第35話 シルメリアとむーたん
シルメリアはグリーンドラゴンである
竜というものは往々にして年月を経れば知識を得、そして人化が可能な魔法を覚えるものだ
それをドラゴニュートと人は呼んだ
だがシルメリアは人の姿で産まれてきた
それは卵の中で既に人化の魔法を使っていたと言う事である
竜族の超天才児
それがシルメリアだ
彼女は人化の魔法をまるで呼吸をするが如く使う
誰に教えられたわけではなく
孵化が異常に遅い子供であった事が関係あるかも知れない
卵の大きさも他の竜よりも小さくて、親としてはこれは本当に産まれるのかと不安もあった
他の竜達が孵化して半年してなお、まだ孵化しない
誰もが諦めかけたその時に、ついに孵化して産まれ出たのは人の子供
その時の周囲は明らかに異様な雰囲気であったという
人の子供であれば人から産まれる事は竜でも知っていたから人ではないとわかる
だが卵から還る人とは一体・・・
ひとまず、シルメリアは人の赤子として育てられたのだが、その半年後に判明する
人になっていた竜が、元の姿に戻る
それを見ていたシルメリアが、突然子供竜になったのだ
当然周囲は驚いた、だが天才だとも分かった
それから15年、シルメリアは人と竜を簡単に行き来する存在になる
意識すれば、竜になり人となる
幼少期に人として育てられたのも大きかったのかもしれない
人として育てられたシルメリアは、人が大好きだったのだ
そんな彼女が住んでいたドラゴニュートの街を追いやられる出来事が起こる
理由は沢山あったが、やはり人と仲良くし過ぎたのが問題だったのだろう
今シルメリアはカンザキの部屋にいた
ベッドの上ですやすやと眠る人物のほっぺたをぷにぷにとさわる
「も、その肉はダメなのじゃ~」
ぷにぷに
「えへへへへこれは美味しいのう」
ぷにぷに
「だから止めろと言っておろう!」
突然目を覚ましてがばっと起き上がる
「ん?お?なんじゃ、シルメリアではないか」
とても寝起きとは思えぬほどにシャッキリとしたバハムートだった
「むーたん、おはよう」
「んむ、おはよう」
二人は一階に降りると誰もいなかった
探してみたが、全員出かけている様だ
「腹が減ったのう・・・」
バハムートは腹ペコだった
見かけによらすこの幼女はよく食べるのだ
「ごはん、食べに・・いく?」
「おぉ♪」
それから30分後、シルメリアはむーたんと手をつないで歩いていた
「なんじゃお主は・・・ちと足元をよく見んか」
「あうぅ」
実はシルメリアがあまりにもよく転ぶため、むーたんが手を繋いだのだった
「あ・・ここ、美味しいとこ」
そこはパン屋だった
「いらっしゃい。あら、シルちゃん」
パン屋のおばさんには何故かシルちゃんと呼ばれている
「今日は小さい子のお守りかい?」
おばさんがそう言うと
「いや、わしがお守りしておるんじゃよ」
そうむーたんは言って店内に並べられたパンをどれにしようか悩んでいる
良い匂いがするせいか、たまにむーたんの鼻がひくひくと動く
「あらあら。シルちゃん今日もいつものかい?」
「うん・・いつもの」
シルメリアがそう言うとおばさんはパンを袋に詰める
それをシルメリアに差し出して
「はいよ、いつもの」
そう言ってシルメリアに渡してくれた
二人はパン屋の前にあるオープンカフェのような場所でパンを食べている
昼前だが結構な人が利用していた
10ほどテーブルが並んでベンチが置いてある
席はほぼ満席でざわざわと騒がしい
「なんじゃかのー。じゃがこれは美味いのう」
幸せそうにパンを頬張る
もぐもぐ
「おいしい?・・むーたん」
「んむ、うまいぞ。シルメリアも食べたら良いぞ」
「・・うん」
もぐもぐ
そこに通りすがりのガルバが来て
「お、シルメリアちゃん子守か!偉いねぇ。よし、これやるよ」
そう言ってクッキーを置いていく
通りすがりの鹿夫妻が来て
「シルメリアちゃんこれ二人で食べな」
そう言ってまたお菓子を置いていく
「んおおお!これは素晴らしいのう!」
むーたんが興奮している
シルメリアと居れば食べ物に困らぬな!と
「これもうまい、やはり人間の街は良いの!」
もぐもぐ
「うん。良い・・・」
そう言ってシルメリアも
もぐもぐ
「シルメリアよ、お前さんは人間が好きか?」
「うん・・」
「そうか、変わっておるな。わしもじゃが」
「うん・・むーたんお菓子ついてる」
むーたんのほっぺについたお菓子をとって食べる
そしてふきんを取り出してむーたんの口を拭った
「ぷはあ、満腹じゃ!」
「帰・・る?」
「腹ごなしに散歩でもしようではないか」
2人は行くあてもなくぶらぶらと街を回っていた
むーたんは眠くなったと言い出してシルメリアがだっこしている
「ふぁう」
むーたんが寝言を言う
シルメリアはそんなむーたんを見て、幸せそうに微笑んだ
シルメリアは子守が好きだった
いや、子供が好きだったのだ
昔竜の住処、ドラゴニュートの街の近くにある人の街によく行っていてそこの孤児院で良く子供達と遊んでいたのだ
ウルドバルドの国
シルメリアが住んでいた国
そこは隣国と戦争をしていた
戦災孤児と共にシルメリアは育った
暇があれば、孤児院へ行く
そうしてシルメリアは人の子供と仲良く育ったといっても過言ではない
「あーいました」
シアがシルメリアとむーたんに寄って来る
「どこに行ったのか探しましたよ、そろそろ帰りましょう?」
シアがそう微笑むと
「はい・・」
「むにゅ」
二人とも今日は良く遊んだようで、疲れているようにも見えた
そうして3人が帰ろうとした時だった
「いたぞ」
声がして
ばさり
一瞬で真っ暗になる
「なに!?」
「ん・・?」
「おとなしくしてろ・・・怪我されちゃぁ困るんでな」
男の声がする
ふわりとする感覚
もちあげられている!?
「シルメリア、むーたん!」
シアは二人を抱き寄せて
「大丈夫二人ともー!」
と、シアは叫んで・・・・周りを見ると見覚えがない所にいる
急に移動したように思える。だが違和感がまったくなかった
ふわりとした感覚までは覚えている
シアの手の中にはシルメリアとむーたんがいる
安心して、ふうと息を漏らす
時間はそうたっていないようだった
先ほどまで街の中にいたはずなのだが今は部屋の中にいる
暖炉があり、テーブルがあり上には料理が置いてある
3人はベッドの上に横たわっていたようだった
「ふむ、やっと凍結が解けたか。シア腕を広げてもよいぞ」
むーたんが言った
あっと気づいてシアが腕を広げる。
シルメリアとむーたんが離された
3人はベッドから降りて立つとむーたんが言った
「さて、わしらは攫(さら)われたようじゃの」
むーたんはこともなげに言った
「え?」
シアは理解ができない
むーたんをじっと見つめると彼女は言った
「時間凍結魔法で止められておったからおぬしらはわからんじゃろうが、わしには効かぬのでな。そして犯人共はドラゴニュートじゃな、シルメリアと同じ緑の髪の毛をしとったわい。おぬしらが止められておったから抜け出すことができなんだ」
ニヤニヤとしているむーたん
そしてテーブルの上にあったパンを取って食べながら
「まぁ、わしらを攫(さら)える程度の力量は持った相手じゃということじゃな」
どうやら三人は攫われた、ということらしい
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