第140話路地裏のルネ3
ほんのりと近頃カンザキの店に可愛らしい店員が入ったと噂になっている
その子は見た目、まだ8歳程度の小柄な娘で
とても良い笑顔の娘で、一生懸命働いていると言う
眼帯をしているので、片目が不自由だということだがその笑顔に癒される者は多いとか
しかも、信じられない話だが、とても強いのだそうだ
何せあのドワーフどもが大挙して押し寄せ、店の酒を飲み干そうとしても彼女がただ一言
「飲みすぎ!ご飯、食べて!」そう言うだけで素直に食事をすると言うのだ
また、あの小柄な金髪美女のキャサリンでさえも彼女には甘いと言う
ある噂ではカンザキの隠し子ではないかとも言われていて
その母親は、キャサリンともシアとも言われているし、キトラやシルメリア、ミナリとも皆好き放題に話しているのだとか…
◇
ルネをカンザキが拾ってきて暫くして、ルネも随分と焼肉ゴッドに慣れた頃
ある日、シアがカンザキに問いかけた
ルネの、あの眼は治せないのかと
実のところカンザキもそれは気になっていてこっそりと最上級回復薬を使ってみたりはしたのだが
治りはしなかった
医者のセンセイにも相談したのだが、カンザキの持つ四肢の欠損ですら治す回復薬ですら治せないのであれば呪いの類ではないのかと言われる始末である
ルネは大して気にしていないのだが、それが何より周りの大人を心配にさせている
治す方法を探すという手もあるのだが、現状どうすることもできないでいた
それでも、カンザキとその一味はルネを本当の我が子のように扱う事でその感情を紛らわせていたのである
カンザキがルネを保護して38日目ー
「こんにちはー!お姉ちゃん!」
「お久しぶりね、エルマちゃん。あれ?えっと、お父さんは?もしかして一人で来たの?」
アイエテスが娘として育てている、エルマが焼肉ゴッドにやって来た
どうにもアイエテスが忙しく、見知ったシアの所に遊びに来たらしい
ちなみにシアから見てエルマは妹という認識になっている
これはアイエテスが育てているからで、エルマも姉と認識していたりする
店内を掃除していたルネがその声に惹かれて顔を向けた
「エルマ・・・?」
それを見たエルマも、少しばかり動揺する
この店に前に来た時にはいなかった少女を見て、何故だか心が震えてしまった
「え?・・・だ、だれ?」
「ルネだよ」
「ルネちゃん!」
ぱぁっと顔を明るくするエルマは、そのまま自分よりも一回り小さいルネに抱き着いた
「かわいい!」
そういってぎゅうぎゅうとルネを抱きしめる
エルマも実は同い年くらいの友達と言うものは今までいなかった
だから焼肉屋にいるルネがもしかしたら仲良くなれるのではと、テンションが上がってしまったのである
それだけではない、運命の出会いみたいの物をホムンクルスであるエルマが感じたというのは理由があるのだけれど、それは本人たちにはわからない
「エルマ、苦しい」
ルネがエルマのお腹を両手で押しながらそう言った
「あ、ごめんね」
そんなやりとりを見ていたシアは、エルマにお小遣いを渡して二人で遊んでおいでと送り出していた
こそっと見守るためにリヴァイアサンを召喚し、小さくさせて不可視の状態で尾行させている
何かあったらすぐ連れ帰るようにと命令を与えて
そうとは知らず、エルマとルネはもらったお小遣いで買い食いしようとお菓子屋さんにやってきた
そこで今街で流行りのお菓子を買い、近くの噴水公園で食べようと移動する
そこには今人気のジュースを売る露天があるからなのだがそこではあるトラブルが起きていた
「なあ、勝手に商売されるとよ、こっちも商売にならねぇんだわ」
「しかし、その、許可は貰ってまして…」
「ああん?俺は許可してねえけど?誰の許可なんだぁ?」
露天の店員に絡んでいる男達がそこに居た
かなり良い服を着ている三人が、一人の店主の男に詰め寄っていた
明らかに、表の者ではない三人組の一人、スキンヘッドの男が店主の胸ぐらを掴んで凄んでいるのだが
「すみません!ジュース、下さい!」
エルマは何も感じていないのか、店主に向かってジュースを求めた
逆にルネはその男達の雰囲気に覚えがあり、俯き、エルマの服の端を掴んで怯えた
「え、エルマちゃん、やめよ?」
そう進言するルネの声が聞こえていないのかエルマは再び
「ジュース、おいくらですか?!」
大きな声で店主に向かって言った
店主は逃げろと目で合図をするが、エルマにそんなものはわかろうはずもなく
公園の中にいた人々はそれを心配そうに見ている
誰も、この集団に関わろうとしない
「あのなあ嬢ちゃん。ジュースは売り切れだ、他を当たりな」
スキンヘッドの男がそう言うと
エルマは屋台にある大きなガラス瓶に入れられたジュースを指でさして
「まだあるよ!そこ!おじちゃん!」
そう笑うエルマにスキンヘッドは
「はあ、お前ら、このガキどっかに捨ててこい」
スキンヘッドの男は後ろに控えていた男達に命令すると、男たちはやれやれと言った雰囲気でエルマに掴みかかる
そもそもエルマに対しての敵意がない
それゆえにエルマも感じていないから反応しなかっただけなのだ
だが、今は若干だが敵意を感じはじめて
掴みかかる手をひょいと身を交わして避ける
エルマにつられてルネはよろける
そこを、男に掴まれた
ルネの髪の毛を
「このガキが気持ち悪い眼帯なんぞしやがって」
本来のルネならば、この程度かわすのは容易のはずであった
しかし怯え、震えて居た事で捕まってしまう
「ぅぁ」
そして、ルネはひょいと持ち上げられて男に放りなげられてしまう
それを見たエルマは
「ルネちゃん!」
無意識に転移を発動
ルネを受け止められる位置に移動し、飛んできたルネを抱きしめて
顔をみつめて
「大丈夫?」
「え?あ、うん」
ルネの、残った瞳が潤んでいたのを見るなりエルマは
「ちょっとあの人たち、おしおきしておくね」
言うなり、ルネを降ろすと
「おっちゃん達、小さい子虐めたらダメだよ」
そう言ってどこからとも無く取り出した金属の棒で
「うごっ!」
「うげっ!」
「うがっ!!」
一瞬で叩きのめしてしまった
流石に手加減は忘れていないが、それでも与えたダメージは相当だった
そもそも男たちにはエルマがどう動いたなど見えていないのだが
そしてふんすと鼻をならすエルマだった
「まったく、とんでもない子供ね」
「あれ?」
エルマがルネを見ると、見たことの無い美しい水色の髪をした女性と手を繋いでいた
「だれ?」
エルマはまだ居たのかと、その棒で殴り掛かるが女性は簡単にソレを手で受け止める
「こら!私は敵じゃないわよ」
エルマがルネを見ると、ルネは
「えっと、りーちゃん!シアちゃんの、お友達なの!」
「あれ!?ご、ごめんなさい!?」
「まあ、いいから、ジュース買ってきなさい。こっちは私が始末しとくから」
そう言って棒を離すとエルマとルネはジュースを買いに露天へ走って行った
りーちゃんと呼ばれた女性は倒れた男三人に近づくと
「はあ…あの子ほんまとんでもないわ…死なないギリギリじゃない」
手をかざして癒しの光を男達にふりかけた
みるみる癒される男達に
「それじゃ、ついでにルネちゃんが怯えてた理由も聞いておこうかな。シアちゃんもそれなら許してくれるでしょ」
ルネが害されそうになった失態をそう言って男達と共に消えた
エルマはりーちゃんを忘れて、ジュースを買って嬉しそうにベンチに座ってルネと飲み始める
周りから見たら仲の良い友人同士に見えた二人である
ルネは、先程の男達をりーちゃんが連れ去るのを見て
無いはずの片方の目が、疼いた気がした
ただ、さきほど助けてくれたエルマをカッコイイと思う方が勝っていたから
ルネはエルマを、ヒーローか何かだと思うようになった
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