第104話番外? 日本帰還編2

-狐火-


放たれた火球は一直線にカンザキに向かっていく

カンザキはちらりと鈴木を見るが、動こうとしない

火球はしっかりと目に入っているはずなのに。これは俺の力を試そうとしているのだろうと思い


適当に、あの異世界の魔法を使う


霊力と魔力が同じものなのであればー


「魔力障壁・マジックシールド」


これで十分なはずだ。だめなら叩き落とせばいいかー


本来の魔法あればドォンと派手な音を立てて爆発するが、飛んできた火球は魔力障壁に当たると


シュン・・


まるで存在が無かったかのように静かに消えた


あまりにも弱く、手加減してくれたのだろうとカンザキは思ったのだが


「ちょ!まってぇな・・・アレを消し去るなんて、ほんまにかなわんお人みたいやね」


え?


「私も驚いた・・・なんだ今のは・・・無理矢理に霊力の壁を作ったように感じたが?」


「そうですね普通に魔力障壁ですけど」


カンザキがそう言うと、二人は呆れたような顔をする


「普通な訳がないだろう?」


「西洋の魔術に似ている感じやったけど、また違うんかいな?」


「呪やまじないに使う触媒も陣も無かったな」


「ほなら、これならどうや?」


男は再び何かを作り出した

目に見えない、無数の鋭利なー風がカンザキを襲うが、結果は同じだった


「マジかいな!これで最後や!」


言うなり男はお札(ふだ)を取り出し何かブツブツと言って


「発(ハツ)!」


1人の刀を持った古武者を創り出す


武者が音もなく動きカンザキに斬り掛かる


鈴木と男の目がキラキラと何かを期待しているので


「仕方ない」


カンザキは魔法の袋より、いつもの剣を取り出し


武者をまるで本当に紙の様に斬り裂いた


しかし


「アカン!剣筋がまったく見えへん!!」


「俺もわからん・・・いつその剣を取り出したのかも含めて見え無かったぞ」


「その割にゃ、2人とも楽しそうですね」


「アハハ、悪かった!頼むから殺さんで欲しいなぁ。俺の名は鴉や、みんなからは天狗やら何やら言われとる」


「て、天狗!?って、殺しませんよ」


なぜ殺すという発想になるのか…

カンザキは驚きを禁じ得ない

そして


「んで、鈴木さん言うんはな、ぬらりひょん言われてる超有名な大妖怪様や」


「ええええ!?」


鈴木を見ると

頭をポリポリ掻きながら


「まあ、騙すつもりは無かったんだ。お前が小さい頃から気に入っててな」


「はあ」


カンザキは呆れる

霊力はなく、妖怪は見えなかったのだ


神裂家は分家の神崎家の落ちこぼれだった俺の側に、当たり前の様に妖怪が居たのだから

見えない事で悩んでいたコンプレックスを返してほしい


「で、分家の兄さんは何しに京都へ来はったん?」


「墓参りに。で、目的は本家のミナリを探しに」


「なるほどなぁ」


「おい鴉、お前なら何処にいるか知ってるんじゃないか?」


「ええ、知ってますとも。ほんでも厄介ですよ?今あのミナリ様ー、いや、神裂家は分裂してまして」


「分裂?」


「まあ、保守派とミナリ派言うたらええんかな。兄さんも分家なら知ってますやろ?20年程前にあった神降ろしの事件を」


神降ろしー


それは代々神裂家の当主が行う儀式だ

確か、まだ幼かったミナリの弟が行ってー


ある意味成功し、だが失敗した


降りた神が依代としてミナリの弟を気に入り、そして還らなくなった


だが、当時の神裂家は歓喜した

天才だと


弊害は無い訳では無い、一つの体に人間の魂と神が宿るのだから


どうなったかと言えば、当然力が強い方が勝つ


神だー


しかし、名も分からぬ神


それを祭り上げ、現人神として

確か弟は瀬戸内の島に幽閉された


「知っている」


カンザキはそう答えた


「んで、ミナリ様は未だ弟に居る神を還す言われてなぁ」


「ちょっとまて、なんでお前はさっきからミナリ「様」なんだ?」


鈴木が待ったをかける


それは確かに、違和感があった

カンザキも気になっていた。様なんてつけるなんてまるで会った事がある様じゃないか


「ああ、うちの親方にな、勝負挑んで勝ちましてん」


は?挑んだ?


「まあ、神器の鏡と剣を貸してくれ言うて来られたらそうなりますわ」


「勝ったのか」


鈴木さんが頭を抱えるようにして言った


「そら、もう俺らは見てませんでしたけど一瞬だったみたいです。せやから、ミナリ「様」になったちゅう」


「ああ分かった、シンと言い、ミナリと言い、お前らの力はとんでもない事になって居るようだな」


「ちなみに兄さん、さっきの力何割ぐらいなんです?まだ余裕あったように見えましたから」


「あー。割って言うか、1%未満かなぁ」


カンザキがそう言うと2人してキラキラしていた目がどんよりとする


「シン、お前なぁ・・・」


「アカンわ、なんぼなんでもそれは・・・ミナリ様もそんなレベルなん?これ世界のパワーバランスっちゅうのがおかしなりますわ」


そう言う事か?


「いや、俺らだけじゃな・・・」


言いかけて止める


東京にもあと2人ほど似たようなのが居ると言いかけて・・・・


----------


世界を股にかける暇つぶし女王こと水戸玲奈と蘇りし魔王黒井真央がミナリを手引きしたのは1か月前だった

といっても、何かしたわけではない。

ただ・・・・

お金を貸しただけである


----------



2人の事を思い浮かべそうになるが、今はそれどころではないか


「それで、ミナリの居所なんだけど・・・」


カンザキが聞こうとすると


「あーほんでもま、現状っつうのを話してもええかな」



鴉によれば、ミナリは島へ向かったが既に弟、「神さん」はどっかに逃げて居なくなっていた

追跡しようにも痕跡もなにもなくそれから3週間手掛かりなしでミナリは捜索を続けているらしい


当てもなくというわけではないのが救いだとか

そこで鈴木さんが気づいたように、


「そうか!神を隠すなら・・岩戸の中か!」


「そうですな、でも岩戸言うても日本中にようけありますから」


「しらみつぶしで回っているのか・・・」


「ちょっとまってくれ、なんだその岩戸って」


カンザキは思い当たる節がない

だがちゃんと鈴木と鴉が説明してくれる


「天岩戸伝説っちゅうのがありますやん?天照大御神のアレです。あれは一つの「神さん」の気配すら消す結界です。だから今回、神裂家の現人神隠すにはうってつけやと思うんですわ」


「なるほど・・そういえば分裂してるって・・・」


「それもちょっと前の話です。分裂した保守派が神を隠して逃げたって理由なんですが」


ああ、今までのやり取りでなんとなくわかった


「ミナリが強すぎて・・・誰も対抗できなかった?」


「そうですな・・・・西の妖怪連中を使ってミナリ様に当たろうとしたそうですが、ほぼすべての妖怪が敗走してるちゅうことになって・・・」


「それは本当か?」


鈴木が言った


「ええ、ホンマですわ。だからこそ神さんも逃げたんやないですか?」


「それならば・・納得がいく・・東の妖怪と、四国のも協力したと思われる妖怪が、のきなみ怪我をして帰ったと聞いてな。それでその調査に私は京都に来ていたのだ」


「ああ、それでこちらにおられたんですな。でも気を付けたほうがええですよ?ウチの親分もミナリ様の下についたっちゅうことで調子乗ってますからな、封じろなんて命令だされたのもそのせいですから」


「得心した。早々に帰ろうと思う」


その会話の最中だった


ぐらりと、地面が揺れる


「な・・地震か?」


「ちゃう!これは・・・・け・・結界が解けたんや!京都を覆う結界が!」


「なんだと!!解けるようなものじゃないだろう!!」


京都に結界?なんのだ?


しかし、その揺れ1度だけであとは何も変わった雰囲気がない


「どう・・・なってる?」


鈴木が空を見上げながら言った

鴉もあたりをきょろきょろしている


「というか京都に結界なんてあったんですか?」


「葛葉っちゅう陰陽師が貼ったクソ強力なんがあったんですが・・・」


「見事になくなってるな。アレは年を重ねれば相乗効果でどんどん強力になる結界で、それこそ1500年かしら経っている。今ではかけた術者でも解けるはず無いものになっていた筈だが」


そんな強力な結界がなぜ?

と、したところでカンザキはふと気づいた

そう言えば


むーたんがいない・・・


嫌な脂汗がでてくる


いやしかし、いくらアイツでもそんな事ができる筈は・・・


強力な結界って言ってたし


「シン、アイツって誰だ?」


「え?声でてました?」


「しっかりとな」


あー。しまった

とりあえず何をしているのか分からないので呼んでみようかと思っていたら


「おー。おったおった。主殿」


帰ってきたよ!!


「色々と聞きたい事はあるんだがとりあえず、その引きずってる人は誰だ」


むーたんは右手に1人の男の襟を掴んで引きずっていた














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る