第108話番外? 日本帰還編 6
「かはっ!!!」
ち!結構いいの貰っちゃったわね・・
膝をつきながらミナリはこれはダメかもと、覚悟を決める
「なんという子なのだお前は・・・・ここは我ら以外の霊力は万分の一に。逆に我らの力は十倍になっておるのだぞ」
白頭巾の一人がそんなことを言っているがミナリの耳には入らない
見据えているのはただ一人、父の奥に座っている弟だ
膝をついて苦しそうにしているミナリの元へ父はゆっくりと歩いてやってきて
「どれほどの修練でその力を手にしたか知らぬが・・ここで勝ち目があるわけがないだろう?ミナリ」
辺りには百人ほどの白頭巾が倒れていたのだが、ミナリの父が右腕をすっとあげると
その半数が立ち上がる
「大したものだ・・それでも半数しか戻らぬか」
高天原の恩恵を受けている父らに対し、ミナリは全ての力が制限されていた
そしてその状況は彼らより遥かに強いはずのミナリでさえ、及ばなかった
「さて、大人しく帰りなさい。しばらくはその力封印させてもらうが悪く思うな」
父なりの優しさとでも言おうか、力の封印だけですませようとは
ミナリは思う
父が保守派だったことは誤算でもなんでもなかった
そう予想していたから
だが、この高天原だけは予想外だった
神裂家の党首にだけ伝えられた秘伝
亜空間創生秘術の「高天原」
術者に圧倒的な有利をもたらすその術の力はこの世の全てを圧倒する
「さすがに・・・シン兄ちゃんに頼るなんて考えが出てくるあたり私もまだまだ未熟だなぁ・・」
そう口から出た言葉に父は
「シン兄?ああ、あの無能力のあいつか。そういえばお前は幼いころからあの者の後をついて回っていたな。それに頼るだと?この本家にすら一人で入山出来ぬ出来損ないの男などに何ができると言うのだ」
父は笑うこともなくそう言い放つ
「知らないからよ・・・あの人の今の強さを・・・・」
「ふん・・・夢ばかりみているからこうなる。少しばかり強い力を得た程度であのお方を祓おうなどと思い上がりおって!しばらく存在そのものも封印してやる!反省しなさい!」
そう言って呪を唱え始めた瞬間
ガリリッ
ゴォォォォ!
歪な音を立てその侵入者達は現れた
「おーい、ミナリ生きてるか?」
それはミナリが待ち望んでいた、ヒーローそのものだった
絶体絶命の、ほんとうにぎりぎりのタイミングで現れる
好きで、憧れで
だから、カンザキはいつも通りの飄々とした雰囲気のまま高天原に降り立つ
「なんじゃ、我が生きておるから大丈夫だと言っておろうが」
それは黒髪の少女、だがその霊力は万分の一になったからこそ分かる膨大な力の塊だった
彼女が喋るだけでぞくりと身を震わせる程だ
「ちょ、あのなぁ、そう言うけどやっぱ心配にはな・・・お。居た居た・・お父さんも一緒か、なら大丈夫だな」
しかし、カンザキからは何も感じられない
そんな男は、トコトコと呑気にミナリの元へと歩いていく
「なんだ?貴様、どうやって入ってきたのか知らぬが帰れ」
状況が不明になる。白頭巾の一人がそう言った
その言葉の途端に、起き上がっていた白頭巾達がカンザキに襲い掛かる
手に持つ銅剣でカンザキに切りかかるもー
「なっ!」
さらさらと全ての銅剣が砂へと変わっていく
そこに
「光よ」
両手に剣を生み出したアインが起き上がっている白頭巾を切り倒していく
「お、おい殺してないだろうな!?」
「大丈夫だって、それにあわてんなよカンザキここは日本だぜ?殺人罪はごめんだよ」
そう言ってアインは次々と斬りかかるが、その太刀傷はない
「俺ぁもう・・・例え敵だろうとも殺しはしない・・・二度と」
アインは誰にも聞こえない声でつぶやいた
それは誰にかけた懺悔の言葉だったのか、ちらりと娘を見やった
「おとーさんかっこいー!!!」
さくらも白頭巾をその小さな手で殴り倒しながら、アイン・・相坂刀祢にキラキラした瞳を向けている
「しかしなんじゃこの変な空間は・・重いのう。なあ、おぬしなんとかせい」
「はいはいっとー。了解でーす」
むーたんに言われ、レーナが両手を掲げると
ガリッ
パリン・・・
静かな音と共に空間が弾けた
「これは・・・信じられん・・・・」
鈴木さんは思わず唸る
目の前のあり得ない光景に
高天原は秘術扱いではあるが、そのクラスは世界創生級だ
それをいとも簡単に崩した
もはや原理(りくつ)もなにもわからないその強さに鈴木は夢でもみているかのような感覚を覚える
「まさか・・・本当に神か・・・上位存在が・・」
目の前の理不尽なまでの行い全てが次元が違うと鈴木は思った
「それは違うんじゃないかの?」
「どういう事ですか?」
鈴木の問にむーたんが答える
「我らはなんら、お主らとかわらんよ。鈴木と言ったの、この中で一番強いのは誰だと思う?ああ、純粋な力比べの強さと言う意味での」
「それは・・あなたかあのレーナと言う娘では?」
「ふん、それは違うでの。まあそう見えなくもないか。この中で一番強いのはカンザキよ」
「え?」
「お主がよく知るあの男じゃな」
見れば、カンザキはミナリの父を一撃で沈め、さらにミナリの弟に巣食う「神」をどうやってか引きずり出していた
「アレはお主がよく知る人間じゃろ?わずかな時間であれ程の力を得た」
「そ、そんな・・あなた方竜神が・・力を貸しているかしているのでは」
「いいや違うな?私らは神ではない。また、そんな存在は知らぬ。神とは理解の及ばぬ存在じゃろ?であれば人助けなど無意味な事はせぬだろ・・・そして我はカンザキに敗れておる。力を貸す必要などない」
あのみにゅうとかいう神を見ればそれが分かるだろうと言いかけたが、鈴木らは知らなかったなと言葉を止める
「では一体これは」
「大切なのは己の魂の在り方じゃ、そしてそれが必要な力を得るための根源じゃな」
むーたんはそれだけ言うと、カンザキの元へと歩いて行った
「魂か・・・しかし、これはそれだけでは・・・」
「そんなことはどうでもいいの。だってミナリちゃんが、あのこたちがみんな、しんじてるから」
ミナリの母は、今や僅か2歳程度まで若返っていた
もはや力もなにもない、ただの幼女だ
「だからすずきさん、すくってくれるから、わたしたちもシンくんをー」
鈴木はこくりと頷いた
弟に巣くう神は良しも悪くもないのだろう
ただ、この一族の救いにならなかった、それだけで
◇
「さて、出てきたな親玉が」
カンザキは魔石を口に含む
「きさま、なにを」
ミナリの弟より引きずり出されたソレは神かどうかはわからない
だが、空間を歪めまたかなりの力を擁していた
ガリガリと、魔石を噛み砕く
カンザキの体に嵐のような魔力が吹き荒れる
その凄まじい力に、思わずレーナやアインは釘付けになる
かつてのカンザキの力とは全く異質で次元の異なる力
「ちょ、カンザキなんだそれ」
「うわあ・・出鱈目じゃないその魔力・・・ていうか魔力かどうかも怪しいわよそれ」
魔力が収束していくー
「インドラ」
魔法陣が展開される
それはアインやレーナは見たことのない魔法陣だが
それと逆に鈴木や鴉、神裂家一族の者はよく知っていた
「曼荼羅?・・・あれは・・帝釈天だと!?」
曼荼羅に描かれた数々の仏の中央に描かれた三仏から顕現する一体の仏を見て
誰かがそう言う声が響き感嘆の声が漏れる
カンザキが呼び出したのは裁きの雷である
「どこの誰かは知らんが、帰ってくれよ」
「放て、ヴァジュラ」
そう放つ言葉で一つの金剛杵から雷が放たれ
そして世界が雷光で真っ白に染まる
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
落雷の轟音に全ての音はかき消され、皆目と耳を塞ぐ中でむーたんとレーナだけが目を見開く
「うきゃー!カンザキってばやりすぎ!」
「あっはっは。どうじゃ、面白いじゃろう?」
「面白いどころじゃないってー!!」
あんなものを放たれては如何に異界の存在といえど消え去るしかないだろう
「そういえば・・・弟さんに降ろされていた神とはいったい何だったのだろうな・・・」
鈴木はぽつりとつぶやいた
「ああ・・どうやら炎神に関わる存在だったようですね」
そう言ったのは清明だ
「いつのまに・・・」
「陰陽道ではない巨大な陣が見えましたので好奇心で駆けてきました」
「なるほどな」
確かに、この者が作り上げた術はほとんどがオリジナルに近いものばかりだ
それでは好奇心が強いのも納得である
「それはそうと、ご婦人・・その姿はいささかお困りでしょう」
そう言って清明はミナリの母に札を貼り、霊力を込めた
すると・・・すくすくと大きくなりやがて成人女性程度まで大きくなる
間髪入れず鈴木さんは着ていたコートをかぶせる
「おっと失礼、服の事を失念しておりました」
「まったく・・やはりあなたもとんでもない存在のようだな」
「あの方々にはかないませんがね」
そういって先ほどの落雷でできたクレーターに集まるカンザキ達を見る
「いいじゃないですか、強いだけが何の役に立ちますか。身に余る強さなど害悪でしかありませんよ」
そうミナリの母は言った
「そうですね」
鈴木は頷く
「それじゃああとは彼らに任せて帰りますか。清明さんも一緒に帰りますよね?」
「ええ、ご一緒させてください。京の結界はなくなりましたが・・あそこは私の故郷なので」
2人は皆に声をかけるまでもなく、すたすたと鴉の待つ車へと向かう
ミナリの母は、周りに倒れている白頭巾を介抱しながら後片付けを進めるのであった
◇
ジュウジュウと良い音をさせながら焼肉を食べる
ここはミナリの実家近くにある、とある名店だ
カンザキ、ミナリ、ユキとミナリの母の四人で食事に来ている
「でさ、結局どうなったの?けっこー結界あけたままにしとくの大変だったんだけど・・・」
ユキは全てが終わった後にひょっこり出てきた
どうやらミナリが通った結界の隙間をずっと開いていたらしい
「んー良くわからんが、変な気配してたんでとりあえず全員ぶっとばした」
肉を丁寧に焼きながらカンザキは言った
「シンくんその説明はないんじゃない?」
「ねえ母さん・・・なんでシン兄にそんなにくっついているの?そしてなんで幼女だったのに急に成長して・・・元の年齢ならともかくどう見てもまだそれ20歳くらいよね?どうなってるの?」
「うーん。母さんもよくわからないんだけど、清明さんって人がある程度まで年を戻してくれたのよね」
「そういやなんで若返ってたんすー?」
ユキが言った
それにはミナリが答えた
「ああ・・・弟に憑依してたやつが、弟を胎児までもどして消しそうだったみたいなの。だからその肩代わりを母さんがしてたみたいなんだけどね」
「ギリギリだったわね」
「それはいいんだけど、だからシン兄から離れなさい母さん」
「なに言ってるの・・久々に会った甥っ子なのよ!小さい頃は本当にもうかわいかったんだから」
ミナリの母はカンザキの叔母にあたるらしく、小さいころはミナリが生まれる前によく遊んであげていたとか
「俺は覚えてないんすけどね」
「もう、じゃあこれから思い出をつくればいいじゃない」
「母さん!!」
「やっぱ久々に日本の焼肉も美味いっすねー」
「そうだな、やっぱタレの種類を増やすか・・・・醤油とポン酢だけだと薄味すぎるが・・・薬味でカバーすれば」
「いやいや、あのガサツな冒険者どもにそこまで繊細な味はわかりませんって。それよりもニンニクとワサビ持って帰ってあっちで生産しましょうよ」
「ユキもなかなか良いこと言うな…でもあっちの世界で手に入れたもので再現したいんだよなぁ」
「でっしょー?だからちょっとばかし時給あげてくれてもいいんすよ?」
「考えとく」
ユキは冒険者としてよりだらだら過ごしたいらしく、カンザキの店で働いてその給金だけで暮らしている
「ダンジョン行けばすぐ稼げるでしょうに・・・」
「いいんっす。これが好きなんですよ。今生はまったりやるんです」
「いいなぁお母さんも一緒にむこうにいこうかしら?」
そう言ってカンザキにピタリと肌を寄せる母に・・・
ミナリは精一杯叫ぶのだった
「来なくていい!だからくっつくなーーーーーーーーーーーーー!」
そう叫ぶミナリはどことなく、幸せそうだった
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