第118話よし、じゃあ早速行きますか!

「しかしゴーレムか…」


カンザキが少しだけ渋い顔をする


「どうした、アレだけ余裕ぶってたのに不安なのか?」


「いや……ゴーレムってさ、マズいんだよな」


カンザキのそのため息混じりのセリフにジーノは言葉が出ない


「味がねぇんだよ」


何を当たり前の事を……と、言いかけてふと気づく


コイツ…ゴーレムを食ったことがあるのかと


そしてシアと去って行くカンザキを眺めつつ

ジーノはぽつりと


「ばかなのか?アイツ」


そう小さく呟いた





翌朝、店を閉めての遠出となる

走って行こうと思っていたのだが、そのゴーレムの出る付近までジーノの店の従業員が案内してくれると言う。

申し訳ないと断ったのだが、採取し、石鍋を作って余った石材は買い取らせてほしいという申し出があったのだがカンザキは余ったのは譲渡すると言った

そうすればジーノは逆に申し訳ないと言い出して、案内を付けるという事に至ったわけである


店を出ると、そこには少し豪華な馬車が止まっていた


馬車から御者がぴょんと下りてきて


「ども!カンザキ様!私の名前はクロマと言います」


おお…うさぎ耳の獣人だ。キトラ以外にもこの街に居たんだな…ってまぁいるか

だがしかし、キトラはすっかり大人の女性と言った感じになっているがこのクロマはまだ子供に見える


「おう、よろしく頼む」


「ええっと、お荷物とかはないので?」


身軽なカンザキを見て、クロマは疑問に思った様だ

むしろ二人しか行かないのに馬車とはと、カンザキが疑問に思ったほどである


「目的地までは3日ほどかかりますから、水と食料とテントとか寝袋をご用意したのです」


ああ、なるほど。食料と野宿に必要な物か


普段カンザキはそれらが必要な場合、すべて魔法の袋に詰め込んでいる

だから身軽に長距離の移動ができるのであるが普通の人であればたとえ片道3日といえど、往復だと6日になるのでこれだけの準備がいるのである


「荷物は俺が受け持つよ、その方が荷台が軽くなるだろ?そしたら馬も走れる距離が伸びるんじゃないか?」


カンザキのその申し出にクロマはいまいちわからないと言った感じであったのだが、魔法の袋の中に次々と詰め込んでいくのを見て納得する


魔法の袋の存在は知っていたのだが、容量の大きなものはかなり高価である

だからクロマは持ってはいないのだった


「ふええ、凄いですねーコレが魔法の袋!これなら1日は短縮できますよ!」


「まぁ帰りの石材もこれに入れちまえばいいからな、楽だろ?」


「ええ、そりゃぁもう!」


この時のクロマは取りこぼしが無くなると皮算用していた

元々、状態の良い物だけをもちかえるつもりでいたのだ、それ以外は置いて来るしかないと思っていたのでこれは嬉しい誤算である

大儲けが期待できる

それはつまり、クロマの賃金に追加が入るという事になる


笑顔が止まらないのも仕方がない

クロマ耳がぴくぴくと動いているのを見て、カンザキは可愛いなと思っていた


そして馬車に乗り込んで、がたんと出発である


「んじゃー、行きますよー!」


「おう、行ってくれ」


そうして出発したのだが、それを見ていた者が一人…


「おにーちゃん、どこ行くのー?」


ザッ


まるで風の様に荷台に乗ってきたのは


「キトラか、ちょっと石材が必要でな。ゴーレム狩りだ」


それを聞いたキトラは目を輝かせる


「馬車で行くってことはダンジョンじゃないんだねー!いいなぁ…」


そう言ってカンザキをじーっと眺める

耳もぴくぴくとしている


そう言われたらカンザキは言わざるを得ない


「行くか?」


「うん!行く!ちょっとキャサリンに言ってくるからゆっくり行ってて!」


ザッ!


あれ、ほとんど飛んでねぇか?

キトラは風魔法の補助を自らに掛けて飛ぶ様に跳ねる


「あれ?声がしたと思ったんですけど」


後ろを振り返ったクロマが言った


「ああ、ちょっと連れが増えそうだ、少しゆっくり進んどいてくれ」


「お連れですか?承知したでーす!」


そして街を出るまでに、キトラは帰ってきた

かなりのスピードである


「たっだいまー!シルメリアも行きたそうにしてたけど、ちょっと用事があるみたいで残念そうにしてた」


「そうか、シルメリアが居たら移動も楽だったのにな」


それはシルメリアの背に乗せてもらって行けば速いと言う意味である


そうして街を出て、ガタガタと馬車は小さくない音を立てながら進む数刻ほど移動して、川辺に馬車を止めるとクロマは馬に水を飲ませて休憩させると言った


その時になってようやく気付いた


「あ、どうも!お連れさんですね!私クロマといい・・・ま・・・す・・・」


「どーも!私キトラ!よろしくね!」


昔はキトラは初対面の人にはオドオドしていたのになぁ。成長したなぁとカンザキが思いにふけっていると


「あわわわ!ど、ど、同族の方です!?種族は違うみたいですけど、同族です!」


キトラの耳を見ながらクロマは言った


そんなクロマに対してキトラは


「おおおおおおお!ほんとだ!耳、一緒だねぇ!」


嬉しそうにクロマの両手を取って、ぴょんぴょんと跳ねている


「すごいです、ウルグインに私以外に兎人族居たんです!!」


クロマがそう言うと


「ほんとだ、私以外に兎人族って初めてみたよぉ!狼人族さんとか猫人族さんとかは結構見るんだけど、同族は初めて!」


「は、はい!キトラさん、仲良くしてくださいね!」


二人して耳をぴくぴくさせているのを見るとカンザキは随分と微笑ましいなぁと少しだけ嬉しくなるのであった


その夜は、キトラが近場で狩りをしてきた獲物を捌いてからシチューを作ってくれた

いつもダンジョンの中で食べている料理という事だ

ちなみに具材は人参が多めである


「結構うまいな、このシチュー」


「へへへ、でしょー!これね、モコさんとかに教えてもらったの!」


ああ、あの娘らか。料理上手だったんだな


「魔法のカバン、手に入れたからって食材が持ち込めるようになって、それで料理も色々できるようになったんだよ!」


これはあの娘らの話か。なるほどなぁ

そういえば100層超えていたな、と思い至る


「すごいです、キトラさんはダンジョンに潜ってるんですね!」


クロマは目をきらきらとさせてキトラの冒険譚に耳を傾けていた

文字通り、ぴくぴくとさせながら


その夜は、これもキトラが持っていた結界石を使って安全に寝ることが出来た

この辺りには少しだけモンスターが出る、と聞いていたからカンザキは夜通し起きているつもりだったのだが、それはしなくてよくなったので普通に寝ることにした


その夜は、遅くまでキトラとクロマのテントからは話し声が聞こえてきたのだった

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