第119話早めの到着・最初のゴーレム

翌朝、キトラとクロマは少しだけ眠そうにしていた

きっと同族で盛り上がったのだろう


てっきり、見た目通りにキトラがお姉さんしていると思って居たのだが、馬車を走らせる時に


「じゃあキトラちゃん、いこ!」

「うん、クロマちゃん!」


あれ?なんか普通に友達なの?

見た目は完全親子くらいの差があるように見えるのに



ちょっと獣人の感覚というものがわからなくなったカンザキなのであった







そして道程は何も問題なく進み、その日の昼までには目的地付近へ到着する


とてつもなく広い森、そんな感じである


クロマ曰く、この森へ馬車では乗り入れることができないらしい


「さすがに早かったな」


カンザキは体をうーんと伸ばしながら言った

さすがに体が硬くなった気がしている


「いやほんと、正直これは速すぎですよ!馬車がぐんぐん進んでましたから」


クロマがそう言うと


「へへ、ちょっと風さんにお願いしたの!」


キトラがそう答える


なるほど、キトラの風か。それでずっと追い風だったのか

さわやかな風が頬を撫でていく

それはまるで優しい母のように


「さ、んじゃゴーレムを探すか」


「はい、お任せください!…と、その前に馬をつないでっと」


本来は馬を守るために魔物除けとなる木の汁を撒くということらしいのだが、キトラの結界石で十分だということで今日はそれを使用する事となった


そこはかつての石切り場への入り口で、それこそ石で囲われたログハウスと小さな川がある


「ここ、師匠の話だと昔は村くらいの規模で人が住んでいたらしいんです」


「へえ、そうなのか」


「なんでもウルグインの防壁を作るための石切り場、というか山があったそうです」


「山?」


「はい、でもそれは全部切り崩しちゃったとかで今は平地になってるんですけど、まだ地面にはかなり岩が落ちているとかで馬車が入れないんですよ」


そう言うことか、だから馬車では行けないと。車輪が壊れてしまう可能性があるんだろう


「へえ…音、しますね」


キトラが耳をぴくぴくとさせている


「聞こえるか?」


「うん、おにーちゃん…ここなんか変な感じするけど…なんか岩がこすれるような音がするよ」


どうやらキトラの耳にはゴーレムが歩く音が聞こえるのだろう


それにしてもゴーレムか


ゴーレムというのはよく魔術師などが土魔法、召喚魔法、また錬金術師が創造魔法などで作り出すものを想像しがちだ


だがこの世界ではそれだけではない


自然発生するゴーレムというのが居る


それらの発生理由としては魔力がたまるポイントというものがあって、それが濃くなり一定期間そこに留まるとなんらかの要因によってゴーレムが生まれるという


「はい、おまたせです!」


どうやらクロマの準備が終わったらしい。



「じゃ、キトラ頼むよ」


「はい」


「へ?」


事情を呑み込めないクロマがめをぱちくりした


森に入ってキトラの「音がする方」に歩きながらクロマに説明すると


「マジですか!?キトラちゃん聞こえるの?」


「うん、聞こえるよー。なんかね、ゴリ、ゴリって聞こえるの」


クロマが必死に耳をいろんな方向へ向けるが


「えええ…聞こえませんよう」


「まぁキトラとは経験が違うからなぁ・・・まずキトラはダンジョンに潜るアーチャーだ。それにもともと兎人族はさほど目はよくない、その代わりに耳がいい。ここまではいいか?」


「そうですね、私も目はそんなに良くないです、でも周りの音はよく聞こえるので問題はありませんけど」


「ダンジョンのアーチャー、これで差が出ていると思う。ダンジョンの中は静かで、そして音も反射しすぎて聞こえにくい。その中から目的の音を探す必要が出てくる」


「はい」


「またある時は無音を心掛け動くような、本当に空気の流れくらいしかないような場所もあって…そんな中でアーチャーだ。敵に弓矢を届けるには正確な位置把握を目ではなく耳、音だけでしなければいけない」


そこでクロマはああなるほどと同意するが


「そんなことできませんね」


「やらないと生きていけないからな、ダンジョンの中ってのは」


「そうなんですね、キトラちゃんすごいなぁ」


まぁ戦闘民族みたいなキャサリンに育てられたんだ

ちなみにキャサリンの弓術は本当にやばい

弓の飛距離なんてせいぜい100mくらいだろうと思っていた

だが、風魔法の利用によって最大飛距離は10㎞までいけるとか言っていたし

そんな先の目的物に弓をどうやって当てるんだと、見えているのかと聞いたら


「ん?そんなの勘で当たるじゃない」


って簡単に言いやがった

実際はその勘だけじゃなく、気配、魔力の大きさ、そして空気の流れ

そういったものを駆使してまとめている

本人に自覚はないようだけどな


そんなキャサリンを親代わりに育てられたキトラなんだ

しかもキャサリンに憧れて、弓を使う。とんでもない使い手にならないわけがない


弓の威力はその最大飛距離に比例するとかとも言っていた

今のキトラは一体どれくらいの距離を当てることができるんだろうな





かなり奥深くまで進んだ

途中からスピードアップを図るために、クロマをキトラが背負っている


悲鳴を上げていたクロマだったが、途中から楽しくなってきたみたいで笑っている


「おにーちゃん、そろそろ、だよ」


「ああ、俺にも聞こえてる」


「私まだ聞こえません!なんでカンザキ様まで聞こえてるんですか!?」


「おにーちゃんだからなぁ・・・」


キトラのあきれたような声にマトラは少しだけ混乱していた


そこからはゆっくりと進んでいく


キトラがぴたりと立ち止まる

そして真剣な顔をして、言った


「おにーちゃん、ちょっと打ってみるね」


「ん?」


そういうやいなや、弓を取り出して矢を番う


「ほいっ」


音もなく飛んでいくその矢は木々の間をきれいにすり抜けて飛ぶ


あ、木にぶつかる


カンザキがそう思ったとたんに


矢がぐいんと木を避けて飛んだ


「すげぇな」


「あーもー。ちょっと失敗、キャサリンなら曲げなくても当てたと思う」


それはそれでどうなっているんだという気にもなるが


「当てたと思う?ってことは…当てたのか?」


「うん、手ごたえはあったよ!行ってみよ!」


唖然とするクロマを連れてそのキトラの指し示す場所につくと


白い石でできたゴーレムが頭に大きな穴をあけて立っていた

そのすぐ後ろの木にはキトラの放った矢が突き刺さっている


キトラはにへへと笑いながら木に刺さった矢を回収しにぴょんと跳ねて木に飛びついた


「さすがだな、急所も見えたのか?」


「ううん、見えたていうか、感じたの」


「なるほどな」


どんどんキャサリンに近づいている、その娘のキトラ

本当にいい狩人になっているなと思う


「さて、このゴーレムってなんで出来てるんだろ?この石なの?」


「いや、違うな。アレは黒い石だったし、今回の目的も黒いゴーレムだからな」


「なあんだ、残念。じゃあこれ使えないのか…」


「どうなんだ、クロマ。この石は要らないか?要るのなら持って帰るぞ」


カンザキがそうクロマに問いかけると


クロマは大きく見開いた眼を閉じて、大きく深呼吸して、衣服についた埃を叩き落してから


「うええ…、な。ななななんじゃこりゃーーーーーーー!」


クロマが今まで発した事のない声色で絶叫した








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