第13話ジェリコの壁

焼肉ゴッドの二階にあるカンザキの自室


そこには壁があった。


布製の壁だが、ただの仕切りとも言う


昔読んだ本で笛を1週間吹き続けると崩れるジェリコの壁というものがあったが、そうならないことをカンザキは切に願っていた。



その壁が崩れたのは、設置されてから丁度、1週間だった。





今日の仕事も無事に終わって後片付けをし、二階に上がった時


ビリリッと、音を立てて、1週間俺を守ってくれていた壁が崩れている瞬間を見た。


布だからね…



「!?」



カンザキは一体何が起こっているのかわからなかった。

呆然としていると



「あ、カンザキさま。本日より厳戒態勢に入りますので、この邪魔な布を取らせて頂きました」


げ、厳戒態勢!?何の?


一体何が攻めてくるんだ…


そう聞こうとしたとき、いきなりシアが服を脱ぎ始める。


両腕を前に出して両手をパーに開いて見ないようにしてから


「ちょっ、シア何してんの!?」


「あ、申し訳ありませんが、着替えさせて頂いております!」


「いや、そうじゃなくて!」


何でいきなり着替えてんのかと聞いている!


が、


「そう言えばカンザキさま、お風呂は?」


あ、まだだ!よし、風呂に行こう!

部屋を出て風呂に向かうことにする


「あ、ああ、先に入って来るから!」


カンザキは慌ててドタバタと裏庭の露天風呂に向かうのだった。


露天風呂の周りは神樹に囲まれていて、許可された者以外は入れない鉄壁の守り。


もし、覗いたり侵入しようとすれば強烈な雷に撃たれるのだ。


風呂に入り、一息つく


「はぁー」


さっきのシアは何かおかしかった。

今まで見せたことのない行動だよなー


厳戒態勢って何にだ?


うーん、考えてもわかんねぇ。

さっきチラっと胸見えちゃったしなぁ…


先程の光景を思い出して顔を赤面させて湯船にぶくぶくと沈みかけた、その時だった。


ガラリとドアが開き、

全裸のシアが入ってきた


「カンザキさま、お背中をお流しします。」



ちょ、ま、ええええええええ!?


何何何何!?何なの!?

何で来ちゃったの!?

背中流すとか!?


しかも全裸とか!また見えたよ!胸どころか!


あ、背中流しに来たのかーって


ちょっとまてぇー!


「ちょ、シア!どうしたんだ一体!?何があったんだよ!」


カンザキは湯船の中でくるりと回り、シアに背中を向けて、慌てて話す。


「今までカンザキさまにお礼をしていない事に気づきまして、そのお礼を、と」


「お、おれ、そ、そ、そんなのは良いから、やめてくれよ!」


カンザキは必死になって、拒絶する

一応カンザキだって男の子なんだと、おっさんだけど



シアからの返事がない


代わりに、しくしくと泣くような声が。

な、泣いてる!?


「し、シア?」


恐る恐る声をかけると


「カンザキさまは、私などに興味がないのは分かっております、そんなに、拒絶されるほどお嫌いでしたか?」




はああああああああ!?


カンザキは混乱した!!






あれ?俺なんでシアに背中流してもらってるんだろう?記憶がない?


今カンザキはシアに背中を流してもらっていた


「いかがでしょう?」


「あ、ありがとう?」


何故疑問形で返したのかカンザキ


そして、シアが後ろからカンザキに

抱きついてきた。


あ、柔らかい。


「!?!?」


カンザキは再び混乱し始めた、その時だった





ドガァァアン!





凄まじい音がした。

二階の方からだ!


ガァン!

音が止まない!



「何だ!」


ハッとしてカンザキは立ち上がり、唖然としたシアを残して急ぎ、服を着て二階へ上がる。




そして二階のドアを開けるとそこには…


ブロンドの美女ことキャサリンが大きなハンマーを振り上げ、二階の壁をぶち壊しているところだった。

チラリとカンザキを見ると


「ちぃーす。お世話ンなってます!土建屋でーす!」


そう言いながらキャサリンは壁をぶち抜く


カンザキが呆然としてみていると、壊れた壁の向こうから数人の男がやってきて


「姉さぁん、こちらと繋げば良いんで?」


「ああ、頼むよ。ドアも仕切りも要らないからね」


「はいょぉー!」


男達は凄まじいスピードでキャサリンの店の二階とカンザキの二階を繋いでいく。そしてそこに仕切りはない。

キャサリンの店の方を見ると、キトラとシルメリアが抱き合い、青い顔をして震えていた。


カンザキはハッとして、キトラとシルメリアの方へ駆け寄る。


「な、何があった!?」


カンザキは2人に話しかけるが、キトラとシルメリアはプルプルと首を振るだけで何も話さない


後ろを見ると、既に工事は完了していた。超高速建築である!

そして最後の仕上げに入ろうとしていた。


親方と見られる男が、キャサリンに話しかける


あ。鹿男だ。久しぶりだねぇ?


「いやぁ、まさかカンザキさんとキャサリン姉さんが結婚とはねー」


!?


な、何を言ってるんだアイツは!?


「やだね、ありがとう」


キャサリンは両手を頬にそえて恥ずかしがる。


「じゃ、これ御代ね」


そう言ってキャサリンは鹿男に・・・あんまり見たことのない程のすげえ大金を渡した


「あざーっす。じゃ、明日街中に結婚言いふらしますんで。あ、キングサイズベッドは明日に納品しますわ」


!?


「頼んだ!早くしてね!」


キャサリンさん?


バタァァン!!


カンザキの二階のドアが勢いよく、吹っ飛んだ。


風呂から上がったシアが息を切らしながら飛び込んで、鹿男に


とても美しい、ボディブローを叩き込んだ。


お見事!



「がはあっ!!」



鹿男がやられた!!



鹿男は窓を突き抜け、外に落ちる。



「やられました。まさかこんな手に打って出るとは。さすがお姉さま、汚いですわ」



シアは悔しそうに言う


「ふ、既成事実は頂いたよ。コレで明日にはもう、私とカンザキが夫婦だと、街中に知れ渡る」


ドヤ顔のキャサリンが言った。


「そうはさせません。クナト。」


「ハッ!」


何故かかボロボロの燕尾服を着た熊が現れた。


「先程の鹿男、買収しておきなさい」


「ハッ!」


ボロボロのままの熊が先ほどの穴から飛び降りた!



「させないよ!」


キャサリンが熊を殴り飛ばそうとしたその時。



「カンザキさま、お風呂、入り直しませんか?」



シアが俺に優しそうに笑いながら言った


うん、なんとなく分かってきた。


でもってそれ、地雷だよね?たぶんそうだよね?



キャサリンがふらりふらり、とカンザキに寄ってくる。


そしてばさり。

服を脱いだ。


!?全裸!?



「さあカンザキ、私と入ろうか?」



とても可愛く、キャサリンは言った。



普段なら冗談とわかるソレは、今は確実に冗談ではないとわかった、そして


「カンザキさまは私と入るのです。さあ、カンザキさま」


とても魅力的に、色っぽくシアは言った。



「あ?やんの?妹の分際で?」


「ふざけないでください。姉の分際で」






カンザキは



キトラとシルメリアと抱き合い、3人でプルプルと震えて



意識を失った。









翌日


「ん、あ?」


眩しい朝日が差し込む。どうやら今日も良い天気の様だ

しかしよく寝た。だが、ひどい夢を見たなぁ



キャサリンとシアに言い寄られる夢を見るだなんて、俺相当うぬぼれたか、欲求不満だな。


起き上がろうとして気づく。

両腕が動かない


おかしいと思い、右手を見る。

何故かキャサリンを腕枕している。

左手を見る。

何故かシアを腕枕している。






ギャアアアアアア!!!


カンザキの悲鳴が、朝の街に響き渡ったのだった…










そして、何故か一階の店にも改装が入り、キャサリンの店と焼肉ゴッドは同じ店になっていた



それに気づくのは、あと数時間後の出来事。




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