第103話番外? 日本帰還編1

その島国では古来より、妖怪あるいは神ともされて伝わっていた


人では到底有り得ない現象を起こしてきたそれらを畏怖し、または奇跡としていた節もある


神裂美成の一族は、人にとって善なるものは守り、人に害なすそれ等を全て切り伏せて来た一族だった



「まあ、そんなわけなんだけど」


「どんな理由ですかミナリ先生…いやこの世界もあっちと同じだったんスねぇ…」


ユキは道すがらミナリの話を聞いていたが、それはもう現代社会日本では考えられないまるでお伽噺か何かだった




コンビニに寄り、水やおにぎりを買い込んで電車に乗って数時間


ミナリの実家があると言う、地方の田舎町にまでやって来た

ユキを連れているのは、二つの理由がある

一つ目は何かあったときの為の保険といったところだ


「ほんと田舎ッスね」


「でしょー?何もないんだけどそこがいいのよね」


それともう一つの理由はなんのことは無いミナリも長い道程が1人では寂しかったからだ


カンザキに聞いた世界を渡る竜、ヨルムンガンドを頼って日本に帰ればそこは東京都内で驚いた


ひとまずはヨルムンガンドである彼女にお金を借りてそれらしい服を手に入れた2人は休む間も無く電車に乗り込んだ


「さすがにあの服じゃ目立つからね」


観光したいと言うユキの意見は一切無視されて


「あ~あ、せっかく東京だったのになぁ」


転生後に日本に生まれて居たユキだから、当然普通に行ってみたかった場所だ

だけどミナリは着くなりテレビのニュースで今が何時なのかを知る

すると慌てたように行動を開始したのだ


「ま、日本もっ、てかこの世界もそれなりにはファンタジーだったって事よ」


「まあ、アタシはうっすらですけど気づいてましたけどね。たまに人外なの見かけましたし。でもそれに気づけている人がいるとは思わなかったッス」


ユキは日本人に転生したとは言え、記憶を引き継ぎし元勇者だ


変わった物を見つける事は造作もない

だが、この世界の常識を身につけるにつれて無視する事にしただけだ


なにせ、ユキはそれなりには楽をして生きたいと思っていたし、害があるわけでもなかったから


「とりあえずこっちの知り合いに会いに行くわよ」


「へいへいー」


2人は電車から降りると、そのまま目的地へ向かい歩き出した











カンザキは日本に帰るなり、ひとまずはGOLD買取と書かれた店に入る


そこで小さいとは言え、金の塊を取り出し買い取ってもらって日本円を手に入れる


そのお金を元に、服屋に行くと適当なスーツとラフな服装を買い込んでからスグに着替えた


「結構変わった出で立ちじゃのう」


「ああ、スーツか。まあ、この世界での正装みたいなもんだ。俺はこの格好してたからな、懐かしいししっくりくる」


それに、なんだか気合も入る


ちなみにむーたんは真っ黒なワンピースに黒い靴を履いている

違和感はなく、周りからの目も少ない

認識を阻害する魔法をかけているそうだ


「しかしこの、ぽてと、と言うのは美味いものよな。向こうの店でも出せば流行りそうじゃ」


「確かになぁ。じゃがいも切って揚げて塩振れば食べれるし、さつまいもだと焼き芋にして食えばそれだけでうまいしな。だがまあ今回の目的はそれじゃないぞ?」


「分かっておるよ。しかしだ、こんなにも人の文明が進んだ世界があったのじゃな。人間がうようよおるわ。しかも、みんな弱っちいのう?」


「魔法やらモンスターも居ないしな」


「強くある必要もないわけか…それだけで世界の覇権を手に入れるとはやはり人間は凄いのだな」


「ま、その代わり知恵があった。それによって生み出された武器やら兵器があるからな」


「ふむ」


いたくポテトを気に入ったのか、カンザキにお代わりをねだって買ってもらう

それをほくほくと食べながら


「しかし…空が明るいのう…夜だというのに星がうっすらとしか見えぬ。さしずめ文明の光に星の光が負けたといったところか。さて、これからどうするのじゃ?」


「とりあえずはー、そうだな、墓参りでも行くか」


カンザキはそう言うと裏路地に隠れる様に入っていき、転移魔法を発動させたー



すぐさまに目的地の京都に着く

すっかりとあの世界に慣れ切ったカンザキは電車やタクシーといった移動手段をとることをしない

むーたんに頼んで背に乗っていくというのも、認識阻害で見つからないとはいえさすがにそこまでの常識はなくしていなかった


であるからこその、転移魔法だった

これも見つからないように使用してはいる


丁度今は夜中で、人通りは少ない


とりあえずは適当なビジネスホテルをとり、そこで翌朝を待つことにした


「ほお、このテレビと言うのは面白いのう!」


異世界にはない電化製品にやたらと食いつくむーたん

魔法を使わない文明の利器と言うものはかくも変わった進化をするものかと楽しんでいる


珍しいのは仕方ないか・・・


カンザキがそう思っていると

ピクリと何かに反応したかと思えば


「む。ちょっと出かけてくる」


「ん?ああ」


そう言うとむーたんはフッと書き消えた


一体何に反応したんだ?

まぁ、無茶はしないだろうと思うので良いか


結局、その夜はビジネスホテルにある大浴場と、久方ぶりの日本のベッドに郷愁を感じつつカンザキは眠りについた



翌朝



未だむーたんは帰ってこないが、構わずに墓参りに向かう

その近くの露店でなるべく綺麗な菊と線香を買ってから霊園に向かう



とにかく広い霊園を、奥へ奥へと進み整地されていない場所へと進んでいくと


小さな墓石があった


丁寧に掃除されたその墓石の前に、菊を置いて線香に火を付ける


ふわりと鼻腔をくすぐる懐かしい線香の匂いだ



「まぁ、しばらくぶりで、悪いな」



カンザキはそれだけ言うとそっと手のひらを合わせた



「なんだ、珍しい奴がいるじゃないか」



振り向くとメガネを掛けたスーツ姿の男が立っていた

カンザキは見覚えのあるその人と目を合わせると



「ああ、鈴木さん。お久しぶりです」



「お前、いつ帰ってきたんだ?結構前に行方不明なったって聞いていたが…心配していたんだぞ?連絡くらいあっても良いと思うんだがな」


それにカンザキははははと笑ってごまかした


鈴木さんと呼ばれた男は、彼が持参した花と線香を供える



「早いな、もう20年か」


「はい」


それだけ言うと、鈴木もまた手のひらを合わせた



「それじゃ飯でも行くか?」


「はい、まあそんな凝ったとこじゃない方が良いですね」


「ふん、ぬかせ」



2人はそう言って笑った









「まさかファミレスとは・・・」


「シンが凝らないとこって言っただろう?」


「まあそうなんすけど…ここでファミレスとは思わないですよ。地元の料理屋くらいかと思うじゃないですか」


それに、久々のこっちの飯なんだしとは言えないカンザキ

ただこれも懐かしい、に入るので普通に注文を行う



「で、シン、しばらくこっちにいるのか?」


「あんまり長居はしないですけどね」


「そうか、で、何があった?」



鈴木の目が少し厳しくなる。カンザキに起こった変化を見抜いていると言わんばかりに



「ちょっと旅にって…ダメですよね」


「ああ、その霊格になっておいて、ちょっとはないな」


「霊格に?」


「なんだ、分かってないのか?いやまて、んん、そうかお前見えないんだったな・・・じゃあなんでこんなに・・・」


「あのー、鈴木さん?」


ハッとした様子で


「いや、悪い。お前も分家だからてっきり見えるもんだと思い込んでしまった」


「ああ、ユーレイとか妖怪ですか」


「そうだ。しかし何があった?今お前の霊力は本家の人間を軽く超えるんじゃないのか?」


霊格に霊力ねぇ・・・ひょっとして魔力か?

であればカンザキは思い当たる節が多々ある

そしてふと、先日の件を思い出したので聞いてみる

そういう鈴木ならば知っていると思ったからだ


「そう言えば最近、変わった事なかったですか?その、霊力を持つ人が沢山見つかるような」


「なんだ?知ってるのか?まあ、あれは霊力と言うよりも異能に近いな。しかし大騒ぎにはならなかったよ」


やはり、以前日本に送り返した日本人は多少なりとも騒ぎを起こしたか・・それを神裂の一族が取り込んだかで揉み消したんだな


「まあ、俺も彼らと似たようなものです」


「なるほど、な」


鈴木は当然彼らの話を知っていた

だから、カンザキが何をしていたかを察する事が出来たのだ


「色々、ありましたからね」


「で、お前何で帰ってきたんだ?」


「ちょっと、ミナリを探しに」


「本家の嬢ちゃんか。確かにこの間帰ってきていたが・・・そうか、嬢ちゃんもか」


「何かありましたか?」


「ああ、本来俺が知る由もない事だったがあの霊格と霊力、さらにユキと言ったか、あの少女も尋常ではない力を持っていた」


「でしょうね」


この世界には不釣り合いな力だ



「で、島に神を倒しに行くと言って反対派と対立している」


「やはりそうでしたか」


「倒せるのか?」


鈴木は期待をした眼差しでそう言った


「わかりませんね、俺には。でも倒す自信があるからこそ来たのでしょう」


「そうか」


食事を終えて、カンザキと鈴木は店を出る


「付けられてますね」


「ああ、これは式じゃないな、本人だ」


鈴木がそう言うと1人の男が前に出る


「ああーなんや、その、気をわるくせんで聞いてほしいんやけど」


そう言うとため息をついて


「あの鈴木さん、やね?」


「そうだ。で、何の用だ?」


「ああいや何っていうか、あの大妖怪様がこんな街になんの用事がと思いまして」


「ふん、もう帰る。旧知に会いに来ただけだ」


「え?大妖怪?」


カンザキは鈴木を見る

そういやあ、いつも傍に来て気を使ってくれるのに素性をよく知らなかったな

分家の人だと思ってたが


「しかもまあ、ごっつい相方連れておられるから」


「ごっつい相方?・・・・あ、俺か」


「ちょっとばかし封じろ言われて来たもののーこれはアカンやつやなと思ってたとこでバレてるから出てきましてん」


「で、どうする?」


「なんもしませんてー。ただ、よくみたら相方のバケモンさん、よく見たら神裂分家の奴じゃないかと」


そう言うとその男は右手に火球を生み出して

いや、背中にも数十の火球


「狐火か」


鈴木さんがそう言うや否や

カンザキに向かって火球が放たれた

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