第65話建国祭ー終

「シンイチロー兄ぃを!離せえええええええええええええええ!」



辺りが静まり返る。それほどに大きな声だった


ィィィィィィン・・・



耳鳴りがする程の声のあと



その声の主をキャサリンはキッと睨み付ける


「誰かな?」


邪魔をされた、そう思った

しかしミナリを見つけてすぐに感じる


強い・・・・あの持っている刀は見覚えがある・・・


カンザキが召喚魔法で呼び出すのと「同じ」剣。

それはキャサリンに嫌な予感をさせるに十分だった


そして、ミナリは述べる


「私の名前はカンザキ・ミナリ。そこにいるシンイチロー兄ぃの・・・えっと・・・そう、親戚だァァァ!」


かつてない程にミナリもテンションが上がっているのが自分でもよくわかる

恥ずかしさもあるが、それ以上に嬉しくてふわふわしてなんでもできそうな気になっている


「で、その、ただの親戚の方が何の用なの?」


しかしそれに驚愕したのは当のカンザキだ


「えええええええええええええええ!ミナリか!?ちょ!おまなんでここに!?」


ちょっとまてちょっとまて!あいつ、姪っ子のミナリか!?本家の孫娘の!?


「ちょっと兄ぃは黙ってて。今このパツキンと話してるんだから」


ミナリはキャサリンを睨み返す

そうー完全に、完全に敵だと認定している


「悪いんだけど、あなたとシンイチロー兄ぃと貴方は婚姻は出来ないわ。なぜならば、私が結婚するからよ!」


「「ええ!?何で!?」」


驚くカンザキとキャサリン

いきなり出てきて全否定した上に私が結婚するとか言い出したミナリに驚くのは無理が無い

カンザキはそれこそ意味が分からない


「そんなわけで!返してもらう!」


全力をー出す


この世界に来て初めて、いや、昔カンザキが居なくなってから、一度たりとやる気を出さず才能だけで生きてきたミナリが、ここで初めて本気をーやる気を出した


「気力全開ぃ!」


ミナリの全身が薄い金色に覆われる


全身を気による強化が覆うーそれは付与魔法のオーバーロード

まさにキャサリンが金色に煌くのと同じ現象だ


「ここまで来て止めるのは無理なんだよねー。あとーここにきてラスボスとか気が利いてるね」


キャサリンにはそれは何かの強制力のように感じている


カンザキをー好きでいる事の何が悪い!

たとえ神がそれを許さなくてもー私は力で押し通る!


「今日の私は最強装備だ!気をつけろ!」


キャサリンがそう言うと


「ミナリー行きます」


瞬間ミナリの姿が二重に成る


「召しませ、剣よ」


「陸奥守吉行」


二本目の日本刀が現れる


ミナリの持つ刀は1本目は「虎鉄」それも召喚魔法で「作り出した」物だ


召喚魔法の、呼び出すと言う行為を創作と位置づけ認識したミナリはまず大好きな刀をー武器を想像し創造した


そして今二刀となったミナリが繰り出す剣戟をイメージするは宮本武蔵ー


そもそも顕現した武器をずっと所持していた事からミナリの力の一端がうかがえるのだが




「ミナリ先生!凄すぎる!」



「あ、ああ!あの相手はルシータ王女だろう!?かつて姉に連れられていった王宮で見た事がある。幼い私はあの人に憧れて冒険者になったんだ」


「それってあの伝説の!?」


「そうだ・・強くなりすぎた王女はダンジョンに消えた。皆死んだものと思っていたんだが・・生きていたんだ・・」


「焼肉ゴッドにいたあの人が!?」


「怪しいとは思っていたんだが・・今のあの戦う姿は間違いないだろう。見ろ!ミナリ先生が押されている!」




ギィン!ギィン!


剣と刀が打ち合う音が響き渡る


剣と刀の極地ーもはやその剣筋は当事者の二人以外に追えていない


その動きは流麗そのものなのだろう

その速さは星の瞬きなのだろう


「想像以上に強いじゃないあなた!」


「そういうお前…いいえ、ミナリだってこの強さは尋常じゃない!」


思わず笑みが零れるキャサリン


「まさかカンザキ以外に私について来られる・・いや、超える可能性もある」


ミナリもミナリで全力を出して何かに当たることなど今までなかった

いずれも容易く超えてきた


しかし今目の前にある壁がこれほどまでに分厚く高い事もなかったと思う


「この・・・・!倒れなさい!」


そのミナリは楽しくもあるが焦っている


折れた事のない鍛え上げられている刀ーそれがミナリだ


そしてーその刀が折れないということは無い


「ちょっと本気出すよーミナリ、楽しかった」


キャサリンの眼の色すら金色に染まるー


「技の名前はまだ無いがーこれが私の全力」


キャサリンはその剣を振り上げ降ろす


「マズい!?」


ミナリはバックステップを踏み


「召しませ、城よ」


「一の門、二の門!」


ミナリの目の前に城の門が現れるー


「おそらくはその先も在るのだろうが、もう遅い!」


シンッ


見えない剣戟はミナリを中心に降り注ぐ

召喚した城門がかなり削いではくれたがー


ギンッ


「こ、虎鉄が!」


折れてしまった


「その剣は防御には向かないね?」


キャサリンが膝をついたミナリの首筋に剣を突きつける


「まだやるかい?」


にこりと微笑む



ああーかなわないなーでもここで折れるわけにはー


「召しませー・・・・」


まだヤル気かー。元気だねぇ・・・

ん・・まてよ・・・


「でも、仮にあなたが勝ったとして、カンザキはあなたと結婚するかしらね?」


「え?」


ミナリはキャサリンが何を言っているかわからなかった


「本人に聞いてみたらどう?」


キャサリンの不可思議な提案だがその真意はすぐにわかった



「ねえ、シンイチロー兄ぃ、私と結婚してくれるんだよね?」


だってそれはかつてした約束ー


「だって、約束したよね?結婚してくれるって」


泣き叫ぶように言うそれは・・いつか、幼き日の


カンザキは目を点にして・・え?という顔をしている


もしかして忘れている?そんな筈はない・・・


「そう、あなた婚約していたの?」


「い、いや婚約はしてないけど・・・でも約束はしたんだもん」


「ーいつしたの?」


「こ、子供の時よ・・悪い!?」


なるほどーそういう理由か。ならば


「ミナリとか言ったね、ここでカンザキを逃すと、きっとー逃げ出すわよ?」


「あ・・・・」


ミナリは一瞬で理解した、いや、出来てしまった







それは13年前-


神裂美成が16歳になったときだった


誕生日会、そこにたまたま来ていた分家の長男である


神崎真一郎に対し、幼き日の約束の執行を迫る


「ねえ、シンイチロー兄ぃ、私もう16歳になったよ。だから結婚してくれる?」


そう迫った


そしてこれは無茶なお願いの様に思えて、幼きミナリがカンザキに惚れて以来実は周到に用意されていたことであった


本家の跡取りはミナリしかいなかった。故に婿を取る必要がある。


そしてー我儘だったミナリが唯一気を許し、恋い焦がれた分家のカンザキを婿に取ることで大人たちは一致していた。


ミナリは当時それを知らなかった。いや、今も正確には


だがその当日、カンザキは異世界に消える


その後カンザキの消えた日本ー世界は彼の行く先を追う事は出来なかった


結局、真一郎は逃げたのだろうと言う事になってしまった


ミナリは失意のどん底でーそして無気力に生きる事になる





真実の程は分からない

だがそのとき結婚がなくなったのも事実だ

なぜならばミナリの声がカンザキに届く前に消えてしまっていたのだから



「また・・・逃げる・・?」



疑心暗鬼ー


キャサリンはにやりと笑う



しかし、ミナリはやはり


折れない刀だった


「召しませ、スサノオ…その名のもとに我に力を」



そう、唱えた






隠遁を望むカンザキー焼肉ゴッドを開店しわずか1年足らずでその実力はゆっくりとではあるが回りに知れ渡りつつあった


そしてそれを利用する者も現れるだろう


それもきっとあの男、カンザキは甘んじて許すだろう


温過ぎる・・・だがそこが好きになった理由でもある


じゃぁどうするか?


私がー


ルシータが


全力で甘えてやる


他の誰も、知らない奴に利用されない様に


恐らくはいずれ、カンザキは遠からず国、世界に関わってきただろう


それを加速してやればいいと思った


予想外の事態があった


妹のシアも、カンザキを好きだと言う


苦渋を飲むーだがそれはシアも同じだろう。


ダイダロスーラスクロ


この両国を掌握できたのも大きかった


子供の頃、ラスクロの王女と遊びで、本当に遊びで話した世界征服


それをできるだけの力を持っていたが、ルシータ自身はなんの意味も持たないと思っていたのだが





「カンザキと遊び続けられるなら、それもアリじゃない?」




「まぁ、国名が変わったくらいでカンザキが今までの生活を変える事はしないと思うけど、それも鎖をつけられるならつけておこうかなって」


そう思ったキャサリンは、そんなばかばかしい作戦を思いついたのだ









「俺の意見は・・・・」


目の前で繰り広げられている死闘、それに割り込んで止めることはできるだろう


しかし、それをしたらダメなことが位はさすがにカンザキも分かっていた


だから、女たちの戦いに割って入る事なんて出来ない




「これは、振り出しですかね…」



シアがぽつりと言った



「いいではないか、それならそれで面白かろう?」



いつの間にか来ていたむーたんがそう言う



「まぁ、退屈はしないな」



カンザキはそう言って笑った









建国祭が終わって、それなりの後始末が色々とあった

キャサリンがはっちゃけすぎたせいでもある


しかしまさか、シアまで一緒になってやるとは想定外だった

クナトのやつも素直に言うことを聞くとは…まぁ国に仕えているのだから当然なのだが


カンザキは目の前の事を片付けるだけでいい


キャサリンとシアの様に国王を引きずり下ろした結果、自分が王になってしまった事で色々と忙しくなってしまったのと対照的だ




「また、美味い肉仕入れにいかにゃならんあぁ・・」



さすがに祭りの間に消費された肉で、それなりの在庫も無くなってしまった

だからダンジョンへと仕入れに行かねばと思う





この店で食事を、焼肉を食べたものには不思議な事が起こったりする


それを知ってか知らずか店主は今日も営業を続けるのだ。






「あのーすみませーん、カンザキさんいますかー?」


「はいよー」


その人は深いフードをかぶっている

深緑のそのフードから見える赤い口元はーカンザキを見つけると怪しく釣り上がる


「ほんとにいた。いやだなぁ・・カンザキさん・・うちの国で店やるって言ってくれてたじゃないですか?」


「ん?」


ばさりとフードを脱ぐと


真っ赤な髪の色はまるで炎か血の色に見える

瞳の色までが真紅に染まっている

唇すらも、赤い血を塗ったように赤い


通りすがりの人々が急に現れたー怪しくそして美しい美女に眼をー意識を奪われる




「お迎えに上がりましたよ」



その声色はとても甘美な甘い声でー




「誰だっけ?どっかでそれ見た事あるんだけど?」



印象的なはずの赤髪と瞳、だがそれが何だったのかー大事な事だった気がする



「随分と息苦しい事になっている様ですね、あなたらしくない。だから一緒に・・・」




カンザキは色々な人に出会う


人だけ、じゃないけど

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