第105話番外? 日本帰還編3

時は少しだけ遡ってー




カンザキとホテルに宿泊する予定だったが、妙な気配を感じてむーたんことバハムートはその気配を探しに出掛けた



今頃カンザキは久々の故郷の空気でも感じながらゆっくり寝ている事だろうなと思いつつ

こっそりと部屋を出る


「さてっと、こっちじゃな・・・」


知らぬ土地で空を飛んでいく訳にもいかず、少し小走りでその目的地を探索する


「しかし、先程のケーサツと言うのは厄介じゃったな」


時刻は夜の21時を回っている


今のむーたんはぱっと見て10歳程度である為、さすがに1人で行動していては不審がられても仕方ない


それだから、警察官に呼び止められて色々と話しかけられたのだが流石にマズイと思い一気に逃げた

しかしながら、わらわらと現れてくるのだ

そして捕まえようと鬼ごっこになってしまう

いっそ、焼き払おうかとも思ったがそれはさすがにダメだと気が付いた


なんだかんだ常識はあるのだとふんすと鼻息を吐く


今は先程とは違い気配を消しつつ移動している


だがー


「けっこう気付かれておるなー」


街ゆく人々の視線を気にしてさらに走るスピードをあげる


少しづつ、人気のない方へない方へと足を向けていつの間にか、周りを照らす灯さえもなくなる



林は既に森に


森は密林へと様変わりしている


むーたんの目指す場所は


山の中にぽつんとある、古社だった


山の中、ぽっかりと木々はまるでそこを避ける様に生えて広場となったそこには小さな社


人が管理しているにしては、獣道すらもない程の山奥だ



「ふむ?この辺りじゃったが?」


キョロキョロとあたりを見回していると


一瞬影が視界を覆う


「こら、幼子よ。迷子か?」


何処からともなく一人の男が現れていた


「迷子ならば街まで案内してやるが?」


まるで目を瞑っているのではと思うほどに細目の男がそう言うと


「我を幼子と言うか?こう見えても長生きはしておるつもりじゃったが」


むーたんは長生きである。齢は既に万から先は数えていない


「ほう、物の怪の類か?しかしそれにしては妖気を感じぬが?いや、霊気ならば確かに」


「妖気?霊気?なんじゃそれは。まあいいわい、この辺りで気になる気配を感じたんでな、探りに来たのよ」


「気になる気配だと?」


「うむ、そうじゃ。竜に連なる者の気配じゃな」


それにただでさえ細かった目をさらに細める男


もはや閉じているのではとむーたんは思った


「龍に会って、何とする?」


2人の言う竜と龍はニュアンスは同じだが、その存在、立ち位置はかなり違う


「いやなに、まぁちと興味本位じゃ」


「ならば会わずに帰られよ。かの龍はこの地を守るため自らを封じておる」


「ほう・・・」


ざわり、と辺りを冷気が漂う


「その竜はお主の中にもおるようじゃな」


「いかにも。私の中に封じ、力を借りておる。幼子よ、もしそなたが陰陽に連なる者であればその力が途方もないものと分かるであろう?」


「分からぬな」


「分からぬか、ならば痛くはせぬよ。無理にでも帰って頂く」


男の前に輝く光の玉が現れ


辺りを白く染めるー



ギィン!



その一瞬、生まれたわずかのうちに光が弾け飛び、再び闇が支配する


「なんと!あれを消し去るか幼子よ」


「我は幼子じゃないわ!その気になればー」


むーたんの姿はすくすくと育ち、大人になる

艶やかな黒髪の妖艶な美女がそこに立っていた




「なっ!?」


「おお!驚いたか若造!良きかな!」


若造言う事で幼子と呼ばれた意趣返しのつもりだったのだが


「千年を過ごした私を若造とは。妖気は感じられぬがその類に間違いは無さそうだ」


本気を出すと言わんばかりに目を見開いた男は札を二枚取り出し


「青龍!白虎!」


名の通り現れたは龍と虎だ


「ほぉ、この世界にしてはなかなかの力を持っとるモンスター、じゃな」


「なにをおかしな事をー」


だが、むーたんが片手の拳を握り締めー


「うりゃ!」


パァン!


乾いた音は、殴られた龍と虎の音ではなく


音速を超えた足さばきが生み出した音



パパン!


むーたんの拳が音速を超えた音だ


一瞬にして消し飛ぶ龍と虎


「なんと!」


「まあ、こんなもんじゃな」


「私の式をいとも容易く!!」


「なあに、我は竜じゃ。当然オヌシが身に宿る竜よりも恐らくはー、ふたまわり以上は強いぞ?」



そしてまた、姿を変えて


満点の夜空の星を、星の光をすべてを遮る様に姿を変えたバハムートは羽ばたいたー。












「と言う経緯があってじゃな」


むーたんが得意気に話す


「いや、まってぇな、その・・・」


鴉が目をぱちくりとさせながら、むーたんが引きずる男を見やる


「言葉になっとらんぞ?鴉よ。いや、私も、え?ってなるけど」


鈴木さんもちょっとどうでもよくなっているっぽい


「ちょっとまてむーたん。今の話に出てきた青い龍に白い虎ってもしかして」


するとボロボロの男がぼそりと喋った


「青龍と白虎だ・・・」


今にも消えそうなか細い声を絞り出して言った


「はああああ!?」


「そ、それが式神だと!?しかし、その式神はもしや」


「お、俺も聞いた事はあるがー」


「アカン、結界消えた理由もコレやで!」


鴉が男を指さしながら言った


「なんで安倍晴明、ボコってますの!?ウチらの中でも伝説なんやけどその人!」


「生きていたのか?いや、しかし」


鴉と鈴木さんがかなりテンパってるな


「とりあえずむーたん、その人怪我してるから治すわ」



カンザキは袋から、回復薬を取り出した。





「あ、ありがとうございます」


「泣かないで下さい、マジでうちのが失礼しました!申し訳ない!」


泣く清明の横でむーたんが我は悪くないとブツブツ言っている


「しかし、結界無くなったら妖怪怪異が入り放題です。もう一度張ってもらえませんか?」


鴉がそう安倍晴明に言うと


「なんじゃ、アレ必要だったんじゃな。我が代わりに張ってやるわ」


むーたんがふわりと、両方の腕を天に向けると


ぶわりと、風が起きて広がる


「これで良かろう?前のとはやり方が違うが敵意ある者はもう入れんじゃろ」


得意気に胸を張るむーたん


「は?え?結界、ですねコレ」


「しかも私が張っていたものよりも数段強力な・・・」


「はあ、全く。シン、この子は何者だ?」


「あー、鈴木さん、信じられないかもしれませんが、うん、まあバハムートと言う竜です」


カンザキがそう言うと


「聞いたことはあるが・・・?神話よりのそれか?本当なら」


「本当じゃとも。我の姿見せてやろうか?」


「ま、まって!やめ、やめてください!!」


むーたんにすがるように清明が懇願する


「む。生意気な!意見するでないわ!子分のくせに!」


「まてむーたん、子分ってなんだ?やめなさい!またボロボロになってるじゃないか!こら、蹴ったらダメだ!」


「あのう、自分バハムートって知らないんですが?」


「なんだ鴉、不勉強だな。西洋の神話に有るだろう?」



向こうで鈴木さんが鴉に伝承とか伝説を語り始めたので、俺はむーたんと清明と言われた人と話をする事にした


むーたんは自分と近しい気配を感じたのでその方向に向かうと清明がいたとの事だった

生意気だったからってボコったとかやめてくださいマジで


「本当にすみません」


俺は再び頭を下げる


「ああ、良いですよ、もう。まさか今更になって私がかつて出会った事が無いほどに強い者に出会うとは思いませんでしたが」



「はぁ、すみません」


カンザキが申し訳なさそうに頭を下げる


「本当に世界は広い」


どこか遠くを見ている気がする。目が細すぎてわかんないけど



「なあ、カンザキよ。これはきっと我らにも言える事じゃな。世界は広い、まだまた見ぬ強者がおろうな」


確かに。だが俺は別に強いとかはもうどうでも良くて


「うまいもん食えて、のんびり暮らせたらそれでいいと思うよ」


それだけの事が、なによりも難しいのだとカンザキは知っている

そしてそれだけで人は幸せなのだとも


「それにしても、式神全てが一瞬で蹴散らされるとは思ってもみなかった事です」


どうやら、むーたんはただの「力」のみで押しきったと言うことだった


「カンザキさんと言いましたか。もしや神裂一族の?」


「ああ、まぁ。俺は分家のはしっこのほうの人間ですけどね」


「ですが、その霊力は・・・・・」


「霊力・・なんですかねこれ。正直自分にも良くわからないんですけどね」


「ああ、そうだぞ。シン、お前見たとき、別人かと思うほど変わっているぞ。というかそれこそ神か何かかと思うくらいだ」


例えそうだとしても、カンザキに実感はない


異世界では焼肉屋を営み、人々と触れ合う事を是としている



元は化物退治一族にありながら霊力をもたぬ落ちこぼれだったカンザキ


諦めたのは10かそこらだ


だからもう未練もなにもないのに、何故だが胸がざわめいた





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