第25話ダイダロス編7 王宮へ
全員を乗せた鉱山ダンジョン60階層にあった転送陣が送り出す先は
ダイダロスという国のど真ん中だった
「おっほー。ここ城の地下、その中心部だよカンザキくん!ここにはどうやっても入れなかったんだよね!」
ミタニは転送されるなり、テンションを上げて興味深そうに辺りを見回した
きょろきょろとその大きな目を見開いて、そこら中にある物を片っ端から手に取り調べ始める
誰も入れなかったと言う割に、この室内は綺麗だった。埃臭くもない、何か魔法的な力が働いていたのだろうと推察できるね!っと、ミタニは叫ぶように言いながら部屋を調べていた
やはり根っからの研究者の様である
ちなみになぜこの場所がどこかわかったのかと言えば、ダンジョン内でも使用していた現在地を表示出来る魔道具のお陰だった
それがダンジョンを出たここでも使用できた
転送陣の先はダイダロスの王宮
その地下内部で、そこはかつてあった魔法大国
マグナシアの王宮の遺跡
ダイダロス王宮の直下、地下およそ1kmの辺りである
復元し、使用している地下鉄のさらに下らしい
そして普通にその部屋のドアは開いた
「なるほどー!ここ、内側からしか開かなかったんだねぇー」
ミタニは部屋の今出てきたドアを調べている
ここは以前、地下を探索していた時に見つけていたらしい
だがその当時の王の部屋と思わしき場所や、宝物庫には入れたのにまったく入れない場所がいくつかあった
そのうちの一か所が、ここという事のようだ
ダイダロスの研究者により調査されていた地下の遺跡、そこがマグナシアの遺跡であるとわかったのはミタニらにしてみれば僥倖であったが、その遺跡のほとんどは地中に埋まっており、発掘作業は難航していた
だが特にここの部分は発掘が済んでいたにも関わらずどうやっても扉を開けることができなかったのだ
ドアを通り抜けて隣の広間に入ると、そこには大きな竜の像がおいてあり、四方には光源があった
「へぇ、すごいね。数千年前の魔石がまだ力を失ってないなんてさ、前回来た時は光らなかったのにここから出ると明かりがついたよ!」
灯りを指さしてミタニは言った
たしかにそのとおりで、この王宮は数千年たっているとは思えないほどきれいだ
まるで時がとまってしまっていたかのように
広間から出るとそこからは長い登り階段がある
登り切ったところで例の地下鉄の線路に出た
一同はそこからほんのわずか歩くと駅が見えてきて兵士たちから歓声があがる
それは嬉しいだろう、カンザキですらおよそ二週間閉じ込められていただけなのに嬉しいのだから、それよりかなり長い間閉じ込められていた彼らの喜びは計り知れない
その駅から、さらに階段を登りそのまま地上にでると、そこはダイダロス王宮の庭だった
太陽を見上げればそれが真上にある
ちょうど昼を過ぎていた頃のようだ
ずっと地下に居たから時間の感覚がおかしくなっていたが、久々の太陽光に体が喜んでいる
「なんとか……ここに帰ってきましたね」
少し寂しそうに王妃は言った
「ねえ、おとうさまはもう先に帰ってるんだよね?」
「ええ、そうよ。でもね、まだ直ぐには会えないの」
「えー。おとうさまに会いたいよぉ」
まだ幼い姫には、王が死んだと伝えてないのか・・・
王の遺体はあの書斎の奥のクローゼットの中に安置されているままだ
転送陣を直したら引き取りに向かってから落ち着いて国葬を行うと聞いている
そして庭から王宮内に戻ると
城に残っていた兵士達が大慌てで王妃と姫を出迎えたのだった
数時間後ー
「なあ、国王なき今、次の国王はその弟なんだろ?」
俺はミタニに聞いた
「何言ってんのさ、国王の実弟は王家の血筋じゃないだろ?養子なんだからさ。あの姫が成人するのを待ってから婿をとって次の国王が決まるんだよ」
ああ、そうか。だから領主制を推進したのか……
国王がいなくなれば次の国王は姫の旦那だ
いいや待て、そうなると姫すら死んでいたらどうなっていたんだ?
「その場合は近縁の王族が王位についていたかもねぇ。ダイダロスの近縁はウルグインだ。ウルグインは娘しかいないが、どの道その娘がダイダロスに来てその旦那が王になっていたはずだよ」
なるほど、どうあがいてもその弟はこの国の王にはなれなかったのか
ということはやはりその弟が偽領主では?
「その可能性はゼロだね」
はい?
「さっきちらりと聞いたよ、偽領主の正体。あいつの名前はガドネルだったかな」
そう言いながらミタニは嫌そうな顔をする
「そいつとなんかあったのか?」
しばらく一緒に居たが、ミタニのこんな表情は見たことがない
「いいや、なんでもないさ」
ミタニは無理矢理、笑顔をつくる
(ガンドルにはかなり金をむしり取られたからなあ……知りながら放置していたのはたのはボクだけどね)
「さっき聞いたってことは、俺らが帰還したことも、もうバレてんな。夜にでも襲撃にくるかもしれないなぁ」
カンザキは腕を組んでめんどくさそうに言った
「来るだろうねーまぁアイツ弱いから来てもなんともならないんだけど」
「そうなのか」
「まぁ、雇ってる傭兵とかに強いのがいるかもしれないケド」
ミタニがそう言った時だった
天気の良い空にとてつもなく巨大な魔方陣が浮かび上がる
明るかった天空は陽の光を遮って黒く夜のように闇に染まり
その魔方陣自体の輝きが街を紅く照らしていた
唐突に強風が吹き荒れ始めた
荒れ狂う魔力が風を起こしているのだ
何か大きな力が空に渦巻き始めていた
「うわぁ…あれ何か来るねぇ?凄い力だからかなり危ないね、止められないかな?時間稼ぎにしかならないと思うけど、なんとかしてみるよ」
空を見上げていたミタニはそう言って窓を開けてベランダに出と、空に向かって魔導銃を構えた
ミタニを中心に魔力が渦巻く
淡々と魔法を唱え始める
「汝は歩みを止めよ」
「クロノス」
それだけ言うとミタニは魔導銃を撃った
その途端に上空の魔方陣の煌めきが止まる
ため息をつきながらミタニは倒れる
「今日はほんとに撃ちすぎたわーカンザキから貰った弾丸も尽きたし……もう、だめ」
「何をやったんだ?」
なんとなく召喚魔法ぽかったけど
「魔方陣の時間止めた・・・多分半日はもつはず・・寝る・・」
パタリと倒れたミタニが目をつぶりすうすうと寝息をたてはじめた
あ・・・寝てるわ
カンザキはベランダで倒れたミタニをベッドに寝かせると、魔方陣を作り上げたと思われる者を探しはじめる
魔法陣を展開したままでの時間凍結か
おそらく、その魔法を行使した者も同じ様に時間が止まっているだろう
あの大きさ、このレベルの魔法陣を上空に映し出すには…かなり高い場所で唱えていないと無理だろう
例えば王宮か?
例えばあのホテル?
まあ、あのホテルの方が高いからあっちかな?
カンザキは念のためにと、王宮を調べたがやはり魔法を使ったまま時を止められた者はいない様だった
王宮で兵士に頼んで魔導車を借り、ホテルへと向かう
「おー。すげえなこれ、オートマか、一応変則ギアは使われているんだな」
ハンドルからカンザキの微量な魔力が流れ込み魔導車は走り出す
ギアは進むか戻るしかないシンプルなものだ
アスファルトで整備された道を進むと
まだ信号機はない様で、手旗信号の人が道を整理している
懐かしい感覚だなあこの乗り心地は
車を運転するとか、20年振りくらいか?
街中では空に浮かんだ魔法陣のせいで驚き騒いでいる
魔法陣が読める人がいたのか、ベヒモスが来るぞ、逃げろと叫んでいる人もいるな
直ぐにホテルが見えてくる。その先のホテルの屋上には、ぼんやりとだが光が見えた
◇
時は少し遡る
王宮は王妃や姫の帰還に湧いていた時のこと
「やぁ、キミがボクの名前を語っているのかい?」
ミタニは通信用の魔道具を利用していた
「ミ、ミタニ様」
脱出したとの話は本当だったか!
「よ、用があるので失礼する!」
ブチンと通信端末を切る
実はガンドルはスパイとなる兵士を一人送り込んで居た
国王とミタニを毒殺する任務でもって…
順調に王が死に、ミタニも風前の灯火になっていたときまでは順調だったのだ
だがあのカンザキと言う男が、まさか皆を治してしまったと言う報告を最後に通信は出来なくなっていた
ガンドルにとって、最悪の事態が動き出したのだ
ガンドルの一族は大昔の魔法大国である、マグナシア王族の生き残りであった
数千年に及んで受け継がれた魔法の力とその記録
さらにはガンドル自身本物の王族の生き残りなのである
当時の王族が転生魔法によりこの現代に蘇った
それがガンドルと言う男
彼は成長後記憶を取り戻すと、かつてマグナシアがあった地はダイダロスとなっていた
彼は落胆したと言うよりも呆れてしまった
あの美しき魔法大国だったマグナシアは魔法が衰退し、今では鉄臭い工業大国となっていた
さらにはミタニと言う天才発明家により近代化の歩みを始めている
しかし明らかにあの当時の魔法技術の方が進んでいたし
何よりもそのものに美しさがある
彼は当時失敗してしまった魔法に、召喚に再び取り掛かる事にした
目的は、古の神の召喚である
そして神に力を給うこと
それは「神酒」を用いた特殊召喚魔法
神獣ベヒモスの召喚である
だがガンドルは知らない
つい先日ベヒモスは一度
いや、数度となくカンザキに狩られている事を…
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