第169話木の実亭のオスタ6

3つのダンジョンの入り口は説明によれば、罠もあるという事だった

カンザキとオスタはその前で、アイとエイランがなにやら作業をしているのを眺めつつ

何してるのか全くわかんねぇななどと思っていた


エイラン曰く


1つ目の入り口は中には何もない

ただ、エルフの血をもつもの不在で来た場合に現れているもの

以前ミナリなどが調べたのがここになる


2つ目の入り口

おそらくはここにオスタの仲間たちが入ったのだろうという事

エルフの血を持つものがパーティに居るが、入口の文字をきちんと読めなかったものがここに誘導される


そして最後、3つ目

正しい入口である

ここに入場できるのはエルフの血筋をもち、さらにエルフ語をきちんと理解できたものが入れる



「まぁそれなりに厳重な認証だよ。エルフ語っていってもこれそれなりに専門用語ばっかりだもん」


アイはそう言いながら石碑に現れているルーンをいじっている


「問題は2つ目、それなりにひどい罠だと思うよ。これに入ってしまえば中での時間遅延が待ってるからねぇ…多分100倍率くらい?わかんないけど時間の流れが遅くされるんじゃないかな」



という事なのであれば、そのほぼ凍結に近いものが解ければあの3人は帰ってくるのではないだろうか?

それを聞いたオスタは思った。そしてその考えは的を得ている


「ただ…ね、これ今中にはもう誰もいないのよ…」


「なんだ、居ないのか?」


「そのようね。仕方ないわ、行きたくないけど里の方に行ってみるしかないか…」



罠に嵌った者たちはどこかに移送される、その先と言えば里しかないだろう


「んじゃ、カンザキとオスタいくぞー!遅れんなよー」


そう言いながら3つ目の入り口に入ってゆくアイに、3人はついて行った





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時は少しだけ戻る


「あれ?お父さんどこ行ったの?」


スズリは宿に戻ると、オスタの書置きを見つけてそう言った

中には1週間ほど留守にすると、それだけが書いてあった


まったくあの父は、最近変だと思っていたがまさか家出じみたことをするとは思いも寄らなかったから


「さてと、掃除だけしたら後は…」


何故か、何故だかわからないがスズリは涙を流していた

どうにも言いえない不安が、そこにあった


父の残した手紙、初めての事ではあるが

もう2度と父が帰ってこない、そんな気がした


そんなわけはないと強く思うが、それでも不安はぬぐえない

落ち着かない心を落ち着かせるように


「ほんとに・・あのクソオヤジ・・・」


そう、ぽつりと呟いた時だった


「お!ここも父行方不明な子発見!」


スズリが聞き覚えのある声、それを耳にした瞬間にドキリとした

振り向けば、短髪で元気のよさそうな少女がそこにいた


「あ、ルネちゃん。今の聞いてたの?」


「うん、聞いてた聞いてた。ルネちゃんのお父さんもどっかいってんのねー・・・てことは、うちのお父さんも一緒かもしんない」


ルネの父と言えば、焼肉屋の店主である

スズリの父とは年の差はあまりないように見えるけど、その落ち着き様はまるで天地の差があると思っていた


「え?ルネちゃんのお父さんと?」


「うん、最近なんかコソコソしてたからねー、おば…えっと、エルフの綺麗なお姉さん達とどこかにいったのかなー」


そういうとルネは、背中に背負った鞄から板の様な物を出すとそれに向かって話し始めた


「あ、もしもしー?エル?うん、そそ、さっすが、話早い!」


それだけ言うと、その板を仕舞ってから


「おっけーだよ!ちょっとお父さんのとこ行こう!」


「え?」


意味も分からぬまま外に連れ出され、少しだけ歩いた先にある大きな建物の中に連れて行かれる


すると、中に居たのは竜だった

竜というのは正確ではないかもしれない

それらは何人もの大人が世話をしているようだった

体を拭いたり、餌を与えたり、話しかけたりしている


「ここはね、王国騎士団の飛竜がいるんだよ」


話にしか聞いたことのない、飛竜騎士団の事だろうか?

スズリはそのまま奥へとルネに連れて行かれる


すると巨大な、美しい色の竜が居た

他の飛竜と比べてそれでもひとまわり以上は回りは大きな、美しい緑色の竜…


「シルメリア姉ちゃん、よろしくー」


ルネがそういうと、ぐぁお、と竜が鳴いた


「もー、ルネはあれ、いつも急なんだから・・なのよ」


そこにいたのはドレスを着こんだ女の子だった。スズリやルネよりも少しだけ年上に思えるその女性は、とてつもなく美しい


「シルメリアさんにお願いして連れて行ってもらうのが一番早いでしょ?」


「うひひ、さすがエル。わかってるねー!」


エルと呼ばれた女性はよくカンザキさんのお店に来る人だと気付いたのは結構経ってからだった

だってそうだろう、いつもの恰好はこんなきれいなドレスなどではなくスズリやルネと同じようにズボンを履いて動きやすい恰好なのだから


「今回は私も行きます。どうも・・・お母さまも一緒のようなので」


「ああ、アイさん?」


「ええ、残してあった書面から行先はわかっています。今からでも十分追いつけますわ」


「うひひ、なにそれ、やっぱエルのしゃべり方おかしいね」


「もう、しょうがないでしょ…お父様が付けてくれた教育係が厳しいんだから、普段から慣れておかないとすぐボロがでちゃう」


「あはは、私焼肉屋の娘でよかった。王宮なんてめんどくさそう」


「それは同意ですわ、でもわたくしはあそこが好きでいるのだからいいでしょう?」


「そうだね、それはわかる」


家族がいる、それは何よりも得難いものだとルネは知っている


「では行きましょう、さっさと終わらせますわよ!」



そう言うとその竜、たしかシルメリアさんの背に乗せられて飛び立った

私はその上から見下ろすウルグインの街とか、周りの景色に圧倒されてうわぁとしか言えなかった

そんな私を見てルネちゃんもエルさんもにこやかに笑っているだけだった

シルメリアさんの背中は、なぜかものすごい安心感があって私はうつらと寝てしまった




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おっさんは異世界で焼肉屋するー焼肉ゴッドー ちょせ @chose

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