第168話木の実亭のオスタ5

馬車が通れないほど荒れた場所まで来ると、近場の村へ預けて徒歩に切り替える

村へと到着すると、馬の世話代と馬車の保管代金を渡してすぐにその村を出た


人が歩ける程度の道はあるが、獣やモンスターが出ないかと警戒しつつ進む

そこからはほどなくして目的地に到着する

鬱蒼としたその場所は、明らかに最近、しばらくは人が来た気配はなかった


ダンジョンがあるというのにそこはまるで遺跡のようで静かな空気が流れている

鳥の鳴き声が響いているが、恐ろしいモンスターの叫び声は聞こえない

ひとまずは安全のようだった


「ここでどうすんだ?ダンジョン、入口っぽいものもねぇな」


ダフデはあたりを見回してそう言った

それに応えるのは木々の擦れる葉音だけだ


ナルナナは大きな石、石碑のようなものの前で立ちすくんでいる


「それ、なんだ?」


見るからに苔むした石にしか見えないその大岩はこの森の中にひっそりと溶け込むように有った


「見えずらいけど、文字が書いてある……古い、古い文字で……」


「読めるのか?ナルナナ」


「う、うん、多分…」



それは古代に使われたとされるエルフの文字であった

幼き頃に教わっただけで使う機会などないと思っていた

だが、ナルナナの祖母は完璧に覚えなさいと言ってナルナナに教えこんでいた文字だ



そしてナルナナはしっかりと、それを読み解いた


「はあ?冒険者タグを置く?ここにか?そんなんで道が開けるのかよ」


それにはなんでも冒険者タグをそこに置けば入り口が開くと書いてあるようだ


はっきりいって意味不明であるが、この世は不思議にあふれている

深い意味など考えず、三人は冒険者タグを岩のくぼみに入れた



それは物音もしなかった


だというのに、岩の後ろに大きく口をあけた洞窟の入り口があった


「嘘…ね、ナルナナのおばあさん…信用できるんじゃない?」


ハンナは目を見開いて、ダフデとナルナナを見る

ダフデの表情は少し分かりづらいが、笑っているのがわかる

ナルナナは目を潤ませている


そだね、ナルナナはオスタ、好きだったものね


ハンナは優しい手つきで、ナルナナの頭を撫でた




「さあ行こうぜ。さっさと薬手に入れてアイツ治してパーティ再結成だ」


「そうね、スズリも待ってるし」


「はい・・ぐすっ」


三人は気合を入れなおしてから、その洞穴へと消えていった


冒険者を飲み込んだそのダンジョンは再び何もなかったかのように消えたのだった


初めから、そこには何もなかったかのように




----------




そこへは僅か3日目の朝で到着した

実質2日程度のものである


そこは森の中で、オスタの目には何もないように見える

あるのは木々の中、巨大な、苔に岩だけだ


「遺跡型ダンジョン・・・と聞いたのですが?」


そう、10階層からなるダンジョンのはずだ

だがそこには何もない


「いやあるだろ?」


カンザキが指さす方向にはただ森があるだけだ

しかしオスタには何も見えなかった


そこにアイとエイランが来て、岩を眺めて


「あー、隠蔽型の結界張ってるねこれ。資格無き者には見えないって感じ」


「そうね。ある一定の命の強さみたいなものがなければ見ることも叶わずって感じかしら?」


エイランが手をかざす、すると周りの木が消えて、地面すら石畳に変わる


「なるほどねぇ。そりゃ冒険者タグすら見つからないままだったわけだよ。ここ普通の冒険者くらいじゃ見つけらんないし、なんならたどり着けもしないよ」


「そうね、それにこれ。二重になってない?」


「あー、ほんとだ…エルフじゃなけりゃ見逃しちゃうとこだ。種族に反応するようになってる」


「このルーン術式、見覚えがあるわ。ホリィとか言ったっけ?」


「誰それ」


「ああ、アイは知らないか。あんたが居なくなってた間に生まれたエルフでね、天才って言われてたわ」


「あたしを差し置いてか!?」


「アンタとは方向性が違うのよ。それに保守派、おそらく朽ちた世界樹を持ってたから再生に成功したのかもしれないわ」


「へぇ…そりゃ天才だわ」


世界樹は唯一無二の存在であり、エルフの魔力によって育つ

ただし枯れてしまえばそれまでで再生は不可能であるとされていた

それを生き返らせたと思うをエイランは言った


であるならば、どのような技術を持って蘇らせたのかは興味がある

アイには到底真似ができないと、そう思ったからこそ天才


「まぁ異相にでも隠れてるんでしょ、このルーン術式の具合だと」


「あきれた、もう解析したの?これ私は意味わかんないわよ」


「二重コードのその裏に仕込まれてるからねえ。そんな大した技術じゃないよ、でもなまじ術式読めるとだまされちゃう感じかな」


アイはそう言いながら、巨石に触れていく


「あった。ここだ」


キィン


「うわっ!」


カンザキが驚いた声を上げる


「なんだあ、耳鳴りがしたぞ」


「うしろ」


アイがそう言うので、カンザキが後ろを振り向くと

そこには前方と同じような洞穴が口を開けていた


「おいおい、なんだこりゃ」


「二重に隠蔽されてた遺跡の入り口かな。この遺跡自体は見覚えあるからあたしたちの時代の遺物っぽいね」


「そうね、こっちは私たちの時代の物ね。これシェルターだったはず」


そういって盛り上がるエルフが二名


しばらくはこの二人が遺跡の入り口だけで語った


気が済んだと思ったとき、三つ目の洞穴が口を開けた。


さらに隠されていたとアイとエルランは得意げに言う


「よほど人を入れたく無かったみたいねー」


「なあアイ、ここには何があるんだ?」


カンザキはいい加減飽きてきたのか結論を求めた


するとアイから出てきた答えは




「ここにあるのは、過去の記憶…いいえ、今も生きてるか。エルフの隠れ里よ。古いエルフがこしらえたもので、世界樹なき世界に絶望し、そして作り出した理想郷ってとこかな」



アイはそういうと、少しだけ悲しそうな表情で笑った


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