第92話偽りの国 6

「ショウヘイ、てめぇ!」


カンザキが怒る

それはいままでキャサリンやミナリが見たことがない程の怒りだ


「カンザキ!そいつじゃない!後ろだ!」


はっとする

そうか、ショウヘイは操られてる可能性がある!

ばっと後ろを向いてみるとその女は


「ショウヘイこっち!護って!」


「はい・・イヨさま・・」


ショウヘイがくるりと回ってイヨとカンザキの間に立った

カンザキが後ろを見ると、キャサリンとミナリがソシアとナートの治療にあたっている

だが一瞬で治療ができるような魔法やアイテムを使っているようだが、ほんのわずかしか改善していないように見える


手がはなせそうにない・・か


「イヨ・・だったか・・ショウヘイに何をした?お前の目的は何だ?」


カンザキは睨みながら問いかける

そう、理由だ・・なにが目的だ

イヨが答える


「ふん、何をしたかなんてどうでもいいでしょ。目的は日本に帰ること・・・この街ごとね」


ん?そんなことでか・・お前らだけで帰ればいいじゃないか・・


「もういいわ!潮時ね、ショウヘイ。日本に帰るわよ!」


「はい・・・」


シュンと・・・二人は消えた


は?


なんだこれ・・・理由がぜんぜんわかんねぇぞ・・・

あ、そうだナート!


くるりと後ろを向く

すると傷はふさがり気絶している二人

キャサリンとミナリは力を使い果たして息切れをしている

あの剣に斬られてしまうとかなりのダメージを受けてしまうのだろう


「終わったみたいねー」


みにゅうが近づいてくる


「あの剣に斬られたら私でも消滅しちゃうから近づけなかったから。ごめんねー」


神ですらか


「まあ、あの2人はもといた世界に転移したみたいだしもう大丈夫。2度と来れないようロックしたし異世界転移によるスキル剥奪もされてるから」


え?てことはもう本当に終わったのか!?


「あなた達が追い詰めたお陰で街ごと転移なんて言うルール違反も無かったから助かったわ」


俺は何にもしていないがな・・・

怒りもナート、ソシアが助かった事で治まっている


「あとは事後処理ね。とりあえず、まだこの世界に呼ばれた人達は希望を聞きながら元いた世界に帰してあげるわ」


「出来るのか?」


「ほとんどそこで寝てる召喚スキル持ちが呼んだ人達だしこの街には帰りたい人が集まっているんでしょ?」


どうやら召喚スキルにより呼ばれた人たちは女神みにゅうによって帰還が出来るらしい

それ以外の迷い込んだ人たちもついでに送り返せるのだとか

帰還する際には、召喚された日時にしか帰れないが1つだけ才能というボーナス付きで帰れるという

その才能は自由には選べず、適正にある才能一覧から選ぶのだとか


ちなみにこの街の住人は皆、異世界出先・出雲大社という神社に集められ、元々結界を貼っていたスキル使いが守る様にしてさらに結界を張っていたようだ

だがイヨのスキルが異世界転移で剥奪されたことにより、付与されたスキルも消えた模様


「私は帰りますが、カトーは残るんですね。皆さまご迷惑をお掛けしました、私は女神のおかげで向こうに帰ります。営業の才能というものも頂けましたし、思い残すことはありませんね」


タナカはそう言って帰って行った


残るカトーはというと


「うーん。異世界転生ものってあこがれじゃないですかーだからもうちょっとこの世界で遊びたいんですよね」


ちなみに彼女はしばらくラスクロを拠点に活動するようだ


スキルが使えないため、一から魔法を勉強するとか言っていた

みにゅう曰く、彼女はこの世界適正が高いため問題なく生活できると言っていたな


結果、この街に居た約500人はほぼ全員が日本に帰ることとなったという


残ったのは、召喚スキル持ちだったヒミコ、カトーとあと他に2名だけとなった

ああそうだキヨマサも残っているな。彼はあの村でそのまま暮らすといっていた

ちなみにキヨマサもスキル持ちで、なんと転生のスキルだった。


考えるととんでもないスキルなのだが植物を転生させ、品種改良していたらしい

現状すでにスキルによる改良はおわっていてあとは自力で頑張ると言っていた


彼があの村を離れられないといっていた理由は、他の人間によるスキルで食糧生産の為に縛られていたらしい。


およそ1週間ほどかけて全員が帰ったあとみにゅうはくたくたになったらしく、しばらく天界に戻って休養すると言っていた


こうして、ショウヘイを探すという依頼は未達成のまま終わりを告げたのだった


ナートとソシアはあの時のショックから未だ立ち直れずにいる・・







ショウヘイのスキル


「異世界転移」


そのスキルにより強制的に日本に転移したイヨとショウヘイにはみにゅうが関わらず転移した事もあり転移ボーナスは付与されていない。

それどころか魂レベルでの異世界転移、転生ブロックとさらにはスキル剥奪もされている


その結果


「ちくしょう!アイツら絶対許さねぇ!」


イヨは憤慨する

あともう少しで街ごと、いや島ごと日本に転移してそこからスキルを使い世界を牛耳るつもりだったからだ


ショウヘイのスキルで一時退避したが、すぐに戻ってあのミナリだったかを殺してやる


「ショウヘイ、もう一回スキルだ!皆殺しにしてやる」


次は後ろから一人づつ始末してやる

ニヤリとイヨは笑う


だが


「は?なんだここ?」


イヨのスキルは・・「日本人」にスキルを付与する事が出来る引き換えにイヨの命令に従う。また一度付与したスキルは変更、取り消しは出来ない。付与されるスキルは本人の資質によりランダムに決定される

スキル付与される者は「日本人」であること、また力無き者である


だがイヨのスキルが剥奪されたことによりショウヘイのスキルも同時に失われる

さらに洗脳に近い状態にあったことも無かったことになっている


ショウヘイはきょろきょろと周りを見回す

あれは・・・札幌の時計台か!?

雪こそは降っていないものの、確かに肌寒い・・


「日本に・・帰ってきたのか?」


「おい!ショウヘイ!」


どかっと背中を蹴られてよろめくショウヘイ


「いってぇ!」


なんだと思って振り向くとそこには小柄な女の子が居た


「早く戻るぞ!スキルつかえよ!」


なんだ?と思っていると


「はやくあのクソ女どもを殺しに行くぞ!」


物凄い罵倒されているな・・・俺・・

クソ女?・・・?


あ・・


だんだんと記憶が戻ってくる

意識はなかったのだが、自分がしたことの記憶は鮮明に覚えていた


「ナート!ソシア!!!」


焦る・・そしてイヨの言うスキルを使おうと思っても


「スキルが・・使えない・・・」


「はぁ?何言ってんだテメェ!」


そこでイヨも気づくショウヘイの洗脳が解けている事に


「ちょっとまて・・マジか!クソが!」


きょろきょろと周りを見回すと一組のカップルがいた

その男のほうに、スキル付与スキルを使おうとしたが発動しない


「え・・・」


青ざめるイヨ

そして膝をつき絶望するショウヘイ


彼らは今、日本に帰れたことだけが残ったのだ

異世界で築き上げたものすべてを失って、記憶だけが残った


色々と考えてショウヘイは魔法を使う


「ライティング」


ほんのわずか、小さな光が指先に灯る


魔法が、使える・・・


その記憶は嘘ではなかった

それだけが、救いのような気がしている


ソシア・・ナート・・


想えば涙はあふれてくるが、それでは前に進めない

ショウヘイは札幌の街の中に消えていく。自身が何が出来るかを考えながら


イヨは絶望をする

日本に帰ってきたというのにだ

ショウヘイはふらふらと街へと消えていった


「はぁ・・・もういいや・・・」


彼女は・・いや、彼はすべてをもう諦める

生きることすらももう、どうでもよくなってしまった




・・3日後・・




「最後に・・ハンバーガー食べたいなぁ・・・」



しきりに降る雪を避けて、橋の下で段ボールに包まって横になっている

公園で寝泊まりをしていたのだが、あそこだと色々な人に声をかけられるのでうっとおしくなって移動した

きっとこのまま死んでしまうのだろうと思う

でももう気力がないのだ空腹だけが感じる最後の感覚


目を瞑ろう・・寝てしまえば空腹もきっと感じない




「イヨ、起きろ。起きてくれ!」


だれだ・・うるさいなぁ・・

ぼんやりと目を開けるとショウヘイがいた


「良かった!生きてたか!」


「助けてくれないか?僕一人じゃ生きて行けそうにないんだ」


うん?私を頼るの・・?でももう動けないから・・


「何でもするから助けてくれ・・ここは・・俺の知らない日本なんだ」


そっか・・あんな酷いことしたのにまだ私を頼るんだ・・しょうがないな・・でもお腹すいて・・


「はん・・ばーが・・食べ・・た・・」


声すら上手く出ないね


「わかった!ハンバーガーだな!買いにこう!日雇いの仕事したから、ちょっとなら金はあるんだ」


そう言ってショウヘイはイヨを背負う


「ばか・・だな・・ショウヘイは・・」


「自分でもそう思う・・けどここは俺の知らない日本で独りぼっちなんだ・・イヨも一緒に居てくれると心強いんだ」


ああ・・ショウヘイの背中は暖かいな・・・



そして二人は札幌の街へ消えていったのだった






ーーーーーー



ソシアとナートを切り裂いた剣ですが、ほかのスキル能力者が作り出した剣です。

強力な治癒不能の呪い効果があるので回復がほぼできませんでしたが、イヨのスキルはく奪に伴うスキルを付与された人間が解放されたので即座に呪い効果も消えました。

切られた事実はありますので回復手段がもしもなければ死んでいました。


ミナリが無双していたのは「スキルブレイカー」のスキルによるものです

発動条件は目の前に発動能力者がいる場合、その発動しているスキルを無効化・または破壊出来るです。

ただし姿の見えない遠隔攻撃に弱いという側面があります

あと、目の前に居る1名限定でしか使えませんので、作中であの時ヒミコのスキルを無効化していたためショウヘイとイヨは逃げてしまいました。

さらにナートの傷を治す時は呪い効果を使っている剣を破壊すれば治るはずだと対象をショウヘイの剣に移していたんですが、別の能力者の作った剣であったために効果は発揮されませんでした。

強力なスキルのような気もしますが、その逆に弱点も多いのです。そのあたりでバランスが取れているかなーと



ちなみにショウヘイが知らない日本と言ったのは、もともと居た日本と比べて20年ほど経っていたからです。

あとイヨは男の娘です。









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