第141話路地裏のルネ4

カンザキという男は目立たないだけで「表」でまっとうに生きてきた人間である

たとえその行動が世界の根源に至っているとしても、人の世界では表と裏がある


そういう意味でカンザキはあくまでも表で生きてきた人間なのである


仕入れこそダンジョン奥地にて、ミノタウロスやオークだけでなく幻想種までも容易に狩ってくるので

どうかしているとしか言えないのであるけども


対して、キャサリンはかつてカンザキと出会った後に地域を回り孤児を保護していたことがある

キトラがそうだ

だから、キャサリンは積極的に裏にかかわろうとはしなかったが、それでも裏に触れている





閉店後の店内ー焼肉ゴッド


そこにはキャサリンと、カンザキが向かい合って客用のテーブルに座っていた


「はぁ、ショウヘイんとこのソシアとナートにも手伝ってもらって調べたよ。極めつけはシアの召喚のリーちゃんね」


「ルネの、眼がなぁ…」


「間違いなく、ルネとつながったまま現存…いや、生きてる。だから回復魔法や回復薬で復元しないわけだよ。それをやるならつながりを切断しなきゃなんないけどそんなことをしたら」


「ルネに影響がでる、か」


「そう。視覚的なつながりじゃなくて、魂そのもので繋がってるんじゃないかってリーちゃんがね」


シアの召喚獣のリヴァイアサンが呼び出された際にルネの眼を見て出した結論である。


ルネの奪われた眼は、何らかの呪術的または魔術的要因が絡んでいる



「何のためにとか、どんな力があるとか関係ない。ルネの眼を戻す為に必要なんなら取り返すまでだろ」



「そうだね、なんかカンザキ、ルネにやたらめったら甘いよね。なんか本当の娘なんじゃないかって思えてきちゃったよ」


そうキャサリンは思っていた。なんと言うか、あまり他人に深く関わらなかったカンザキがルネには本当に父親の様に接しているのだから

ルネはルネで、カンザキをおとーさんと呼ぶようになっているのもある

それを見て、キャサリン達は嫌な気分などなくむしろ癒されていると言っても過言ではない


「まあな、ちゃんと引き取る事にしたよ。偽善かもしれないが、俺程度で出来ることがあるならしてやりてぇと思うし」


照れながら話すカンザキに、キャサリンは微笑みながら


「偽善な訳がないじゃん。事実ルネは助かってるんだし、もしもカンザキに出会ってなかったら残った眼も狙われてたかもしれない、命が無かったかもしれない」


「ああ」


「だからさ、世の中の善行において、偽善なんてないのさ。それで救われている人がいる限りね、ちなみにどんなものであれ、見返りを求めているのは善行とは呼ばないけどね」


そうキャサリンは言葉を繋げる


確かにカンザキは見返りなどを求めていない。単純に助けたいと思っていたからだ



「だからさ、気にしなくていいのさ。私だってキトラやシルメリアをそんなつもりで育ててた訳じゃないからね」



それはきっと、あの子たちこそがよく分かっているだろう

見ていたカンザキだって思ったことなどない


「まあ、気にしなくていいのか」



そう吹っ切れたようにカンザキは笑った







鹿の被り物を被った男がどたどたと走っている

走る事は苦手ではないのだが、どうにも足がもつれる


「うっそだろう、止めてくれよ!はぁ、はぁ、くそー!」


見えない何かから逃げている

その背後からはふわふわと青白く光る丸い何かがいくつか追いかけて来ていた


もう限界だ


そう思い足を止めて、必死に呼吸を繰り返しながら振り向けば余裕を持ってその青白い珠はふわりふわりと鹿男を取り囲みつつあった


これはもうダメだと、正直諦めた時だった


「光よ打ち払え我が剣に宿りその力をー……」


己の呼吸音で聞こえづらくなった鹿男の耳に詠唱が聞こえた気がした


その青白く光る珠が次々と切り裂かれていく


「なん…」


「大丈夫ですか!あなた!」


切り終えて、その大きな剣を鞘に納めながら立つのは巨躯の女性

しかもとびきりの美人だ


「シ、シャル!ありがとう、助かった…よ…」


鹿男は力が抜けたのかどさりとその場に倒れ伏したのだった


「あなた!」


シャルロットは倒れた自らの夫を片手で抱き抱えると、先程切り捨てた光る珠の浮いていた場所を見る


「神聖系統が効いたと言う事は、あれはやはり邪なものでしょうか?何にせよ間に合って良かった…」


愛する夫の危機を何とか間に合ったと優しい笑顔で安堵したのだった





キャサリンの頼みにより、ルネの眼を奪った連中を探る


それが鹿男がこっそりと行っていた事である

その中で、青白く光る珠に追われる羽目になった



「あの珠に触れると、どうやら気が狂うらしい…興味本位で触れた冒険者が突然あたり構わずに剣を振り始めるのをみたんだよ」


キャサリンは鹿男の報告を聞いて、思案する


「死霊使いが絡んでんのかね」


「なるほど、それで神聖系統が効いたわけですね」


シャルもその意見に頷いた

であれば、後のことは簡単だとキャサリンは鹿男を見舞ってからカンザキの下へと向かう




死霊使いが絡んでいるとなると、ウルグインで探すのは一箇所しかない


墓地である


この大きな街に数ある墓地の中でも死霊使いが潜んで居そうな墓地となるとそれは限られてくる



ウルグインのダンジョン、その中にひっそりと石碑がある


ダンジョンで命を落とした名前も分からない冒険者の慰霊碑


ここへ訪れる人間は少ない

なぜなら、誰かとも分からぬ者を祀っているのだから


その石碑の裏には運良く残った遺物を納めるための建物がある


折れた剣、血塗られたローブ、割れた盾…


まるで廃棄物のようなそれらは冒険者の所有物だったものだ


それらを纏めて納めている建物のすぐ側には管理小屋が建っている



「ま、ここいらに居るのが妥当だよなぁ」


カンザキは頭をかきながら、コンコンとその小屋のドアをノックした

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