第130話ルーンの出処とそのゆくえ

エルマが手にするルーンを見てアイエテスは飛び出した


「馬鹿な!そのルーンは!」


そのルーンはダンジョンの最下層に置いてきたハズだ

ガラガラとダンジョンが崩れる音も聞いたし、地上に戻った時も地響きが聞こえた

近くの住人たちも地震だとざわざわとしていた位だ


アイエテスが突然現れ叫んだ事で驚いている皆を押しのけ、エルマの元へと歩み寄る

その小さな手に乗るルーンを、エルマの手ごとそっと包み込む様に手を重ねると


「エルマ、なあ、エルマよ。これはどうしたんだ?」


優しい声色でそう聞くと、エルマはニコリと笑って


「あのね、おねえさんがこれあなたのでしょ?ってくれたの」


その言葉にアイエテスは外に飛び出してキョロキョロと見回すが、女性などそこらじゅうに歩いている、それにそもそもが見た目からしてわからない

あのダンジョンの中に自分達以外が居たとは到底信じられなかった。であるなら、自分たちが出た後に誰かが来てルーンを持ち出したことになる

思考を巡らせると心当たりが一つある

そう、エルダーエルフだ。

そもそものあの場所を作り上げたエルフ、それが自分らを監視していたとしたら?気づかれない距離から見ていた、そして崩壊が始まる瞬間無人となったあの部屋にそのエルフが入ってきて拾い上げてエルマに渡した


間違いない。妙な確信がアイエテスにはあった


エルフを見かける事など殆どないこのウルグイン

もしエルフが居たら目立つであろう

彼らは金髪でやや尖った耳に、全員が全員美形である


そんな伝え聞いた特徴を探しているが見当たらない

街中を走り探そうかと、そして駆け出そうとした時だった

カンザキが話しかけてきた


「あのよ、その女なら俺もみたけど」


「何だと、本当か?何処にいる?どこに行った!?」


カンザキの両肩を掴んで叫ぶアイエテス

唾でも飛んできたのか少し嫌そうな顔をしたカンザキは


「もう居ねえ、霧のように消えた。転送陣を使った感じじゃあ無かったから、そもそも魔法で分身のようなものを作り出してここに来たんじゃないかと思う」


カンザキのその言葉に、アイエテスはしくじったと思った

何故俺は寝込んで居たのだと俯いた

しかしアイエテスは前を向く

そして、そのルーンを調べて稼働させてみようと思い立つ

それならば答えがわかるのではないかと


「カンザキよ、ルシータもだ。そのルーンを調べると言ったな?であれば結果が分かれば我にも教えて貰えぬか」


そうアイエテスが言うと、聞いていたルシータがにやりと笑ってアイエテスに近づいてきた


「クソ…いや、父さん、調べるのを先にした方がいい?」


「クソ……何を言おうとした?まあいい、そうだな、至急に調べられるのならば」


「わかった、じゃあ調べるよ。でもさー、お願いがあるんだよねー」


アイエテスはぞくりとする、この娘がこんな感じになる事などない。なんなら何時も力づくで済ませようとするのに下手に出るなどと。それに王位さえ奪われた自分からさらにとる物などもう無いはず。まだ何か致命的な何かが、あるのか?

物凄い不安に際悩まれる。

だが背に腹はかえられぬと覚悟を決めて言った


「分かった、何だ?言ってみろ」


キャサリンは言質は取ったとニヤリと笑う


「ちょっと王様に飽きたから、返すよ!王位!だからもうしばらく王様お願いね!」


その言葉は予想外だったのかアイエテスは面食らう

そして奪っておきながら飽きたから返すなどと巫山戯るなと怒りが湧き上がってくるが


「おとうさん、おうさまになるの?」


いつの間にか近くに来ていたエルマがそう言ったのを聞いた途端、アイエテスは冷静になった

自分でも驚くほどの沈静化だ。しゃがみこんでエルマと目線を合わせてから


「ああ、そうみたいだな。エルマ、お姫様になってみるかい?」


そうアイエテスは言った

エルマは少し悩んで、おひめさまってなに?とアイエテスに聞くのであった





アイエテスは迎えに来たクナトと共に、城に帰って行った

エルマも当然連れていかれた

調べるからと預かったルーンを見ながらキャサリンは言った


「それにしても、これ凄いね。魔石の中に魔法文字が刻まれている」


そうすました顔で言ったキャサリンにカンザキはため息をついて


「いや話を変えて悪いけど、流石に王様可哀想じゃねえ?」


カンザキはあの王様に同情している

キャサリンが引っ掻き回した王宮を、国政を押し付けられたのだから。

しかし王宮ではアイエテスの帰還は歓迎される

さらにはアレクシアも喜んだ

アイエテスは王としてかなりのレベルにあるからだ

まあその事をキャサリンが知るのはまだ先のことだか


カンザキとキャサリンが話していると、そこにシアも合流して、キャサリンと話が盛り上がっていた


いきなり増えた「妹」だ、血の繋がりは無いとはいえ嬉しいらしくて楽しそうに話している

それを見たカンザキは少しばかり羨しそうに眺めた

家族が増える事を喜べる。そんな事が一生のうちに何度あるか

カンザキの父親は早くに亡くなった。母ひとり子ひとりの母子家庭で育ったカンザキはそれを知らない

だから親戚が集まった時に、ミナリを妹の様に可愛がっていたのだから


二人がエルマの可愛さについて、楽しそうに話し合った後

ルーンの話に変わる


「ミタニが来てくれたら見てもらおう」


「キャサリン、ミタニはこれが分かるかな?」


「どうだろ?でもあの子、本当に凄いからね。魔導車の技術説明を聞いた事あるけど何言ってるか分かんなかったし、その中にコレに似た物があった気がするのよね」


キャサリンは王として何度かダイダロスに通い、技術交流を取り付けている

その際に色々と聞いてウルグインでも再現可能な技術を教えて貰ったりとした様だ

再現された技術の視察に、近い内にミタニが来ることになっているらしい


ミタニが来るのはおおむね、一週間後だという事だった

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