第142話路地裏のルネ5

死霊術師


ネクロマンサーと呼ばれる彼らは、魔法使いとはまた違う力を使う

縁(えにし)の力、霊力、カンザキやミナリの実家ではそう呼んでいたものだ


しかしながらここは日本でもましてや地球でもない

もはやそこでは失われた力すら、普通に扱う異世界


だから、思い描く死霊術師のイメージというものは少しばかり違う


特にミナリなどはまさにその勘違いをしてしまうのだが



長かった黒髪を、気分転換とあっさりと短髪にしたミナリは死霊術師と聞いてまず言ったのは


「この世界、死者の霊魂とかそういうの普通にあるわけ?」


である


実はミナリの実家では妖の調伏、神霊への祈祷などを行っていたが死者の霊というものはまた別物で、そこはやはりありえないと言うスタンスだったりしている


もしそんなものがあるのなら世界はきっと、ソレで溢れてしまうだろうから

だから人は輪廻転生と言う概念を作り出したとも言える

現世に留まることが出来ないのだから、当然世界は霊で溢れたりなどしない訳だ



で、ミナリが問うたのはソレだ

霊などは居ない事をミナリは知っている

人が死ねばその魂は即座に消えてしまうところさえ見たことがあるから死霊術師なんてきっとインチキだろうと思う


でもここは異世界だ、きっと常識が当てはまらないとミナリは肌で感じているからこそ出た言葉である




「あーっとな、俺もそう思ってたがなあ…実際転生とかその辺はあるだろ?」


「それは日本でもあったじゃない。ただ留まることが出来ないと同時に呼び出すことも不可能よね?イタコみたいなものなの?」


カンザキはあたまをかきながら、言葉を選んでミナリに説明しようとする

なんとか考えをまとめて口に出す


「俺がこの世界で知った死霊術師ってのは、その目的は死者の復活だったり不死だったりするようなんだ」


「ふぅん、私たちのところは怪異とか神とかならその手の誘惑をしてくるんだけど、こっちは人がやるの?」



「詐欺じゃねえよ、ガチめなやつ。流石に復活は無理みたいだが、擬似的な復活、つまるとこゾンビだな。それはある」



だからきっとルネの目にかかわる死霊術系の何か、それを探しに墓地へと向かったのだ






ガチャリと開けたドアの向こうにいたのは一人の老婆である

そしてその老婆はカンザキの知り合いでもあった


「ああ、来たね。カンザキ」


相変わらず読めない老婆だなぁとカンザキは思いつつ、問いかける


「ええっと、最近ここらでなんつうか、怪しいやつとかいねぇか?」


老婆はカンザキをその室内へと招き入れ、テーブルに着かせてお茶を入れる


カンザキはそれを怪しむそぶりすら見せずに、ズズズと飲んだ


「相変わらず、だねぇカンザキ。わかっているよ、小さな女の子だね、その子のために動いてる」


ほら、やっぱりとカンザキは思った


この老婆はカンザキが何をしにここに来たのかを問いかける前からその問いと、答えを知っているようだった


「ふうん、その子の目を取り戻すだけでいいのかい?」


「だけって・・・どうやら兄弟もいたようだけど、まさか生きているのか?」


「そうじゃないんだがね・・・相変わらず欲はないんだね」


どういうことなのかと、カンザキが老婆に問うと



ルネの目は「妖精眼」と呼ばれるもので、力や魔力の流れのようなものが見えるそうだ

見えざるものが見える


ただし、それも二つの眼がそろっていればだそうだ


「遠からず、その眼を持つものはカンザキの前に現れるよ…あとその子の兄弟、それどころか一族は、だけれどもう絶えているね」


「そうか」


「まぁアンタが気落ちすることじゃないさ。よくもまぁこの時代まで続いていたもんだね」



そこまで聞ければカンザキにはもうここには用はない


どさりと、荷物・・主に野菜だがそれを置いて


「これ、お礼な。俺の畑でとれた野菜。これでいいんだろ?」


「ああ、十分さ・・・それと今回はそうだね、その子の眼がそろったら一度ここに連れておいで」


それに頷くとカンザキは外へと出て行った


老婆はカンザキのおいていった野菜を魔法で生み出した黒い穴へと放り込む


「さて、珍しくカンザキが動いてるならもう平気だねぇ‥‥」



それだけ言うと、ふっと消えた

室内はまるで誰も居なかったかのように明かりは消え、そしてカンザキに出されたお茶のグラスだけが残されていた





それから数日後の出来事である

カンザキとルネはダンジョンの中へと潜っていた

あの畑のある場所である


ここには132層ー

カンザキがこそっと畑を作っている場所である

ただ最近になると高レベル冒険者がたまに来ることがあって、ちょうど鉢合わせになった時などは大層驚かれる


「おとーさん、これ、そこの箱にいれてくの?」


「ああ、頼んだ」


「うん」


ルネはすっかりカンザキになつき、どこにいくにもついてくるようになっていた

それはもとより与えられる機会が無かった親からの愛情をいうものを求めているようにも思えるのだ


そんなルネを眺めながら、カンザキは覚えのない気配に気づく

それらは畑からはまだかなり離れている


気づいている、それらがルネの眼を奪ったやつらだということに



「痛い・・・」


ルネが無い方の眼を、抑えている


「どうした?」


「うん、なんか目が、痛くて」


ふらりとして、ルネはその場に倒れてしまった

駆けつけると顔を赤くし、息は荒い

手はその爪で目を搔きむしるように顔に伸びている


カンザキは心苦しい


その姿を見ると


「あの婆さんが言ってたやつらが来たか」


ここはそれでも、ダンジョン132層

相当の実力者でなければ来ることができない

あの墓地で会った後以降、ルネとはなるべくこの階層で過ごしていた


それは相手の眼をくらまし、諦めてもらうつもりでもあった

なかなか尻尾をつかませないその相手


遊んでいたわけではない

ウルグインの闇に潜んだ人間を見つけることの難しさがあるのだ


そりゃぁ誰が数えたか100万人居るっていう話もあるからなと、カンザキは思ったのだ


そして方向転換、ルネを隠す方へと行動を変えていたのだが…


「ふふふ、ようやく見つけましたよ…今までよくもやってくれましたね」


その男は疲弊しきったような顔をしていた


「何の話だ?」


「しらばっくれるんですか…いいでしょう、あの金色の悪魔もその眼を手に入れることができればたいした敵にもなりえませんからね」


金色の悪魔…もしかして…思い当たる顔はひとつ

そんな事を考えていると


「さて、頂きますよ…我が秘儀の贄とおなりなさい」


そう言って本を開き、そこに血を垂らすー


「甦れ渡り飛びし鬼よ、我がしもべとなりて」


地面から噴き出すのは風ではない


「こいつは…」


「ははははは!こいつには魔法の類は効きません!異世界より呼び出り!」


それはカンザキのよく知る


「鬼」


そのものだった


イメージでは棍棒を持っていると思いがちだが、そいつは帯刀している

体は大きく、着物を着て下駄を履いている

腰の獲物はかなり大きく長い


「俺の身長くらいありそうだ」


「グォォ・・・」


しかしその鬼、意識はない


「生きてたら、酒でも飲み交わしてくれたんじゃねえかな…」


カンザキはそう悲しそうな表情をして、背中に背負っていた剣を抜き放った










「あー、ごめんね?ちょーっと追い詰めたまではいいんだけど逃がしちゃってさ」


キャサリンは片手を顔の前に出して、ごめんのポーズを取る


「いいんじゃねぇか、あいつの隠し玉の鬼は俺かミナリじゃねぇと倒しても起き上がってきそうだったしな」


起源が分からないとあの手の「妖気」を放つ相手は滅する事が難しかっただろうし


「でも良かったじゃん、ルネの眼…少し傷は残っちゃったけど」


「そうだな」


「んで、アンタが引き取るってことで確定でいいのね?」


キャサリンはカンザキに向かってそういった


「ああ。問題ねぇ、カンザキ・ルネ。これがこいつの名前だよ」


そう言って焼肉屋の店内を掃除して回っている、まだ小さな女の子を見る



あの132層での男はある組織の首領だったらしい

カンザキが132層に隠れている間にキャサリンが見つけ、追い回して組織は壊滅させていた


そこで一発逆転ができるルネの「妖精眼」を求めあの階層にやってきたのだ

確かに他にも何体か死霊術で操るモンスターが居た

それに苦戦まではいかないものの、手を取られたが倒し、ルネの眼を奪還した


眼はルネに近づけると消えるように吸い込まれていった


なんでも、あの眼はこの世ならざる者を見る特性上そういう存在なのだということだった



「なんにせよ、俺の子だ。ちゃんと色々と教えて、育ててやらんとな」


「優しい子になりそうだね」


ああ、本当にその通り優しい子に育ってほしいとカンザキは思うのだった



その日、焼肉ゴッドから笑い声が絶えない日々が続くことになる

幸せそうな、声が





----------


難産ゆえの消化不良でした…

次の話を考えすぎておざなりになってしまうという悪循環してました

てことで、次の話書きたくて書いた話でしたー


次回・外伝?です

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る