第146話そこにある異世界3

頭の中に突然響いた声


力が…欲しいか


そう言った


力さえあれば、力があればきっとあの3人に付いていける

足でまといにもならないだろう

だから、私はこう答える


「えっと、力とかいらないから帰りたいんですけど」


(え?)


「え?じゃなくて、帰りたいんです」


(…くっ、国を救いたくはないのか)


「あの、聞いてます?帰りたいの。国を救うのはあの3人が居れば十分でしょう?私は力なんて必要ないから帰りたいの」


よく分からない声に対して毅然とそう言い放った


(嘆かわしい…なんという娘だ、民を見捨てるとは)


はぁ!?


私の中で、何かが切れた

沸点短めは母譲りだ!なめんなこの野郎!


「あのねぇ、ふざけてる?勝手にこんな所に呼んどいてさぁ、帰らせないとか!なに?、力が無いから与えてやるみたいなこと?何様なの!いいかげんにして!」


無責任すぎ!

帰らせてよ!姉さんに会いたい!父さんも、母さんにも!


「あのねぇ、私の事はどうなってもいいわけ?戦うの見てたけどあれスキルないと死ぬよねぇ?」


(だ、だから力をだな)


「そもそもこの国の人呼べば良くない?自国なんだからさぁ」


(呼んだ!呼んだぞ!)


「あのねぇ私、日本人なんだけど?日本って知ってる?」


(は?)


「この世界じゃないわけ。私とトワさんは日本から呼ばれてんの。まあトワさんはチートみたいな感じだったけどさ、私は無能だよ?なーんの能力もない」


(えっと……あれ?あ、なるほど、君の血にはこの国の勇者の血が確かにながれてるんだけども)


「はぁ、お父さんもお母さんも日本人。この国の人間じゃない」


(えええ…おかしいなぁ…確かに濃い血を感じたのに)


「とにかく」


(はいっ!)


「さあ、早く家に返してくれます?私を」


そこまで言い切った所で、ふぅ、と息を吐く

柄にもなく怒りが込み上げてたみたい


これで色良い返事は聞けるとは思ってない

だけど言いたい事は言い切ったよ…


虚空からの返事の声を待っていると


ガチャりとドアが開いて、アラン君とトワさんが入ってきた

思わずビクっとなる


「大丈夫か!!」


「ほえ?!」


「なんか凄い声で騒いでたじゃないか!」


「あーいや、違います、ちょっと何かな、神様みたいな声が聞こえて喧嘩を……」


「神様と喧嘩?」


いや、痛い子見るような目で見ないでよ。ホントなんだから


するとトワさんがすっと前に出てきて


「確かに、神気を感じるね。すみれちゃんが言ってるのは本当かも?」


おお!そんなモノまで感じるんですか!?

さすがトワさん主人公してるなぁー


感じた神気はもう薄れていっているらしい

逃げたか・・・ちくしょう


すこしばかり毒を吐いたのですっきりした

これで明日からは本当に一人だ


他の三人は占領されている町があるらしくそこを開放するべく動くとか

いろいろ聞いたけど本当に危機の国だ

領土の6割をすでに占領されており、管理していたダンジョンなんかも全部奪われているとのこと


最初に行ったダンジョンだけは魔族が居ないことが確認されてるらしく普通のダンジョンだったらしい




それにしても力か・・・


もしそれがあったら私も一緒に助けに行ったのだろうか

今まで主役になることなんてなかったからその気持ちは全然わかんない


まあいいかとベッドに潜り込んで、寝ようと目をつぶってから気がついた


あれ?これって




翌日、皆は町を解放すべく出ていった


私は見送りの後に王宮にある書庫に向かう

そこで魔法の本を借りて、読むことにした


あの通りなら、初級魔法が幾つか覚えることが出来る



「なるほど、なんでか文字は読める…そしてこれ、魔力を必要としない初級魔法なら覚えれる」


初級魔法の幾つかは自分の魔力を必要としないものがある

空中に漂う魔力だけで発動出来るものがあるからだ

これであれば、私でも使える


「覚えておいて損はないもんね。日本で使えるかわかんないけど」


日本に魔力なんてあるか知らないもんね


すみれは使えるかどうか分からないと言っているが、結論から言えば魔法は使える

ただし、空気中に魔力が有ればだが

魔力=霊力である為、霊的な力が強い場所という必要がある

例えるなら墓場が分かりやすいだろう

多くの死者が眠るそこは霊的な力が溢れやすい

火の玉と言えば分かりやすいだろうか


かつて日本が火葬の習慣が無く、土葬が主流だった頃は死体に含まれるリンが気化しそれが空気中で発火するという事が考えられていた

しかし土葬でなく火葬となった現代でも火の玉の目撃例はある

その最たる原因は霊的因子によるものが大きい



そしてあっさりと覚えれる初級魔法を覚えてから昼食を食べて、午後からは覚えた魔法の練習である


「ええっと、魔法陣を思い描きつつ…ファイア!」


ぼっ


火の玉が浮かび上がり、10秒ほどして消えた


「おおお、これちょっと感動」


その後も紙を近づけて燃やしてみたりする


紙はファイアの火で燃えるも、火の玉消失とともに燃え移った火も消えて、半分ほど焼け焦げた紙が残る


「なるほど……これなら森とかで使っても火事にはならないのね」


「ええ、ですが強い魔法使いの場合、魔法を唱えたものが消えろと思わない限り燃え続けたりしますよ」


戦闘能力のないすみれを守る目的でそばに居る兵士がそう教えてくれる


自身の魔力で火をつけた場合はそうなるんだと、妙に得心する

空気中にある程度の魔力ではこの程度の火で、持続時間はその周りの魔力に依存するんだなと

わずかな魔力で燃えてるのだから、MP……魔力が多い人であれば燃え続けてもたいした負担にならないのかも?


そんな考察をしているとあっという間に夜になる


自室に戻ると…誰か居る気がした


ドアを開ける前に、ああやっぱりとすみれは確信してにやりと笑う

しかし、逆に緊張もしはじめた


「はあ、マジかー」


そう言いながらドアを開ける


そこに居たのは異形の存在だった


すみれの予想通り、なのである


「やぁ、僕は」


異形の声をぶったぎるようにすみれは言った


「僕は魔王軍の端くれ、それでも部隊を率いている者だーって?」


それを聞いた異形の存在は驚いたそぶりを見せる

蝙蝠の様な黒い翼に、黒い肌、人間の様に見える顔だが、紫色の瞳をしている奴だった

魔族と呼ばれる存在だ


「なに!?」


「はぁ…まじかー。昨日寝る前にうっすら気づいちゃったんだよね…これ、父さんの漫画の展開に似てるなぁって。トワさん、ううん。カンザキさんが居る時点で気づけばよかったよ…トワさんて呼んでたから気づくの遅れちゃった」


「がふ…ばかな…お前一人だったはずだ」


いつの間にか胸から剣を生やした魔族は黒い血を吐いた


「あー、今朝、すみれちゃんが夜に帰ってきてくれって懇願してきたの、こういうことだったのかよ」


すっと影から姿を現したのはアラン君だ


「な…勇者、だと…お前らはさっきまで町に居たはず…どうやってこんな距離を…」


その言葉には私が返事してあげる


「トワさん、瞬間移動できる魔法使えるんだよね」


それだけの事だ


「ぬかったわ…」


どさりと魔族は倒れ、その吐いた血泥の中に消えて行った


「おおお!?倒したのか!?あっさりすぎねぇ!?」


アラン君が驚くが、実は倒していない。逃亡したのだ


もしかしたら、これが私のチート能力なのかもしれないと昨夜思ったのだ


父の異世界漫画、「エターナルブレイブ」の世界に私はいるのだ

各個人の名前はちょっとずつ違うけど、それは問題じゃない



勇者アラン、漫画だとアレンて名前だと思う


シーナ・シーナさんはレーナさん

トワさんの苗字はカンザキ、漫画の中にもカンザキは居たけどここではトワさんと呼ばれてるから気づかなかったし


それに漫画だと


わたしのポジションがそのカンザキのポジションだ


相坂すみれ 漫画だと、カンザキさん

そしてトワさんの本来のポジションは勇者パーティの4人目の人…名前忘れたけどクリ…なんだっけ?


とにかく、私はストーリーを大まかにだけど分かってるハズ


だからこの冒険を早く終わらせ、日本に、私のお家に帰る算段をつけるんだ!




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ご覧いただきありがとうございます

こちら時系列だと本編の15年後程度になると思ってやってください

人物設定から+15年でお願いします

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