第147話そこにある異世界4

ここが父の描いた漫画の世界かもしれないという事に気づいてからは順調だった


ただ、全く同じという訳ではないらしい

人物の設定が大まかに違うことも確かだが、知らない敵も存在しているし、町の名前なんかも少しちがうとかある


特に知性ある魔族はかなり違うようで、事前の情報によればほぼわからなかったが、調べていくうちにかなり似通っている魔族を思い出せたりなど


実はもしかしてと、気づいたあの夜


残り少ないスマホの電源を入れ、中に入っていた父の漫画の電子書籍を必死にめくった

それをノートに見た限り書き写した


全て書き出せたわけではないが、かなり重要なところは抑えられたと思う


あれから3日、私は王宮にて待機では無く勇者パーティ御一行と行動をともにしている


もし私が、あの漫画の魅力的なモブであるカンザキと同じ立場なのであれば出来る事はあるからだ…特に魔王に対しては、だけど


それにしてもあの冒険期間は何年あったのか分からない

漫画だとそこまで気にしてなかったからね

数年はかかるはずなんだけどな…イベント的に

耐えられるだろうか



そう言えば特に隠してることでは無いから、トワさんにちょっと聞いてみた事がある



「あの、トワさん。エタブレって知ってます?エターナルブレイブ、漫画なんですけど」


「なにそれ?」


「結構昔の漫画だからしらないですかね…年齢的に知ってるかなぁと思ってたんですが」


「うーん。ごめんね、実は15歳くらいまではちょっと病弱でね、寝たきりだったんだ」


「えええ・・・そうなんですか。でも今は元気なんですね」


「うん、姉とその友人のおかげでね」


へぇ、お姉さんのおかげかぁ…ちょっと親近感沸いたなぁ


その後も姉の自慢話をされて、シスコン舐めてました


ある意味私もシスコンだけど熱量は全然ちがうよ



まぁ、漫画を知らないっていうのはよくわかりましたけど




さて、私たちは最初の町を開放するべく占領下にある町へと着いたのです




さすがに占領下にあるというだけあって、かなりの悲惨な状況のようで

なんでもここにいるのが赤骨のギルディアという魔人です


確か十二魔とかいう、くくりがあって、その中の最弱だーってやつだったんですけど


思ったより強いみたいだった





アランの武器は王家に伝わる聖剣フランは魔人に対して輝く

それは黒い血をもつ魔人の動きを鈍らせる光だ


だが、魔人ギルディアの動きは変わらない


「ひゃっはっははは!なんだそれぇ!時代遅れの聖光なんて俺らはもう克服してんだよぉ!」


「がふっ!」


ギルディアの攻撃にアランは膝をついて血を吐く

先ほどギルディアが薙いだ爪に触れただけだというのに、かなりのダメージだ



「アラン!癒せ光よ!ヒール!」


シーナは慌ててアレンに回復の魔法を施す、そのタイミングでトワは防御障壁を立ち上げるのだが


パァン!


ギルディアの一撃で砕け散ってしまう



すみれの記憶では、ここは勇者が使えない聖剣の代わりに自分の力で聖剣を作り出し撃破するはずである

漫画と同じ展開だった


「アランさん、聖剣魔法です!自分自身の聖剣を作り出すんですよ!」


すみれはアランに向かってそう叫ぶ

しかしアランからしてみれば、何を言っているのかまったく理解できなかった


戦闘前にすみれから聖剣魔法について聞いてはいた

だがそれだけだ。そんな魔法は知らないし、聞いたこともない

だが戦闘になればなんとかなるんだろうと楽観的な考え方をしていたのだ


実のところ、アランもシーナもすみれの言う事をいまだに信じられてはいない

トワだけは真剣に聞いてくれてはいたが、それでも話の中に自分にできることはなく支援をやるしかないと思っていた


トワの本来の実力が出せれば問題ないのであるがそれが出来ない理由がある


なので今は与えられたスキルと魔法を駆使するしかない

そして一人で活躍するようなことをしてしまえば仲間の成長にならないという理由もあって遠慮していたというのは大きいが、それでも


「まさか防御障壁がやすやすと破られるなんてね」


トワの放つ魔法も、すべてギルディアに切り落とされていく


「魔法が切られるなんて、その爪反則じゃないですか?」


トワが苦笑いしつつそう言うと


「ひゃはははは!弱すぎねぇ?お前ら雑魚すぎぃ!なんだよ、歴代最強って聞いてたオメーらこんなもんか!楽勝だな!」


ギルディアの高笑いが響き渡る


すみれは内心焦っていた

漫画通りではない


本来ならばヒールを受けたアランが聖剣魔法を発動し、一撃の下に斬り捨てる

だというのに、現状アランはいまだ回復しきっていない

これは爪に付与された呪いが原因である

そしてトワがここまで交戦する事も無かったはずである


漫画の世界、だけれど漫画通りに進まないという

それがすみれを混乱させた


結果、すみれがキレるという事態が発生する


「ああもう!何やってるんですか!なんで聖剣作り出さないんですか!」


すみれも自分が何を言っているのかあまり理解できていない


「こうやるんです!胸に右手、そして魔力を高める!唱える呪文は簡単!聖剣解放!これだけですよ!」


すみれがそう言った瞬間、すみれの胸から輝く光が天へと延びる


「え?」


現れたのは一振りの剣

産み出した者以外は振るうことが許されない剣だ


「えええええええ!?な、なんで私が!?」


全員の眼がすみれに集まる


見た感じはただのシンプルすぎるブロードソードだ

だが、秘めたる力は見るものに確実に伝わった


「テメェ!雑魚じゃなかったのかよぉ!」


それを見たギルディアが背の翼をばんっと広げると一気にすみれの傍まで飛び込んでくる、

しまったと声を上げ、トワが高速機動魔法を発動し追いかけてくるが間に合わない


ギルディアはその右手の爪をすみれに向かって振るう


バキィン!


甲高い音を立てて頑強な爪が砕け散る


ウォン・・・


科学的な音が聞こえた


爪が砕けた原因はすみれの前に障壁があったからだ


「えええ!?何これ!?」


見れば左手につけていた水晶のブレスレット、いくつかある石の1つが輝いている

なんだか読めない文字がそれには書いてあるようだった


「わ、わたしなんもしてないよぉ!?」


水晶の石の二つ目が輝き、声のようなものが響いた


(守護対象への攻撃を確認・スピリットガーディアン起動します)


すみれの前に現れたそれは黒い人型、鈍く青い光を纏っているようだった


「くっそ、なんだこいつ!」


ギルディアは一歩、下がる

それをガーディアンと呼ばれたそれは見逃さない


ぽんっ


軽い音が響いた


「ぐがあああああああああああ!てめぇぇぇ!」


ギルディアの片足が消失しているように見え、ぐらりとギルディアが倒れどさりと音が鳴る

ガーディアンが何かしたのだろう


すみれはその姿を見て、慌てて持っている聖剣を投げつけた

どこにそんな力があったのか剣は吸い込まれるようにギルディアの頭へと到達したのだった








ここはウルグインの街にある焼肉ゴッドの店内


そこにすみれの姉、さくらの姿はあった


「ルネちゃん!準備できた!?」


「ちょっとまって、まだエルマの準備が…」


ルネの手元にある通信ルーンから声が聞こえる


「そうですわ、さくらさん。慌てても意味なんてないですわ、それに私の作ったブレスレットをすみれさんにお渡ししているのでしょう?」


激しく動けない様に見える豪華なドレスを着たエルマ

ウルグインの王宮で育った彼女は言葉遣いも丁寧になるように育てられた

ある意味、あの三姉妹のせいかもしれない


そんな彼女だが、その力でもって魔道具を作る事が出来た

10個のラピスラズリで作られたブレスレットには様々な力が込められていた

ルーンにおける最高級、最高峰の守護アイテムである

それをお土産としてさくらはすみれに渡しているのである


「あああ、向こうの時間の進み具合ってめちゃくちゃ早いらしいのよ・・もう1週間以上経ってるかもって玲奈さん言ってたのにぃ」


「はぁ、さくらさんのすみれちゃん好きは相当だもんね、ねーエルマ、ちょっと急いであげてよー」


ルネの準備は完全に完了しており、エルマのドレスからの着替え待ちとなっている

重いドレスから動きやすいドレスに着替えているところだ


「ねー、お父さん向こうって美味しいものあるー?」


ちなみにルネの心配事とはこの程度である


「お前、落ち着いてんな…」


カンザキがあきれた顔でルネを見る


「だって、すみれちゃんエルマのルーン持ってるんだよ?アレめちゃくちゃヤバいからさ」


「ああ、まぁアレを打ち破れる奴がそうそういるとは思えないけどなぁ」


「でしょ、実験とかってやった時お父さん相手でも2分くらい持ってたしお母さんなんてイライラしてブチ切れて木っ端みじんにしてたくらい硬かったもん。それの完成形だもんね」


「でもすみれちゃん、心配じゃないのか?」


「うーん」


ルネは少しだけ考えてから言った


「すみれちゃんも相当だと、思うんだよね…さくらちゃんほどじゃないにしても」


ルネの眼は特別性である

幼いころにはそれで辛い目にもあったことがある




その眼の持ち主がそう言うのだから、信頼性は相当に濃いのである



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