第66話焼肉屋開店前話ー200階層の出会い

「しっかし、喋る猫ってのもシュールだったよなー」


ここには誰も聞く者はいない


だからこれは独り言だ


99層を抜けて100階層にたどり着いたときに見つけたのは猫の道具屋だった


白い猫が店番をしていたそこには街で売って無いものも沢山あって、その時持っていた有り金全て、ダンジョンで得ていた素材も全部使い込んでしまった


まあ、アイテムの補充は助かったというか、探索速度を爆発的に加速させた


101階層からわずか1週間で200階層に来れたのはあの猫印のアイテムによる所が非常に大きい


元々ほぼ手ぶらでダンジョンに飛び込んだカンザキだ、最初の40階層までは街があったからなんとかなっていたが、その後は助けなしの未知のダンジョンだったが故に困窮する


途中で刀を召喚する事を思いついたのは持ち込んだ剣が粉々に砕けたからだ


ま、あんなにうまくいくなんて思わなかったが。


そして猫の道具屋を見つけたのは天の助けにも思えた



この200階層はいかにもな雰囲気がある

やたらモンスターは出てくるが、そのほとんどはアンデッドだ。

暗い雲に覆われた空に枯れた木々、痩せた土地

ここには得るものは少ないだろうと予感する

だが、その先に進もうにも、どうにも次の階層に進むための道や魔法陣が見当たらないのだ。


カンザキは既に丸1日この階層に足止めをされている


「まあ、ここいらが最終階層かもしれないな」


そんな独り言を言いながら

焚き火を消して、猫印のバーベキューセットをしまい込む


そろそろ折り返してウルグインに帰るのも悪くないか

そう思って、帰るため来た道を引き返した


しばらく歩いて気が付く


「あれ?入口がなくなってる!?」


おかしい

そう言えば来た時から違和感はあった


いつもは岩で出来た祠に出ていたのに、この階層では何も無い、いや、岩だけはあったかーそんな場所に放り出されていたからだ


「マズったな、まさか空間迷路系か?」


それは昔パーティで旅をしていた時に入ったダンジョンがまさにそれだった


その時は仲間のハイエルフのエリステラが居たから何とか脱出出来たんだよなぁと思い出す



「確か、空間を支配するモンスターを見つけ出して倒したんだっけ」


あれはネズミみたいな小さなサイズの小鬼だったっけ


「精霊に探させていたんだよなぁ」


しかしカンザキは精霊魔法は使えないレベルで苦手としている


精霊魔法の天才エリステラさえいればなぁ・・


だが仲間はもう居ないのだ

どうにかして自力で何とかするしかない。


ひとまずカンザキは隅々までこのフロアを探すしか方法はないと、そう思っていた







一ただ時間だけが経過する


暇なカンザキは魔力による肉体強化にさらに魔法による肉体強化の上書きを思いつく


ベースが上がった状態でのバフの重ね掛けで相乗効果得ることができた


その結果、かなり遠くのものまで認識できるような眼を得た


まるで千里眼だな・・

んーあの向こうになんかあるな・・・


そこはいまいる場所からおおよそ50㎞先か


ひとまずそこへ向かって走り出す

5分くらいあれば着くだろう


しかしなんだってこんなメンドクサイ階層があるんだろうなぁ

まぁいろいろと考える時間ができて良かったが


小高い丘を越えて走り続ける

やはり見える景色も変わらない


「毒の沼地とか誰得だよ」


先ほど見つけた水源と思しきところの水は毒に汚染されていた。

水の魔石で浄化できたが、なんとなく飲もうという気にはならなかった


そもそもカンザキがこのダンジョンに挑んだ最初の理由は日本に帰るためだ


その目的も、140層あたりを超えた時に変わってしまった


空腹が過ぎてモンスターを初めてー食べた時から


あまりの美味さに、涙を流した

そうか、これはそういうことかー妙に納得をしたのだ


カンザキはそれまで感情が希薄になってしまっていた


それはおそらくあの「魔王」を討伐するパーティに参加し、討伐してからだ

倒せば帰れる

それだけが心のよりどころになっていたのに


だが結論から言えば帰れなかった


そして後悔をした


あの魔王は本当に悪だったのかー

そんな後悔の念も浮かぶ


人間こそが異物で、食物連鎖と関係ない部分でモンスターを「殺戮」し続ける


根本には人間に害を成すので倒すという自分勝手な大義名分もあるだが、

中には知性のあるモンスターも居たのも確かだ


話せば・・話し合えば共存の道もあったのではないだろうか


それが心残りになった


考えるうち、カンザキはだんだんと罪の意識に押しつぶされそうになった

そして時間が経つうちに感情を殺し、モンスターを敵として倒し続けた



「今となっては全て手遅れというやつだけどな」



ぼそり、と、誰も聞いているはずもない世界でカンザキはただつぶやいた

それは誰かに聞いてもらいたいという無意識からでた独り言



走りながら近づくにつれて、それはどうやら城だと言うことがわかってきた


まさかーここは文明があったところか!?


何かの理由で荒廃した世界になっているということだろうか

そう思いながら走り続けてたどり着く


小さな城


入り口には未だ消し炭が残る松明が掲げられていた

それを一つまみ指でとりあげて人差し指と親指でこする


「まだ新しいな」


炭化してまだそんなに経っていない

まだ誰かいるのだろうか?


入り口には崩れたガイコツ兵がいる


そして累々と横たわるモンスターの死骸・・・

ただそれらはアンデットだったのだろうと思われるが


魔力切れか・・・


死霊術士(ネクロマンサー)でもいたのか・・?


もしくはアンデット族が居たとか?


それらはもう動くことがないだろうという予感だけがしてカンザキは少し寂しく思えた



命の無い世界



開けっ放しになっていた城に入っていく

小さいとはいえ、それは城だ。それなりの広さもある

そのまま奥の階段を上り、おそらくは王座がある部屋へ入っていく


予想通り王座には誰も・・いない


王座の奥へ進む


自分の足音だけがコツコツと響く


狭い廊下を抜けたそこは王族の寝室だった


そして、見つける


天蓋付きのベッドの上に横たわる者を


赤い髪をしたその若い青年は、しばらく何も食べていないのかやせ細っている

顔は青く生気はない


誰かいたという喜びは生まれない

ただ、白骨化していないことに少しだけ驚いた

ネクロマンサーだったのかもしれないと思った


「死んで・・いるのか」


また、独り言


死者が答えるはずもないのにな


思わず、ふっと自虐的な笑みが零れる

どれほどまでに俺は壊れてしまっていたのだろう

死体を見てももう何も思わない


「なんだ、笑っておるのか?」


唐突に聞こえた声に驚きカンザキは思わずベッドを見る


「ふむ、久方ぶりの客人だな」


なんだかハスキーな声だな・・・声変りをしていない感じだ


そういうと青年は起き上がり、パチンと指を鳴らす


すると外からガチャガチャと音が聞こえ始めー


部屋の松明に火が灯った


「お前、生きてたのか」


カンザキはなぜか、ホッとした


「ん?お前人間か?なぜこんな処におるのだ?」


ドンっと魔力の奔流が吹き荒れる


「まぁいい。我は魔王クリムゾン!きさまら人間を支配する魔族の王よ!」


そう言うなり彼の服装が豪華な装飾の施された赤いローブに変わる!


「さすがに反応が早いな」


カンザキは一歩下がって戦闘態勢をとる


そこで・・ハっと気づいた


「お前、まだ子供じゃないか・・魔王とか冗談がすぎるぜ」


正直な感想である

もう震えるより先に、そんな感想が出るあたり俺はもう何かがおかしいのかも知れない


「くっ!我が気にしている事を!」


え?気にしてたのか悪いこと言ったな


「焼けろ!・・・燃え盛れゲヘナの炎」


ガゥンと今いた場所が吹き飛ぶ

カンザキは浮き上がり難を逃れるが


「おい、お前自分家ふっとばしてどうすんだよ!今日から寝るとこなくなっちゃうぞ?」


「う、うるさい!」


カンザキは小さな魔石を取り出すと口に放り込み、噛み砕く


ガリリッ!


「貴様!何をしている!」


燃え盛る業火の中心にいる魔王ー


すでに炎によって先ほど蘇ったアンデットの殆ども灰と化している

城も崩れ落ちる寸前だ


「コキュートス」


カンザキは使う、絶対零度よりさらに冷たい氷の魔法

全ては停止し、空気中のわずかな水分ですら凍り付いてしまう


「なっ!なにっ!」


ゲヘナの炎すら凍らせるー同じ地獄の氷の魔法

そんな超高度古代魔法を魔王の目の前の男ーカンザキは容易く唱えたのだ



ィィィィィ・・・・



空気すら凍るその氷に囲まれる



見える世界が凍てついたその中心にカンザキと魔王がただ二人立っていた


「ば・・・ばかな・・貴様が勇者か?」


「いや、違うけど?」




そうだ、勇者ではない。100層で見つけた日記によればそれはカンザキではあり得ないし、あの時でもカンザキは勇者ではなかった




「なっ!・・では・・・何者だ・・・まさか、神・・・か?」


「神かーそんな奴がいたらきっと俺は殴り飛ばしてる」



本音だ。いつかあいつをぶっ飛ばしてやりたい


「くっ・・殺せ。殺さないのなら我はいずれ人間を滅ぼす」


「何言ってんだ?」


「ふん、我は魔王ー世界を征服するのが我が一族の悲願。きさまら人間の敵だ」


「誰がそんなこと言った?誰が望んだ!!」


あれ?なんで俺怒ってんだ?


「ふふん・・良いではないか・・・貴様の怒りが我を心地よくする」


「調子に・・・のんじゃねぇ!」


思わずー

魔王をぶん殴ってしまった


「がはぁっ!」


辺りを取り囲む氷柱に魔王がぶち当たる


「お前が人間を滅ぼすと言うのなら、支配するというのなら・・・」


あー・・・・・

思い出す

勇者アインを・・・

これは、彼が・・・魔王を倒すときに言っていた言葉だ・・


だけど俺は彼じゃない。勇者でもない


だからカンザキは自分のやりたいことをやる


「俺はお前の友達になってやる。そんで、人間を滅ぼすとか言わせねぇ」


思い切りいい笑顔で、腹を抑えてうずくまっていた魔王に俺は


手を差し出した









「ちょ!おま!食いすぎ!俺の肉だろそれ!」


そこは標高15000m

宇宙に届きそうなほど高い山頂でバーベキューセットを広げるバカが二人


「へっ、魔王様なんだろー?ゲヘナで焼いてくえばいいだろ」


カンザキはひょいっと焼けた肉を口にほうりこむ


「てめぇ!さっき試したら消し炭になっちまったんだよ!」


「火力調整きっちりしないからだ」


「なんでテメーはそんなに綺麗に焼けんだよ!」


カンザキも魔法による炎を使って肉を焼いている


「あーやっぱタレが欲しいな・・塩だけじゃなぁ」


もぐもぐと美味そうに食べる




「っく!てめぇ・・・カンザキ・・・俺にも肉をよこせぇええええ!」


思わず笑みがこぼれて


「しょうがねぇな、ほれ」


赤髪の青年はやったと喜んでカンザキが焼いた肉を食べる


「うめぇ!」


魔王と呼ばれた魔族を引き連れて階層を奥へ奥へと潜り続けるー



一人ぼっちだったカンザキは「友人」となった…滴る血のように赤い髪の魔王と共に




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