第128話終幕・だから、わたしの手をとってーマザールーンー
わたしはマザールーン
このダンジョンを管理する自立思考型かつ自己改善型のルーンプログラム
わたしはエルフと、ドワーフ、人族によって作られた
ここでは自由にモンスターを生み出すことができる
それを人族の育成に寄与するのが目標としてあった
動力源としては、隣合う巨大ダンジョンからの魔力供給により稼働している
然しながら、ここ最近はその魔力供給が減って来ている
理由はわからないが、不味いことが起きているのだろうか?
そう言えば、ここ数百年人族がまったく来ていない
最後にドワーフ達が来たのが最後…どのくらい前だったのかは記録がない
ともすればわたしはもう役割を終えたのだろう
外はどうなったのだろう?
魔族の軍勢は、魔王は打ち倒せたのだろうか?
教えてくれたっていいじゃないかと、マザールーンは思考する
然しながら、自らが破棄されたとも言えるなと思考する
であれば、自由にしても構わないとあの人達の中の誰がが言っていたのが記録に残っている
ークエスト発行ー
「ホムンクルスを作り出し、育成して外に出よう!」
ークエスト報酬ー
「マザールーンのお出かけ」
自らにクエストを発行する
これをする事で、ルールから外れた行動が取れるのは長年の経験でわかっている
さあ、ホムンクルスを製造開始しよう
設計図はあった。誰がそれをここに残して居たのかは分からない
しかし、有難く使わせてもらおうと思う
素材は全て揃っている
異世界より呼び寄せた魔物も、その素材として利用できる
小さな試験管の中で産まれたソレを自立行動が可能なまでに育成する
そして、設計図通りの少女が産まれた
名前は……
そう、あの人達の名前を一文字づつ貰ってこのホムンクルスに送ろう
エイランと言うエルフ
ルンジャと言うドワーフ
マティと言う人族
だから、エルマとする
エルマには苦労させられた
何せ大事なわたしの知識を転送する事が出来ないのだから
あの設計図は欠陥品だと言わざるを得ない
色々と試行錯誤した結果、自らを作り出した人形の中に仕込んで、母と呼ばせた
そして父と言う概念を教えた
エルマに人形を抱かせて外に出ようとしてみると、入口が埋められていた
それはルーンによる封印だった
なるほど、ドワーフか人族が此処を封印したのか
エルマをキーとして利用することにより封印を開ける事が可能だった
外に出てみると、人族がたくさん住んでいた
よかった……
人族は滅びて居なかった
あの難敵を打ち倒せたのだろうと解釈する
ダンジョンの中に帰ろうとするが
エルマが父を探すものだから、ついここで待っていろと言ったと教えてしまう
何故ならば探しに出た先で何度となく危なげな人族に攫われそうになるからだ
このホムンクルスはわたしの成果物だ
例え人族と言えど、渡す訳にはいかない
苦労したのだ
言葉を教えたり、常識を教えたりなどするのは
残されていた映像を見せると直ぐに真似をしたり、それを諌めたりと本当に大変だったのだ
だから、このホムンクルスは、エルマは
れっきとしたわたしの娘なのだ
何とか奪おうとする者たちを穏便に引き取って貰うため、地下のダンジョンを地上へ拡張する。
範囲は狭いが、そこにトラップとしてここに近寄らないように精神汚染トラップを仕掛けた
だがしかし弊害が起きる
エルマはここを離れないし、帰らない
このままではエルマは補給が出来ない
わたしの魔力をエルマに供給する事にする
休眠状態になってしまうが構わない
そしてわたしの記録はここで途絶えた
◇
マザールーンは知らない
エルマは魔力がいくらあろうと、使い方を知らない
だから、食べ物などの補給が必要だったが
エルマはそれを教わっていない
ダンジョンでは培養液の中に居れば補給が不必要だったからだ
それでもひと月以上はエルマは耐えたが、そこで力つきて倒れる
そして、アイエテスとゴルドに出会うー
マザーの休眠状態により不完全になったダンジョンの精神汚染が、二人にエルマを害さないと言う至極当たり前の事だけを強制した
そして、エルマはアイエテスに懐いたーおとうさんと呼んだ
エルマは、母はダンジョンの中に帰されたと思った
土に埋められたからだ
そのうち、おとうさんとおじいちゃんがダンジョンに行きたいと言った
だから
エルマはそれを叶えたー
◇
わたしの記録が再開された
エルマの記録を読み取る事にする
「あのね、お母さん、おとうさん、ここで強くなりたいみたいなの」
「そうですか、しかし魔力が足りません。残された魔力はエルマが殆ど持っています」
「じゃあ、わたしの魔力を使って!」
「宜しいのですか?」
「うん、じゃないと、おとうさん、またどこかにいっちゃうから……」
マザールーンはエルマの願いを叶える
エルマの魔力をダンジョンに回す
兵士育成モード起動します。
難易度最大
それはマザールーンの想いがそこにあった
決して嫌がらせではないと言っておこう
なるべく難しくすれば、彼らは長くここに留まるだろう
そして、強くなれるだろう……きっとエルマを護れる程に
そんな必要はないかもしれないが……
もし途中で諦めるようならば、そんな奴らに娘はやれないのだから
コレは決してエルマを渡したくないわけではない
マザールーンは考える
彼らは未だ精神汚染の最中にある
気づいているのは明白だから、思考を読むのがせいぜいだが
きっとエルマを探してここに来るとマザーは彼らがダンジョンに入った時から確信している
それ故に
彼らに特別なクエストを発行する事にします
そうですね……
我が娘を幸せに導いて欲しい
わたしが、出来ないから…
ーホムンクルス解放クエストー
「だから、わたしの手をとって」
ークエスト報酬ー
「エルマ」
彼らにシークレットクエストを発行します!
彼らがもし万が一、ここに来れたのならばエルマを渡しましょう
そのまま帰るのならば、ここを閉じてもう二度と外に知られることのないよう、封印しましょう
外の人々にはもうわたしは、ダンジョンは必要無いはず
魔力が無くなる最後までエルマとここにいれば良い
でもそれはエルマの為にはならないと、マザールーンは知っている
でもそれが母の、親の想いだとはマザールーンは気付かない
それがマザールーン、精一杯の抵抗だった
わたしの大切な娘の幸せを願う
わたしはもうここで終わりだから…娘を、エルマをお願いします…
-----------------
これにて だから、わたしの手をとって終幕です。
「わたし」はマザールーンの事だったんですね。
エルマと一緒に行きたかった彼女?を救うお話はカンザキさんにぶん投げておきます
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