第48話建国祭1日目3

クナトが思い浮かべるその男、知る限りではウルグイン最強である


だが、南のラスクロの闇は容易く溺れる程に深いとも聞く


古くからウルグインはダンジョンがあり地の神が恵みをもたらすと考えた。

故に信仰するは大地の神だ


対して南のラスクロは天を崇める。

天の恵みが豊富だったからだ。

また、それは水の恵み


歴史が長いだけあり、優秀な冒険者達も多いと聞く

確かハンターと呼ばれた彼らはウルグインの冒険者達よりも優秀と聞いている。


果たしてあの男ー


かつてみたラスクロ最強のハンターを思い浮かべた


そして焼肉屋の店主でさえ危ないかも知れないとクナトは不安にかられたのだった


ラスクロには軍隊と呼ばれる組織もある。不安要素は多い




だがそう思ったところでどうしようもない


クナトの仕事がまた、ひとつ増えただけのこと


連れ去られた王を取り戻す為に


クナトはひとまずはその使者に会わねばならない。


アレクシアは王の代理として未だ会議を強いられている


残されたレオノールとクナトはー

そう、レオノールとクナトのたった2人が使者との会合に望むのだった


「クナト、ひとまず父・・王の捜索は取りやめております」


「はい、それがよろしいかと。これ以上噂の類が広がるのはまずいですから」


「姫様、くれぐれも・・・」


「わかっている。安易に怒るなと・・そう言いたいんだろう?」


「はい。よろしくお願いいたします」


会見の場には使者と思われる薄く赤い長髪の男二人と、赤い髪の女性が一人


「来るようだよ姉さん」


長髪の男の一人がそう言って髪をかきあげる


「アイツが来るのかな?」


もう一人の男が言った

2人はまるで双子の様に似ているけれど、性格は別物といった感じだ


「そうだねぇアレクシアが来るといいね」


姉と思われる女性が答える

そう言ってキセルに口をつけ、紫煙を吐き出した。


扉がガチャリと音を立てて開いた

レオノールがカツカツと音を立てて入る


銀髪がふわりと自らが起こした風でなびく

タバコの匂いが充満した部屋に入ってその匂いを嗅いだのか、レオノールの表情が若干だが苦くなる。

そして眉がピクリと動いた


「あなたが使者か?」


レオノールは目の前に座りキセルをくわえた赤髪の女性に話しかける



「銀髪・・・顔立ちは似ているけれど、アレクシアじゃないわね」


「む、姉を知っているのか?私の名前はレオノール。アレクシアは私の姉だ」


「あら、妹さんが居たのね。私はヴァネッサ。ラスクロの代表よ」


「代表だと?あなたはラスクロの代表という事か・・・王が居ると聞いたが、貴女は王ではないだろう?」


「まだね。でももうすぐなるから気にしないでいいわ」


レオノールはヴァネッサと名乗る女が何を言っているのか理解が追いつかない


クナトは目を伏せて横に立っている

おそらくクナトには分かったのだろう。後で聞くことにして今は目の前のヴァネッサと会話を続ける事にする


「王を誘拐したと言うのは本当か?」


「ほんとよぉ?転送陣で送ったからもう居ないけど」


「証拠はあるのか?」


「せっかちねぇ」


そう言うとヴァネッサは袋に手を入れる。

小さな袋だ

その中から、王が常に持ち歩いていた錫杖と剣を取り出してテーブルに置いた


「なっ!魔法の袋!」


それはウルグインですら秘宝。さすがに歴史が長い国と言える

そのような物を平然と持ち歩くか…


「あら?見るのはこれじゃないわ。この杖と剣よ」


魔法の袋を雑にしまうと、

そう言って取り出した物を指さす


「確かに王の所持品の様だな・・・クナト」


テーブルに歩み寄ると

クナトはその2つをじっくりと見る


「確かに。間違いありません、本物の様です」


錫杖の柄の部分をくるくるとまわすとポロリと取れて、中からウルグインの紋章が書かれた羊皮紙が出てきた。


「私、嘘なんてつきませんもの。」


「姉さん」


「なあにシャイニー?」


シャイニーと呼ばれた片方の男がため息をつきながら言った


「例の件を」


「あら、ごめんなさい。貴方方にお願いがあるんですの」


「なんだ?」


「王を返還して欲しくばウルグインを明け渡しなさい。まあ、正確に言えば属国になれと言う事かしら?」


「それで?」


レオノールは表情を変えずに話す


「良いわよね?どのみちこの国の人間の2割はそもそもうちの国民だわ。」


「元、だろう?それに王の代わりなどいくらでもいる。ウルグインがその要求を飲むことは有り得ない」


王が居なくなってしまえば困ることは多量にあるのだがこの場ではこう返さざるを得ない


「あら?貴方が王になるのかしら?」


「私ではないよ。私では敵わないお姉さまがいるものでね」


「ああ、アレクシア。彼女、なかなか強かったわよね。この国では強き者が王になるのよねぇ」


「姉さん、この女も強いよ。前に見たアレクシアよりも」


この男・・鑑定士か。


「ふん、いつの話をしている。今は比べ物にならないほどお姉さまは強くなられたのだよ」


「本当かしら?。でも私と比べたらどうなのかしら?強きものが王になるなら、私の方が強いと言う自信はあるのだけれど」


「姉さん、それは間違いない。この女よりはるかに姉さんが強い」


ゾクリと冷や汗が流れる

男から放たれた殺気はレオノールをいつでも殺せると言っているのがわかる


「鑑定士である、うちの弟はそう言ってるわ。貴方はどう思うのかしら」


「それでも、だ。たとえ貴女方がいくら強かろうともお姉さまより強いとは思えない」



レオノールから見ればシアは手の届かないレベルで強い。さらにまだ隠してはあるのだがそれ以上の、ルシータと言う最強の姉がいる


だがレオノールは知っている

王とは強さだけではないという事を


それで言えば父は、姉妹が束になっても敵わない王なのだ



「あーもうさ、面倒くさいな」


「シャイン!」


黙って聞いていた男が急に話し出す


「お前ら弱っちい姉妹は俺が嫁に貰ってやる。だがら王位はヴァネッサに、姉さんに明け渡せ」


「なにを!失礼にも程があるぞ!」


クナトが叫ぶ


「うるせえ熊野郎!黙って聞け」


シャイニーがクナトに駆け寄り、首筋に剣を突きつける




「いいか、これは交渉じゃねぇんだよな。命令だぜ?言う事聞くのが嫌なら力づくでこいや」


「シャイン、シャイニーあなた2人は昔から素直すぎるわ。ごめんなさいね、私としては交渉で事を抑えたかったのよ。でもそう言う事なの、それに行き遅れ姉妹の嫁ぎ先を用意してあげるのだから感謝して頂いて結構よ?」


好き放題言いやがる…


クナトはギリギリと拳に力を込める


「その話はありがたいのだが、残念だが嫁ぎ先はもう決まっていてね」


「あら?そうなの?」


「ああ、本当だ。だがらその者が王になる予定だよ。だからそもそも貴方方の要求は最初からあてが外れている。ほんの少し国王が変わるのが早まっただけの話だ」


「あらあら。お父様でしょう?死んでも構わないと?」





「まったく構わない。だがその場合、ラスクロは滅ぶ覚悟でやるといい」




交渉は決裂しかけていた

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