし外ではあの子、エルマには危険だった。攫われかける、ということが続いてあの場所を隔離して人を近づけぬように変えたという


そして最大の誤算。ダンジョン入口のキーとなっていたエルマが「父」を待ち続けて帰らなかった


そのうち、人形の内蔵魔力は切れかかり休眠状態となる


エルマ自身も本当に死にかかっていたのが真相


ホムンクルスー完全な魔法生物と呼ばれるエルマだが、さすがに無補給では限界が来たのだと言う



「そうか…それで、エルマはどこにいる」


今ここに、彼女はいない


アイエテスはその説明を聞いてもまだ、エルマを気にしていた


「今ここはエルマの魔力で動いています。それは溶け込んで、血液の様にこの部屋を巡っている。エルマの望むように」


アイエテスとゴルドがダンジョンに行きたい、その願いをかなえるためにエルマはいとも簡単にその身をこのダンジョンの中へと溶け込ませた


「あの時、わしらがあの子に変な疑いを抱いていたのは事実じゃ。それに気づいたのかと思ったのじゃが…違ごうたのか」


「そのようだな…」


二人はうつむき、恥じた


あの子は純粋だったのだ。求めるものは安らぎで、家族だったのだろう


「素直でええ子じゃったなぁ。アイエテス、お前にもあれほど懐いていた」


「ああ。ゴルド、お前がおじいちゃんと呼ばれて怒らないのは見ていておかしかったぞ」


「ふん…しかし…そうじゃ、人形、いや、母よ。あの子を再びここに呼び出すことはできんのか?」


そのゴルドの問いかけに沈黙で返答をする人形だったが


「何が必要だ?魔力か?それとも魔石なのか?希少な鉱物か?貴重なモンスターの素材か?」


二人はありとあらゆる可能性を言い始める。

あきらめることなどしないと伝える為に


すると、人形は観念したかのように言った



「それが我らが創造主である人族の願いだというのならば…」



目の前に、ガラス張りの筒が現れる。その中にはエルマが座り込んでいた

様々な管がその筒からは伸びでおり、エルマから魔力なのか、それを吸い出しているように見えた


「父と呼ばれる人族」


「アイエテスだ」


「ではアイエテス、エルマの母からの…願いです。この子を自由に、手差し出して、どうぞ」


それだけ言うと、人形はごとりと落ちた


巡っていた力が、魔石を明滅させていた光がその筒に集まっていく


それがエルマの筒を満たした時だった


「あれ…」


集められた光がエルマにすべて収まったとき、彼女は目覚めた


「おとうさん…もう、いいの?」


それはダンジョンが不要かと問うているようで


「ああ、十分だ」


アイエテスは頷いて、そして笑う


「そうなの?じゃぁ…またどこかいくの?」


エルマはおびえるような、悲しい目をしてアイエテスから目を逸らす


「そうだな」


びくりと、その言葉にエルマは震える


「そう…次はいつ、会えるの?」


既に泣きそうな声を発した後、エルマは立ち上がると、その体を包んでいた筒が消えた


「いつ?変なことを言うやつだな…」


「どうして?」


アイエテスは手を握りしめる

まるで、我慢しているように


「エルマも一緒に来ればいい。俺の家は広いぞ?家族も大勢いる。そうだ、変なやつもな」


しかし、エルマは頷かない


「いけないの、ここから動いてはいけないって、お母さんが」


目には涙がたまっていた


しかしアイエテスは彼女をあきらめない


「許可はもらった」


アイエテスは落ちて動かなくなった人形を見る


エルマはそれを見て、だがしかし首を振る


そして、アイエテスは手を差し出した


「本当だ、だから…さあエルマ。俺の手を取ってくれ…一緒に帰ろう」


必死に懇願するアイエテスの顔にも、涙が見えた


恐る恐る、エルマはアイエテスの手を握って微笑んだ






-ホムンクルス解放(救済)クエスト-


「だから、わたしの手をとって」


クエストクリアを確認---


マザーを除く全ルーンを圧縮し、エルマに付与確認


転送陣によるエルマのダンジョン脱出を確認


ダンジョン1層から20層の崩壊を開始…確認


マザールーンは魔力枯渇により…活動を停止します。


-クエストクリア報酬-


「エルマ」


-父に、新たなクエストの開始を願います-


-新規クエスト発行-

-幸せな家族を、エルマに-



「娘よ、どうぞ、幸せに…」



人形の中にあった最後のルーンからゆっくりと光が消えていった










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る