第96話光よ

大きな石を積み重ね作られたコロシアムには大きな四つの入口があり、その北側の重い鉄扉が開く

そこから現れたのはレオノールに連れられたカンザキ、キャサリン、キトラ、シルメリアだ

5人はアレクシアの元へと歩いてゆく


「お姉さま、お連れしました」


「ありがとうレオノール。あら、キトラとシルメリアも帰って来てたんですね」


「うん、帰ってきたー」


「・・・ただいま」


手を振る二人

身長はキトラの方が大きくなっている


「すごいな、良くわかったな!?キトラは最初誰か分からなかったぞ」


カンザキは驚いている

最初はキトラがわからずに敬語で話していたのに・・


「分かりますよ。女の子には分かるんです。キトラおおきくなりましたね」


シアはにっこりと微笑む


「で、あんたがスロウの王子様か?」


ん?とキャサリンがゼルをじっくりと眺めて


「あー、見たことあると思ったらお前泣き虫ゼルじゃないか!」

キャサリンがゼルを指差して言った


さあっとゼルの顔が青くなる


「あ・・あ・・あああああああ」


ガクガクと震え、思い出される苦い記憶


子供のころから強かったゼルは調子に乗っていた


その時、ルシータに出会う

当時既に勇者に目覚めていたばかりだったルシータにゼルは敵うはずもなく


「ぼっこぼこにしたんだっけー」


「くっ・・あれから強くなった・・アンタよりも強く」


苦い記憶に意地を張るが


「なったつもりですよね」


アレクシアが追い打ちをかける


「まぁ、シアに負けるくらいじゃ無理だね」


ゼルの視界の向こう側では束縛を解かれたフェンリルがぐったりとしている


そこに黒髪の少女がとことこと歩いていき


あ・・・蹴った


鼻先を蹴られたフェンリルがきゃいんと鳴いて吹っ飛ぶ


は・・・?


そこに追撃しようと追いかける黒髪を、さきほどのリヴァイアサンが止めに入るが、彼女もまた吹っ飛ばされている


え・・・?


「おい・・・」


「なんでしょう?」


「アレはなんだ・・?」


ゼルの指さす方向には黒髪の少女がフェンリルをぼこぼこにしている


「あーーーーー!むーたんこら!止めなさいって!!」


カンザキが走って止めに行く


「ああ、むーたんですか。バハムートの化身ですよ」


アレクシアがそう言ってくすりと笑う


「バハムートだと!?どうなってやがる・・神獣の王だろう!?この国は・・いやお前らおかしいぞ!!」


それはゼルの心からの叫び

先ほどまで世界最強と自信を、自覚をもっていたのがへし折られ続けている


「お姉さま、こやつの剣技はいかがでしたか?」


「レオノール、貴方のほうが遥かに厳しい剣ですよ」


「そうですか・・。おい、お前!!」


レオノールがゼルに近づき、首元を掴んで引き上げる


「お前、強い女が好きだそうだな。喜べ私が嫁に行ってやろう」


「なっ!?」


「そしてスロウの国はウルグインの属国になる」


「そ、そんな事をしてみろ。戦争になるぞ」


「安心しておけ。今、お前の見ている戦力だけでスロウの国など滅ぼせる」


だがゼルは自国の軍隊の強さにも誇りと自信がある

特に将軍の軍隊を率いる才覚は自分にもないと絶大な信頼を置いている




そしてずいぶんと物騒な物言いのレオノールは腹が立っている

実のところ、かつてレオノールはゼルに憧れていた事があった

だが今のゼルは期待外れと言う他ない


「まったく、こんなにも弱いとはな」


今のレオノールは天才ミナリに師事し、かなりのレベルアップをしている

少し前から剣技を見ていたがどうあがいてもレオノール以下としか思えなかったのだ


「うぇぇぇぇん・・・」


「ほら、泣くなよ男の子だろ?」


むーたんとりーちゃんに連れられて

一人の男の子が歩いてくる

カンザキがそれを諭すように慰めていた


「ゼルぅ・・ごめんー・・」


ぐじゃぐじゃに泣きながら謝る男の子


「だ、誰だ!?」


「ふぇんりる・・・・」


「は!?」


「はぁ・・召喚獣の最高峰の神獣を召喚しておきながらコミュニケーションが取れてなかったのが貴方の最大の敗因ですね」


アレクシアにこんこんと、説教されるようにゼルは聞かされる

もちろん正座だ

簡単に言えば、召喚獣には大まかに二種類に分けられる。

1つはレプリカ

1つは本物

本物の神獣と契約している場合には、その本体が現れる

当然意思もあれば言葉も喋る

その上位種になれば人化も容易だ

レプリカの場合は力を貸しているだけで、倒されると消えるが再び召喚可能

本物の場合倒され、死んでしまうと再召喚は不可能

と言うことだ

その中でもフェンリルは上位種にあたる

おそらくは初代スロウ王が契約したのだと思われ、それが代々伝わっていたということだ


「初代王は強かったよ。ゼルの10倍くらいは」


フェンリルがそう言った

契約で代々仕えていたらしい

一族を護ると約束をして


「でももう無理・・お姉ちゃんに契約を破棄させられちゃったから」


「ま、そういうことじゃ。ちなみにフェンリルはレオノールに付いておくのがよかろう」


むーたんがそう言ってカッカと笑う

それは代々受け継いできた召喚獣を奪われたということに他ならない


「そんな・・バカな・・・」


項垂れるゼルにカンザキは肩にぽんと手を置くと


「ま・・諦めろ・・キャサリンとシアに目をつけられちまったのが不運だったな」



「カンザキ、これで4か国統一完了!!」


あの祭りでの「余興」であり「茶番」であった筈の「策略」

それをこそこそと本気でやっていたキャサリン一味

ついにスロウを手に入れたということのようだ



キャサリンがピースサインをして笑顔をしている


「策略こえぇ・・というか、レオノールはいいのか?」


「ああ、構いません。どの道三女である私はどこかに嫁に出されたのですから。こんなのでもそれなりには強いですし、国が荒れるとなれば治めるのもなかなか面白そうです」



「そうか」


「人となりはともかく、この男もなかなか矯正が面白そうですよ」



哀れゼル…同情だけはしてやる

それにしても4か国で同盟なぁ…うん、大陸外の国が入っていないのが救いだな・・・


「と、言いたいとこだけどさ。こないだの騒ぎの時に更に外界の国、魔族の国が確認されているんだよね」


は!?


「次はそこ狙いかな」


それを何故知ってる!?


「おやカンザキくん意外そうな顔をしたねぇ」


キャサリンがにやりと笑う


「私の情報網を舐めないでもらいたいね。な、むーたん」


「んむ。毒を喰らわば皿までじゃ。全てを手に入れるにはまだまだ遠いぞ」


てか情報源近っ!

ヤバイ。知らない間に色々話が進みすぎている!!


「当面は4国の統治と安定ね。大陸に隠された遺跡ダンジョンの発掘作業も並行して行うわ」


「隠された?」


「そう、表面上記録に残っていない時代の物らしいわ」


なんだそれ!それはちょっと興味あるな


「お姉さま・・・さすがですカンザキさまが興味深々になってますね」


アレクシアは姉を本当に尊敬している


「な、なあ俺はこれからどうなるんだ・・?」


ゼルが言った


「お前の国へ私も一緒に行き王位継承、さらに私との婚姻の上にウルグインの属国になる。既に父王は説き伏せてあるから心配するな」


レオノールは面倒くさそうに言った


あれ?同盟じゃないの?


「何だと!?」


「あと守り神であった神獣フェンリルは私が継承したのだから、当然王は私だ。英雄の血に溺れたスロウと言う国は私が立て直す。それがフェンリルの望みでもあるようだからな」


こくりと頷くフェンリル


「本当の外敵は大陸外の勢力らしいぞ」


「大陸外だと!?」


現在の常識にはない、大陸外だ。

伝承すらも失われた過去の話

ゼルですら、それは知らない事だった




ガアアアン!



蒼い雷が落ちる



「お兄ちゃん!大丈夫だった?」


ミナリとヴァネッサだ


この2人は気が合うらしく、良く行動を共にしている


「今回も俺は何にもしてないよ。シアが全部片付けちまってる」


「あはは!そうなんだ。シアお疲れ様」


「ミナリさんこそ、スロウの根回し終わったんですね」


「楽勝だったよん。ヴァネッサも頑張った」


「はぁ・・貴女達は本当に落ち着きが無いのね」


「ヴァネッサだと!?今まで何処にいた!!」


お?元気が無かったのに元気になってきたな


ガン!とゼルがヴァネッサに蹴られて更に壁にめり込む


「がはっ」


「こっそり森に隠してたスロウの軍隊、もう機能してないわよ。ミナリと私で将軍もろともぼこぼこにしておいたから」


「ば、馬鹿な」


ゼルの最後の希望も叩き潰されてガクリと気を失った


「まあ、今回はこれで一件落着だな。かなりデカイ話になっちまったなあ」


カンザキはため息をつく


「最近やたら影が薄くなってきたなあ」


「元々じゃない?」


久しぶりに会ったせいか、みんな話に花が咲く


「へぇ、キトラとシルメリアは見違えたわね」


「うん。ミナリお姉ちゃんもなんか美人になったねー」


にこやかに、話していると全員の意識が

逸れた


その瞬間を逃さない


ゼルは隠し持っていた一振りの聖剣の柄を取り出し、こっそりと唱える


例え奇襲であろうがー


勝った者が正義だ


「光よ・・・目の前の敵を殲滅せよ」


柄から生まれる光の剣はアレクシア目がけて伸びていく

さらにキャサリンやレオノールにも光は枝分かれで伸びていき


突き刺さる


「フハハハ!死ね!死ねぇ!」


ゼルの目の前には光の剣に突き刺された3人の姿がー



「まったく、油断し過ぎだ」



カンザキのその手にはひろった剣

久々に抜かれたのか、多少輝きがにぶっている


ギィン



ゼルの手元にある聖剣の柄がカンザキによって切り落とされていた


伸びていた光の剣は実体化を完了させる寸前に力を失う



「ば、馬鹿な!」


「お前そればっかりだな」



カンザキは可哀想な男の肩に

優しく手を置いた





数日後




フルボッコにされたゼルはスロウの国に送り返された

その後、レオノールによるスロウ国の統治がこっそりと始まったらしい


前途多難だな


ちなみにゼルの持っていた聖剣はかなり貴重な物だったらしく、ねこさんが修理をすると持ち帰った。後で聞いたらかつてユキが持っていた物だったらしい。何故かスロウに渡っていたようだ



「みにゅたん、私ら出番無かったね」


「お留守番だしねー。あ、ユキこれも洗っておいて」


「はいよ」


「それにしてもキャサリンはシャレんなんないね。大陸統一って」


「さすが私の子孫ですわー」


ユキはケラケラと笑う


「さすがに大陸外いくと他の神が黙ってないよ?」


「大丈夫じゃない?この店にも神様いるんだからさー」


はぁ、とみにゅうはため息をついて


「やべぇなぁ…逃げよっかなあ」


そう呟いた







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