第162話そこにある異世界18


魔王の城は巨大なダンジョンを2つ抜け、さらにその先の山を越え、密林を超えた場所にあった

このような場所に誰がどうやってこれほどの建造物を建てたのかは謎である



その旅程は時間にすればおおよそ4か月もの長旅となった



勇者らはその間に十二の魔将を全て打倒し、さらに四魔老と言う強敵も倒した



アランー


まさに勇者と言う強さを手に入れる

その聖剣は旅の中で成長を続け、過去最高と言えるほどの力を有するに至る

旅の途中で伝説のドワーフに作ってもらった鞘はその力をさらに高めた


シーナ


聖女と呼ばれるに至る

その回復能力は死者すらもよみがえらせると言われた程である

実際は死んでなければどうにでも命を繋ぐ

杖はダンジョンに眠っていた聖者の杖ー回復魔法特化になったシーナを守る力を得た


神裂十和


ジョーカー的に全ての魔法をそつなく使う

一騎当千の魔法使い・その旅の中で一度だけ、タケミカヅチ・フツノミタマノツルギを使用する

それは強敵であった、かつて倒したはずの十二の魔将が全員甦って襲い掛かってきた際にその全員をほぼ一振りで葬り去るというとてつもない威力であった

以降、強すぎるということでトワが封印し使用しないこととした


相坂すみれ


当初こそ、ガーディアンに頼っていたものの途中でアランと同等の聖剣を生み出すに至る

こちらもドワーフに鞘を拵えてもらう

過去類を見ない、二人同時に同時代に生まれた勇者と言う噂が流れる

ただし目立つ事を嫌いその名を名乗らない幻の勇者とも呼ばれた

実のところすみれの才能というのは補助魔法にあったのだが、トワが居たことにより意味をもたなかった

だが二人目のアタッカーである聖剣の勇者となることでその果たした役割は計り知れない








相坂さくら


当初こそすみれを助けに来たものの、世界の約定に違反するその行動は達成することができなかった

あきらめるという選択肢が無かったゆえに、エルマとルネが協力する形で勇者パーティを陰から支援する

ただあまりにも暇が過ぎたので、二人に鍛えてもらった結果、わずか一年でルネと同等に戦えるに至る

才能の塊であった


カンザキ・ルネとエルマ


そもそもこの二人、いや三人はバランスブレイカーである

おそらくは魔王ですら一撃で屠る


この世界には秘密が隠されており、それを暴いた

いわゆる、隠しボスという存在である

魔王すら軽く凌ぐその敵に対し喧嘩を吹っ掛け、そしてぶちのめして遊んでいた

最終的にさくらもそこにまざったのでボッコボコにしていたりする





魔王の魔力障壁をトワが無効化し、すみれの聖剣がその魔王を覆う外套を切り裂いて魔王の本体が現れる


「どりゃあああああああああああああああああああ!」


その隙を逃すわけにはいかない

シーナのバフに身を包み、駆けだしたアランの聖剣が胸を貫いた


その瞬間から世界は黒に染まった


魔王の城に到達し、最後の魔老を倒しそして魔王に相対する


魔王たる彼女を倒したその時、全ての冒険は終わりを告げた


パキンを音を立てて割れたのは、魔王の仮面ー

露わになるその素顔に思わずトワは駆け出した


倒れ行く魔王を抱きかかえ、その美しい唇から血を吐く魔王に話しかける


「エルア!まさか、君だったのか」


「かふっ、ふふ、見事なものだったろう?私の演技は」


「ああ、騙された…だというのに、もうお別れなのかい?」


「そうだ、今ここではもう私は助からない」


そのとおりだ、とトワは気づいていた

なぜなら回復魔法すべてが彼女には届かないまるで打ち消されているように、その魔法は消え去る


「運命というらしい。私はここで勇者に倒される運命だったとね」


「なんて、バカな…」


あふれる涙は止まらない

だがそれと同じく、終わりの時間は近づいてくる


魔王の、エルアのその体が霞の様に消えて大きな炎のような形の魔石が残された



黒く染まった世界が、今度は白く輝いて世界を染め直した


神々しく、そこに一人の女性が現れる

まるで大きな建物くらいの大きさだった



『勇者らよ、ご苦労様でした。その功績により願いを叶えてさしあげましょう』



女神ー

誰もがそう理解した


まずアランが消えた

きっと願いを叶えてもらえたのだろう

アランの願いは知っている。彼は勇者たらんとし、調和を求めきっとまだ勇者を続けるだろう


そしてシーナが消える

どんな願いをしたのか、それはシーナだけが知る

だがうっすらと、姉と共に暮らせる世界を願ったのかもしれないと消える寸前の涙が教えてくれる


そしてトワも消える

トワの願いは、聞こえはしなかったが悲しそうな顔をしていたのが印象的だった



最後にすみれの番がくる


願いは当然、元の世界に帰る事だったが

どうしようと悩んでいると




「すみれちゃんを返せえええええええええええええ」


唐突に白い世界に現れる巨大な人影は女神の頬に拳を叩き込むところだった


めり込む拳は女神の顔面を的確に捕らえており、大きな女神が「へぶしっ」とか言いながら吹っ飛んだ


「ええええええええええええ!?」


理解できないすみれは慌てる

するとそこにすたすたと歩いてきて言い訳をするように話し始める人がいた


「いやあ、やめとけって言ったんだけどね?」


「まったくですわ。ここまで順調に進んだのですから穏便に済ませてあげればいいものを」


振り返るとそこに見覚えのある二人がいた


「エルマさん!?トワさんも!?どうしてここに!?」


「久しぶりですわね、すみれさん」


「いやぁー大変だったよー。本来だったら8年くらいかかる予定だったみたいだからねー、エルマが色々手をまわして短縮しまくったおかげで、一年くらいで無事クエスト完了だ」


「えええ?」


すみれがあっけにとられていると、そこにさらに懐かしい人が現れる

その大きな体には見覚えがある。ただ顔だけは険しさがなくなり彼本来の優しい顔になっているように思えた


「あ、ああ、ああああアーディルさん!?なんで!?生きてたんですか?え?ここ死後の世界!?」


「いや、そうではないのだ…あの時、この方々に助けられてな。ああ、もちろん子供達も無事だ」


「え、えええ」


その言葉にぽろりと涙が流れるすみれ

子供も無事…それだけで全てが報われる気がしていた


「こんんの!クソ女神ぃ!」


「なにするんですかぁ!こんちくしょう!なんでこんなに速いんですか!?いたっ!」


大きな影の女神とさくらがまるでボクシングでもするように戦っている

あ、ボディに入った

くの字に曲がった女神に追い打ちでアッパーを入れるさくら



「あは、あははは。ナニコレ!」


「ふふ、笑いましたわね、久しぶりにすみれさんの笑顔を見ましたわ。アーディルさんが死んだ後は本当に笑いませんでしたものね。お辛い役目、大変でしたね」


「アーディルさんと子供達は死んだ事になってるからさ、ウルグインに連れていく予定。ちょうど管理者が必要な孤児院があるんでそこで暮らしてもらおうかなって」


「ウルグイン?」


「ああ、私とエルマが住んでるところ」


それはどこの国なんだろうとすみれが思っていると


「ふう、ふう、なかなかしぶとい女神だったわ」


「お姉ちゃん!」


さくらがぼこぼこになった女神を引きずるようにして現れた

女神は顔を腫らして『クソがっ』と言っている。いや女神の言葉遣いじゃないしほんの数分前のあの綺麗な姿はなんだったのか


「すみれ!」


走り寄るさくらに、久しぶりに再会するすみれは涙をながして抱き着いた


「大きくなったね、すみれ」


「そうだよ、誕生日、もう二回位すぎたもん」


「ほんとだ、二年分お祝いしなきゃ」


「うん…お姉ちゃん…」







これにて一件落着となる


この後、女神への願いと言うことではないが、すみれは元の年齢へと戻してもらった

日本では一か月程度した過ぎていないらしい。だが成長期のすみれは随分と身長も伸びていたのでさすがに目立つだろうから、だからその為の措置である


すみれの本来の願いというものは、日本に帰った後でも自由にこの世界と行き来できるようにというものだった

時間経過が違うので、再び訪れる時は見知った人はもういないかもしれないが




そして日本へと帰った後、すみれはこの世界での経験を元に小説を書いた

それは父の手によってコミカライズされてヒットすることになるのだが




それはまた少しだけ先の話である





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