第106話番外? 日本帰還編4


「はい。はい、すみません・・・はい、では・・」


ミナリはそう言って受話器を置いた

今いるのはコンビニ前の公衆電話だ



「それにしてもあれから3日しか経ってないなんてね」


「ほんとそれー。それにしてもスマホ貸してあげるって言ったのに、なんで公衆電話なの?」


「使い方わからないもの」


「ふーん」


適当な相槌を打ちながら、ユキはモバイルバッテリーで充電したスマホの画面を操作する

ウルグインの街で少なくとも2年は過ごしたはずなのだが日本での経過時間はわずか3日

これには理由があるのだが・・・


「結構忘れちゃってるなー友達とのやりとりとか」


コンビニのフリーWiFiに接続したユキはスマホを触りつつ、メールやらLINNEやらのメッセンジャーソフトの履歴を消化していく

着信履歴は大した程でもないのだが


そもそも行方不明同然になっているのを思い出したのはユキがスマホを充電し、メールやらがどんどん入ってきてからだ


ミナリ自身も、勤め先や友人も心配しているだろうと気づいた

そこからコンビニの公衆電話で電話をして、職場には急に辞める旨や、友人には心配しないでと連絡をしていたのだ


「もう、ユキちゃん携帯ばっかり触って私の話聞いてないでしょ?」


「いやミナリセンセー、これスマホでっす」


「どっちでも一緒よ・・」


ミナリは実はスマホどころか携帯すら持っていない。ただ正確には契約をしているが、家に置いてあるのだ

友人がいないわけでもないが、どこに居ても連絡をつけられるというのが気にくわなかったし


そもそも操作が苦手なのだ・・


「よっし、これでバイトもOK!」


スマホをしまい込むとユキは立ち上がって


「んじゃ、そろそろ行きます?ミナリセンセーの実家」


「そうねー。もう目の前だけど・・・」


「やだなぁ・・・・」


ユキのやだなぁという発言の元となったのは、コンビニの前には大き目の「山」しかないからだ

もしここが家だというのならばその敷地は膨大で、かつ明かりすら見えないその山中のどこかにあるということだ


「今から登山っすか・・・」


正直文明に帰ってきたはずなのになとユキは思う


「すぐよ、大丈夫だから」


そう言ってミナリはニコリと微笑んだ





ミナリの言葉通り、実家にはすぐ着いた


「で、ミナリ先生さっきの変な動きはなんっすか」


「え?印のこと?ウチはちょっと特殊だからあれやんないと入れないのよね」


そういえば、昔シン兄・・カンザキは一人で入れなかったことを思い出す

印は完璧なのに、それを行使する霊力が足りなかったと聞いたのは成人前のことだったか?


まぁいいやと思考を切り替える


気がかりだったこと、それはこの実家の中にある

そして会わなければならない人も


玄関には頭を覆うような、顔を隠す白い頭巾をかぶり白い衣服に身を包んだ人が立っていた

ミナリが近づくと、ぺこりと頭を下げてから玄関の引き戸を音もたてず開ける


「に、人間自動ドアっすか・・・」


ふっとその白頭巾と目が合った気がしたユキはゾクリと背筋が寒くなる気がした


「あはは。わ、悪口じゃないすよ?」


そう言いながら、ドキドキして慌てる


「大丈夫よ、いつもありがと」


そう言ってミナリは中に入っていく


ふわりと鼻孔に入ってくる木の匂い

室内だというのに温かみを感じない静寂な空気が玄関にまで充満している


「だいぶ悪化しているみたいね」


ミナリの言うことは分からないが、ユキはあまり面白くなさそうな話だと思いながらミナリについていく


奥へ奥へと進み、家の中にぽっかりと洞窟の入り口らしきものが開いている


中は暗くなく、階段が見える


ほんの少しだが、線香のような匂いがしている気がした


「この先にね、弟がいるのよ」


「弟さんっすか?」


「うん。15下なんだけどね」


「そりゃ、ご両親頑張りましたなぁ・・・」


「本当なら今頃中学生なんだけど・・・神降ろしが成功しちゃって、未だこの奥に閉じ込められているの」


「神降ろし?」


「ま、そういう術みたいなものかな。神かどうかはわからないけど、人の身に神を憑依させ、一族の繁栄を願うの。でも、弟のはちょっと違った。降りた神が・・・帰らなかったのよ」


「帰らなかったってどういうことっすか?そもそも、神を降ろすなんて出来るんです?」


ユキはそう言って、みにゅうを思い出す

そういえばアレも神だったと


「ま、神降ろしは成功するしないに関わらずそういったお祭りだったのよ。まさか本当に成功するとは術者である人も思わなかったでしょうね」


成功するしないは別にしてーだたの一族繁栄祈願のちいさなお祭りだった


本当に


神が憑依するまでは


階段を降り切るとそこには広い空間が広がっていた


その中心に、社があり明かりが点いている


「ミナリ!!!!」


突如呼ばれ、振り向くミナリ


「父さん・・・」


そこにはミナリの父・・神裂十善が居た

髪は短髪でまだ黒々としており若々しい年はもう60前だったはずだ

筋肉質とはいえず、だが細すぎないその体からしてもとても60前とは思えない


そんな父だったが・・シワが増えたね・・そう思った


「お前、どうしてここに?仕事はどうした!」


「辞めたわ・・・さっきね」


「そうか、じゃあ・・」


「家は継がないわよ?」


するとミナリをにらみつけ


「何しに帰ってきた」


そうね、そういう人だった・・・

私を跡取りとし、婿を取らせ男子を望む

それでこの神裂家は安泰と思っている


そしてそこに、弟はいない


神を憑依したままの弟は今、社の奥に封印されている


年を取らず、食事も必要なく時が止まったまま


「十和を救いに・・よ」


父の目が見開かれる

そして印を組もうとしてー


ミナリがその腕をつかんだ


「なっ!!!何をした!!」


ミナリとの距離は数メールはあった

それが一瞬で目の前に来て腕を掴まれている

理解不能な出来事だ


「バカな!縮地ならば・・・いや、そんなはずはない!」


「ちょっと、修行したのよ」


ちょっとで済むはずがない

ミナリは覚えの良い子だったが・・・

それでも・・・


「実の娘を拘束しようだなんてなんて親なのよ」


「くっ!十和を救うと言ったな、アレは解き放ってはならん!覚えているだろう?5年前の・・」


そう言おうとしたところで言葉をかぶせる


「覚えているわよ!だからこうして!」


「やめて、ミナリちゃん!」


女の子の声が洞穴に響いた

ミナリが振り向くとそこには小さな女の子が居た


「え?だ、誰?」


覚えはないー、がその子はミナリの事を知っているようだった


「チサト!出てくるな!」


父が叫ぶーチサト?それは、ミナリの母の名だ


「お母さんー?」


思わず口から洩れた

ミナリは自分でも不思議でかなわないが、その子が母と思えたのだ


「あのね、もうそこに十和くんはいないの!でも私には見えるの、西に、南にいるの!」


喋り方が幼い子供そのものだ

だが、語られたその内容は無視は出来ない


ミナリは社の前まで高速で移動して扉を開ける

その動きについてこれた者はこの場ではユキだけだ


「居ない・・・」


かつてそこには十和が幾重にも重ねられた札と結界で封印されていたはずだったが


ミナリは取り乱さなかった

そして思考を巡らせる


目的の人物は弟であり、神に憑依され封印されている

そしてそれを運び出せる存在はあまり多くない

どこに連れていかれたか?


それはあの幼女ー母が知っている

なぜ幼女の姿に?それはおそらくは、弟の封印が解けているか解けかけている

または運び出した存在に?いいえ、それはない


若返らせれる様な術は持ち得てないはずだ。其れは神の御業だー

となれば、やはり弟の封印は解けている

ならばこの場に居ないのは協力者がいるからー


ほんのわずかの間に結論を出す


母は弟の場所が分かっている様だった

私には分からない

ならば


「お母さん、十和のとこ行こう」


連れて行くだけでしょう


「うん、いいよ!ミナリちゃん行こ!」


母はニコリと笑った

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