第160話そこにある異世界16.5 焼肉ゴッドの日常

「さてっと」


カンザキは店前の掃除を終わらせる

いつものルーティーン

最近は雨が少ないので、水をひしゃくで撒いていく


横着をして水魔法で撒いている奴もちらほらといるその通りは飲食店街の中でも飲み屋が多い所になる


外はまだうすら明るいので、開いている店舗はちらほらしかない



カンザキは暖簾をかけると、開店だな、と気合を入れる


店内ではシアがいつものようにテーブルを拭いている

ずいぶんと年季が入ったそのテーブルは脂などがしみ込んで、いい色をしている

だからといってベトベトになっているということもない

毎日のように、綺麗にしている賜物である


カンザキはそれを見て、よく育ちやがってとニヤニヤしているのを見られて恥ずかしがっていた


よく来ていた常連はそれなりの立場になったり、お金持ちになったりしたりであまり来なくなっている

それでも昔を懐かしんできてくれる人もいるので、まったく来ないわけではない



「ども、お久しぶりです」


顔を覗けたのはモコだ

今では冒険者ギルドの重鎮の仲間入りをしたと聞いている


「おお、ほんとに久しぶりだなぁ。有名になっちまって、ちっとも近寄らなくなっちまいやがって」


「えへへ、あ、とりあえずエール下さい。あとごはんと、ホルモンお願いします」


「あいよ」


ずいぶんと渋い注文をするようになったモコである

すると待ち合わせをしていたのか、仲間であるテレサがやってきた


「なんだモコ、さきにやってるのか。店主、久しぶり。私にも同じものを」


「あいよ」


テレサは今だ現役を続けている

ダンジョンに潜るのが楽しいのだそうだ


「おまち、ゆっくりしてきな」


「はぁい」


「ああ」


なんだかんだとこの二人はそれなりに来てくれる

それでも今回は一月ぶりくらいだろうか


ジュウジュウと焼く音が店内に響く

まだ客がいないせいで、二人はきらくに食べている


「あ、カンザキもう開けてるの?」


次に店内に入ってきたのはキャサリンだった

男の子を抱いている


「あ!姉さんお疲れ様です!」


テレサが立ち上がって言った


「あんたねぇ、いつも硬いよ?んじゃ私も店の準備手伝おうか?」


「いいよ、子供の世話あんだろ?そこんとこに炊けてる米避けてるから子供らに持ってってくれ」


「はーい」


キャサリンは素直におひつに分けられた米を持っていく

ちなみに抱いていた男の子はカンザキとキャサリンの子供だったりする

六歳であるが、まだちょっと母親に甘えたいらしい

今日は遊び疲れて寝ているようだ、抱っこしたまま移動しているというのにちっとも目を覚ます様子がないあたり、よくカンザキの血を引いているとキャサリンに言われている



キャサリンが出ていくと、テレサが再び椅子に座った


「なんだ、キャサリンには相変わらずなんだな」


「そりゃあ、ミナリさんにもお世話になってるが一応ほら、王女さまだろ?」


「一応」


「だからきっちりしとかないとな」


なるほど、テレサは意外と立場に弱いんだったか


そうこうしているとまた今度はかなり若い冒険者が入ってきた


「ふぃー、おやっさーん。肉盛り合わせ~あとエール人数分おくれー」


「いらっしゃい、ほいよ。人数分ね」



入ってきた冒険者は二か月くらい前からよく通ってくれている



3人ばかり、ぞろぞろと入ってくる


中にエルフが一人混ざっているパーティだ

昔は見なかったエルフだが、最近はウルグインのダンジョンに潜る者も増えているようでよく目にするようになった



「いいか、ディン。お前はもう少し慎重になれ」


そのエルフがリーダーであるディンに注意をしている


「いやだってよぉ…あそこで宝箱があったからつい、なぁ」


「最初に鑑定をすればいいのに」


同じくパーティの魔法使いがそういう


リーダーのディンは戦士だ。タンクの役割もしたりする

そしてリィルという魔法使い。本人曰く回復魔法も得意とのことで、賢者を目指しているとか

三人目はエルフの弓使いであるルルイ。エルフの戦士であるが、斥候が得意である


そんな三人組が通うようになったのは最初は金が無かったからだ


焼肉という、今ではウルグインでもそこまで珍しくもない店なのだがこの店が老舗だと聞いて、それでいて他店のように高級ではないのが彼らの財布にも都合よく通うようになった

この店で焼肉を食べた次のダンジョンアタックは非常に調子がいいのでゲン担ぎも兼ねている


どうも会話の内容を聞く限り、ダンジョン15層での事のようだ



ダンジョンは5年ほど前に「大変動」と呼ばれる異変が起きた

その日、ダンジョンに籠っていたドワーフや冒険者全てがダンジョンからはじき出された


ものすごい轟音と共に、ダンジョンの入り口が閉ざされたのだ


その期間はおおよそ1週間ほど


再び轟音と共に入り口が開いたのだ


一階層の露店

二階層の鉱脈はそのままだった

ただ、鉱脈はすべて掘る前に戻っていたという


問題になったのは三階層以降だ

ここも鉱脈があったはずだが、それらの代わりにいかにもなダンジョンがそこにあった



そして、ダンジョンはまるで…生き返ったようだったという


そして階層自体は100階層だと思われる

今まで使用できていた転移陣は使用不能になっていた


ただ、安全地帯があったり、今まで通りのモンスターがでるところもあったがそれは20層くらいまで

そこから先は完全に未知である

転移石は行った階層までを再び記録し、使用可能になった

ただ広大さは増しており今まで通りの攻略はふりだしに戻った

現状の最大深度は40層だという


その代わり、ダンジョンのモンスターから取れる魔石の質は向上

さらに宝箱などもよく見つかるようになった

同じ場所に出現するわけではないようだが、次々と隠し通路なども見つかっている

そして一番の違いは、食材や素材となるモンスターが増えたことである


こうして、ウルグインのダンジョンは「甦った」と呼ばれるようになった


その原因というか、犯人はルネとエルマである


まず、日本に遊びにいったルネが暫くしてゲームにはまりだした

こんなダンジョン探索したいとか言い出す。ちなみに某ローグ系のゲームだった


そしてダンジョンそのものを掌握したエルマがそれらの意見を交えてダンジョンを再構築


その結果がコレである

エルフの一族もからんでいるというのもちらっと聞いたりはした

ちなみに100層以降のダンジョンは多少変わりはしているもののエルマの手に負えるところではないため、あまり変わっていない

カンザキの畑もそのままある

ただ訪問者が居なくなったというのはカンザキも嬉しかったようだ


そして元々最下層にあった猫の店はちょっと支店を出して、20階層と40階層にもオープンしている

その結果、20階層は相当な街みたいな規模になったとかなんとか


40階層の店にはかなり良いものを置いているため、目指す人は多い


あとは死ぬ冒険者がかなり減ったということはある


夢見がちな冒険者でも、ウルグインのダンジョンは優しく育ててくれると評判になっている

ただし難易度は折り紙付き

実力のないものは早々にリタイアを決めるようにもなった

だから冒険者のサイクルは早い


この焼肉ゴッドの店に足しげく通う若い冒険者がその名声をとどろかすのか、それとも早々に消えていくのかはまだカンザキにもわからない





ちなみにカンザキも潜ってみたのだが、31層あたりで早々に根を上げた

その理由は…



「謎解きがガチすぎるだろ!」



ということである

今まで力任せにサクサクと進んでいた分、謎解き要素はむちゃくちゃ苦手だったようだ



今では仕入れはルネが行く

そしてカンザキは100層以降に欲しいものを取りに行くことはあるが、ウルグインのダンジョンはあまり攻略しなくなっている

本人曰く、未知は残してある方がいいだろと負け惜しみを言っている




「そういえば、今日もルネちゃんいないんスか?」


若き冒険者のリーダーディンがそうカンザキに聞いた


「ああ、まだもうしばらく帰らないんじゃないかなぁ。ちょっと用事で出かけてるからな」


「もう二週間くらいになるじゃないスかー。はぁ、いつになったらルネちゃんに会えるのか」


年のころがルネと同じ程度なのだろうこのパーティの目当ては安い肉だけではなかった


すっかり焼肉ゴッドの看板娘の座をシアから譲り受けたルネが目当てなのである




そんなルネやエルマは、今は異世界にて暗躍しているのであった

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