第33話キトラとレオノール
キトラはダンジョンに入ると下に降りるはずの方向に向かわずに別の方向に歩いていく
「キトラちゃん、下に降りるのはそっちじゃないわ」
ぐいっとキトラを引っ張るがキトラに引き戻される
力強い!やっぱり亜人(デミ)の子だなあ
「大丈夫だよお姉ちゃんこっちであってるから!」
うさ耳をぴくぴくさせながら進行方向を指さした
「あらそうなの?」
そうか、こんな小さな子だものね。近場ですんじゃうのかしら?
そのままキトラに連れられて行くと、隠し通路らしき所を通り抜けて転移陣に行きつく
転移陣そのものは一階で何ヶ所か確認されているが、そこはレオノールの知らない場所だった
そしてキトラはごそごそとカバンを探して、転移石を取り出した
「ええ!?キトラちゃん転移石持ってるの!?」
「ありますよ!ちょっと前に手に入れました!」
転移の魔石は80層を超えたあたりでは比較的頻繁に拾えたりするのだが、今はまだあまり所持者は少ない。
運がよければ60層付近でも手に入るがかなりのレア物だからだ
それをこんな小さな子が持っているなんてよどほ運が良かったのねとレオノールは思った
何層で拾えたのかはわからないが…と
何層に行くのかしら?
そう思ってキトラの手先を見ていると
「132」
とキトラが書いた
「は!??」
思わずレオノールが大きな声を出してしまったが、転移陣は作動した瞬間だった
132層
そこは豊かな植物が生い茂る土地だった天候も落ち着いていて、気候も良い
ここにはカンザキが手に入れた植物をこっそりと大量に植えている場所である
言うなればカンザキの畑なのである
あの男はダンジョンを本当に畑扱いどころか畑にしているのだ
「はぁ!?」
いきなり見慣れぬ場所に転送されたレオノール
一瞬夢だと思ったが、手を握るキトラを見て夢ではなかったと思い知る
「おねーちゃん!こっちこっち!」
キトラは祠を出ると、草原に踏みしめられて出来た小いさな道を歩く
大丈夫?なのかしら…
レオノールは落ち着かない様子で辺りを見回す
空は高く、雲一つない青空あああああ!
って何か飛んでる!
何で空があるの!?それにやばそうなモンスターだわ!
一瞬でキトラの手を振りほどき腰の剣を抜いて身構える
「キトラちゃん!後ろに隠れて!モンスターがくるわ!」
耳をぴんと立てて空を見上げたキトラは
「あ!グリフォン!」
そう言って背中の弓と弓を取り出して構えると、魔力を込めて
「風さんキトラのお願い!」
キトラがそう言うと
キィィィと言う魔法陣の展開音と共に3枚の重複魔法陣が浮かび上がる
「いっけー!!」
ドゥンという衝撃波をレオノールは受けたそれと同時に矢が発射される!!
放たれた矢は一直線に飛んでグリフォンに命中する
ズンッと言う衝撃音が響き渡る
空気の壁を矢が切り裂いた音が後から響いているのだ
あの矢、どれだけ速いの!?
グリフォンがズシンと音を立てて落ちる
かなり大きなそれは、レオノールも良く知るダンジョン78層のボスだった
レオノールはかなり苦戦した覚えがある
矢はおろか剣すら通らなかった
魔法を連発してなんとか倒したのを覚えている
もちろん1人で倒した訳では無い
親衛隊と協力して倒したのだ
それを、弓のたった一撃で倒した!?
キトラは何食わぬ顔で弓をしまって、再びレオノールの手を握った
「おねーちゃん行こ!」
変わらぬ笑顔のキトラは大したことも無かったように歩き出した
「き、キトラちゃんここっていつもグリフォンがいるの?」
「うん、「グリフォン」を倒すの「は」キトラのお仕事なんだよ!」
「グリフォン」を倒すの「は」?
「他にもあんなのがいるの?」
「この辺りには居ないんだけど、もっと危ないモンスターがいるんだよ!」
「出たらいつもどうしているの?」
「んと、キャサリンとかカンザキがすぐ退治してくれるよ!」
ニコニコと笑顔を振りまきながらキトラは言った
それに戸惑うレオノールを見て
「グリフォンは弱いから大丈夫だよ!」
ええ!?
あれが、弱い・・・・
そう言えばさっきの魔法陣はシルフの魔法?
でも魔法を唱えているようなそぶりではなかった
あの弓術は見たことがないし
だんだんキトラが違う存在に思えてきてしまった
可愛いだけじゃなく強い・・・
「キトラちゃんは何でそんなに強いの?」
「キャサリンが教えてくれるのー!」
「キャサリン?」
「うん、キャサリンの弓はもっと凄いんだよ!この間むーたんと戦ったときも金色で凄かったんだよ!」
ちょっと意味がわからないが、おそらくキャサリンはキトラの師匠なのかな?と思う
「キトラもね、むーたんに本気で撃ったけどキトラの矢は刺さるだけだったの。キャサリンの矢はむーたんを貫いてたんだー」
嬉しそうに話すキトラを見て
あの弓術で貫けない相手がまず想像出来ないし、それでも敵わない存在がいる
さらにそれを貫いたと言うキャサリンの弓術は全く想像すら出来なかった
「あ、おねーちゃんついたよ、ここ!」
そこは強固な結界に囲われた畑だった
中に入るとふわりとした暖かい風が頬を撫でる
「この中ならモンスターこないから大丈夫だよ!」
そう言ってキトラは畑の野菜を収穫し始めたのだった
レオノールもキトラを手伝って、野菜を収穫する
かなり大量に収穫をした
収穫した野菜は、猫印収納箱に入れる
これは数倍の量が箱に入る優れもので最近発売された
なんでも魔法の袋の応用技術だと言う
レオノールも知っているが、但し値段はとんでもなく高価だったはずだ
調教済みの飛竜が2体は買えるお値段
箱に入る量はちょっとした小部屋サイズ
今最も欲しい人気アイテムの1つだ
収穫を終える頃辺りはオレンジ色に染まる
「疲れたー!」
まだまだ元気いっぱいに見えるキトラが叫んだ
「本当に疲れたわ・・・」
レオノールは畑仕事をしたことが無いのも手伝って相当な疲労感を覚えている
「さ、かえろー!」
キトラが荷物をまとめてレオノールの手を握り、目が合った
あああああやっぱり可愛い可愛い!
癒されますわ!
レオノールも立ち上がって帰ろうとしたその時
「キシャアアアア!」
モンスターが結界の前にいた
頭が二つに別れている巨蛇だ
「ヒュ、ヒュドラか!?」
身構えるレオノール
だがヒュドラは結界に阻まれて侵入は出来ない
それを見てホッとするが
だがこれでは倒すか排除しなければ帰れないな…と思った
その時
「嫌、嫌、嫌ぁぁぁぁ!」
キトラが叫んだ
あの笑顔に溢れていたキトラの顔が
泣いてゆがんで・・・怯えている!!
「蛇怖い!嫌だよぉ!キャサリン助けてぇ・・・」
レオノールは中で何かスイッチが入った気がした
それは蛇に怯えるキトラが助けを求めたのがレオノールではない事もあるかもしれない
だが、もっともっとシンプルに
笑顔の天使キトラを泣かせた目の前の蛇に
結界を破ろうと体当たりをしてくるその蛇にレオノールは
「キトラちゃんを………泣かせてんじゃないわよ…」
そう言い放った
レオノールの美しい銀色の髪が
一瞬、黄金色に輝いた
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