第137話世界喰い2
世界の終焉?いいや、これこそが世界の再生だろう
この世界にある法則が崩れて久しい
数千年前に世界樹が喰われて魔法力というものが少しずつ消えていった
影響の大きなところでは魔物の弱体化と、その生存域が無くなっていたこと
また、魔物を代表する存在といえるドラゴンの数も減少して行った
シルメリアの一族がかろうじて存続していったといえる
また多くのドラゴンは魔力の消失に伴って、人化して魔力消費を抑えていたのもその影響があるからこそである
世界喰いという存在はその名の通り世界を喰らうのである
魔力が無いと生きていけない世界において、世界樹はその世界そのものを維持するために必要なものなのだから
しかしメリットとは裏腹に当然デメリットも存在しているのが世界樹である
魔物が生まれ、強くなるというデメリット
しかし、人もただやられていくわけではない。強い魔法力は魔法を、人を強くする
それに対抗できるだけの力を手にすることができるのだから
◇
「なるほど…それで崩れかけていた世界だからこそ、私たちのような異世界人がこの世界に呼び寄せられていたかもしれないんですねー」
「そうとも言えるにゃ・・」
ミタニの言葉に、猫さんは多くを語らない
引き寄せられていたのは異世界人だけではないということを言わない
猫さんはもちろん、マサだってそうである
そしてソシアにナートという「天使」存在ですらもこの世界に呼び寄せられている
零れ落ちた高位存在ですらも引き寄せられていたと猫さんは知っている
その中でも切っ掛けになったと思われるのはカンザキ
本来彼も、この世界にくる可能性が無かった人間なのだから
(まぁカンザキはそもそも女神がらみで本来の世界に還れるはずだったのにゃあ)
ことカンザキにおいてはこの世界においてのイレギュラーの代表格ではなかろうかと猫さんは思う
何せ、神の手違いなどそんなありえない偶然でここに来ている
それは神の思惑さえ超える、世界の意思なのではなかろうかと、ふと猫さんは思うのであった
◇
カンザキの魔法は特別だという
それは彼が低位の魔法しか行使できない理由にもなっている
想像力で魔法を放つ
また言い方を変えれば、彼の記憶にある魔方陣のみで魔法を使っていたりなどだ
そして刀の召喚魔法についても同等である。あれは日本にいたころ、妖怪討伐を生業としていた一族にあって、霊力が無くそれが出来なかったカンザキは書物だけを読み漁っていたのである。そこで知識だけは手に入れていた
魔力=霊力とは知らず、その魔力を手に入れたカンザキが使えるのは当然と言えたが、実のところ契約などを必要とするものであるのに、それをしていないカンザキが使える理由が想像力の補佐である
だから実際の物とは違うし、それ以上の威力を生み出していたなどとは本人は知らないのであるが
エミリオの言った想像力による魔法についてカンザキは考える
「遠慮、ねぇ…しているのか?俺が?」
そう一言、言ってから敵を見る
幼虫はさなぎとなり、その周りをまるでクリスタルのようなもので覆っている
羽化をまつための防御壁なのであろうそれは確かに強固であるとみるだけで分かった
先ほどと違い、硬いだけであるのならば手に持った剣だけでどうにかできそうだと思うが・・・それはきっと悪手だ
「魔法か」
想像力だけと言ったな、であれば
(ファイアストーム・レイ)
それはかつての友人が得意とした魔法だ
発動などするわけが無いと思ったが
ごうっ
いとも簡単に発動する。以前は発動どころか兆しさえなかったのに
それが世界樹がそこにある影響なのかと
幼虫の周りに生み出された炎が渦を巻いて巻き上がる!
その本数は見えるだけで10本は下らない
まるで炎の雨が降っているように見える
ビシビシと幼虫を守るクリスタルが音を立ててヒビが入っていくのが見える
炎の余波がエイランとアイに迫る
こちらもビシビシと音を立て地面がひび割れていくのが見える
温度により乾燥した大地が急速に水分を失っていっているからだ
それに伴い、ひび割れた大地が黒く焼け焦げていっているのも分かる
「ちょっ!これマズいんじゃないの!?」
アイが慌てる。それにエイランが言った
「そうだな…でも安心するといい。世界樹がある。であれば」
エイランは知っている。世界樹が持つ力を
そして、その世界樹を護る力を
「世界樹が根づいたんだ。それはあの羽付きが来たこともそれに伴ってのこと。見ろ、あの羽付きが世界樹に祝福を与えている」
幼虫をカンザキに任せた羽付き呼ばわりされたエミリオは世界樹に向けて祝詞のようなものを上げた
そして手の平から産み出された水を世界樹に与え、祈りを上げた
「さて、これでいいだろう。これで失われた世界が一つ戻ったか…我の仲間も増えると面白いのだがな!」
エミリオはエイランとアイを見る
何世代かの後に、きっとそれは叶うだろうと妙な確信のもとにエミリオは元の世界へと帰ることになった
「カンザキ、そのうちまた遊びにくるのだぞ!」
そう大きな声でカンザキに言うや否や、エミリオは消えた
それに対してさすがのエイランも、あの羽付きにカンザキが知見があるのかと驚いたが、そもそもからしてあの虹の実を持ってきたのは誰だったのかを考えてすぐに落ち着いた
世界樹の周りにはドームのような防御壁が展開されている
それにはカンザキの魔法の余波も及ばぬようで、きれいに遮断されているのがわかる
「おお・・・すっご、なにこの防御壁…」
「世界樹の保護膜みたいなものだからな…魔法程度では突破できないさ。それよりもあの幼虫が倒せねば意味がないのだけれどな」
先ほど、世界樹の根を喰っていたのをエイランは見ている
あれはその保護膜など関係なく世界樹を喰べれるという事なのだろう
「カンザキが、倒してくれることを祈ろう」
エイランがそう言ってカンザキを見つめた
アイは、エイランから聞いたあの事を思い出していた
カンザキに頼んだ時点で、全てはもう終わっているという…それの意味することを
「おお、すげぇな…あいつの魔法まんまじゃねえか」
仲間の顔が頭に思い描かれる
と同時に、その魔法を使い追い詰めた魔王の顔と得意技を
「たしか、こう…」
剣を持ったカンザキはその剣先を見つめた
剣先に黒い粒みたいなものが集まってくる
幼虫のクリスタルはバキンと音を立てて割れるが、それが破壊された訳でなく羽化だという事が分かった
まるで巨大な蛾だ
その背の羽をパンっと広げる。逃げる気なのだろう
しかし、逃げられる訳には行かない
カンザキは剣先が黒く染まるのを待たずに駆けだす
これが、アイツの必殺技だ
その技の持ち主に倣い、魔法名を口にした
「呑まれろ、深淵!」
カンザキが剣を振り下ろす
黒い斬撃が巨大な蛾に触れる!
バキバキと音を立ててその黒い斬撃が触れた場所から蛾は吸い込まれて消えた
暗闇に消えた蛾は悲鳴も上げる間が無かった
その空間を見つめながら、カンザキは言った
「これで終わりか」
勇者アインはその斬撃を断ち切り回避したのだが、たかがアレは蛾だ。世界樹を喰らうだけの生き物
だとすれば、回避など出来ようはずもなく消えた
おそらくは先程のエミリオの魔法も似たような効果なのだろう
だから効くかと思ったのだが、拍子抜けする程に簡単に効いた
呆けるカンザキの元に、エイランとアイが駆け寄ってくる
「あ…」
カンザキは焦る。二人が居ることを忘れていた
それであんなでかい魔法を発動させてしまっていたのだ
どのように謝ろうかとカンザキが考えていると
「ありがとう、カンザキくん。世界樹を護ってくれて」
なぜか礼を言われて、謝ることを言い出せなかった
「はぁ…もうね、訳分からない展開だったよ…」
アイはこの後、昔作っていた施設を修繕してAIの中に宿る、エルマを作り出した母性とも言えるものを分離するらしい
そして、エルマを育てさせるのだとか
「私が育てても良いと思うけど、あの子はきっと私を母だと思わないからね」
カンザキはそれに思わず言った
「それでいいのか?」
育てたいのでは無いか、と言う意味である
「んー。まあ無いわけじゃないけどさ、あの子を生み出した奴に責任取らせないとね」
優しい人なんだろうと、カンザキは感じた
だからこそそう言う選択肢を取れるのだと
「そうか、んじゃ王様にゃもう少し待てって言っとくわ」
「ごめんね。新しい素体組むのに設備復活と…あと16日ほどかかるとおもうからよろしくお願い」
そうアイはにっこりと笑って言った
これからしばらくは、エルフの国の復興も共に行われていくということだ
世界中に潜伏しているエルフもこの国の復活を知って駆けつけてくるだろうとのことである
カンザキは今回得たものは実のところあまりない
だけれども、世界が息を吹き返したということだけはわかった
「まぁ、俺は店をほそぼそとやってくさ」
そう言ってカンザキはウルグインへと戻っていった
-----------
次話より通常営業予定
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます